いよいよここに手を出すときがきたんだね……
本当は無視しちゃいけない作品だからね
カエルくん(以下カエル)
「劇場内に入る時はドキドキだったねぇ……周囲は子供連ればかりだし、完全アウェーの中で鑑賞しているわけで……」
主
「……明らかに不審者だもんなぁ」
カエル「幼児向けアニメと女児向けアニメがすごく弱いから、そこに力を入れていこう! という方針は少しあって……特にアンパンマンを語る大人ってほとんどいないしねぇ」
主「実はとても重要なことを描いているのが、この幼児向けアニメだったりするからね。
では、感想記事を始めていきましょう!」
映画『それいけ!アンパンマン かがやけ!クルンといのちの星』予告編
感想
では、まずは映画の感想からです!
うん十年ぶりにアンパンマンを観たけれどやはりヒーロー作品として完成されている
— 井中カエル@物語るカメ/映画・アニメ系VTuber(初書籍発売中!) (@monogatarukame) 2018年6月30日
色々なヒーロー作品を観ているが1番ヒーロー描写に納得するのはやはりアンパンマンかなぁ
作品としては惜しい部分もあり傑作になりそこねた印象もあるがキラリと光る場面も多い
やっぱりアンパンマンは完成されたヒーローだよ
カエル「ちなみに、さすがにアンパンマン映画を映画館で見るのは……多分初めての経験のはずであり、アンパンマン自体を鑑賞するのもうん10年ぶりになります……多分」
主「確か10代後半の頃に一時期アンパンマンを録画してみていた記憶があるにはあるんよねぇ……理由は今回と同じように、幼児向けアニメが何をやっているのか知るため……とかだったかな? ほとんど記憶にないけれど。
まあ、それは置いておいて……本作自体の評価としては、大傑作というほど高いわけではないです」
カエル「まあ、幼児向けアニメを大人が鑑賞している時点でねぇ……」
主「それが違う!
アンパンマン映画を馬鹿にしちゃいけないよ。
ぶっちゃけて言えば、自分には今作は同週公開の超大作洋画よりもお気に入りですから!
まあ、あっちが微妙だったこともあるけれど……
今作が問いかけてくるメッセージはとても重く、大人でも唸るものがある。
そしてアニメーションの作りも決して過剰になりすぎず、それでも楽しめるようにわかりやすく作られており、しかも深い意味もある……さすがはアンパンマンです。
全体としては『あと一歩踏み込めば……』と思う部分もあって、傑作とまでは思わないけれど、でも馬鹿にしていい映画ではないです!」
アンパンマンの正義
カエル「え〜、長らくこのブログを読んでいる方はご存知かもしれませんが、うちは正義のヒーローという存在に、基本的に相容れないものがあって……」
主「もちろん好きなヒーローもいるし、他の人がヒーローを好きな気持ちは否定しないけれど……でも『正義』を声高に主張してくる存在はロクなもんじゃないと考えている。
戦争もそうでしょ? どこの国も自国の正義を口にして、相手の正義を悪と称する……『正義の反対はもう1つの正義だ』なんて言うけれど、実際正義という名のエゴがぶつかり合うのが社会なんです」
カエル「はい、そんな持論は置いておきましょう!
でもさ、じゃあアンパンマンは嫌いなの?」
主「世界で唯一自分が納得する正義のヒーローはアンパンマンだから」
カエル「……なんで?」
主「やなせたかしが何度も答えている。
『飢えている人、困っている人にご飯を分けてあげることが本当の正義なんです』という言葉を遺しているけれど、ひねくれ者の自分が唯一反論できない、絶対の正義と思えるのがこの言葉だから。
政治体制や倫理観に基づいた正義は簡単に覆る。だけれど、飢えている人にご飯を分けてあげることは、どう考えても相手のための想っての行為であり、善である。
それを体現した存在がアンパンマンだ」
カエル「そういえば今最も正義について語った大事な漫画と評価している『パンプキンシザーズ』でも『本当に自分が苦しんでいる時に、それでも他人に手を差し伸べられるのが正義だ』という話があったね」
主「悪を倒すことが正義の味方なんじゃない。本当に困っている人のそばにいること、それが正義の味方なんだ。
そして……アンパンマンは色々と因果な存在でもあるけれど、これは後述しよう」
おそらく、今日本で最も熱い『正義』について考えている漫画!
アンパンマン映画を大人が観る意味
……そもそもさ、アンパンマン映画を大人が観る意味ってあるの?
あると思っているから映画館に行くんだけれどね
カエル「でもさ、やはり幼児向けアニメで、いっぱい子供たちがいる中で唯一大人一人で鑑賞していたじゃない?」
主「この手の幼児向けアニメは……おそらく、あの場にいた子供たちの多くが『生まれて初めて映画館で映画を観る』という体験をしただろう。
その場に一緒にいるというのは、とても大変なことだよね。
そしてさらに言えば、ドラえもんなどの子供向けアニメ映画を愛好する人たちでも、アンパンマンはあまり語られない作品でもある。
だけれど、そういう作品こそ大人が語るべきであり、その意義を語っていく必要があるのではないか?
単なる『幼児向けアニメ』で片付けるのではなく、幼児に向かって何を表現しているのか? について注目をしていく必要があるね。
その意味では今作はとても大切なことを表現している。それはこれから語るとしようか」
カエル「幼児向けだからといって、舐めてしまってはダメだということだね……」
主「もちろん、幼児向けように配慮は必要だよ。
だけれど『幼児向けだから』と舐めちゃいけない!
子供は大人よりももっと残酷だから、つまらなかったら上映中でもつまらないと暴れるからね。限られた時間、限られた表現の中でどのように面白い表現を行うのか……それが大切なんだ」
以下ネタバレあり
作品考察
子供を楽しませるために
では、ここから先はネタバレ込みで語っていきます!
まずは序盤からだね
カエル「驚いたのが、ちゃんと音楽に合わせてダンスを踊るOPから始まっているんだよねぇ……そこまで派手な踊りではなくて、お遊戯会レベルだけれど、こういう形で音と絵を合わせてきているんだ! って勉強になったよ」
主「いつも語るけれど、 OPの存在ってすごく大事でさ。ここを失敗すると掴みから大失敗することになる。
そこを緩やかだけれど、幼児向けに合わせたダンスを交えながら、今作で重要な設定である『星祭り』について簡単に説明をしてくれるし、そこでアンパンマンとバイキンマンの関係性について……つまり、敵として戦いに挑むバイキンマンと、それをやっつけるアンパンマンの関係性を簡潔に説明している。
この手腕はなるほど、と思わずうなづいたね
カエル「そして有名なEDが流れた後に、一通りのドタバタがあっていつものOPが始まるんだよね」
主「やっぱりさ、ドラえもんにしろしんちゃんにしろ、アンパンマンにしろ強力なメインテーマとなるOPを持っている。これは……大人向けに説明すると、スターウォーズのメインテーマと共に始まったり、ジュラシック・パークシリーズでメインテーマが流れるのと同じ高揚感がある。
この強力な武器を使わない手はない。そして、それで『いつものアンパンマンの世界』に連れて行ってくれるんだから……さすが30作品の重みは違うなぁ」
幼児向けアニメの傑作!
これは大人もハマること間違い無し!
今作のテーマ
カエル「では、この作品で最も重要なテーマって何?」
主「アンパンマーチの1番と同じだよ。
なんのために生まれて なにをして生きるのか
— 井中カエル@物語るカメ/映画・アニメ系VTuber(初書籍発売中!) (@monogatarukame) 2018年6月30日
こたえられないなんて そんなのはいやだ!
有名なアンパンマーチの出だしだが自らの存在理由とは何か? と言及しているとんでもない力がこもった歌詞
まさしくそんな作品だった
このTweetにもあるように、アンパンマーチの出だしと全く同じような言及が作中である。
つまり『なぜ自分は生まれてきたのか?』ということを、今回のゲストキャラクターのクルンは尋ねていくわけだ」
カエル「最初はバイキンマンにそれを尋ねて『アンパンマンを倒すためだ!』と言われて、アンパンマンに尋ねると『みんなを助けるためだよ』と答えるんだよね……
『なんのために自分が生まれてたのか……それを知ることができるというのは、とても幸せなことなんだ』というようなセリフがあったけれど……なんか、胸にガツンと響いたよ……」
主「ここで重要なのは、今作は『アンパンマンとバイキンマンの物語』になっている。これは明確に『正義と悪』の物語だけれど……本当、バイキンマンって最高の悪役だなぁと痛感するよ」
バイキンマンとジョーカー
バイキンマンの姿がとても良かったよねぇ
悪党とはどれだけ悲哀に満ちているのか、よくわかるよ
カエル「今作はいつものように、アンパンマンを倒すために色々と努力を重ねているバイキンマンの姿が印象的だったけれど……」
主「これが大人向けになったら『バットマンVSジョーカー』になるのかもねぇ」
カエル「……え? バイキンマンってジョーカーなの?」
主「悪党が正義の側を倒すために努力を重ね、誰よりもヒーローについて研究し、そして行動を知り尽くしている存在という意味では、かなり共通点がある。
自分は基本的に正義の味方よりも悪党の方に魅かれることが多いけれど、悪党って複雑なんだよ。
正義の味方は単純な倫理観などで動くけれど、悪党は強い独自の行動原理を持っている」
カエル「それを象徴するシーンが、バイキンマンもピンチに陥った時にアンパンマンに助けてもらうシーンで……
お腹を空かせたバイキンマンに自分のアンパンを差し出すんだよね。だけれど、バイキンマンは食べずに走り出して行って……」
主「これは『究極の善』であるアンパンマンらしい、悪党でも困っていたら手を貸すという行動ではある。
だけどバイキンマンはその手を振り払う。
そんな情けはいらねぇ! と拒否をする。
これは悪党の矜持だよ、そこで助けてもらうわけにはいかないんだ。
だけれど、その矜持を究極の善であるアンパンマンは理解できない」
カエル「作中でも
クルン『どうしてもこんなに美味しいアンパンを食べないんだろ?』
アンパンマン『……さあ?』
という会話があるけれど……ここでバイキンマンの気持ちをわかってあげられる存在が誰もいないというのがね……」
主「正義の味方として、圧倒的な善であるからこそ悪の気持ちを理解してあげることができない。
本作が素晴らしい点が『正義VS悪』という単純な構図にしなかった。
明らかにバイキンマンにも……悪にも寄り添うような描き方をしている。
一方的な正義の味方を描いた作品ではないんだよ。
だからこそ、自分は強く惹かれたね」
レゴバットマンをさらに幼児化したらこの作品になるかもしれない……
自己がないアンパンマン
カエル「これはちょっと恐怖というか……正義の味方があるべき姿を教えられたかも……」
主「他の作品と決定的に違うのは、アンパンマンには明確な自己ないというか……他の作品はともかくとして、本作ではより人間味があるのはバイキンマンという描き方をしている。
これこそが正義の味方のあるべき姿なのかもしれないね」
カエル「たとえ困っている相手であれば、バイキンマンであろうとも助けてしまうわけだしね……」
主「余計な自己を持たないこと……困っていたら悪でも助けること、それがアンパンマンだ。
正義の味方として滅私奉公しており、全体ために己を出すことなく奉公している。
そこで自己の感覚が芽生えると近年のヒーロー映画によくある、自分の正義とはなんだろうか? ということを悩む物語になる。
そこに悩まないのが、アンパンマンの特徴と言えるのかなぁ」
今回のゲストキャラクター、クルンちゃん
『わかんない』が口癖の可愛らしいキャラクターです
ヒーローとは何者か?
アンパンマンで感動したポイントはここもあるよねぇ
この作品は『ヒーローとはどのような存在か』ということにも言及しているんだ
カエル「やっぱり、どうしても『悪の敵を倒す存在』がヒーローのように思ってしまうけれど……」
主「でもアンパンマンはそういう描き方をしていない。もちろん、みんなが苦しめられている悪の存在に対して立ち向かい、鉄拳を振るう存在でもある。でもそれだけではなないんだよ。
アンパンマンがヒーローとして完成されているのは『甘えのない善行の象徴』になっているからだ」
カエル「……どういうこと?」
主「作中でみんなが辛い経験をしている時に『アンパンマンならどうする?』『アンパンマンなら諦めない!』ということを思ってい行動している。
もちろん、ヒーローとは困っている人や悪を助ける人のことでもある。
でも、それ以上に大切なのは『苦しい時に心の支えになる存在』だと思うわけですよ」
カエル「みんなアンパンマンに依存することなく、自分の力でどうにかしよう! って頑張っていたわけだしね」
主「別にイチローや香川は悪を挫くわけでもない。
だけれど、野球少年やサッカー少年が、将来の日本代表を夢見てがんばっている時……本当に苦しい時に『僕はあんなヒーローになるんだ!』と、歯を食いしばって自発的に立ち上がる……だからこそ彼らはヒーローなわけだ。
あまりにも輝かしいヒーローがいると、みんな彼に依存をしてしまい、努力をしなくなったり、立ち上がる力がなくなるかもしれない。だけれど、アンパンマンの場合、みんなはアンパンマンを心の支えにして立ち上がる。
だからこそ、自分はアンパンマンは完成された正義の味方だと思うね」
まとめ
では、ここでまとめです!
- 完成されたヒーローとしてのアンパンマン
- 自らが何のために生まれたのか? を問いかける作品
- 悪党の矜持に溢れたバイキンマンと、それを理解できないアンパンマン
- 正義のヒーローとは何か? を体現する存在!
幼児向けアニメだからとバカにできない存在だ
カエル「実際、これが大人向けの映画やアニメだったら、アンパンマンの描き方は大きく変わるかもねぇ」
主「間違いなく『自己の意識との葛藤』の描写も入ってくるだろう。また正義のヒーローとして周囲を鼓舞する姿は、まるでプロパガンダのように映るかもしれない。
だけれど、アンパンマンはそうじゃない。ヒーロー映画の……余計な要素とはまではいうと問題かな? 『自己との葛藤』などを排除し、完成されたヒーローとしての姿を見せてくれている。
正直言えば、もう一捻りあったらなぁ……という思いなどもあるにはあるけれど……この短い時間に『アンパンマンとはどういう存在か?』ということを描いた本作には驚かされた部分も多い」
カエル「さすが幼児向けアニメの代表的作品だね……」
主「ヒーロー作品としても完成されているから、その目線で見ると大人も感動することが多いよ。
これだけ人気を集める理由がよく分かる……そんな作品でした」