今回は『それいけ!アンパンマン ばいきんまんとえほんのルルン』の感想記事になります!
公開から1ヶ月ほどしてからの記事になるの

カエルくん(以下カエル)
なんだか、とても話題になっている印象だよね!
亀爺(以下亀)
児童・幼児向けのアンパンマン映画が話題になることは少ないから、これは注目じゃな
カエル「それでは、早速になりますが記事を始めて行きましょう!」
亀「後半はほぼ大人向けの、うちの独自解釈の説明になるぞ」
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Xの短評
今年のアンパンマン映画を観ました
— 井中カエル@物語るカメ/映画・アニメ系VTuber(初書籍発売中!) (@monogatarukame) 2024年7月24日
今年は『それいけ!ばいきんまん』と言っても過言ではないほどばいきんまんにフューチャーされた作品でしたね
あまり大人からは評価されづらい作品ですがアンパンマン映画は基本フォーマットが優れているの名作も登場している作品群でもあります… pic.twitter.com/gAxtsqiJAO
Xに投稿した感想
今年のアンパンマン映画を観ました
今年は『それいけ!ばいきんまん』と言っても過言ではないほどばいきんまんにフューチャーされた作品でしたね
あまり大人からは評価されづらい作品ですがアンパンマン映画は基本フォーマットが優れているの名作も登場している作品群でもあります
近年はそのフォーマットに沿うことに力を割いている印象でしたが、今年はその基本構造をいじってきて攻めてきた印象でした
今作を表すならば……『ジョーカー』+『オッペンハイマー』+(『風の谷のナウシカ』÷2)くらいな印象でしょうか
バットマンに対するジョーカー、アンパンマンに対するばいきんまんを主役級にすることで見えてくるものがありました
ボクは今作では大人向けのテーマを多く感じましたし、それをアンパンマンフォーマットに落とし込む挑戦を褒めたいですね
一方でちょっとやりすぎ感もありますが、それも含めて語ることの多い良い作品だったと思います
感想
それでは、おおまかな感想からスタートしましょう
今年のアンパンマンは評価が高かったが、それも納得の様々な見方ができる作品じゃな
カエル「うちはアンパンマン映画は多分10本ちょっとくらいしか観れていないけれど、その中でも話題になるのもわかるような作品だったね」
亀「アンパンマン映画はしんちゃんやドラえもん映画と比較すると、名作などが語られにくい印象があるが、それらのシリーズと比較しても名作揃いじゃ。
幼児向けだからこその見やすさと共に、やなせたかしイズムともいうべき思想が入っており『生きるとは何か?』という問いを中心に物語が構成されていることも多く、哲学的な内容の作品となっておる。
もしかしたら、日本で最も過小評価されているアニメ映画シリーズと言えるかもしれんの」
それだけ名作揃いだからこそ、今作の高評価も特段として驚きではないと
むしろ、このレベルはワシとしたら標準程度ではないじゃろうか
カエル「おお……今作ってかなりいい作品だけれど、それでも標準クラスの出来栄えでは? というのは大きくでたね」
亀「近年はアンパンマン映画において作られているフォーマットに沿っている作品が多くなっておったが、今作はそれが崩れているために、大人向けのテーマが非常にわかりやすく見えやすくなっている印象じゃ。
一方で幼児向けという視点でみると……ワシとしては少し疑問がある。しかしそれはかなりの年齢になったワシの意見じゃから、当てにはならんじゃろうが……少し複雑なことをやりすぎているし、大人の視点を狙いすぎている感もあった。
それでも今作が騒がれるのは、むしろ納得の出来じゃし、そこに関しては後半で述べていくとするかの」
……ちなみに亀爺って今いくつなんだっけ?
令和生まれの78歳じゃ。覚えているのがそれくらいじゃの
よくわからないけれど、記憶も曖昧になるくらい生きているんだねぇ
川越淳監督作品として
今作の監督を務めているのは川越淳監督です!
偶然じゃが、うちは川越監督作品のアンパンマンは全部見ているのじゃな
カエル「アンパンマン映画を履修しようとして、近所のレンタルビデオ店でまとめ借りしている時に、ちょうどその店では近年の映画しかなかったんだよね。だから比較的近年の作品を手がけることの多い川越淳監督作品を、結果的に全部観ているんだよね」
亀「なぜ川越作品を覚えているかというと、アンパンマン映画の中でも決定的に他と異なるフェティッシュのようなものを感じるからじゃな。
それはロボットと作画の魅力じゃ。
特に『それいけ!アンパンマン だだんだんとふたごの星』は、初めて観たときに度肝を抜かれた。これほどアクションとロボット、作画に力を入れたアンパンマン映画があるのか! と驚いたものじゃし、一方でここまでやっていいのか? とも思ったかの」
それだけ他の監督と異なる味わいがあるんだ…
今作をみても、それは感じるの
カエル「ばいきんまんを主役級にしたり、あるいはものづくりをテーマにしているところとかは、確かに他の川越監督のアンパンマン映画と繋がるかも」
亀「アンパンマン映画はもちろん幼児向けなので、極端な作画アニメにはできない事情もある。幼児はそれらの激しい動きについていけないし、刺激が強すぎるかもしれんからの。
それでもその中でアクションを重視してはっきりと見せる、その意味ではいかにもアニメーションの快楽性を追求した作品とも言えるかの」
以下ネタバレあり
作品考察
今作から感じたテーマ
では、ここからはネタバレありで作品に添いながら今作の大人向け解説を行なっていきます
まずは今作のテーマを簡単に示していくかの
カエル「Xの短評だと<『ジョーカー』+『オッペンハイマー』+(『風の谷のナウシカ』÷2)>と称しているけれど、これはどういう意味か、下にまとめます」
上記のような構造になっており、それをアンパンマンのフォーマットに合わせたという印象じゃな
カエル「ふむふむ……1つ1つをみると、そんな複雑で難しいテーマを行なっているんだ…ってビックリするね。
それでは、1つ1つ解説していきましょう」
①ヒーロー論としての今作〜王権神授説に基づくヒーロー像〜
まずはヒーロー論としての今作ということだけれど……
ばいきんまんを主役級にしたこと、そしてそうしないとできない物語であったということじゃな
カエル「今作ではアンパンマンは前半登場せず、ばいきんまんが中盤まで物語を引っ張ってくれています。
それが特質した結果を産んでいるという分析だけれど……」
亀「アンパンマンとばいきんまんはヒーローと悪ということの最も根源的でシンプルな存在であるとワシは認識している。
何度か語っているがアンパンマンは『公的なる存在』つまり公や大多数の人々の幸福のために行動する。
ばいきんまんは『私なる存在』つまり個人の自由やわがままを発揮して他者を妨害しても目的を達成するために行動する。
この公的VS私の対立こそが正義と悪の1つの見方である、という分析じゃな。詳しくは以下の記事を読んでほしいの」
今回はそこから違う視点のヒーロー論から説明するんだね
アンパンマンなどのヒーローは”特別な存在である”というところから始まる、いわば救世主伝説じゃ
亀「世の中には様々なヒーロー像があるが、その1つであり最も王道なのが”特別な存在である救世主論”である。
ワシはキリストが1番わかりやすいが救世主型とでも呼ぶかの。
”神様から特別な理由によって認められたからこそ特別な才能に恵まれている”というヒーローじゃな。
キリストは神の子であるし、日本での天皇をはじめ、古今東西の王権や支配者というのは、神様からの特別な許可があるために人々を治めている、というのが多い。いわゆる王権神授説もその中の1つじゃろう。
それらの王権をヒーローというかは現実の歴史や政治の問題も絡むために難しいが、物語においてのヒーローであったり、神話の中の英雄はそれこそ神様の化身であったりと、現実の一般我々と異なることが多い」
アンパンマンもその中で特別に選ばれた存在であるということだね
一般人である……例えばカバオなどとは、全く異なる存在として描かれているからの
カエル「よく言われる『憧れとは理解から最も遠い感情だよ』という『BLEACH』の名言を引用するならば、神託などを受けた特別な存在への感情→憧れである一方で、理解は庶民感覚のものだから最も遠い、という解釈になるんだね」

ワシはイマイチ、この言葉の意味がわかっていない部分もあるがの
亀「そう考えるとアンパンマンとばいきんまんの対比とは以下のようになる」
亀「ちなみに、これは現代においても多くのフィクション作品で引用されている。
例えば連載中であるが『ONE PIECE』もDの意思などの運命的なものや『ドラゴンボール』も地球人ではないサイヤ人であるなど、神様ではないが特別な力を持つ理由が明かされている。
また異世界転生作品でも『無職転生』のように、神様が直接に力を授けて転生する作品もある。
それらは”神様や運命などの超常的な存在によってヒーローになることを運命づけられた”という意味で、ヒーロー=救世主論の延長線上にあるわけじゃな」
ヒーロー論としての今作〜『ジョーカー』を主人公とすること〜
一方で今作は『ジョーカー』側であるばいきんまんを主人公としているわけだよね
それはヒーローではできない物語を模索しているからじゃな
カエル「……ヒーローではできない物語?」
亀「ここで『バットマン』を例にしよう。いつもはバットマンを語る時にアンパンマンを例にするのじゃがな。
バットマンは常人離れした意志と超絶リッチという特殊能力があるからこそ、主人公でありヒーローでいられる。
一方で悪役の代表であるジョーカーはそのような超常能力は持たない場合が多い。
むしろ、我々一般人の側に近いのはジョーカーであるからこそ、『ジョーカー』という映画は作られているわけじゃな」
正義側、救世主側では描けないストーリーかぁ
それはばいきんまんでいうと”敗者の物語”ということかもしれん
カエル「作中でも『いつも負けている』と言っているけれど、それでも立ち上がるのがばいきんまんのいいところだもんね」
亀「ワシは『天使は怠け者であり、悪魔は努力家である』と考えている。
天使や神様はそれだけで誰もが近づいてくるし、救いを求めない人は放置してもいい。しかし悪魔は人々を堕落させるためにありとあらゆる手立てをしなければならない。
アンパンマンは日々パトロールをして困っている人を助けているため怠け者とは言わんが、しかしばいきんまんが努力して作り上げたものを破壊するという構図の中で、どちらがより工夫し、努力しているのかと問われれば、ばいきんまんじゃろう。
圧倒的強者であるアンパンマンでは救えない感情、敗北から立ち上がる思いを担当するのがばいきんまんなわけじゃ」
……それだと、ヒーローと悪党が逆転しているような気がするなぁ
多元論の世の中というのはそういうものである
亀「一元的な価値観、つまり”公と私”という対比で考えると、他者や公に害をなすばいきんまんは悪役じゃ。
しかし現代社会は私の自由を最大限認めるというリベラリズムの中で存続している。その意味では王権神授説と自由権の対比という意味で、アンパンマンとばいきんまんの対立を、ジョン・ロックの自由権の話にまで話を広げることも可能じゃろう」
つまり、今作のようなDIYや努力、積み重ねを描くにはばいきんまんが適切なのじゃな
亀「結局は物語の都合もあってアンパンマンを呼ぶことになるのじゃが、それも含めての悪役の存在であり、より感情移入しやすいのは、ばいきんまんじゃ。
ヒーローとは特別であることが大事なのじゃが、今作は特別でない者を扱うためにばいきんまんをピックアップする必要があったということじゃろう」
② 科学技術の暴走〜『オッペンハイマー』と今作〜
次に語る視点が科学技術の話ということだけれど
あの敵であった”すいとるゾウ”がなんだったのか、という話じゃな
カエル「すいとるゾウの正体……?」
亀「ワシはあのすいとるゾウは科学技術の発展の先にありうる可能性だと考えている。1番わかりやすい例では原子力の活用、つまり原爆や原発事故などのメタファーじゃな。
だからこそ、そのテーマを扱った『オッペンハイマー』を参考例として引用したい」
……『オッペンハイマー』なんだね
もちろん、原子力に限定しなくてもいい
亀「現代には科学による倫理観の問題というのは多く発生している。
その1つとしては遺伝子技術があり、遺伝子操作された食べ物の登場も騒がれたが、現代ではさらに進み絶滅した動物の復活なども科学によって成そうという試みもある。
命を人間が操作するという日も近いかもしれん。
またAIに関する近年の言説も似たような部分があるの。
このように、科学が暴走する例、あるいは懸念というのはたくさんあり、その象徴として”すいとるゾウ”があてがわられた。
なのでばいきんまんが木で作ったメカで対抗するのは、DIT描写と同時に行き過ぎた科学に対する啓蒙も含んでいるように解釈したの」
3 自然と人口の対比
ここは森を大切にしよう、自然を大切にしようという描き方だったよね
もっともわかりやすい描き方じゃったの
カエル「それこそうちでは『風の谷のナウシカ』を引用しているけれど、でもそれ以外でもいくらでも作品が挙がるね」
亀「今時の言葉で表すならばSDGsということになるのじゃろう。
ばいきんまんの鉄の文化から、木の文化への回顧、そして木の文化を守ろうという運動は自然を大切にしようという現代の動きにも合致しておるの」
そう考えると、結構大人向けのテーマも内包しているということができるんだね
アンパンマン映画をバカにしてはいけない
亀「これはうちではよく言っておるが、むしろ大人向け映画がこのような社会的なメッセージやテーマを直喩で語り、それを立派だとか否かと語っていることが多い。しかし、このように暗喩を交えることで、直接的に語ることがなくても、複雑なテーマを内包することはできる。
むしろシンプルでキャラクター性が確立している作品だからこそ、こういった作品はできるわけじゃな。
幼児・児童向け作品はいわゆる子供向け作品としてバカにされることも多いが、ワシは大人向け作品こそがアグラをかいていると指摘したいかの」
本作の違和感
最後に、本作で抱いた違和感っていうのがあるということだけれど……
少し過剰すぎたような気がするの
カエル「過剰という言葉が適切かはあるけれど、色々と全部のせにしすぎて子供向けの映画になっているのか? という問題だね」
亀「大人に受けるテーマだったり、ばいきんまんを主役級にするのはアンパンマン映画としてはリスクのある設定だったように思う。
ここはワシとしては挑戦として受け止めたいし、キャラクター映画の枠組みを拡大するものであって、決してそれだけで悪いとは言わない。
ただ、少しばかり大人向けの視点が強かったようにも思うから、ここは難しいところじゃな。非難というよりも、今作を制作する上で少し対象年齢が上がっているような気持ちがした、という程度のこととして捉えていただきたいの」


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