今回は京アニの最新作である『ヴァイオレット・エヴァーガーデン』の新作の感想記事になります!
……一応今作を劇場版と言っていいのかなぁ?
カエルくん(以下カエル)
「劇場版は1月に公開予定だから、今作はOVA作品の上映という形になりそうだけれど……この作品だけでも90分以上の上映時間もあるし、劇場版と外伝の違いって一体なんだろう? って気になってくるというか……」
主
「期間限定上映だし、普通は60分くらいに納めてNetflixなどで配信するものだと思うんだよね。それこそ2019年でいえば『甲鉄城のカバネリ 海門決戦』と同じような扱いになるんじゃないかなぁ、と思ったらまさかの90分超えですよ」
カエル「本来はテレビシリーズの延長で1話20分ちょっとの話を2話作る予定が、ここまで伸びたというのね。
しかもこれからさらに劇場版を間髪入れずに制作するわけで……京アニの本気が伺えるなぁ」
主「そもそもテレビアニメ版からして、今のアニメ界では魔法とも称されるほどの映像美を誇っていたわけで、それが劇場版になったらどれほどのものになるのか、そこも含めて楽しみだわ。
というわけで……早速ですが感想記事のスタートです1」
作品紹介・あらすじ
2018年に京都アニメーションにて制作され、テレビアニメの放送やNetflixで配信された暁佳奈原作の『ヴァイオレット・エヴァーガーデン』の外伝作品。
監督はテレビアニメシリーズではシリーズ演出を務めた藤田春香が初監督を務めるほか、監修にテレビシリーズ監督である石立太一、シリーズ構成吉田玲子、脚本鈴木貴昭、浦畑達彦が務める。
キャストにはテレビシリーズに引き続き石川由依が主役のヴァイオレットの演技を務めるほか、子安武人、内山昂輝、遠藤綾などのお馴染みの面々のほか、今作から登場するキャラクターのキャストには寿美菜子、悠木碧が起用されている。
戦場で育ち愛することを知らない少女、ヴァイオレットは戦争が終わり軍隊時代に知り合ったホッジンスの元で手紙の代筆の仕事、通称『自動手記人形』となって多くの人々の思いを代筆していた。
良家の子女のみが通うことを許される女学園に結婚に向けて躾を教育するための家庭教師として訪れることとなったヴァイオレット。そこで出会った少女、イザベラは当初はヴァイオレットを敵視したものの、徐々に打ち解けていくのだがイザベラには別れてしまった妹がおり、その身を案じていたのだった……
『ヴァイオレット・エヴァーガーデン 外伝 - 永遠と自動手記人形 -』予告
感想
では、ツイッターの短評のスタートです!
#ヴァイオレット・エヴァーガーデン外伝
— 井中カエル@物語るカメ/映画・アニメ系VTuber(初書籍発売中!) (@monogatarukame) 2019年9月6日
これぞ京アニの真髄!
日常描写の奥にあるキャラクター達の演技、背景、音楽の全てが繊細で呼吸を忘れてしまうほど心打たれる傑作!
表現力もさることながら表現欲の強さ、志の高さに圧倒されてしまった pic.twitter.com/UHGNDg9nPk
京アニの真髄を知ることができる、まさしく日本アニメ最高峰の1作!
カエル「京アニ作品ということでハードルは非常に高かったものの、今回も難なくそれを超えてきたという印象だね。
しかも、2019年はアニメ映画がたくさん生まれている中でも最高峰といってしまいたいほどの作品で!」
主「もちろん、アニメに対して何を望むのか? ということは色々とあると思うけれど、本作で京アニが成し遂げたことはやはり素晴らしいの一言。
派手な戦闘シーン、爆発シーンもなく、日常描写が中心の作品ながら細やかな演技……これは声優陣のみならず、アニメーターの方達が織りなすキャラクターの動きも含めての演技がまた見事!
表現力の高さは当然のことながら、表現”欲”の高さに心を打たれた……
志が高いと言い換えてもいいだろう。
脚本、演出、作画、音楽、背景、美術、声優陣の演技……とか色々と細かくパラメーターごとに評価をつけていくと、どれも完成度が高くて綺麗で大きな円になる作品だろう」
カエル「ちなみに、今回うちはテレビシリーズは鑑賞済み、原作は未読の状態だったけれど、完全初見さんにはどうなのかな?」
主「基本的には原作もテレビ版も未見さんにも通じると思うよ。
そこまで突飛な設定でもないし、本当に重要な設定は作中でも軽く説明してくれる……それも気にならない程度にね。
『そこまでいうならば京アニ作品が気になるから映画を見ようかな?』と思っている人でもすんなりと受け入れることができるであろう作品に仕上がっています」
繊細な演技などに見える京アニクオリティ
今作の繊細な演技って、より詳しくいうとどのようなところなの?
まあ、ほぼ全編に渡っているんだけれど……
主「例えば、テレビシリーズの1話の段階で繊細な映像演出の見事さはすでに出ている。
今作の主人公、ヴァイオレットは戦災孤児であり感情を表に出すことをあまりしない子供であることが物語のスタートで明かされている。なんというか……空気が読めないというか、察しが悪い訳ではないけれど、でも配慮をすることができない、という少女である」
カエル「人の繊細な機微を上手に解釈することができない子ではあったよね」
主「だけれど、決して”感情がない子”ではない。
むしろ、その逆で非常に感情豊かで感受性の強い子である。
でもそれを表現する手段を持たない……つまりロボットではなく、単純に知らない子であり、0ではなく出力できない、自分や他者の感情が理解できないという微妙な機微をどのように映像表現として表現するのか? というのは非常に難しい問題だ。
そして京アニはそれをやりきった会社でもあるわけだ」
ふむふむ……その繊細な描写を今作で表すとどのようなシーンで現れているの?
特筆して語りたいのは夜の寝室で苦しんでいるイザベラを、バイオレットが会話をすることなくお互いの気持ちを通じ合わせるシーンだ
主「ここは京アニの細かい描写が多くて、ぜひ注目してほしい。
さらに……髪の揺れ方だったり、様々な衣装を着るキャラクターたちの変化と艶やかな姿、背景を含めた絵画としての美しさ、豪奢な美術の細やかな書き込みなどなど、注目すべき点はたくさん。
特にダンスシーンは痺れた!
……あれは観客を納得させることができるほどの説得力に満ちた、優雅なシーンであり2019年の全ての映画の中でもトップクラスにウットリとしたシーンだった。
あまりにも繊細なシーンが多いために、多分2回目、3回目と回数を重ねて見た方がより細かい機微を感じられていいのではないかな?
自分は『リズと青い鳥』を見終わった後のような、あまりにも繊細すぎる映像に面食らっている部分もあったな」
表現”欲”を感じさせる声優たち
今作のキャストは……文句が出るはずもないか
特筆したいのはイザベラ役の寿美菜子!
カエル「石川由依をはじめとしてテレビアニメから出演しているメンバーは当然続投していますが、ここも安定感のあるいい演技だったね」
主「特に寿美菜子は『けいおん!』や『響け! ユーフォニアム』など京アニとの縁も深く、若くして多くの作品に出演しているけれど自分は今作がベストアクトだと感じた。
寿美菜子はユーフォもそうだけれどまっすぐな主人公に対して、暗いひねくれたものを抱えている女性を演じさせると抜群にうまいな、と感心した。
テレビアニメで演技が固まっているメインキャストとは違い、ほぼ1から演技を作りながら世界観を壊さずに存在感を発揮し、複雑な内面を持つキャラクターの魅力と物語の魅力を作り上げたことも見事!
さらに本作に関してはゲストではあるとはいえほぼ主役級の活躍だっただけに、演技にかかる期待と負担はとても大きかったと思うけれど、それに最大限答えたね」
そしてもう一人のゲストであり重要な役であるテイラーを演じた悠木碧に関しては、もはや言うことすらないね
今作は全体的に表現”欲”を感じたんだよ
主「もちろん技術とも重要だけれど、自分はそれ以上に”欲”が重要だと考えていて……向上心とか、そんな言葉にも変換できるけれどもっとガツガツとしたもの。
今作が貪欲な作品だと感じさせたのは、役者陣の演技が大きいのかもしれない」
以下ネタバレあり
作品考察
強く連想した作品
では、ここからはネタバレありで語りましょう!
……やっぱり自分は『リズと青い鳥』を連想したぁ
カエル「まず藤田春香監督について説明しますと、2011年くらいからかな? 原画などで京アニのエンドクレジットに記載されるようになり、近年では演出などを多く担当しておりヴァイオレットではテレビアニメ版のシリーズ演出を経て、今作で初監督となっている新進気鋭の若手です」
主「正直にいえばまだ自分は藤田春香演出ってものがどう言うものかわからないから、今作の絵コンテなどから読み解いていくことになるんだろうけれど……詳しくは以下のサイトにもあるけれど……確かにユーフォの1期8話の『おまつりトライアングル』などと比較すると、今作も瞳の描写だったり背景を大きく映す描写が印象的だった。
めっちゃ早くカットが変わるシーンもあったな」
カエル「一方、今作では演出の3番目に山田尚子がクレジットされており、お馴染みの足を使った演出なども見受けられています
主「今の自分でこの映画の映像的特徴で特に印象に残ったのはダンスシーンなどを中心としたの足取りの動きなどなんだよ。
それを意識しながら見ていたからかもしれないけれど……同じ京アニ制作だからかもしれないけれど、やっぱり『リズと青い鳥』を強く連想した」
カエル「2羽の鳥を使った演出とかもあったし、少女2人の関係性を描いた作品でもあるしね」
主「それと……今作で肝となるのがやはりラストシーンだと思う。
今作は2部構成になっていて前編のラストでは門を出ることができなかったイザベラが、ラストでは門を出ることができた、そして笑顔になっていた。
これってリズと全く同じだと思うんだよ」
カエル「京アニ他作品も見てきたけれど、やっぱりリズなんだ」
主「やっぱりリズなんだよねぇ……もちろん、自分がわかっていない先人の演出の模倣も多くしているのだろうけれどさ」
ヴァイオレットが救った”過去の自分”
今作の物語についてはどのような印象を抱いた?
う〜ん……これは実はちょっと難しいかな
主「これは自分の意見が異端なのかもしれないけれど、もっと捻った形でくるかな? と思った部分もあるけれど、想像以上にストレートなお話だったから、そこは面食らった部分がある。
ただ、ヴァイオレットの魅力ってそのストレートな物語を丁寧な物語演出で魅せることだから、それでいいんだろうけれどね」
カエル「少し不満だったと言うわけ?」
主「いやいや、不満というほどでもないよ。自分はテレビシリーズの10話が大好きだし、何度見ても泣いてしまうから電車の中などの人前では観られないほどの大号泣回だけれど、あれもストレートな物語をストレートに描くことの強みが発揮されていた。
本作も似たような構図はあって……文字の読めないテイラーは過去のヴァイオレットの象徴である。
そしてイザベラの存在は過去のヴァイオレットを救ってくれたギルベルトでもある。
つまり、今作は過去のヴァイオレットの象徴=テイラーと、ヴァイオレットを救うために犠牲になっていなくなったギルベルトの象徴=イザベラを現在の平和な世界で暮らすヴァイオレットが救う、という物語になっている。
そう考えると文字の読めないテイラーに文字を教えたり、一緒に配達したりするヴァイオレットの姿はそれだけでも涙が出てきそうなものに感じるんだよね」
カエル「ふむふむ……」
主「正直にいえば、最後のテイラーとイザベラが再会しないのは理解できなかった。でもそれはこの見方をすれば当然のことでもあって、ギルベルトがアニメ版ではどうなったのかはまだ不明ではあるものの、2人は再会も別れもしていない。
その中でもできる答えが……お互いのことを愛を持って思いつつ、再会を祈りながら待つ、という流れになったのではないだろうか?」
京アニが表現してきたものとは?
えっと……この項目では何を語るの?
京アニが表現してきたものって一体なんだったのだろうか?
カエル「……京アニが表現してきたもの?」
主「特に近年の京アニが表現してきたもの……それは『響け! ユーフォニアム』『Free!』もそうなんだけれど、結局は”アニメを作る”ってことについて表現してきたんじゃないかな? って思いが強い」
カエル「……アニメを、作る?」
主「ヴァイオレットを観ているときに思ったのが『これってアニメーター(アニメ制作者)の話だよね?』ってことだった。最初は拙くして入社した少女が、徐々に修練を重ねていって人に大切な思いを届ける……『届かなくていい思いなんて何一つとしてない』と言う言葉は手紙=作品と解釈したんだ」
カエル「はぁ。あくまでも独自解釈ですが……」
主「そう考えると『響け! ユーフォニアム』は吹奏楽でありながらも全体で奏でるハーモニーってことでアニメ制作っぽいし『Free』も特筆した個人だけでなくチーム(メドレー)で頑張る重要性やライバル関係との切磋琢磨などもあったりするのも、アニメ制作内の……チームというか、班体制みたいなことなのかな、と」
それがどのように今作に繋がってくるの?
なぜ後半は配達人の話なのか? というと単純に手紙(作品)を”作る人”だけでは成り立たない、思いは届かないってことを描きたかったのかな? って。
主「なんで今作が手紙の作り手であるドールの話ではなくて、テレビシリーズでもあまり出番が多いとはいえなかった配達人のベネディクトだったのかなぁ? って。
個人的にはカトレアさん大活躍! な話でもよかったと思うんですよ。完璧なお姉さんだから話が作りづらいのはわかるけれど」
カエル「それは単純にカトレアさんが好みってだけでは……」
主「自分はまだカトレアさんがベネディクトに惚れているって話に納得いってないからね!?
なんでそっちなの!?」
カエル「はい! 話を戻して!」
主「作品を届ける人……それは宣伝さんや文芸、映画館のスタッフや制作進行なども含めて、普段あまり注目を集めないスタッフが多くいるからこその作品なのかな、と。
そう考えると今作って”物語賛歌”であり、作ることを全肯定している作品でもあって作中での『女性の時代よ!』というのも京アニが実践していることだから納得する。
京アニって徹底的に創作ファーストな環境であり、心の底から職人気質の集まりなんだろうな、っていうのが作品の傾向から感じられる、という話をしたかった」
カエル「考えすぎかもしれないけれど、そんな解釈もできますよ! というお話でした」
まとめ
では、この記事のまとめです!
- 京アニらしい丁寧な仕事に溢れた傑作!
- 表現力と表現”欲”を強く感じる作品に!
- ヴァイオレットの過去の姿がテイラーやイザベラと重なり合う?
- 徹底的に創作者ファーストと受け取れる作品へ!
ぜひとも3週間のうちに劇場へ向かって欲しいね
カエル「ちなみに……色々あってどんな気持ちで向き合えばいいのかわからない、という人もいると思うけれど……」
主「個人個人好きにしたらいいのではないでしょうか?
少なくとも自分は最後に前向きに劇場を後にできた。もちろん感動作だから泣くのは間違いだとは絶対に言わない。でも、色々起こる前に完成した作品とはいえ、ここまで表現者ファーストな物語を作る集団がここで屈することはない、と信じるにたる作品になっている。
なので、普通に楽しんでなんならパンフレットやグッズでも買ってさ、ちょっと余ったお金で募金でもして……それでいいんじゃないかな?」
カエル「新作映画の心配は?」
主「全くしていない。
もちろん、京都アニメーションさん自身は大変だと思うけれど、少なくとも自分は心配も蝋梅もしない。騒ぎ立てることもなく、ただ待つだけでいいし、それしかできない。
なので……せめてブログ書いてさ、少しでも宣伝に役立ててればそれでおしまい。
後言っておきますが、この記事に書いたことは全て本心であり、変な提灯記事などではありません!」
カエル「皆さんもぜひ楽しんできてください!」