物語る亀

物語る亀

物語愛好者の雑文

映画『タレンタイム〜優しい歌』感想 マレーシアの現実と彼らの青春を珠玉の音楽とともに味わいませんか?

カエルくん(以下カエル)

今回紹介するのは3月の映画ランキングでも2位に入ったタレンタイムだけど……この手の映画って DVD化するのかな?」

 

ブログ主(以下主)

「う〜ん……されることはされるかもしれないけれど、TSUTAYAなどのレンタルショップに置かれるかというと、また難しいところかもね」

 

カエル「都会の大きなショップならあるかもしれないけれど……あとはあんまり詳しくないからわからないけれど、配信がされるかどうか……

主「これだけの作品が都会公開だけで終わってしまうのは勿体ないなぁ。

 全国でも名画座や2番館まではわからないけれど、公開しているのって10館もないからさ、是非とも見て欲しいけれど、その機会がそもそもないしな」

カエル「なのでもしかしたら『見たいのにその手段がない!』というある種のお預けのような、考えようによっては酷い行為をしているかもしれないけれど、それはご承知おきを。

 サントラはあるから、取り寄せは可能かも……まあ、見ていない映画のサントラに何の意味があるのか? って聞かれたら、ごもっともと返すしかないんだけどさ」

 

主「だけどそれを理解した上でも是非とも記事にしたいと思ったほどの作品だから!

 宣伝文句の『心の中のNO,1』というのは、確かに良くあるものだけど、この作品はその意味が良くわかるよ」

カエル「じゃあ、感想記事を始めようか」

 

 

 

 

 

f:id:monogatarukam:20170413185503j:plain

(C)Primeworks Studios Sdn Bhd

 

 

作品紹介

 

 多民族国家、マレーシア。そこでは多くの言語、民族、宗教、文化などが複雑に混ざり合っていた。それは高校も例外ではなく、多種多様な衣装に身に包んだ人がこの作品には登場する。

 

 とある高校で毎年恒例の民芸コンテスト『タレンタイム』の時期が近づいていた。裕福な家庭に暮らすイスラム教徒の女子生徒のムルーは、得意のピアノを弾いて本戦に出場することが決まっていた。

 タレンタイムのしきたりにより、ムルーの送り迎え役に選ばれたのは耳の聴こえない少年マヘシュ。ふたりは次第に惹かれ合うが、マヘシュには事情があって……

 一方、二胡を演奏する中国系の優等生カーホウは、転校してきたハフィズに学年1位の座を奪われて嫉妬をしていた。しかし、そのハフィズにもその優秀な成績の裏では壮絶な体験があって……

 多種多様な子供たちによる『タレンタイム』

 その本番で響き渡る音色に、あなたはきっと涙する。

 


映画『タレンタイム~優しい歌』予告編(「I Go」&「Angel」2バージョン連続版)

 

1 溢れてくる感動

 

カエル「本作のあらすじを読んでもらうとわかるけれど、この映画は『青春映画』でもあり『音楽映画』でもあるんだよね

主「ここ最近公開された映画で例えると、自分はアカデミー作品賞を受賞した『ムーンライト』+アニメ映画の『SING』=タレンタイムだと思う。

 どちらも色々な事情を抱えた人間(動物)が出てくるけれど、この映画もそれは同じなんだよ」

カエル「それぞれの事情が結構重くてさ……高校生とはいえ、年齢からするとまだ子供なのに、こんなに辛い経験をしなければいけないのか、なんて思ったり」

 

主「『ムーンライト』はその登場人物たちのドラマを感じさせてくれる描写が多かったけれど、今作もそれは一緒で……その少年少女たちが抱えた思いというのが、物語が進むにつれて激しく伝わってくる。

 これはTwitterでも言ったけれど『子供の悩み』なんて言うと大人は少し小馬鹿に思想だけど、同じ人間だからさ、抱えている思いは実は同じものなんだよ。もしかしたら、世界が小さい分だけ……できることがどうしても限定されてしまう分だけ、子供の方が辛いかもしれない。

 だけどそれと同時に、大人と同じように生きる子供たちは、どんなに辛い思いをしても前に進まなければいけないんだよ。だからこそ、その姿に涙が流れてくる」

 

カエル「青春映画というと現状を否定して、夢に向かって大きく踏み出すという映画も多いし、それはそれで大好きだけど、この作品はそういった作品とはちょっと違うね」

主「結局、彼らが出来ることってそんなに多くない。例えばこのコンテストがきっかけでプロのミュージシャンになるとか、一攫千金を狙うとか、そういうことはないかもしれない。

 だけど、日常のほんの些細なお祭りに華を添える……それだけのことかもしれないけれど、そのこと自体が如何に大切なことなのか、よくわかるんだよ

 

 

 

2 多様な言語

 

カエル「この映画の最大の特徴としては、この多様な言語というのがあがるね」

主「マレーシアという国は先にも説明した通り、多様性に溢れている国であって……民族、宗教、文化、言語などがバラバラ。それは映画の中でもたくさん出てくる。

 例えば学校の授業風景だけど、一見して異質なのがわかるんだよ。肌の色も違うし、来ている衣装も民族衣装や女子生徒ならイスラム教の格好をしている子もいる。まるで統一性がない。それは先生も同じなんだよ」

カエル「そして何よりも面白いのが、本作では『4つの言語』が複雑に入り混じっていることだ

 

主「正確にはちょっと忘れたけれど、マレー語、英語、中国語と後1つ何かの言語が入り混じっているという説明が最初に入る。

 もちろん字幕は日本語だから特に問題はないけれど、よくよく聞いてみると確かにある瞬間では英語なんだけれど、次のシーンでは中国語に変わったりもしている。しかも、同じシーンで話す相手が変わっただけで言語が変わることがよくあるんだ。

 こんな映画、自分は初めて見たよ」

カエル「普通は多様性をうたったハリウッド映画でも英語の作品は全編英語だし、時々別の言語が入ってきても、それは民族、国籍などが違う……主人公と違うコミュニティに属する人物という説明になっている」

 

主「だけど、この作品はそうじゃなくて、当たり前のように4つの言語がその社会では存在することを証明している。本当はアメリカもそういう社会みたいじゃない? 今では英語とメキシコから来たスパニッシュのためにスペイン語を話すことが、上流社会では必須と聞いたことがある。

 大統領選とかはスペイン語を話せないと、話にならないというね。

 日本人だったら日本語だけでほぼすべての人と会話できるけれど、世界ではそういう国ばかりではない。むしろ、1つの国の中で1つの言葉だけで大多数が通じている国というのは……別の言語を覚える必要性のない国というのは、むしろ少ないのかもしれない」

 

f:id:monogatarukam:20170414203954j:image

本作の重要人物のマヘシュ。彼の思いに胸を打たれる……

(C)Primeworks Studios Sdn Bhd 

  

音の素晴らしさ

 

カエル「そしてさらに1つ付け加えると、今作では聴覚障害を抱える少年も出てくるわけだ」

主「4つの言語という多様性に加えて、さらにその言語すらも理解することができない聴覚障害の少年……つまり、この作品では手話を足して5つの言葉が存在している。

 ここまで多様性に満ちた作品って他に聞いたことがないんだよね。しかも、それが『多様性がテーマだよ!』というような大上段に構えたものではなくて、マレーシアの現実がそれだから、必要に応じてそうしたってだけのようにも思えてくる」

 

カエル「本作って確かに『青春映画』であり『音楽映画』だけど、それに加えて『日常の映画』でもあるんだよ」

主「さらに言えば『恋愛映画』でもあり『友情映画』でもあり、もちろん教育的な面もあり……しかもきっちりと笑いどころもあってさ。それを考えると『コメディ映画』でもあるんだ。

 これだけたくさんの要素を詰め込みながら、それが破綻することなく1作の中に詰まっている。素晴らしい作品だよね」

 

カエル「そして何よりも忘れてはいけないのが、この映画の音楽だよ!

 見終わった後にすぐに売店に走って行ってサントラを買ったけれど、その後エンドレスリピートしてしまうほどいい曲ばかりでさ!」

主「音楽が素晴らしいことが、この映画の説得力を最高のものにしているんだよ。

 彼らの最後の選択、彼女の最後の選択に対する説得力になっている。

 この映画における楽器は二胡、ピアノ、ギターが主に使われているんだけれど、それらの楽器そのものがが彼らの個性を表している。本来ならばあまり交わることのない楽器たちが奏でる音というのは、民族や文化の象徴でもある。二胡なんて特にそうだよね。中国の民族楽器だから。

 そしてラストに紡ぎ出される音……それこそがこの映画のメッセージそのもになっているんだよ!

 

 

 

最後に

 

カエル「この映画は是非とも見て欲しい1作だよね! 映画の最大の特徴である物語と音が組み合わさった時の感動……それは何物にも代えがたいものだからさ!」 

主「感動する映画っていかにもお涙頂戴の物語を映し出して、そしてギュッと心を締め付けるような映画も多いと思う。

 それはそれで悪いことではないけれど、この映画ってちょっとそういう映画とは感動の仕方が違うんだ。映画を見終わって帰る最中、お風呂の中、寝る間際にグッと心に突き刺さるようにできている。

 そしてそれがまた続くんだよね……ある瞬間にふとあの曲が流れてくるんだよ」

 

カエル「作中で多く使われるドピュッシーの月の光も先品を彩っていたよ」

主「この間、直木賞と本屋大賞を受賞した『蜂蜜と遠雷』という本を読んでいたんだよ。これも若き天才たちの音楽コンクールでの戦いを描いた作品なんだけれど、ある瞬間にふとタレンタイムの音楽が流れてきたりするんだよ。

 月光が輝く夜の中、タレンタイムの音楽を聴きながら読む蜂蜜と遠雷は、世界で1番贅沢な時間を過ごしているようにすら思った。

 そういった感動がジワリと浮き上がってくる作品なので、是非見て欲しい!

 アジアの至宝であり、マレーシアの宝物というのがよくわかるから!」

 

カエル「こういう名画ももっと手軽に見ることができるようになればいいけれどね」

主「あとは宣伝だよね。どうしてもこの手の映画は宣伝が小規模になるから……

 自信を持ってオススメできる作品です!」

 

 

 今回記事中で言及した作品の記事はこちら

blog.monogatarukame.net

blog.monogatarukame.net