カエルくん(以下カエル)
「では、京アニの最新作である『ヴァイオレット・エヴァーガーデン』の感想記事へと参りましょう!」
主
「今回、一気見したけれど……いやー、やはり作画の力がとんでもないね」
カエル「そこははっきりと見所の1つだったもんね」
主「さすがは天下の京アニ、細部にまでこだわり抜いているなぁ……と感心した。
その一方で、これだけの作品が家で観られるとなると、大変な時代だよね」
カエル「しかも実質無料だからね……こんな商売していたら、アニメ産業も儲からないよねぇ」
主「1回見た作品のソフトを買うのって相当なファンだしね。
自社原作だからこそ、これだけの力を入れたというのもあるのだろうけれど、いやはやアニメ業界恐るべしですな。
では、記事のスタートです!」
1 感想
カエル「では、まずは全話通してのざっくりとした感想を始めますが……どうだった?」
主「さすがの京アニの作画力が発揮された作品だというのは、誰もが共通する感想だろう。
とても感動的な話だし、物語のテーマ性も大事なことをしていると思う。
自分は原作を読んでいないから、その視点では語れないけれど……結構楽しめる物語だったね」
カエル「あの意味のわからない超絶作画のCMを初めて見た時も思ったけれど、かなり力の入った作品だったね」
主「ただ欲を言えば……あれだけの超絶作画を前にして言うのもなんだけれど、もう少し何かあればよかったかな? という思いもある。
全13話、全てが感動をメインにしてしまったのは、ちょっとやりすぎたというか……なんというか、真面目だなぁ……という印象があった」
カエル「もっとギャグ回だったり、ひたすら楽しい回があるとまたその感動も引き立ったかもしれないけれどね」
主「全体的に難しい話だったとも思うよ。
ヴァイオレット・エヴァーガーデンが『愛を知る』までの物語だけれど、明確なゴールがあるわけでもないしさ、途中は『この作品はどこに向かっているのだろうか?』という思いもあった。
原作を読んでいると若干の物言いもあるようだけれど、全13話をどのように再構成するのか? も含めて、ある一定の成果は収めたと思う。
ただ、その一定のラインを超えたのか? と言われると……ちょっと疑問はあるかな?」
カエル「あの義手の技術もあの時代背景からするとオーパーツにしか見えない! とか批判するのかと思った……」
主「割と設定に関しては疑問もあるけれど、まあそんなもんか、で納得はできるかな」
3話構成の中でどのように魅せるのか?
カエル「ではテレビアニメシリーズではおなじみ? の話数とシリーズ構成に関するお話です。
今作のシリーズ構成は今もっともこのブログで評価が高い脚本家、吉田玲子だけれどどのように感じた?」
主「基本は13話の1クールでは一般的な3話構成の物語だよね。
3話で1セットになっていて、各物語の中でどのようにヴァイオレットが成長するのかを描いている。
それと同時に本作のテーマを少しずつ小出しにしていくわけだ」
カエル「簡単に言えばこのような構成になっています」
1〜3話 起 ドールの仕事を学ぶ(人の心を学ぶ)
4〜6話 承 様々な愛の形を知る
7〜9話 転 自らの過去と向き合う
10話 それらの物語を含んだ後の成長
11話〜13話 結 過去のヴァイレットとの決別
主「ここで考えたいのが10話の存在で……この話、自分はこのようにTweetしています」
……歳くったなぁ
— 井中カエル@物語るカメ/映画・アニメ系VTuber(初書籍発売中!) (@monogatarukame) 2018年4月1日
ヴァイオレッドの10話で泣いちゃう
昔ならこの手のお涙頂戴話が嫌いだったのに……
カエル「結構先が読めるし、意外性のあまりない上に、しかもお涙頂戴の話なのに、もう涙が止まらないというね……」
主「ここで重要なのは3話構成で13話ということは、必ずどこかが4話になるんだよ。
普通はさ、最後の盛り上がりのために4話充てるというのが多い。
だけれど、あえて最後の結のパートの前に1話を挟んだわけだけれど……ここまで丁寧に作った甲斐がここで見事に発揮された」
親の思いを知る10話
カエル「最初に愛という感情を知らなかったヴァイオレットが、多くの仕事をこなすうちにその感情を知っていき、そして自分の身が燃えていることに気がつくという流れがあった後の10話だもんね……」
主「本作の語る『愛』ってなに? という話でもあってさ。
確かに少尉がヴァイオレットに向ける愛は……異性に向けるそれのように思えるけれど、それよりも子供向ける愛に近いものがある。
よく語るけれど愛は古代ギリシャの用語であり、そこには4種類存在している。
エロス、フィリア、ストルゲー、アガペーの4つだ」
カエル「簡単に言えば男女の愛=エロス、友愛=フィリア、親子の愛=ストルゲー、神への愛=アガペーだね」
主「そして本作が語る愛とは、この中でもストルゲーに該当することが多い。もちろん、男女の愛のアガペーの話もあったけれど、それ以上に親子や家族関係の愛の話が非常に多かった。
愛を知らなかったヴァイオレットが少しずつ愛を知っていき、愛されていた事実とそれだけの思いを受け取った後に、あの10話になる。
そこでは向き合うお嬢様の姿というのは、かつてのヴァイオレットそのものなんだよ。
がむしゃらに母を……親を求める姿に、かつての少佐を求めた自分と向き合うことになる。
だけど、1話のヴァイオレットと10話のヴァイオレットはもう別人なんだよね。
自分がどれほどまでに愛されていたのか、そして手紙の重要性をよく知っている」
カエル「ふむふむ……」
主「それと同時に、ヴァイオレットは10話で擬似的に親にもなっている。
母が子を思う気持ちを代筆することにより、どれほど少佐が自分を思っていたのか、命を賭けてこの世に残してくれたその意味を、擬似的に知る。
だからこそ10話の感動に繋がってくるんだよ。
丁寧に練られた構成ゆえの物語だということもできるんじゃないかな?」
2 京アニが描いてきた愛
カエル「京アニ作品という括りの中ではどのように考えているの?」
主「京アニってさ、恋愛作品を幾つか作ってきたわけだけれど、その多くが『愛に向き合えない者が他者と向き合うまでの物語』だったように思うんだよね」
カエル「全てではないけれど『CLANNAD』や『氷菓』や、近年では『中二病でも恋がしたい!』『聲の形』などは他者と向き合うことに対して積極的になれない事情を持つ人が、恋をしたり他者と向き合うまでの物語と言えなくもないのかな?
『響け! ユーフォニアム』でもそのような描写はあったような気がするけれど……」
主「そう考えると、本作もその仲間だと思うんだよね。ただし、その事情が他と違って戦争という重い物になっているわけだ。
で、自分が本作を高く評価する理由の1つがこの描き方であって……
本作って他の作品、特に漫画で語るならば暗殺部隊に所属する少女を描いた『ガンスリンガール』や、手紙を届けるという意味で『テガミバチ』の要素も強いけれど、やはり『ヴィンランド・サガ』や『パンプキンシザーズ』の要素もあるように感じている。
もちろん、10年の月日と20巻以上にわたって連載している漫画と単純な比較はできないけれどね。
特に後者2作品は自分もとても高く評価しているけれど、その理由が『己の罪といかに向き合うか?』と言うことをテーマにしているからだ」
罪と愛
カエル「京アニで言えば『聲の形』も戦争とイジメという重さの違いはあるにしろ、罪と向き合うという意味では似ているものがあるのかな」
主「これって世界的なトレンドの1つだと思っていて、それこそイーストウッドが『アメリカン・スナイパー』で描いているけれど、戦場に出て人を撃つ。それは兵士として仕方ないことだけれど、戦場から帰ってきた時にどのように生活を送るのか? ということについて考えさせられる。
日本だってそれは同じで、近年の邦画では殺人犯の罪と更生について向き合った『羊の木』なども同じようなテーマだね」
カエル「昔からある王道の物語である一方で、愛を知らない人がどのように人と接していき、愛を知るのか……過ちを犯した人が救済されることが可能なのか? ということも示しているのかな?」
主「キリスト教などが顕著だけれど、告解や懺悔をすれば罪は許されるという。
だけれど、それはあくまでも宗教の話であり、本当に人が救われるというのはどういうことなのだろうか? ということに向き合っている。
血まみれの人を傷つけてしまった手が、機械仕掛けの腕となることで人の気持ちを届ける……その罪と愛のテーマが良かった」
言葉を届ける仕事
カエル「やはり、この部分は避けて通れないよね。ある種の表現論でもある話だし……」
主「言葉で何かの気持ちを届けるということは、実はとても難しいことなんだ。
例えば『ありがとう』という言葉を話しても、ニュアンスなどによっては意味合いが変わってしまうこともある。心からの感謝もあれば、皮肉的に告げることもあって、同じ言葉でも感じ方が変わってしまう」
カエル「それが最も伝わったのがOPなのかもね。
TRUE(唐沢美帆)の作詞だけれど、本当に作品と合致した曲でさ。アニメソングで重要な作品の核を楽曲として表現しているアーティストの一人だよね」
主「言葉を覚えれば覚えるほどに、使えば使うほどに離れていく感情もある。それは自分みたいな言葉人間には天敵のようなものだけれど『百聞は一見に如かず』ということは確かにある。
何度も連呼している『愛』という言葉1つとってもそうでさ、先に述べたように古代ギリシャでは4つの意味が主に存在している。
でも、仏教では悟りを妨げるものとして『愛』という言葉が使われている」
カエル「同じ言葉でも宗教や文化によって意味が違うんだ」
主「四苦八苦、という言葉があるけれど、この言葉の意味は生・老・病・死の四苦に、愛別離苦などの四つの苦しみを足した八苦のことをいう。
この愛別離苦というのは読んで字のごとく『愛する者と別れる苦しみ』を表している。
やはり、愛は苦しいものなんだ。
このように同じ愛という言葉でも意味合いは全然違うし、込められた意味を知れば知るほどにその言葉が適切かどうか判断できなくなっていく。
『愛は地球を救う』の愛と、古代ギリシャの語る愛と、仏教の語る愛と、我々が普段語る愛……それは全て違う。
その違いを適切に捉えて、文脈の中に気持ちを相手に届けるようにしなければいけない……それがヴァイオレットがやらなければいけないことだった」
アイシテルってなんだろう?
カエル「結局はここにたどり着くということなのかもね。
愛を知らずに育った少女が、愛を知って迷いながらも自分の存在意義や、繋いでくれた命の意味を知る物語として、ということかな?」
主「物語としてはすごく難しいことをテーマに添えている。
だってさ、明確なゴールがないじゃない?
倒すべき悪党もいないし、果たすべき目標もない。誰かに会うまでの物語でもなく、自分の中にどのような気持ちの整理をつけるべきなのか? ということだ。
作中でも……9話だったかな? で語られていたけれど『これはしょうがないで終わらない問題』なんだよ。
人間は環境の動物だから、状況によっては罪を犯すかもしれない。それを罪と知ることもできない環境にいるかもしれない。その結果、とても大切なものを傷つけてしまうこともある。
その罪に対して一つの赦しを与え、やはり前を向いて自分で歩き始めるまでを描いている」
カエル「……それが最終話のお母さんなんだ」
主「明確な落とし所がないんだよ。
そしてその試みが完璧なうまくいったかというと、自分はそこまでは思わない。
同じような『罪と愛』について語った作品だったら、我が敬愛するドゥニ・ヴィルヌーブの『灼熱の魂』などの名作も鮮やかに描ききっている。
でも、なぜこの作品をここまでのクオリティで、あれだけのCMを作って、しかも続編も制作決定してまで表現したかったのか? ということは伝わってきた。
『聲の形』のような社会的なテーマを持った重い作品を、なぜ罵詈雑言を浴びせられるリスクを抱えて表現したのか……それは京都アニメーションという会社が何をしたいのか? ということに直結しているし、本作もそれに連なる作品として見事な味を発揮したと思うけれどね」
最後に
カエル「本当は最終回放送直後にアップしたかったけれど、結局丸1日かかってしまった結果になりました。
今回の記事は難産だったねぇ」
主「自分は『聲の形』にとらわれているところもあるからねぇ……
特に本作はかなり要素として似通った部分があると思っていて、山田尚子が深くかっ変わっていない『聲の形』のようだ、と思った部分もあった。まあ、同じ会社で関わった人が多く参加している作品だろうから、当たり前だろうけれど……」
カエル「続編も発表されたので是非期待したいところです!」
主「できれば映画がいいなぁ……あれは映画館で観たい話だったし」