物語る亀

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物語愛好者の雑文

<辛口>映画『オッペンハイマー』感想&解説 長い!濃い!やりすぎ!

 

今回は『オッペンハイマー』の感想記事になります!

 

久々の洋画じゃな

 

ポスター画像

 

カエルくん(以下カエル)

……もしかして、1年ぶりの洋画じゃない?

 

亀爺(以下亀)

昨年はメンタルダウンしていたからの

 

カエル「アニメが中心とはいえ、びっくりするねぇ。

 ちなみに、うちはノーランに対しては……世間ほど熱狂していないです…」

 

亀「相性が良くない監督かもしれんの。

 その意味では、今回も冷静な視点になる気がするかの。

 それでは、さっそく記事を始めていくかの」

 

 

 

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感想

 

それでは、Xの短評からスタートです!

 

 

Xに投稿した感想

つまんな〜〜〜〜〜い‼️\( 'ω')/

これに3時間はやりすぎよ、ノーラン‼️(T ^ T)

 

とまあ、おふざけはここまでとして

 

ノーランが描くオッペンハイマー博士の核開発への向き合い方、その高揚感と後悔を赤狩りを交えて描く……って詰め込みすぎだろ!

1つ1つそれだけでも映画が1本できるような題材を1つにまとめてしまったために、各描写が「描写はされているけれど表現はされていない」というように感じてしまいました

(言葉遊びですね)

 

ボク自身が核技術に対する嫌悪感がないタイプなので参考程度ですが、広島・長崎に落とされたそのものの描写はないものの、その問題についてはガッツリ触れていたので、逆にアメリカでよくここまで描写したなぁ…と感心しましたね

その意味では日本公開も問題ない作品だと思います

 

ただ……絶望的に長い!

そして面白くない!笑

面白いにも色々あると思いますが、量子力学や技術を進歩させていく描写、あるいは赤狩りの描写などもまあそれぞれに面白さがありますが、全体を見たらのっぺりとした映画でしたね……

 

公開前に日本配給があるのないのと話題になりましたが(あれもよくわからない話でしたが)正直、ボクは円安の状況下で3時間があるこの作品を配給したいとは全く思わなかったです

 

 

 

 

う〜む……これは、かなりの辛口になってしまうかの

 

カエル「アメリカのアカデミー賞で作品賞・監督賞などを含む7部門を獲得したとのことで、注目度も高い作品です。

 また、昨年の『バービー』とセットで宣伝されたことで炎上したことも、大きな話題となりました。

 それだけに注目していたのですが……かなりの辛口になってしまったというね」

 

亀「何よりも長い‼️

 これがオッペンハイマー博士を通して描きたかったのはわかるのじゃが、さすがに3時間は長すぎる。

 さらに言えば話にまとまりもなく、映像面で際立ったところは、ほぼなかったような印象じゃ。

 とはいえ、技術部門の撮影賞・編集賞に関しては、そこを重点においた作品なので納得する部分はあるが……しかし、この作品を象徴するような映像がなかったの」

 

本作を見終わったのちに、何が思い浮かびますか? ってことだね

 

全ての映像が流れていったしまった印象じゃ

 

カエル「もちろん、原子力を扱った映画なので派手な爆発シーンなどもありますが、それがこの映画を象徴するほど感動するかというと……」

 

亀「テンションがアガりはするものの、それでおしまいという印象があるの。

 基本的に会話劇だから地味というのもあるのじゃろうが……それにしても、印象に残る場面がない映画じゃったな」

 

 

 

 

物語について

 

面白くないっていうだけだと問題だから、もう少し語っていきましょうか

 

1つ1つを考えると、面白いんじゃがな

 

カエル「えっと……ここではネタバレをあまりしない形で語ろうと思いますが、史実を交えながら少し話すと……オッペンハイマー博士は原爆の開発に多大な貢献をしており、その技術を追求します。

 そしてその成果物である原爆の威力に、後悔の念を抱える、という場面があります」

 

亀「公式サイトにある流れを加えて話すと、以下の3点がメインと言える」

 

 

  • 原子力の研究開発
  • 原爆を開発した後悔
  • 赤狩りによる苦難

 

そこに、オッペンハイマーの人生が絡んでくるわけじゃな

 

カエル「そう考えると、かなり詰め込まれているよね……」

 

亀「わしとしては、この1つ1つでそれぞれ映画が制作できる印象があった。

 それを全て入れてしまったことによって、今度は何を主軸で語りたいのかが、ボヤけてしまった印象じゃ。

 また、3時間の中ではこの物語を引っ張ることができていたとは思えん。

 ただし、1つ1つを取り出すと……新しい未知の技術を研究するワクワク感、その後悔、赤狩りの苦悩などもあり、面白い部分はあったので……もう少しやりたいことを絞って、2時間にまとめて欲しかったが……それだと普通の映画になってしまうのかもしれんの」

 

 

 

 

原子力の研究開発の描写について

 

原爆描写は妥当だったのか?

 

今作を語るのにか欠かせない、原子力の研究開発の描写に関してはどうだった?

 

わしとしては、むしろしっかりとその脅威と非道な部分を描いていた印象じゃな

 

カエル「日本では当然ながら原子力について嫌悪感がある方が多いと思いますが……うちはおそらく世間と比較すると、その嫌悪感・アレルギーがほとんどないかもしれません。

 なので、この描写でも足りない! という意見も想像されます」

 

亀「うちは開発されてしまった研究結果は、平和的に活用する以外にないという考え方じゃ。

 例えば車だって、それに銃を乗せ、戦車として多くの人をあやめてきた。そして道をアスファルトで舗装して、土地を大きく変えてしまったり、排気ガス等で病気になる要因にもなる。

 しかしそれによって物流が圧倒的に増え、多くの人が遠くに移動することができるようになった。

 結局は技術そのものが悪いわけではなく、その使い方じゃ」

 

アメリカだからできる原爆研究の描写

 

つまり原爆として活用するのではなく、原子力で発電などの平和理由もできる、と……

 

それも賛否はあるじゃろうが、インターネットもAIも同じように使い方1つの問題じゃと思うわけじゃな

 

カエル「そういう意識がある人だと、この映画はどう見るの?」

 

亀「原爆の恐ろしさ、その問題点にしっかりと向き合っていたという印象じゃ。

 もちろん、原爆の被害にあった日本人……特に被災地の人からしたら物足りないという意見もあるじゃろう。しかし、加害者と被害者であり、複雑な戦争の最中もある中で、全てが日本の思うように描くことは難しい。

 逆に言えば、日本で今作のような原爆描写を……つまり開発段階でのワクワクする様子を描けるかというと、それは難しいじゃろう

 

日本だと、もっと恐ろしい存在として描くのだろうね

 

それはもう、その国の歴史と直結するから、良い悪いという問題ではない

 

亀「その中では未知の現象を研究するワクワク感も描けておったし、原子力を研究しなければいけない政治と社会的事情も組み込んでいた。

 その上で原子力の恐ろしさと、研究されていくにつれて取り返しがつかなくなる科学の恐怖も伝わってきており、決して原爆を軽視している映画ではない

 

具体で描くことによる恐怖感の減退

 

だけれど、そこが強く印象に残るほどではない、と

 

具体で描きすぎなのかもしれんの

 

カエル「具体で描きすぎる……つまり直接的に描きすぎ、ということなのかな?」

 

亀「日本では核の恐怖というと『ゴジラ』が第一に挙がるじゃろうが、映像表現の強みの1つが抽象化で描くことじゃろう。

 『ゴジラ』は東京の街並みを破壊するシーンがあるが、それはもしも核攻撃が現代の東京や地方都市で起きたら、というシュミレーションにもなるわけで、だからこそ伝わるものもあるわけじゃな。

 その爆発シーンを大々的に描くのはいいのじゃが、具体で描くことによって、わかりやすくはあるが、その恐怖感は薄れた印象はある。

 その点が、日本からしたら文句が出やすいポイントなのかもしれんの」

 

作品解説

 

 

 

 

 

オッペンハイマーが描いた赤狩りと、その背景について

 

『紳士協定』が描き出した当時のマルクス主義の進歩性

 

あとは、赤狩り(マルクス主義者の排斥運動)の描写を描いたことにも触れておきたいけね

 

ここを考えるのに最適だと感じるのが、エリア・カザンの『紳士協定』じゃな

 

 

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1947年に公開された、アメリカの白黒映画の名作です

 

カエル「『オッペンハイマー』でも赤狩りの話をされていましたが、これはハリウッドも当然例外ではありません。そしてハリウッドと赤狩りを語るときに最も話題に挙がるのが、映画監督のエリア・カザンです。

 誰もが認める名作を生み出した名監督ですが……赤狩りの際に仲間を売ったということで、今でも賛否が割れている監督です」

 

現代から見るマルクス主義は、また見え方が違うのでこの映画を引用したいのじゃが……当時は”最も最先端な考え方”じゃったな

 

カエル「現代だと、なんというか……ソ連も崩壊したし、中国も社会主義国ではあるけれど実質的には資本主義に近いことを取り入れて発展しているから、マルクス主義はあまり支持されずらい考え方だよね」

 

亀「しかし、この当時は最も最先端の考え方がマルクス主義だったわけじゃな。

 マルクス主義にも色々な意味合いが複雑に絡み合っている。あまり語るとボロが出るが……その中の1つが”科学の信奉”というのが、あるわけじゃな」

 

マルクス主義は科学の信奉と宗教の否定

 

それを理解するのに『紳士協定』から引用しましょう

 

『紳士協定』はユダヤ人に対する差別意識を描いた映画として有名じゃ

 

カエル「物語としてはユダヤ人排斥を暗に行おうとしている社会を糾弾する、というような内容になっています」

 

亀「それも重要なのじゃが、もう1つ重要な側面として、エリア・カザンが赤狩りを食らうほどマルクス主義に染まっていたというのも重要じゃな。

 『紳士協定』の中で、このようなシーンがある。パーティ会場に訪れた主人公は、そこで……役名こそあるが、明らかにアインシュタインを連想する物理学者と会話をする。そのときに、物理学者の発言が、以下の通りじゃ」

 

◆『紳士協定』より引用◆

 私は信仰の厚いユダヤ人ではない。それに科学者だからユダヤ民族を認めない。ユダヤ民族やタイプなどは存在しないのだ。つまり科学者として言えるのは”わたしはユダヤ人ではない”ということ

 

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これが、当時のマルクス主義の考え方なわけじゃな

 

カエル「えっと……色々な考え方があるので全てのマルクス主義、あるいはそれに端を発する思想が当てはまるわけではないですが、マルクスの著書に”宗教の否定”があったわけだよね。

 共産主義国家にも信仰はあるけれど、でも制限されていたわけで……」

 

亀「マルクスの『宗教は民衆のアヘン』という言葉が有名じゃな。

 当時タブーとされていたユダヤ人差別の問題に対して、なぜエリア・カザンがそれをテーマにすることができたのか?

 わしはマルクス主義の思想がその根底にあり、そして宗教というものを否定していた。だからこそ宗教を基に差別されてしまうユダヤ人問題に対して、より挑戦的に表現することができた、と解釈しておる。

 つまり古い価値観(想像で作れた価値観=宗教)を否定して、論理的な価値観(科学)で物事を判断しよう、という運動の一面があったわけじゃな」

 

だから、有名な科学者やインテリがマルクス主義に傾いていったと

 

ある一定の年代……そうじゃな、1960年くらいかの、マルクス主義というは最も先進的な価値観だった時代があるわけじゃな

 

 

 

 

赤を排斥しなければいけなかったアメリカ

 

だけれど、それは理解されずにアメリカでは赤狩りが横行した、と

 

ここには色々な複雑な事情が絡み合っておる

 

カエル「1番大きいのはソ連(共産主義国家)との対立、つまり冷戦だよね」

 

亀「それもそうじゃが、同時にアメリカは宗教の色合いが濃い国家ということもポイントじゃ。まあヨーロッパの……西側諸国はキリスト教の影響が強いのは当然じゃが、アメリカの場合はプロテスタントの割合が非常に多い。

 本作ではそこには注目しなかったが……微妙にリンクしていたのが、カトリック初の大統領がジョン・F・ケネディであり、そして2人目が現職のバイデン大統領である

 

アメリカにおいてプロテスタントとカトリックはかつて溝があり、戦う相手であったが、状況が変わり始める

 

カエル「それが宗教を否定するマルクス主義の台頭だと……」

 

亀「それも一因であったのは、間違いない。

 それまでのアメリカという国の精神であった神の存在、それを否定するのがマルクス主義であった。

 だからこそ、それを否定する必要があるので、赤狩りが行われたわけじゃな。

 赤狩りとは確かに国家間の政治的闘争でもあるが、同時にアメリカという国の根本・精神を揺るがした相手を炙り出し、それを否定する運動じゃ。

 今ではそれを間違いとして、改めていく風潮が強くなってきているがの」

 

トリニティ実験の名前の由来とオッペンハイマーの思想

 

だからトリニティ(三位一体)という、キリスト教の重要な理念を実験の名前につけたのかな…

 

イギリスの詩人ジョン・ダンの詩から引用したと言われているの

 

カエル「……マルクス主義に傾倒したけれど、ここでは宗教にふれた詩を引用したんだね」

 

亀「その意味では、色々な見方があるがオッペンハイマーという人物は科学を思考の中心に置いたものの、マルクス主義の考え方にそこまで傾倒していたわけではない、という見方もできるかもしれん。

 あるいは、国家を揺るがす大きな計画だから宗教を引用したのかもしれんの」

 

アメリカの核開発とその被害者であるネイティブアメリカン

 

今作では核開発が多く描かれているけれど、この映画が暗に描いた問題点って?

 

核開発の最大の被害者である、ネイティブアメリカンの存在じゃな

 

カエル「あー、そっか。

 核開発をするために広大な土地が必要で、その土地をどうやって確保したのっていう話なのか……

 

亀「その通りじゃ。

 トリニティ実験の後で行われたネバダ核実験場での核実験は、多くのネイティブアメリカンに被爆者を生み出した。そしてその健康被害は、多くの人がいる。

 もちろん、ビキニ環礁の住んでいた人々も、大きな影響を受けている。

 日本は直接的な原爆の被害を受けた国であるが……原子力による健康被害という意味では、アメリカもその被害は決して小さくない。

 この映画はその、アメリカの負の歴史にも言及しているわけじゃな」

 

 

https://www.jstage.jst.go.jp/article/americanreview/42/0/42_57/_pdf

https://www.jstage.jst.go.jp/article/americanreview/42/0/42_57/_pdf

 

多くのことは描写されているが……

 

そう考えるとさ、とても多くのアメリカの歴史や状況が描写されてはいるんだね

 

今語ったように、1つ1つを考えても、とても重要で濃いテーマじゃ

 

カエル「それを全て詰め込んだら、そりゃ3時間にもなるのかなぁ」

 

亀「じゃが、わしは映画として面白いとは思わなかったし……ノーランは撮影と編集の監督であると感じるが、映像手法との相性が悪いテーマだったとも感じている。

 そして3時間という時間をかけなければいけないような、映画的な時間であったり、映像的な意味合いは薄い……はっきりと言ってしまえば、大学の2コマ(180分)の授業で十分なのではないか? という思いすらよぎる」

 

だけれど、アメリカではとてもヒットしているよね?

 

アメリカ人にとってはとても価値のある話じゃからな

 

カエル「自国の歴史を描いているわけだしね……」

 

亀「逆に言えば、アメリカはアメリカという価値観がとても強い国じゃ。他の国の価値観が、なかなか入りにくい国でもある、超内向きの国家じゃ。

 その中ではアメリカ人にとってはとても意義があると思うし、今作がアメリカアカデミー賞というのも……まあ、わからんでもない。

 しかしそれが日本人という枠組みになった時……それでは主語が大きいので、ワシという個人の話にするが、ワシとしては得るものが少ないという印象があるかの」

 

 

 

最後に

 

というわけで、最後になります!

 

先にも語ったが、うちは作られてしまった技術は活用するべきだ、という価値観じゃな

 

カエル「原子力という力を、原爆で使うのか、発電で使うのかという、使い方が大事という話だね」

 

亀「うちとしては……すでに作られてしまった技術は、どうしようもない。歴史は逆戻りにはならない。

 火薬技術を使って銃として人を殺めるのか、それとも推進剤としてロケットとして宇宙に行くのか、という話じゃとも思う。結局は、その技術で人を生かすもあやめるのも、使い方次第ということじゃな」

 

科学の危険性もわかるけれど、でも、もう止まらないってことだね

 

今からインターネットをなくすことはできんからの

 

カエル「ノーランはインターネットが嫌いで、もしかしたら科学に対して危険性を啓蒙する思想を持っているのかもしれないけれど……」

 

亀「うちとは異なるかの。

 そもそもインターネットで出てきた、うちのような存在には……この映画は相性が悪かったのかもしれんの

 

 

投げ銭も受けてつけています!

 

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