では、今回は『焼肉ドラゴン』の感想記事です!
焼肉の描写がたくさん出てくるような映画なら嬉しいなぁ
カエルくん(以下カエル)
「いや、そういう映画じゃないでしょ……」
主
「最近グルメ系映画をあまり見ていないからねぇ。ドキュメンタリー系は小規模で見に行きづらいし」
カエル「……これはネタバレじゃないと思うけれど、焼肉の映画じゃないからね?」
主「……え? 違うの!?」
カエル「あの予告編を見てなんで食事映画だと思ったの?」
主「なんだよ……焼肉屋の気のいいおっちゃんが『うまいハラミの見分け方』とかを教えてくれる映画だと思ったのに……」
カエル「はい、馬鹿言ってないで感想記事を始めます!」
感想
では、毎度のごとくTwitterの短評からスタートです!
#焼肉ドラゴン
— 井中カエル@物語るカメ/映画・アニメ系VTuber(初書籍発売中!) (@monogatarukame) 2018年6月22日
このお話をいま描いたことは大きな意味があり、評価する面もある
ただ映画としてはあまり好きじゃないなぁ
とっ散らかっているようにも見えたし、軸がわからなかった面もある
真木よう子は良かったけどね
……これも言葉に困るなぁ
主「まず、これだけは最初に言っておきたいのは、本作は今の社会状況で公開されることは大きく理解できるし、その意義もある作品です。
特にメッセージ性やタブーに対する挑戦する精神はとても高く、その点に関しては文句なく評価します」
カエル「本作は日本語と韓国語が交じり合いながら物語が進むけれど、韓国人のキャストは日本語がそこまで達者ではなくて、激昂している時は時々何を言っているのかわからない時もある。
その一方で、日本人キャストが韓国語を話すシーンもあり、多分本場の人からするとそこまで上手くないのかもね」
主「ただ、その辿々しい言語が彼らの居場所がないことを示している。
日本人でもない、だけれど韓国に帰れない以上、どちらにも馴染むことができない……その難しい立場を見事に表現しているのが言語の問題だ。
それと、本作では一部で今では差別用語としてあまりきかなくなった言葉も登場します。
例えばカタワやビッコなどは、今では放送禁止用語であり若い子なんかは意味を知らないんじゃないかな?
そういう言葉を使ってでも、当時の在日韓国人の苦境を表現したい、という意気込みはよく伝わってきた作品だし、そこはやはり高く評価するべきポイントだろう」
豪華日韓キャストの共演!
1作の映画として
カエル「……だけれど、言葉に困るんだね」
主「う〜ん……決してつまらないわけではないけれど、物語として、そして映画としての魅力があまり感じられなかったというのが本音かな。
この時代の雰囲気や韓国人街をはじめとしたバラック小屋の美術などは本当によくできている。こだわりは強いのが伝わってくるし、決して安い映画でもなければ駄作でもない。
ただ、あんまり好きにはなれなかった。
例えるならば……学校で見せられる歴史教育用の映画みたいだな、という印象が強い」
カエル「沖縄戦の真実! とか広島、長崎の原爆などを扱った教育映画だね」
主「自分も学校でその類の映画を見させられたけれど、もう大っ嫌いでさ。感想文に『こんなものを見るくらいならば初代ゴジラを観た方が、何百倍も反戦、反核につながるとおもいます』なんて書いて特別教室に呼び出されたこともある。
まあ、教師も『俺もそう思うがせめて紙だけは書き直してくれ』と言われて、しぶしぶ書き直したんだけれどさ」
カエル「……学生時代からそんなことをやっていたんだ」
主「本作はそこまでひどくはないけれど、結局は明確な答えがあって生まれている映画である。だから、どことなく歪みがあるようにも見えてくる。
もちろん、これも日本の1つの歴史であり、あまり公に語られなかったものでもある。
そこを描いたことは何度も言うけれど評価するし、ある種の政治的メッセージ性を内包するのも理解できる。
でもなぁ……映画としてうまいとは思えなかったんだよねぇ」
韓国映画の苦手な部分
あんまり詳しくはないけれど、韓国映画もちょこちょこ見ているよね
韓国映画の苦手な描写っていくつかあるんだよ
カエル「バイオレンスな作品が多いけれど、娯楽性が高い作品も多くて、今も高い注目を集めているけれど……」
主「……自分が韓国映画の苦手な部分っていくつかあるけれど、その1つが食事を食べる時にクチャクチャと音を出すところ。
しかもわざわざマイクで拾うように大きな音を立てて食べるからさ、それがとても苦手なんだよ。
多分、外国人が麺類をすする日本人の『ズズ!』って音を聞いて眉を潜めるのと同じで、文化の違いかもしれないけれど……
そして、もう1つが『叫ぶ演技』なんだよね」
カエル「あ〜………韓国ってよく叫んでいる印象があるかなぁ」
主「もともと韓国語って音が強い言葉で、普通に話していても怒っているように聴こえてくるものでもあるけれど、今作は特に感情をはっきり出すんだよ。これは言語の特性でもあるけれど、それが演技や国民性にも出ている。
別に良し悪しではないし、それが物語として、演技としてはとてもわかりやすくプラスに働く面もあるのだろうけれど……
今作もそれは同じで、みんな結構怒っているんだよね。
で、自分は怒る演技は苦手」
カエル「街中で怒っているものを見ても面白くはないよね」
主「もちろん、この怒りが在日コリアンの怒りでもあり、不満の発露ということもあるのだろうけれど……
物語って『喜怒哀楽』のどれを基軸にするのか? という問題があると思っている。
今作は間違いなく『怒』の映画であり、それは自分が1番苦手とする映画。
『哀』を基調にする映画は大好きなんだけれど……ちょっと騒がしすぎてのれないかなぁ」
理想の家族のように語られているけれど、こんな家族は正直嫌です……
役者について
カエル「役者についてはどうだった? 今回は韓国人キャストと日本人キャストがいるけれど、そのごちゃ混ぜ感が1970年代の在日コリアンとその子供達の文化的な違いを証明していて、良かったけれど……」
主「前にも述べたけれど、彼らの言語的な怪しさがその社会的な立ち位置を表明している。
日本語を喋れない、韓国語を喋れない人がなぜ喋れないのか、そこを考えると大きな意味がある。
特に個人的に気にいったのは……やっぱり長女を演じた真木よう子と父親役のキム・サンホ。
真木よう子は相変わらず色気があって、そりゃ作中でもモテるのはわかるよ」
カエル「他のキャストが怒る演技を続ける中で、この2人は基本的に穏やかだからというのもあるだろうね。その視線とか、登場人物を見つめる姿が印象に残るし」
主「逆に母親役のイ・ジョンウンと次女役の井上真央はあまり魅力が感じられないというか、実際にいても近づきたくない。あんなにヒステリックに怒る人は男女問わずに苦手だから……ちょっとねぇ」
カエル「結構、演出が怒る演技を要求しているから役者のうまい下手は語り辛い内容かもね」
以下ネタバレあり
作中描写について
主人公は誰?
では、ここからは作中の描写についてネタバレありで語っていきます
映画として上手くないなぁ……と思ったのがまずここだね
カエル「今作は群像劇ということになるのだろうけれど、誰を主役としてみるのがいいのかがわからないという問題があるという話だけれど……EDのスタッフロールだと1番上が長女の真木よう子、最後がお父さんのキム・サンホだから、このどちらかが主役ということになるんじゃないかなぁ」
主「う〜ん……これは予告の作り方もあるだろうけれど、主人公は大泉洋だと思って行ったから、ちょっと肩透かしな部分もあったんだよねぇ。
この映画の難点の1つが明確な軸がないこと。
つまり、物語の主軸がどこにあるのか、誰が主役なのか、それがはっきりしないままバラバラのエピソードが構築されてしまう。その結果、なんとなくいい話だなぁ……レベルで終わってしまう。
本作は息子のモノローグから物語が始まるけれど、その息子自体はそこまで出番が多くないんだよね。
もしかしたら、常連のハゲたオッちゃんの方が出番が多いくらい」
カエル「印象的なシーンはいくつもあるけれど……時間としては短いのかなぁ」
主「この息子が『日本社会に馴染むことのできない在日コリアン2世』という役割を担っているのはよくわかる。わかるけれど、でも彼に注目をしてしまうと物語とあまり絡まないことも多くて、どうすればいいのかわからない。
この家族には色々な問題が起こるけれど、どれが主軸なのか、何を見せたいのかがもっとはっきりした方がエンタメとしては面白いよね」
多分主人公になるのであろうキム・サンホ
彼の家族を見つめる瞳が名演技です
言葉と教育の問題
カエル「今作ではお父さんの連れ語である長女と次女が韓国語が喋れない(あまり上手くない)中で、お母さんの連れ語である三女が韓国語がペラペラなんだよね」
主「それがこの夫婦の教育方針の違いを明確にしている。
日本で暮らす以上、日本人と同じように生きるべきだと考える父親と、故郷韓国を思って泣いている母親の考え方の違いが、明確に現れているシーンでもある」
カエル「そして長男が逢う過酷ないじめ描写もあったりして……在日コリアンがいかに過酷な環境で生きてきたのか、というのがわかる作品でもあり……」
主「ただ、言葉は悪いけれどある意味では当然といえば当然でもあって……例えばさ、田舎から都会に出てくるだけでも大変な思いをする人もいる。逆もまた然りだ。まあ、東京はもう地方出身者が多いから、溶け込みやすいのかもしれないけれどさ。
同じ日本人でも環境が変わると馴染むことができなかったり、疎外感を抱くこともある。それが外国ならば、もっとそれは強くなるのは当然とも言えて……今の世界中で抱えている移民問題もそれが多い」
カエル「だからと言って池袋などのように中国人が自分たちの文化を反映するようなチャイナタウンを作ると、日本人としては反発する部分もあるのかなぁ」
主「ものすごく小規模ではあるけれど、ある種の領土問題みたいな話だよねぇ。
国有地に家を作るという違法行為だけれど、あの戦後の混迷時期で、しかも朝鮮戦争もあったことを考えると仕方ないのかなぁ、という思いもあったりしてさ。
ただ、もう少しスマートにそれを見せて欲しかったかなぁ、という思いもある」
お話の中心になるのは……
これも違和感としては大きかったかなぁ……
本作の『問題』ってほぼ色恋沙汰なんだよね
カエル「この設定だと、差別などもあると思うじゃない? もちろん、それはあって『日本人なんかと交際なんて許さない!』みたいな台詞もあるし、息子のお話は、ほ学校のいじめだけれど……
比率としては3姉妹の物語の方が多くて、しかもほぼ恋愛沙汰なんだよね」
主「本作の1番大きな山場となる問題が、予告でも使われている『世間を連れてこい!』というセリフに象徴的な、在日コリアンの居場所に関する問題なんだけれど……
それがあまり目立った描写はなかった。
しかも色恋沙汰も不倫やら何やらが多くて、個人的には割とどうでもいい話と思ってしまった。
熱烈なキスシーンなどもあるけれど、唐突すぎて目が点になる部分もあって……なんでこの2人は結婚したのだろうか? と首をかしげるシーンもある」
カエル「それはそれで重要な話だけれど……」
美人姉妹も癖は強い
万引き家族と『絆』
カエル「そして物語は結局『家族の絆』に行き着くという……」
主「2018年の映画のメインテーマは家族だろうね。
本当に家族に対して色々と考えさせられる作品が多く生まれているし、メッセージ性を強く内包している作品が多い。
世界的にバラバラになる家族像に対する警鐘と、あとは日本でいえば『絆』というキャッチコピーの元に行われている政府の理想像に対して、色々な意見があるということだろう」
カエル「やっぱり、こういう作品が生まれているということは『家族の絆』は大事だということなんだね!」
主「……そうやって短絡的なのが問題なんじゃないかなぁ」
カエル「え〜?」
主「どうしてもこの手の物語で今の時期だと『万引き家族』を連想してしまうけれど、あの作品と今作の最大の違いは描き方にあると思っている。
万引き家族は是枝裕和監督らしく、すごくふんわりとした終わり方をしていて、落ち着いていて、考えさせられる物語になっている。
一方で本作は強い監督のメッセージ性を内包しており、それが……自分にはノイズのようにも感じられた。
あんまり政治的な意図について語るのもナンだけれど……自民党の語る家族像や政権運営に反対する意図があるとしたら……あくまでもあるとしたら、そこで絆を強調するのは逆効果な気もする」
カエル「あくまでも深読みです」
主「この映画は表現として大事なことを描いているけれど、かなりデリケートな作品でもある。
その描き方はかなり慎重な配慮を重ねていると思うし、その中でも出てきた表現だろう。
もちろん、変なメッセージではない。
だけれど……自分には違和感があったかなぁ。
右とか左とかではなくて、もうちょっと映画としての工夫が感じられたらよかったと思うよ」
まとめ
この記事のまとめです!
- かなり攻めている挑戦に溢れた作品
- 一方で映画としては苦手な部分も……
- 在日コリアンの苦悩を知れる作品
いやー、気を使うよねぇ
カエル「特にここ最近いろいろと政治的な案件が続いているからね」
主「別に右でも左でも構わないですよ、面白くて意義のあって社会に対してメッセージ性があれば主張は自由ですから。
でもさ、いろいろ語ったけれど本作で放送禁止用語が流れた時は、ちょっと感動もした。語られにくい日本の影の歴史を、綺麗に誤魔化すことなく表現しようという気概も感じた。
多分、この映画も荒れるだろうけれど……いや、荒れるほど売れないか? でも映画としての表現は真っ当なものだと思うよ」
カエル「こういう映画もあっていいもんね。
というわけで、記事を閉めます!」