物語る亀

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物語愛好者の雑文

実写映画『鋼の錬金術師』感想 ハガレンの実写化は難しいのはわかるけれど……

カエルくん(以下カエル)

「え〜、では、良くも悪くも今月トップクラスの注目邦画である鋼の錬金術師の実写映画の感想と参ります。

 一部では0巻配布のおかげで初週1位はもう確定しているという話もありますが……」

 

ブログ主(以下主)

鋼の錬金術師を選ぶというのも中々無謀な選択だよねぇ。

 実写化に向いていないのは誰もがわかりきっているのにさ」

 

カエル「ハガレンは全部読んでいるの?」

主「もちろん。連載当時あれだけ話題になったし、それこそガンガンの救世主みたいな扱いだったし、ゲーム化しても面白いというので話題になっていたよ。

 割と賛否は分かれるけれどアニメも1期は全てみたし、『シャンバラを征く者』ももちろん鑑賞している。

 どちらかというと2期よりも1期の方が好きかな」

 

劇場版 鋼の錬金術師 シャンバラを征く者

 

カエル「2期は原作準拠でラストまで描き、1期は連載中ということで途中からオリジナルストーリーとなって、それが賛否割れているけれど……あの状況下の中ではそれなりのオチどころを見つけたということでもあるのかな?」

 

主「あとは『シャンバラを征く者』に関しては完全オリジナルストーリーで、確かにファンが怒るのもわかるけれど、でも現実世界に舞台を移して、しかもナチスドイツとジプシーを題材にアニメ映画を作るという選択がとても面白かった。

 実写化を含めて色々言われるけれど、自分は原作をぶち壊してもいいと思っているので」

カエル「……それは中々危険な発言だね」

主「みんな大好き『カリオストロの城』のどこに原作のルパンの要素があるのよ? アニメ映画界の大傑作『うる星やつら2』は原作者の高橋留美子が怒ったわけですよ。

 宮崎駿もディズニーも原作を破壊しているけれど、むしろそっちがオリジナルかのような顔をしている。

 そこまでの気概がないと、原作を超えるってことは難しいだろうね

 

カエル「まあ、小説なり漫画なりで1番面白い物語や演出を選択しているだけで、実写化や映像化した時に映えるようにアレンジは必要だろうし……そもそも原作通りやるならば、映像化する意義ってそんなにないしねぇ

主「だから自分はハガレンも1期の方が好きなの。もちろん、ファンの気持ちもわかるけれどさ、ある程度にスクラップビルドは大切だから。

 では、今作の感想記事へと入りましょうか」

 

 

 

 

鋼の錬金術師 映画チラシ

 

 

作品紹介・あらすじ

 

 月刊少年ガンガンに連載されて、アニメ版も2回制作されるなどの大ヒットを巻き起こした荒川弘の『鋼の錬金術師』を実写映画化。

 『ピンポン』などVFXを多用した映画作品を多く作り上げ、アニメ作品にも携わりCG表現などに関して定評のある曽利文彦が監督を務めるほか、宮本武史と共同で脚本も担当する。

 主演には人気アイドルである山田涼介がエドを演じるほか、ディーン・フジオカ、本田翼、大泉洋、國村隼などの年代を問わず人気の役者が多く出演している。

 

 等価交換の原則に従い、物を作り変える技術『錬金術』を使って亡くなってしまった母を生き返らせようとしたエルリック兄弟は、その禁じられた技術に手を染めた代償により兄のエドワードは手足の一部を、弟のアルフォンスは体の全てを奪われてしまった。

 鎧に定着したアルの体を取り戻す方法を探している2人は、エドが国家錬金術師となって各地を回っていた。そして旅先において錬金術における重要な力を持つ『賢者の石』の存在を突き止める……

 


映画『鋼の錬金術師』本予告【HD】2017年12月1日公開

 

 

 

 

1 感想

 

カエル「では、ここでいつものようにTwitterの感想から入りましょう!」

 

 

主「う〜ん……まあ、ダメ邦画の典型ではあったものの、でもクソの山と言うほどではなかったという印象かなぁ

カエル「……えっと、それは褒めているのか、けなしているのかと言うと?」

主「いや、基本的にはダメ邦画だよ?

 大作映画にありがちな全部セリフで説明していたりとか、演出上の難点もたくさんある。ただのコスプレパーティにしか見えないシーンもたくさんある。純日本人が金髪をつけているのも違和感バリバリ。

 だけれど、じゃあ今年1のゴミ屑映画ですか? と言われると、そこまででもないかなぁ……

 正直、ある程度は楽しめた部分もある。なるほど、と納得部分もある」

 

カエル「う〜ん……じゃあ下の上って感じなの?」

主「まあ、そうなるかなぁ。

 鋼の錬金術師の実写化としては、VFX用いたシーンだけは再現度はそこそこ高いとはいえるかもしれない。

 ただ、今年の大作アクション邦画は『東京喰種 トーキョーグール』にしろ『ジョジョの奇妙な冒険 ダイヤモンドは砕けない 第一章』にしろ『亜人』にしろ、どれもVFXなどの特殊効果のレベルが高いから、それらに比べると……勝っているとは言いづらいかなぁ。

 ただ、日本のこの手の作品を作る監督が樋口真嗣とか、山崎貴だけじゃないぞ! とはいえる作品かもしれない。

 それは確かに褒めるポイントでもある……一方でけなすポイントでもあるけれどね

 

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多分誰もが認めるのがアルのクオリティじゃないでしょうか?
(C)2017 荒川弘/SQUARE ENIX (C)2017 映画「鋼の錬金術師」製作委員会

 

 

特殊効果と役者の芝居

 

カエル「えっと……長所と欠点ってどういうこと?」

主「ほぼ間違いなく本作の撮影は役者を先に撮ってから、その後にVFXによる特殊効果を付け加えている。よくメイキングなどで見るように、緑色のブルーバックの前で撮影したりとかしているのだろう。それ自体は別におかしいことだというつもりはない。

 だけれど、その完成系の映像が役者陣も想像することができていないし、制約が非常に大きい。

 だからこそ、違和感のある映像になってしまっている

 

カエル「どういうこと?」

主「例えばさ、予告編にもあるけれど岩が波のように襲いかかってくるシーンがある。その時、山田涼介はただ突っ立って顔の前で腕を交差するだけなんだよね。基本は棒立ち。

 そんな状況の時、こんなことをするだろうか? まず慌てふためいて逃げたりとか、もっと予備動作などがあってしかるべきじゃない?

 一言で表すと動きが単調なんだよ

カエル「例えば逃げ回るシーンでもたまにはジャンプしてみたり、ちょっとこけかけたり……という工夫があるともっと『逃げている』という雰囲気が出るってことね」

 

主「他にもマスタングの火である人物が燃えるシーンはただ体をくねらせるだけだったり……もっとさ、地面に転がるとか、壁に体を叩きつけたり、燃えている時の演技のっていっぱいあるでしょ?

 それが全くできていない。

 これが山田涼介だけがダメならば、主演が下手で終わるけれどベテランの演技力に定評のある國村隼や小日向文世もそうなんだよ。

 役者がどんな風な映像になるか想像できていないから、おざなりな演技にしかならない。

 本作の映像技術は高いもので迫力もあるけれど、それに合わさる役者の演技が釣り合っていないから違和感を生んでしまっている。

 ただし、アルの動きはアクションもやっぱりいいの。なぜならば、VFXと合わせて作って調整しているから。それなら、アニメでやれや! って言いたくなるけれどね……」

 

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なんだかんだ言っても強いマスタング大佐

(C)2017 荒川弘/SQUARE ENIX (C)2017 映画「鋼の錬金術師」製作委員会

 

役者について

 

カエル「じゃあさ、その役者の演技だけで語るとどうなの?」

主「基本的には酷いよ。

 特に山田涼介は擁護できないくらい酷い。

 だけれど、これはやはり演出などの問題があるから、単純に役者だけの問題にできない」

カエル「エド役を日本人が演じるのは不可能だよね……

 しかも純日本人が金髪で赤いマント姿じゃねぇ。

 エドってチビ! って言われている設定だけれど、山田涼介っていうほどチビでもないし……公式で165センチだっけ?

 男性では背が高いとは言えないけれど、チビとバカにされるレベルでもないと思うけれどね。

 本田翼よりも身長高いのにバカにされているし……」

 

主「今作でどう見ても悪い印象しか与えないのはエド役の山田涼介と、リザ役の蓮佛美沙子だろうね

 金髪のカツラをつけて、しかも衣装も日本人には全く似合わないものを着させられて、西洋の街並みにいるのに顔立ちは日本人……正直、画面に出てくる時は違和感しかなかった。

 逆に國村隼や大泉洋は違和感が少ないんだよ。なぜならば、普通のそこいら辺にいそうなおじさんだから。違和感といえば西洋風な街並みにいることくらいで、それ以外は普通のおじさん。

 ディーン・フジオカと佐藤隆太、小日向文世はただにアジア人がゴテゴテした制服を着ているだけで、そういうもんだと思えば、違和感は少ない。

 それがうまくいったのがウィンリィ役の本田翼で、彼女はウィンリィでもなんでもない、ただの本田翼だった。

 金髪ですらないしね」

 

カエル「……それはハガレンの実写化としてはどうなんだろうね?」

主「でも無理に役に合わせようとしなくてよかったと思うよ。

 むしろ全部日本でやっても良かった。

 タイトルと設定だけ借りて、あとは日本のお話ですよ……の方が面白いものができたんじゃないかな?」

カエル「……ハガレンである意義ってなんだろうって話になるけれど」

主「そりゃそうだけれど、でもさ、結局この作品がそうなっているじゃない?」

 

鋼の錬金術師 映画チラシ

 

 

監督のまずい発言

 

主「ただ、1つだけ監督の発言でこれは絶対にまずいと思うものがある。Twitterでもあげたけれど、監督は今回の実写化において

 

 

『ルックスはヨーロッパ調であっても、登場する文化や人間の関係性やソウルの部分が確実に日本なんですよ(中略)

 もし欧米の方が演じられたら、外見はよりパーフェクトなものになるかもしれませんが、ハートの部分やソウルの部分は明らかに違うものになる』

 

www.cinematoday.jp

 

 この発言は非常に問題だろう」

 

カエル「明らかに人種差別的で、日本人以外はハガレンはできない! って言っているようなものだもんね……

主「現在の世界情勢と逆行する発言なのも問題だけれど、これはハガレンという作品とも合致しない考えでもある。

 なぜならば、本作に登場するイシュヴァール人というのは少数民族であり、作中では被差別民族でもある。国家により殲滅されてしまい、生き残ってもスラム街でしか生活できない人たちだ。

 このように差別問題なども取り入れた、繊細な作品に対して『日本人とハートやソウルが違う』という発言は作品の魂とも逆行しているのではないか? という思いがある」

 

カエル「受け取り方は様々だけれど、今作では重要な立ち位置にいるスカーなどが登場しないこともちょっと疑問に拍車をかけているかも……」

主「今作は本当に作品評価とまったく関係ない、余計なところえ炎上している印象があるけれど、もう色々と頑張って評価を下げているとしか思えないね

 

以下ネタバレあり

 

 

 

 

 

2 序盤からの失笑

 

カエル「では、ここからネタバレありで語っていくけれど……この小タイトルは中々攻めたねぇ」

主「もうさ、純日本人の子供が金髪にして母親に近づくだけで失笑もんですよ。

 北海道などの地方の日本にしか見えない草原にいる少年達が金髪である……違和感ばっかり。しかも子役はいつも通りの子役演技で、全くうまくない。これは演出も悪い」

カエル「そしてお決まりのように人体練成を行うわけだけれど……」

 

主「あの渦に巻き込まれる兄弟の姿を見てもさ、やっぱり演技がダメダメだから悲壮感が全くない。台本が見える演技に加えて、この先どうなるのか完全にわかってしまっている演技である。

 これで物語に没入しろというのは無茶な話である

カエル「一応序盤は原作をダイジェスト風ではあるけれど、踏襲しているところはあるけれど……それも原作を知らないと唐突に感じてしまうかもね」

 

主「本作って原作のハガレンを知らない人がどれだけみにいくんだろう? って疑問もあるんだよね……

 で、これも邦画お決まりの癖である設定を何でもかんでもベラベラ喋ってくれるんだよね。

 親切設計を通り越して、観客を馬鹿にしている構成でさ。

 正直、その時点でもう飽きてます。

 何も知らない人へのフォローなのはわかるけれど、それを会話で説明するならば映画である意味はない。そこを映像でどうにかするのが映画であり、演出なんじゃないの? という思いはどうしても抜けないね」

 

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渦などの映像表現は迫力があったものの……

(C)2017 荒川弘/SQUARE ENIX (C)2017 映画「鋼の錬金術師」製作委員会

 

 

中盤から後半にかけても……

 

カエル「えー、では直接的なネタバレにならない程度に語っていきますが……まあ、突っ込みどころが満載で」

主「本当にバカしかいないのか? って展開ですよ。

 いつもの大作邦画らしい展開の連続でさ。

 まずはヒューズのあの有名なシーンがあったのはいいけれど……ちなみに自分はヒューズが1番好きなキャラクターなので、特に思い入れが強いシーンだけれど、あの演出はなぁ……」

カエル「ちょっと原作とは違って捻ってきたわけじゃない? でもさ、その意味があったのかなぁ……」

 

主「『あ、原作と変えてきた!』と思ってちょっと残念だけれどこの先どうなるのかなぁ、と楽しみにしていたら、結局原作通りですよ。しかも、今回のヒューズには娘が生まれていないから、その後のあの『雨が降ってきた』のシーンも全カット。

『お父さんのお仕事が……』という娘の名シーンもなし。それはしょうがないにしろ、やりたかったのがあれなの? という疑問がある」

カエル「そして違和感ばかりのところに本作の黒幕……といっていいのかわからないけれど、ある展開が待っているわけですが……

 

主「もう無能の極みだよね。

 なんであれを制御できると思ったのか? どういう策があったのか全く理解できない。案の定、最低のやり方で黒幕(?)さんはご退場になるわけです

 何をどうしたらこうなるのよ?

 ギャグとしては面白かったけれどさ……グラトニーの『食べていい?』からの標的を追いかけるシーンなんて、ノロノロと追いすぎてただの鬼ごっこだったからね。

 あとウィンリィ。あんた、本当邪魔。

 何しに来たのよ?」

カエル「非難しようと思えばいくらでもできてしまうわけだね……」

 

 

 

 

3 本作がやりたかったこと

 

カエル「なんかさ、褒めるポイントはないの?」

主「……ないことはない。本作のやりたかったことや、テーマというのは何となくわかるよ」

カエル「お、ちょっとここまで否定ポイントばっかりだったから、そこについて語っていこうか」

 

主「本作はファンタジーというよりもSFとしてみたほうがわかりやすいかもしれない。錬金術も結局は科学である、という話があるけれど、ホムンクルスはクローンや人工知能のようなものだと思えばいい。

 つまり『人間』を作り上げるために、どのようなことをしたらいいのか? というのがポイントなんだよね」

カエル「……えっと、人体練成が人間を生み出す行為であり、ホムンクルスが人工知能などの技術であるということだね」

 

主「松雪泰子が演じるラストは何回も『私は人間だ』と告げている。作られた命であっても……ホムンクルスであっても自分は人間であるということを声高に何度も主張している。

 そしてある瞬間において『自分は本当に人間だったんだ』ということを実感する。このシーンだけは良かったと思うよ。

 この映画の中ではタッカーがキメラを作ったり、エルリック兄弟が人体練成を試みて、何度も自分の体を取り戻そうとしている。だから、本作は『人間とは、生命とはなにか』ということをやりたかったのであろうと想像はできる」

 

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本作で評価できるキャスティングは松雪泰子だけかもしれない……

(C)2017 荒川弘/SQUARE ENIX (C)2017 映画「鋼の錬金術師」製作委員会

 

 

そのテーマ性すらも……

 

カエル「……それが上手くいっているかは別としてね」

主「でもさぁ……このテーマがさ、また語り方が上手くないんだよね。

 このテーマって海外のSFではすごく注目作が多くなっていて、それこそ『エクスマキナ』とか人工知能との恋愛を描いた『her 世界で一つだけの彼女』などもあるわけ。

 しかもこちとら『ブレードランナー2049』って大傑作を知ってしまっているわけじゃない? 

 これは制作サイドは全く関係ないけれど、でもそれを知った後に本作を観ると、なんと軽いものか……」

 

her/世界でひとつの彼女(吹替版)

オタクには特に突き刺さる1作。なるべく吹き替え版で見て欲しい!

 

カエル「体はなくても、人体練成に失敗しても生きるエドと、特にアルは紛れもなく生命であって、しかも兄弟の生きた絆もあるってことを言い表したかったんだろうけれど……」

主「やり方がスマートじゃない上に、絵面がゴチャゴチャしたせいでその味が失ってしまった。

 まあ、ダメ邦画です。

 ただ、ゴミ屑映画ってわけじゃない。

 本作より酷い映画や退屈する映画もたくさんあるし、個人的にはワーストというレベルではないかなぁ……」

カエル「……結局、ハガレンの実写化自体が無謀だったってことになるんだろうね」

 

 

 

最後に

 

カエル「では、最後になりますが……まだ言い残したことある?」

主「これさ、原作からしてそうだからなんとも言えないけれど……マスタングが優秀すぎるよね

カエル「ぶっちゃけ、主人公より活躍しているような気もするからね。戦闘に関しては錬金術師では最強格の1人だし」

 

主「そのせいでさ、結局エドとアルが何をしたのかわかりづらくなっているような気がする。結局、誰も倒していないじゃない? ただの雑魚狩りして終わっちゃった。

 もっとうまい構成などをしないと、どうしようもないとは思うけれど……でも色々なしがらみもあって、どうしようもなかったんだろうね

カエル「『ピンポン』再び! とはならず……ですか」

主「アニメ畑の人でもあるけれど……やはりCGだけやってほしかった。他の監督を迎えて、初代ゴジラの本多猪四郎、円谷英二コンビはシンゴジラの庵野、樋口コンビのようにさ。VFXはかなりいいし。だけど、ちょっと本作は擁護ができません。

 まあ、次回作もないでしょうが、あったらハードルを更に低くして観にいきましょう」

 

 

荒川弘イラスト集 鋼の錬金術師

荒川弘イラスト集 鋼の錬金術師

 
鋼の錬金術師全27巻 完結セット (ガンガンコミックス)

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