今回は最近力を入れて観始めているインド映画(ボリウッド)から生まれた『シークレット・スーパースター』の記事になります!
最近インド映画にハマってきたんだよなぁ
カエルくん(以下カエル)
「日本でも徐々にインド映画の認知度は上がってきているようで、それこそ『バーフバリ』のヒットもあって続々と新作が上陸している印象だね。
その中でもしっかりと『バジュランギおじさんと小さな迷子』のような年間ベストレベルの作品も登場しており、単なるブームで終わってほしくない映画たちです」
主
「極めて強いメッセージ性を宿しながら、それを全てダンスと歌で楽しく笑って観られるようにする……力技のようだけれど、そんな作品たちに惚れてしまったなぁ。
とはいってもまだまだ全然観ていないけれど、今後は積極的に注目していきたいジャンルでもあるね」
カエル「そんな中で、今回取り上げるのは『シークレット・スーパースター』には『きっとうまくいく』などでも人気のアーミル・カーンも出演しています!
もしかしたら日本で一番知名度のあるインド人俳優かな?」
主「半分くらいアーミル・カーン目当てなところもありかも。
今回は字幕版を鑑賞したけれど、ソフト化の際には吹き替え版では平田広明が演じるのかな? すっかりアーミル・カーン=平田広明のイメージがついちゃったんだけれど」
カエル「順調にソフト化してもらうためにもぜひともヒットして欲しい本作!
それでは感想記事のスタートです!」
作品紹介・あらすじ
『きっと、うまくいく』『PK』などに主演を果たしたインド映画界のスター、アーミル・カーンが制作を担当し、自身も出演している音楽映画。インド映画史上、世界歴代興行収入が3位を記録するなどの世界的にヒットしている作品。
監督は元々アーミルのマネージャーとして活動しており『フォレスト・ガンプ』のインドリメイクとなる新作の監督も務める予定のアドベイト・チャンダン。主演のインシア役にはザイラー・ワシーム、母親役をメヘル・ビジュが演じる。
歌が好きでテレビで発表される歌の祭典に立ちたいと願う少女、インシア。しかし厳格な父に猛烈な反対をされてしまい、その夢は叶わない日々が続いていた。それでもインシアは顔を隠して母がこっそりと買ってくれたパソコンを使って動画投稿サイトに自作の楽曲を配信したところ、たちまち驚異的な再生回数を記録して一躍、時の人となる。しかし素顔を晒すと父に激怒されることから、苦悩の日々が続くのだが……
感想
それではTwitterの短評からスタートです!
#シークレットスーパースター
— 井中カエル@物語るカメ/映画・アニメ系VTuber(初書籍発売中!) (@monogatarukame) 2019年8月14日
夢をみたい、歌いたい…そんな少女を襲う男尊女卑の大きな壁を力強く告発しつつも単純な男VS女にしない熱い祈りの数々と楽曲が激しく胸を打つ
スーパースターか姿を現した瞬間に涙が止まらなくなる!
性別も技巧も関係ない、大事なのはパッションだ! pic.twitter.com/8Qut1ruZHF
今年屈指の傑作音楽映画に大絶賛! これはぜひ見て欲しい作品です!
カエル「インド映画の最大の売りである音楽の魅力を前面に出した作品でもあったよね。
どうしてもインド映画というと長いという印象はあるし、実際今作も2時間半くらい(それでもオリジナルよりは編集されており短くなっている)と長いです。だけれど、全く飽きずに見ることができるのではないでしょうか?」
主「印象としては近年の話題になった映画では『シング・ストリート 未来へのうた』を連想する人もいるのではないだろうか?
社会の偏見や様々な障害に対して、少女や少年たち、あるいは親類が協力して歌で大きな世界へ挑戦していく姿に胸が高鳴る。
今作の場合は様々な要素があって、中には胸糞悪くなるシーンもあるんだけれど、だけれど笑いもあって終盤には涙に変わる……そんな王道のエンタメ作品だね」
カエル「公開規模が少なめなのが勿体無いよね……今作の場合、老若男女、誰にでもお勧めできるし、また普段映画に見慣れていない方や、インド映画初体験! という人にもオススメできる作品です」
主「とりあえず今回はネタバレなしで主な魅力を3点挙げていこうか」
シークレット・スーパースターの魅力!
① 音楽やダンスの魅力!
まず第一に上がるのは、何と言っても音楽やダンスの魅力だよね!
ここを抜きにして音楽映画、インド映画を語ることはできない!
カエル「今作の場合は音楽映画でもあるので、ここがダメだと映画全体がダメになりますが、魅力溢れる楽曲がたくさん流れます!
どの曲も聞いているだけでうっとりとしてくるよね」
主「さらに音楽・ミュージカル映画で重要なのは”なぜその曲をそこで流すのか?”ということだと考えている。例えば『ラ・ラ・ランド』の冒頭は作品全体が”ハリウッド映画賛歌であり、夢追いびとを応援する”という内容のために、そのテーマを冒頭で表現している。
今作の場合もそれは同じなんだ。
そのシーンで歌われる楽曲には全て意味があり、日本語字幕と共に見るとストレートすぎるくらいにまっすぐに伝わってくるものがある」
カエル「さらにインド映画といえば派手なダンスを連想する方も多いでしょうが、今作ではあくまでも音楽映画であり、そのようなミュージカル描写は比較的少なめなのも、ミュージカルが苦手な人が多いと言われる日本人向けなのかもしれないね」
主「ただし、それはあくまでも”少なめ”ということで0ではないから、そこが楽しみな人にもオススメしたいなぁ」
② インドの国内事情を告発したテーマ性は世界共通のメッセージを放つ
近年の日本に上陸してくるインド映画の話題作はメッセージ性が強い作品も多いですが、今作も負けていません!
ここまで覚悟のある、告発を兼ね備えた映画は日本のみならず世界が見習うべきものだ
カエル「近年、インド映画が盛り上がりを見せていますがそのメッセージ性の強さにもうちは高い評価をしています。
例えば今作にも出演するアーミル・カーンが主演の『きっと、うまくいく』では学歴問題やカースト制度を『PK』では宗教問題を、2019年公開の映画では『バジュランギおじさんとちいさな迷子』では対立を深める印パ関係を扱っています」
主「それらのテーマは確かにインド国内の闇を深く掘り下げるものではあるけれど、決して日本人や世界中に縁のないものでもない。例えば印パ関係は隣国との関係性と考えると、日韓関係が悪化している現状を考えれば、全く人ごとだとは思えない問題だろう。
そして本作の場合、そのメッセージ性がいちばん日本人の心に届きやすいのではないだろうか?」
カエル「基本的には”少女が歌でインド中で人気者になる”という物語ではありますが、同時に女性賛歌のテーマもあります。もしかしたら宗教問題などよりも日本人に直接的に響くんじゃないかなぁ」
主「インド国内の事情に関してはこの後述べていきますが、これだけ覚悟のこもった映画が大ヒットしたことは驚異的の一言。
日本のみならず、ハリウッドやその他の映画&物語表現が見習うべきものがあります」
③ 万人のオススメしたい強烈なエンタメ性!
難しい話なの? と思われるかもしれませんが基本はエンタメ作品です!
だからこそ、多くの人に見て欲しい作品でもあります!
カエル「社会的なメッセージが〜とかいうと、どうしても重い社会派作品のように思われるかもしれませんが、そんなことはありません。
この映画を見た後に出てくる感想は『超泣いた!』というものであっても、それは絶対にネガティブな意味ではなく、笑顔でこの言葉を発しているはず!」
主「物語の根幹である登場人物のキャラクター性が見事だから、グイグイと引き込まれていく。
特にアーミル:カーン演じる音楽プロデューサーは誰もが笑うこと間違いなし!
ある意味ではアニメ的なエンターテイメント性のあるキャラクターなんだけれど、だからこそ日本人にもゲラゲラと笑いを届けてくれるでしょう」
カエル「怒って泣いて共感して笑って……という、登場人物たちの気持ちと一体になれるよね」
主「インド映画らしくかなり強引な部分もあるんだけれど、それもここまで力技がハマるとむしろ快感になる。
自分は万人が褒め称えるタイプの映画だと思うので、なるべくならば劇場での鑑賞をオススメしたいですね」
以下若干のネタバレあり
本作が描いたインド国内の事情について
インドの社会状況① 女性に関する問題〜増えつづける人口と抑制政策〜
では、ここからはインド国内の事情について少し触れていきましょうか
まずは最初にインドの女性に対する問題について知ってもらいたい
カエル「インドは元々保守的な国であって、女性の社会進出はかなり遅れていると言われているよね。
家庭に入るのが一般的な女性である、というイメージが根強くある国家だと言われているけれど……」
主「ご存知の方も多いだろうけれど、インドの人口はとてつもなく多い。2025年から2030年にかけては、あの中国も抜いて世界一の人口を誇る国家になると言われている。一応中国ほどの強烈な一人っ子政策のような人口抑制政策は掲げていないけれど、やはり食料や物資の問題や、仕事がなく就職難になる可能性を危惧して人口抑制政策を掲げている」
カエル「例えばインドでは結婚後一定期間に子供を産まなければ手当としてお金がもらえます。これは人口抑制の意味合いと共に、比較的結婚が早いため女性の体を守るための政策とも言われています。
またある自治体では避妊手術を受けることによって車や電化製品を贈呈する試みもあります。
ちなみにこちらは男性も対象になっていますが、98パーセントが女性となっています」
主「そしてそのような状況が、女性たちにさらなる苦痛をもたらすことになっている」
人口抑制政策により倦厭されがちな女児
この映画の中でも、女性に対するかなり苛烈な描写が描かれていたよね
残念ながらあのような風習は今でもインド国内では残っているようだ
カエル「映画の中ではお父さんがお母さんに辛くあたり、時には手を出しても平然としている超男尊女卑の文化があるように描かれていたね。あとは子供が女児だとわかるとひどい対応を迫ったりとか……」
主「元々インドは保守的な国なので女性は家にいるべき、という価値観が強いというのは先ほども語ったけれど同時に人口抑制政策もその差別の原因の1つとなっている。
これは中国もそうだけれど強制的な人口抑制政策の結果、女児は倦厭されてしまう。
親としては将来自分の面倒を見て欲しいし、また社会に出てバリバリ稼ぐのは何と言っても男性だから、楽をする確率を少しでも上げるならば、男児が欲しくなるんだ」
カエル「勝手な理由だね……」
主「その結果、インドでは妊娠時に女児だとわかると堕胎を選択する人もいる。
イギリスのある調査では近年30年間の間に女児であることを理由に堕胎された胎児は最大1000万人にのぼると推測されている」
カエル「1000万人!?
それは表に出たら相当大変な数字じゃ……」
主「中には技量として怪しい医者もいるから母親も危険な目にあう例もあるわけだ。人口の多いインドだから日本の価値観で単純に比べることはできないし、正確なデータばかりではないから地域によっては憶測も込みだとは思うけれど……この数字があまりにも途方もないもので愕然としてしまうね」
インドの社会状況② 女性を苦しめてしまう結婚の風習
他にも女児が嫌がられる理由があるの?
この映画でも実はハッキリと描かれているんだ
主「インドにおいて結婚持参金(ダウリー)の問題がある。
インドでは結婚の際に花婿の家族に対して、花嫁の家族が持参金(お金や宝石、家電など)を贈呈する風習がある。これはインドでは法律で禁止されているものの、実はまだまだ根強く残ってしまっている風習だ」
カエル「あ、だから映画の中でも父親がお母さんに『お前の実家はろくなものを送ってこないのに……』と話していたんだ」
主「このダウリーは結婚後も花嫁家族は花婿に渡し続けるのが慣習となっている。
しかもその額は非常に大きいし、他にも女性は綺麗なサリーや宝石で着飾る必要がある上に、家庭に入るのが一般的なので働き手にはならない。
このような条件では女児を育てることができる家庭、あるいは女児を望む家庭が減ってしまうのは仕方ないことだろう」
カエル「え、でもそんなの払えなかったら払わなくても……」
主「持参金が少ないと花婿家族に花嫁がいじめられるケースも相次いでいる。
その結果、自殺をしたり最悪の場合殺人事件に発展してしまう。
だから映画内でもお父さんは他国で娘を嫁がせようとするけれど、それはこの風習によってお金を用意するのが嫌、あるいは不可能だからだろう。
このような状況下にある中での女性の物語であることを知ると、今作の見方がまた変わるのではないだろうか?」
インドの社会状況③ イスラム教徒の扱いについて
今作の主人公であるインシアの家族はイスラム教徒と思われます
ここがまた問題を複雑にしている
カエル「インシアはイスラム教徒の衣装であるプルケに身を包んで歌っていたもんね。お母さんはヒジャブと呼ばれるスカーフを身につけていたし……
確か『バジュランギおじさんとちいさな迷子』の時にも語ったけれど、インドは基本的には多神教国家だよね。
むしろイスラム教徒はお隣のパキスタンに多いはずで……」
主「元々は同じ国家であったけれど宗教上の対立もあって2つの国に別れてしまったインドとパキスタン。その中でもヒンドゥー教徒などはインドに、イスラム教徒はパキスタン側に移動し、その際に大きな悲劇がいくつも発生してしまっている。
だけれどインド国内もイスラム教徒は当然いる。
しかも、その絶対数は非常に多い」
カエル「インド国内ではヒンドゥー教徒が約80パーセント、イスラム教徒が13パーセントほどと割合では圧倒的な差があります。
だけれど人口が多いインドのイスラム教徒の人数は世界でも2、3位を争うほどにたくさんおり、お隣のパキスタンの全人口に匹敵するとも言われています」
主「インドはヒンドゥー教徒が多く、また感情的な対立もあったために多くの偏見もある。この映画内でも父親は大変な労働環境にいるけれど、これもカースト制度が根強く残ってしまっている中で仕事を見つけることの大変さもあるのだろう。
また家を見えても決して裕福には見えないことから、やはりお金はないだろう。
そう考えるとあれだけ心が荒んでしまっている原因の1つが貧困であり、その根本には宗教やカーストによる差別があることが伺えるわけだね」
以下さらにネタバレあり
作品考察
本作の”観る””観られる”関係の変化
ここからはさらに深くネタバレありで、考察していきます
まずは冒頭から痺れたし、演出もまた素晴らしいんだ
カエル「この映画の冒頭というと……インシアが列車の中で歌っているシーン?」
主「もちろんその歌声の力強さに惹かれたというのもあるけれど、歌詞がうろ覚えではあるけれど『小さな糸が折り重なり大きな布となり〜』というようなものだったと記憶している。
それは小さな思いが積み重なってインシアの奇跡が生まれた(生まれる)という大きなテーマが冒頭で語られているのもいいなぁ、と感じた。
この時点で本作が本物であると確信したよ」
カエル「先ほど語った音楽/ミュージカル映画としての魅力、という部分だね」
主「それから演出で語ると本作の”観る/観られる”を特別強く意識しているのが伝わってくる。
例えばインシアがお母さんと一緒にテレビを観ているシーンというのは、彼女が夢の舞台を憧れと諦めの半々で”観る”という関係性だ。
テレビの奥にある、きらびやかな世界をじっと見つめている。
しかし物語が進むとyoutubeでの配信が行われてインシアはパソコンの中で他の誰かから”観られる”という関係性に進む。さらにそれを推し進めたのが、本作の中でも屈指の名シーンであるレコーディングのシーンだ」
カエル「アーミル・カーンのレコーディングに参加した時だね」
主「あのシーンというのは観る/観られるの関係性の変化をよりわかりやすく可視化したと考えていて、みんながガラス1枚を隔てた中で”見ている”中で、インシアは”観られる存在”へと大きく変化した。
夢の舞台だと思っていたものが一気に夢で無くなっていく……その大きな変化を描いた名シーンだよね」
カシミール出身のザイラー・ワシーム起用の裏側について
制作に名前を連ねるアーミル・カーンの思い
そういえば本作ってアーミル・カーンが制作に名前を連ねているけれど、これはどうみるの?
ここも見習いたいポイントかもねぇ
カエル「インド国内の映画事情には疎いのですが、アーミル・カーンは出演する映画にも何でもたくさん出るというタイプではなく、厳選した結果でも名作が多く誕生し、日本でも公開されています。
下手な鉄砲〜ではないけれど、たくさん出演して時々当てる、というタイプとは真逆の人みたいだね」
主「気がついたら自分もアーミル・カーンの出演作を多く観ているなぁ。
インド映画の場合、主演俳優が制作や監督(共同監督含む)に携わり、単なる演者ではなく重要なスタッフとの一員として活躍する例は日本よりも多いようだ。それこそ『バジュランギおじさん』も制作サイドにも主演であるサルマン・カーンの名前があったしね。
そして自分が観た中ではアーミル・カーンが出演する作品たちにも一貫したメッセージがあったように思う」
カエル「上記の『きっと、うまくいく』や『PK』も社会問題を強く反映した映画だったし、また『ダンガル きっと、つよくなる』も女性のレスリング選手育成という手段で女性の社会進出を促しているような作品だったね」
主「ちょうどレスリング協会のパワハラ問題と公開時期が重なった印象があって、劇場で観たときに『う〜ん、このお父さんパワハラじゃない?』と思ったこともあってのれなかった映画だけれど、確かに社会的な意義が大きかった。
それでいうと本作もそうでさ、日本でも役者が制作や監督になる例はあるけれど、ここまで社会性をつよく反映した娯楽作って少ない印象がある。
2019年だと『飛んで埼玉』がエンタメ色の強い社会派映画の筆頭になるのかな?
アーミル・カーンもサルマン・カーンもインド国内ではリベラルな人なんだろうな、と思うけれど、現状を打破していこうという映画がスター主導で作られているのは、羨ましいと思う部分も大きいかな。
今作でかなりコメディの道化に徹したのは照れもありそうだなぁ……その辺りも人間的で好きだね」
インターネットの重要性
本作ではYouTubeやインターネットが大きな効力を発揮するよね
インドならではの事情も大いに含まれるのではないだろうか
カエル「そういえばネタバレになるので濁しますが、近年のあるインド映画でもインターネットで協力をお願いして、それが物語のトラブル解決と大きな感動を巻き起こすよね」
主「ご存知の方も多いでしょうが、インドがIT大国になったのはカースト制度と大きな関係がある。
カーストによってなれる職業も決まっていて、下位のカーストはあまりにもひどい仕打ちを受けて当然という偏見もあるなか、新しい職業であるIT関係というのはカーストに縛られない。
だから優秀だけれど下位のカーストにいる者こそ、一発逆転の手段としてIT業界を選択することが多い」
カエル「古い価値観を一新する、新しい技術だね」
主「この映画でもインターネットが大きな力を発揮したのは、そのような古い因習を打破するためにネットやYouTubeという手段が成り上がりのための手法として受け入れられているからではないだろうか?
日本でいうとYouTuberは……エンタメを提供してくれる新しい職業(副業)という感覚もあるけれど、同時にまだまだいかがわしい仕事という思いもあるかもしれない。場合によってはただただキャッチーだからという理由で物語上の都合もあり重要なキャラクターの仕事に設定されるかもしれない。
でも、今作の場合はインド国内の事情を考えたら”新しい技術”こそが古い価値観を壊す希望であることを示している象徴的な描写なのではないだろうか?」
単純な男VS女にしない
でもさ、ハリウッドでも日本でも女性解放運動の作品は多いけれど、なぜ本作が特別なの?
女性解放運動を描くと単純な”男VS女”になりがちな印象がある
カエル「これは対立軸がそうなってしまうのも理解できる部分はあるけれど、今作でもお父さんがちょっと悪く描かれすぎな印象もちょっとはあったかな……」
主「でも、自分はこの映画のバランスに感動した。
この手の映画ってどうしたって”男を超えて! 女性が頑張って!”となりがちじゃない? で、じゃあ男はどうなるのよ? と言ったら『そんなの知らん!』とばかりにくたびれていく映画が多い印象だ。
自分が怒るのっていつも”偏るな”ってことなんだよ。
男性VS女性の面は当然あるけれど、だからと言って極端な話男が滅びれば世界中の女性が解放されるわけではない。お互いが手を取り合うことが大事なわけで、そこを対立構造で煽るのは違うんじゃないの? って。
だから無闇な対立を煽らない本作は特に感動した部分もある」
今はアメリカのスーパースターであり、一時期はハードボイルドな男の象徴でもあったはずのイーストウッドもちょっと情けない男を演じている時代だよね。理想の男像ってものが男性の中で共有されずらいというか……
でも、本作ってそんな簡単な物語ではなく、同時に”未来の男たち”に対する視線もある
カエル「未来の男たち……というと、インシアを助けてくれたボーイフレンドのチンタンだったり、弟くんのことだね」
主「確かにお父さんは、先ほどから語るように父親はインド社会を取り巻く男尊女卑の象徴として扱われている。夢を妨害し、母に手を出す非道の男である。だけれど男が全員そういうわけではなくて、チンタンはまっすぐに夢を応援して色々と危ない橋を一緒に渡ってくれるし、弟くんは本当に感動的な行動にでる。
これらの描写が”インド社会の男尊女卑に改善の希望”でもあるんだ」
カエル「今の、もしくは過去の男たちは女性をないがしろにしたかもしれないけれど、未来の男たちはそうでないかもしれない、あるいはそうならないで欲しいという”願い”だね」
主「そしてそれは今の大人の男たちも例外ではない。
アーミルが演じるシャクティは女癖が悪く、決して褒められた男性ではないけれど、まっすぐな気持ちに当てられて少しでも改善の兆しが見える。
まぁ、それは簡単ではないし、あのラストを見ると本当の意味で反省したのかは微妙だけれど……
あれは多分インド映画のノリと、アーミル・カーンの照れもあるからわざと感動路線から外して笑いにしたというのもあるだろうけれど、既存の大人の男たちも変わることができることを示しているんではないだろうか?」
世界中のシークレット・スーパースターたちへ
今作最大のテーマでもある、シークレット・スーパースターたちへのエールが響くよね……
詳しく語る必要もないけれど、自分が痺れた点を1つだけ
カエル「ラストのネタバレをしてしまうのもなんだけれど……インシアがその賞を受賞することができるのかどうか? という問題があります」
主「あの展開は自分が大好きなものだった。
あの展開でなくしてしまったらまた違う意味になるんだよ。
あくまでもこの作品は”シークレット”であることが重要である。
今作って物語そのものは無理筋なものもあるし、かなりのご都合主義でもある。だけれど、それはインシアが”全女性の象徴”だとしたらどうだろうか?
イスラム教圏では今でも女性に学問をさせない国や組織などもあり、女性が社会進出するなんて全くの馬鹿げた話だと考える場合もあるだろう」
カエル「それこそ、この映画以上の人権侵害なんて普通に行われているだろうしね……」
主「そんなシークレットな存在であったインシアが……誰もが当たり前に抱いていた憧れや夢の存在と対等になり、それらに認められた瞬間に”シークレット”は公然のものとなる。
人権侵害を受けている女性たちの中には、インシア以上の才能が絶対にいる。
そんな彼女たちに夢と憧れと対等に評価される場を与えて欲しい。
そんな思いがたくさん詰まった、感動するシーンだったなぁ」
まとめ
では、この記事のまとめです!
- インド映画のまっすぐなメッセージのつまった傑作!
- 音楽やドラマなどもまっすぐに伝わって来る物語へ
- インド社会の闇を色々と感じさせる社会派の面も
- 全ての抑圧された女性たちと未来の男性のためのエールを!
- 怒って泣いて、最後は笑って帰れるエンタメ作品!
2019年屈指の音楽映画です!
カエル「小規模公開で書き終わりも遅くなって申し訳ありません。
もっと映画館でたくさんの人に見て欲しいんだけれどなぁ……」
主「こんな言い方は何ですが、ディズニーさんがジャスミンの活躍を『アラジン』で描く何年も前に、もっと偉大な映画が生まれていたんですよ!
これがインド映画の強いメッセージだよねぇ」
カエル「……どっちが上かは僕はいえませんが、今作が優れた作品だという点には同意です!」
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