亀爺(以下亀)
「この作品もシリーズものではあるが、世間一般の認知度がどの程度なのかはわかりかねる作品じゃの。
少なくとも、街中や職場でこの作品の話をしているところを聞いたことなど1度もないわい」
ブログ主(以下主)
「世間の人たちって映画が好きと言ってもアクション映画や洋画ファンが多いだろうしね。
邦画で、しかも探偵ものというのは少しハードルがあるのかも……」
亀「大泉洋と松田龍平の人気はもちろん高いものがあるのじゃが、ジャニーズなどのようなアイドル的な存在ではないしの。本シリーズも過去作が興行的には苦戦を強いられているという話もあるが、それもしょうがないのかもしれん」
主「大好きなシリーズなんだけれどなぁ。
大泉洋を主演にして、その相方が松田龍平という布陣で、結構しっかりした脚本で魅せてくれているシリーズだし、何より漫画原作ではないのもポイントが高い。
いや、漫画原作を否定しているわけではないんだけれど……映画として面白くしていくぞ! という気概などを感じられる作品だなって話でさ」
亀「その辺りの話もおいおいしていくとするかの。
今回は監督も交代したようじゃが、それがどのような影響があるかも楽しみなところじゃな」
主「……ちなみに、今回から監督を務める吉田照幸ってなんの作品を手がけているの?」
亀「このブログでも扱った作品じゃと……『疾風ロンド』じゃな」
主「あ、そう……ふ〜ん……なるほどねぇ。
ちなみに、本シリーズを鑑賞したのは割と最近ではありますが、過去作2作は鑑賞済みのため、ネタバレしない程度に比較などもしていこうと思っていますのでご了承ください」
亀「では、感想記事のスタートじゃ」
あらすじ・作品紹介
東直己の原作である『ススキノ探偵シリーズ』を大泉洋と松田龍平のコンビで映画化したシリーズ第3弾。
今作から監督は橋本一から『疾風ロンド』などを監督した吉田照幸に交代しているものの、脚本はシリーズを通して手がけている古沢良太が務めるほか、大泉洋、松田龍平、田口トモロヲ、松重豊などのおなじみのキャストは継続して出演している。
また、ヒロインには北川景子、そのケツ持ちの実業家役にリリー・フランキー、物語の発端となる女子大生役に前田敦子などを起用している。
札幌、ススキノに事務所を構える探偵とその相棒の高田のコンビだが、珍しく高田が依頼者を連れてきた。大学の後輩にあたるその男は、失踪してしまった彼女を捜索して欲しいと告げる。
普段から組んでいる高田の頼みもあり、暇つぶし程度に引き受けるのだが、その事件を追っているうちに暴力団員が殺害されたある事件へと繋がっていくことになり……
1 感想
亀「では、いつものようにTwitterの感想からスタートじゃな」
探偵はbarにいる3
— 井中カエル@物語るカメ/映画・アニメ系VTuber(初書籍発売中!) (@monogatarukame) 2017年12月2日
大好きなシリーズの新作公開!
今の邦画で1番必要なのは本作みたいなシリーズ映画だよねぇ
監督交代の影響もあってかパワーダウンは否めないものの、シリーズの魅力は健在!
ただし難はある上になぜこうなった……案件でもあるが、まぁまぁ楽しめました
亀「またコメントに困るような評価じゃの」
主「もともと大好きなシリーズで過去作も鑑賞しているから、ちょっと贔屓目なところはあるかもしれない。
元々本作はキャラクターや設定が優れていて、それは当然踏襲されているし、小野シリーズらしさは監督が交代しても何の問題もなく引き継がれている。おなじみのキャラクターも多く登場するし、そこは疑問は一切ないかな。
この監督交代の1番の功績は、誰が撮ったとしてもシリーズとしては問題ない骨格がすでに出来上がっていることを証明したことかもしれない」
亀「吉沢良太の脚本があってのシリーズかもしれんが、それだけの世界観は設定できているということじゃな。これはシリーズ物としては非常に大きく、スターウォーズなども監督が変わっていても、やはり誰が撮ってもスターウォーズとしても成立しておるし、この先を作る上でも重要なことじゃな」
主「1、2、3のどれが1番好きですか? という質問にも意見は割れると思うよ。
自分は1が1番好きで今作は微妙だったけれど、でも悪い出来じゃない。ただやっぱり1が基準になっているところがあるから、ちょっと思い入れがあるから余計に評価が高くなっているだけかもしれない。
それこそスターウォーズと同じように、どの話が1番好きですか? というので盛り上がるシリーズになっているんじゃないかな?」
邦画界に重要なシリーズ?
亀「冒頭でも話したが、本作が今の邦画界で最も重要なシリーズでもあるという意見のようじゃが、その理由は?」
主「単純にドラマ原作でも漫画原作でもない、映画シリーズだからだよ。
今の邦画界でお客さんを呼ぶためにしょうがないことでもあるけれど、テレビ局主導のシリーズものが多い。最後は劇場版で一稼ぎしようか、ってね。それ自体は否定しないけれど、でも映画の力だとは思わない。
自分は今、邦画で求められているのは『男はつらいよ』『釣りバカ日誌』のようなシリーズどと思っているから」
亀「釣りバカは漫画原作じゃが、映画から知った人が多いじゃろうしの」
主「前作を知らないでもふらりと入って、ある程度楽しんで帰れる邦画ってとても大事だと思うんだよね。原作もないから間口も広い、キャラクターも共感しやすくて、それこそ国民的なものになる可能性があってさ。
寅さんも釣りバカも全部見た人なんて、かなり少ないと思うけれど、でも国民的な人気を獲得したしたじゃない?
本作も1、2、3とあるけれど、別に順番通りに見る必要はない。
誘われたから3から観にいっても問題なく物語が理解できると思う。その意味ではこのタイトルは失敗だよね、3とつけてしまうと『あ、1、2を観ないといけないんだ……』という思いになって客足は遠のいちゃうから。
だからタイトルは『探偵はBarにいる〜北海道の海は寒いよ〜』とかでも良かったんじゃないかな?」
亀「……タイトルセンスはどうかと思うが、そのあたりアメコミ映画はうまいの。
『マイティソー3』などとはしないからの」
主「本作も小説原作ではあるけれど、これだけしっかりとして多くの人が楽しめる映画シリーズって今かなり減っているからさ。
しかもファン映画じゃないっていうね。
もっと評価されてもいいポイントだと思うけれどね」
今作のヒロインの北川景子はさすがの美しさ!
過去作と比較して
亀「では、少しだけネタバレにならない程度に過去作にも触れておくとするかの」
主「このシリーズは昭和の探偵ものを意識した作りになっているけれど、ただのハードボイルドやコミカルなだけじゃない。ちゃんとその奥にはあるテーマがある。
それは『夜の街に生きる人たちの悲哀』を描いたことだ」
亀「本作では暴力団員が登場することが多いが、それも夜の街には絶対についてまわる存在じゃしの」
主「1は夜の街を舞台に生きるホステスと暴力団員の物語だった。その謎を解き明かして、驚愕のラストをエンタメ性を持って魅せていて、しかも余韻も残るという素晴らしいスタートだったね。
そして2はかなりエロとバイオレンス(アクション)を増やしてしまい、お茶の間で放送するにはカットを多くしないといけない作りになってはいたけれど、ちゃんとその根底には夜の街で生きる……今度はオカマと呼ばれる人たち、ニューハーフの悲哀を描いている。
佐藤かよがまた美人なんだよねぇ」
亀「夜の街の弱者であったり、社会では必要ながらも下に見られがちな人たちに対してスポットライトを浴びせる作風であるの。
そしてそれは今作にも受け継がれておるの」
主「本作も余韻がしっかりとあって、特にオチの真相が明らかになるシーンは『なるほど!』とうなったものだった。ちょっとそれは予想できなかったね。
個人的には不満点も残る作品ではあるけれど……でもテーマ性も一貫した、監督交代の影響は少ない作品に仕上がっているかな」
本作のヒロインの1人、前田敦子
役者について
亀「では役者について語るとするが……大泉洋と松田龍平に関しては語るまでもないかの」
主「コミカルでありながらも決めるべき時はきちんと決める大泉洋も素晴らしいし、感情が希薄ながらも人間味があっていい人だとわかる松田龍平のコンビは今作も威力を発揮。この2人じゃないとできない味に満ちている。
特に大泉洋が3枚目だからこそ、本作は面白いよね」
亀「リリーフランキーはもはや語るまでもなく、素晴らしい存在感を今作でも発揮しており、裏社会の実業家の役であるが、中々の恐怖感があったの。
そしてゲストヒロインの北川景子と前田敦子であるが……」
主「正直、細かいことを言い出すと演技はひどいな、と思うシーンもあった。北川景子はやっぱり黙っていたり、落ち着いたシーンはとてもいい。特に回想シーンの飲み屋での北川景子は、確かにとんでもない美女であって、こんな人が夜の世界にいたらたまんないだろうなって思わせるほどの色気がある。
ただし叫んだりするとやっぱり演技に粗が見えるかなぁ」
亀「前田敦子も演技自体はちょっと違和感があったの」
主「ただし、その『違和感がある』ということが大事な役どころでもあるからね。
今作は役者の演技云々を語る前に、脚本や演出も褒められるべきだろう。先にキャスティングがあったのかはわからないけれど、演技力に難があると言われがちな女優たちに、演技がダメでも問題ないような役を与えている。それによって作品全体に深みが与えらている。
おそらく意図されてのことだから……相当用意周到な作品だな」
以下ネタバレあり
2 今作の欠点
亀「ではここからは致命的なラストに触れずに、ネタバレで語っていくとするが……まずは不満点から語るとするかの」
主「これは『疾風ロンド』や多くの邦画でも同じだけれど、観客を馬鹿にした演出はやっぱりあるんだよねぇ。
回想が多い。
しかも同じシーンを3回見せるのはさすがにやりすぎだし、もっとやりようがあるでしょ? ってことになる」
亀「ふむ……まあ、あのシーンの北川景子がすごく可愛いから、眼福ではあるんじゃがな」
主「映画として魅せるならば、そこで赤いマニュキュアが注目を集めていたからさ、大泉洋が赤いマニュキュアを見て『あの時……!』とか過去を思い出したような描写をするとかさ、キーアイテムを使って印象的にすることもできるじゃない?
テレビドラマの影響かは知らないけれど、1時間の話を連続で10話、12話、場合によってはもっと長く放映するドラマであれば、何話も前の回想を思い出してもらうためにそのシーンを流すことは重要かもしれない。
だけれど、たった2時間しかない映画において同じシーンを3回も見せられるこっちの気持ちも考えてほしいよね」
亀「説明的なセリフも多かったし、そこはもっと余韻を持たせればよかったのに……と思うシーンもあったの」
本当、何を演じても印象に残るからリリーフランキーはすごいわ……
本作のアクション
主「それからアクション描写だけれど、ここも惜しかったね」
亀「うん? 全体的には良かったのではないかの? CGなどを用いないで魅せるアクションとしては、確かに若干地味かもしれんがそこまで悪いものではないと思ったが……」
主「今回は大泉洋が強すぎるんだよ。
確かに元々それなりに強い人ではあるんだけれど、今作はさらに強くなって暴れまわるシーンが増えている。
本来はそのアクションは高田の領分であって、大泉洋が強すぎると高田の持ち味を殺してしまいかねない。
例えばルパン三世を例にあげると、確かにルバンも射撃はうまいけれど、戦闘時は次元に任せるよね? これでルパンも次元並みの描写を見せてしまうと、次元の存在価値が薄くなってしまう。
その意味では今作は高田の個性が若干消されてしまった印象もあるかなぁ」
亀「アクション自体は良いだけに惜しいということじゃの」
主「あとは、いかにも強そうな天山広吉を起用しているのに、その使い方が下手だよねぇ。天山には悪いけれど、高田の力を見せつける相手には最高の相手じゃない?
大泉洋が天山に苦戦するけれど、高田は圧勝するとかさ。
『あ、やっぱり高田は強いんだ』とかさ『高田がパワーアップしている!』という印象を与えることができると思うけれどね」
亀「スローモーションなどの演出などについては?」
主「自分はそこまで疑問もなく観たかなぁ。面白かったよ。高田の勝ち方も若干のコメディチックな部分がありながらも、頭を使った高田らしい戦い方だったし。
今作は特にコメディが光ったよね。
もしかしたら過去作含めて1番笑ったかも」
志尊淳も夜の街にいそうな男で、好演でした!
本作が描いたもの
亀「では若干のダメ出しをしたの、この後は褒めていくとするかの」
主「いや、色々語ってけれど、基本的には好きな作品ですので……
では今作は何を描いたのか? といえば、それは『夜の世界の女の生き方』と『人生を輝かせるもの』である。前者については1に似ている部分もあるけれど、前田敦子を起用したことでまた違う意味が生まれている」
亀「本作のヒロインは北川景子が演じるマリであるが、前田敦子演じる麗子が発端の物語でもあるしの」
主「この2人がいい対比になっている。
夜の世界に住む2人の女で、男を騙して生きるけれど、その生き方が全然違う。片方は人生に絶望して、だけれどやりたいことを見つけて輝き始める。もう一方はちゃんと昼の世界に戻りたいと……まあ、色々あるんだけれど、でも一般的な幸せを掴もうとする」
亀「わかりやすいのは麗子の方じゃろうな。あちらは万人に理解されやすいキャラクターになっておる」
主「だからこそ麗子の選んだ生き方が生きてくるんだよね。
あのオチのセリフは本当に素晴らしかった。
ラストに触れずに語ると『男を騙して生きる』ってやり方も色々あるんだよ。
一面的な、世間一般で言われていることが幸せとは限らないし、その幸せの形も色々ある。それは昼間の人間には理解しづらいことかもしれないけれど、でもそういう形の幸せを描いてきたシリーズでもあるからね」
最後に
亀「では、ここいらで締めるとするかの」
主「ミステリーということで語ることもちょっと少なくなってしまったけれど……でも本当に面白いシリーズだし、今後も続いて欲しい作品なんだよねぇ。
ただ、大泉洋と松田龍平の起用がすごく難しいんだろうなってのはわかるけれどさ。ちゃんと冬の北海道でロケをしないといけないこともあるし、量産はできないというのもわかるけれど……でも前述のように、今の邦画界で足りないところをきちんと埋めてくれるシリーズだから、さらに期待しちゃうね」
亀「続くかどうかは微妙なところじゃがな……」
主「東映さん、是非ともお願いします!」