それではここ最近宣伝をバリバリやっている作品の感想です!
……役者は好きな人ばかりなんだけね
カエルくん(以下カエル)
「高橋一生とか、今や飛ぶ鳥を落とす勢いだもんね」
主
「佐藤健がアクション系じゃない作品に出るのって久しぶりじゃない? と思ったら、結構あったわ」
カエル「それだけアクションに定評がある役者だから、どうしてもアクションばかりが印象に残るのかな」
主「あんまり自分はお金に興味がないというか、普通にそこそこ稼げれば十分というタイプの考えなので、金持ちの狂乱騒ぎが好きじゃないんですが……さてさてどうなる事か。
まあ、大好きなBUMPの新曲を聴いてこようかなぁ」
カエル「それでは感想記事のスタートです!」
感想
ではTwitterの短評からスタートです
#億男
— 井中カエル@物語るカメ/映画・アニメ系VTuber(初書籍発売中!) (@monogatarukame) 2018年10月19日
役者陣も大友監督も頑張ったんじゃないですかね?
これ、多分原作があまり良くないのでは?(川村元気への偏見)
お話がスカスカで起承転結ができていないのと、結局何がしたかったのかよくわからんです pic.twitter.com/Mc1XCKBdYy
まあ、悪くはないのかなぁ
カエル「また玉虫色な感想だね」
主「自分は大友監督って結構好きなんですよ。
『三月のライオン』は漫画原作の実写化映画ではかなり満足度が高くて、興行収入がコケたのが信じられない思いもあるんだけれど……それは今はいいか。
それもあるし、役者陣もそれなりに好きな面々がいるから、少し贔屓目なところはあるかもしれないけれど……」
カエル「それでも擁護でききれない問題があるんだね」
主「まあ、これも偏見かもしれないけれど、やっぱり川村元気の原作が悪いんじゃないかな。
物語としては面白くなりそうな要素を多く入れているのに、それが全く展開されない。まず物語しての発展性が全くと言っていいほどなく、すごくフワフワしたまま終わってしまう。
それでも絵面はすごく盛り上げようと頑張っているし、モロッコの描写も美しく、そこにいる佐藤健と高橋一生も生き生きとしているんだけれど、残念ながら物語の弱さを補完することは一切できていない印象かなぁ」
川村元気の売る才能は本当にすごいと思います
川村元気について
じゃあさ、そこまで文句をいう川村元気についてはどう考えているの?
プロデューサーとしては非常に力のある人だと思うよ
カエル「やっぱり良くも悪くも川村元気という名前があることによって、興行にも影響はあるんだろうし、しかも『君の名は。』を筆頭に大ヒット作を次々生み出している印象があるね」
主「今作もそれは同じでさ、確かに売れそうな設定だとは思うんだよ。
今作だってお金を中心とした物語でさ、もしも3億円が手に入ったらどうする? という誰もが考える妄想を元にしていて、しかもお金持ちの乱痴気騒ぎをテーマにしている。
最近だと『クレイジーリッチ』などもそうだけれど、売れそうなテーマってあるんですよ」
カエル「キャッチーなテーマというか、お客さんの心を掴む題材だね。最近だとデスゲームとかがそうなるのかなぁ」
主「さらに、お金というものは各キャラクターの行動原理も非常にわかりやすい。
3億円のために頑張ります! ってことは、グダグダ説明する必要はないじゃない。本作だって絶対に『カイジ』を連想させたいはずだし、だから藤原竜也を出しているんじゃないかな。
この作品が売れたとかいうのは、すごく理解できるし、その意味では物語を売る才能に長けているとも思う」
カエル「ここまで聞くと嫌う理由がそんなにないような……」
主「ただ、ストーリーテラーとしてはかなり問題がある。
特に、物語の展開という面でね。
本作も演繹的(スタートが決まっていて、物語が展開していく)な作品であって、明らかにこの設定を思いついてから物語を書きはじめている。
だけれど、それが広がっていかずにグダグダしてしまい、着地点も結局綺麗事に見えてしまうし、疑問がある内容だ。
結局のところ、どうすれば強すぎる作家性、個性をうまく売れる要素にするのか、あるいはどういう作品が売れるのか、ということはよく知っているけれど、物語としてそれを描くことができているとは思わない。
物語に対する愛が根本的に感じられない。
徹頭徹尾、とことんプロデューサー気質な人だと感じるね」
誰もが知るマネーエンターテイメントといえば、近年ではカイジではないでしょうか
役者について
じゃあ、本作の役者陣はどうなの?
悪くはないけれど、でも取り立ててよくもない
カエル「結局、どこまでもそういう評価になるんだね……」
主「それぞれの役者の味がしっかりと出ているし、うまく生きていると思う。
キャラクターのイメージにも合致しているし、悪いとは思わない。
だけれど、じゃあ今年屈指の演技ですか? その役者さんの代表作になりますか? と言われると、そこまでではなんじゃないの?」
カエル「それは佐藤健や高橋一生も?」
主「同じだよね。彼らの魅力や味が出ていたと思う一方で、そのレベルで終わってしまった。
冒頭の池田エライザとか魔性の女ぶりがよく出ていたし、北村一輝なんて誰だかわからないような、ある種の怪演だった。藤原竜也はあの役は藤原竜也だからこそ成り立つ部分もある。
沢尻エリカは彼女の派手な過去を思えば、あの役に起用されるようなイメージもあるじゃない。黒木華も地味だけれど堅実そうな母親が似合うし、ミスキャストは1人もいないし、さらに与えられた役を演じきった。
その意味では褒めるけれど、でもね……そこまで深みのあるキャラクターたちじゃないというのもあるのかもしれないけれど、そのイメージをさらに良くすることも悪化させることもなかった作品かなぁ」
以下ネタバレあり
作品考察
本作は何がしたかったのか?
では、ここからはネタバレありで語っていきます
結局、本作が何をしたかったのか、わかりそうでわからないんだよね
カエル「基本的にはお金の物語だし、4人の億万長者を見せることでお金の重要性やその意味を教えたかったんじゃないの?」
主「まあ、それはそうなんだけれど……それだったらさ、この4人が主人公の一男と対比されるようにするべきだと思うわけですよ。
でも対比になりそうで、実はなっていない。
まあ、九十九はまだ大学時代の同級生で親友だからわかるんだけれど、百瀬にしろ、千住にしろ、十和子にしろ、あまり対比になっているようには思えないんだよね」
カエル「でもさ、お金に対する向き合い方をそれぞれの人物で描いていたんじゃないの?」
主「こう言ってしまうとなんだけれど本作は結局は”お金と愛(金では買えない家族など)”の対比でできている。でも、家族との向き合い方について語っていたのは、千住のみであり、しかもそれも会話だけだった。十和子も夫について話をしていたけれど、主にお金の価値観についてだけだしね。
お金と家族(愛)という価値観について、ほとんど踏み込んだことがなかった印象かな」
カエル「基本的には”お金とどう向き合うか”ということで終始物語が進むもんね」
主「その向き合い方もわかるような、わからないような……もしかしたら自分がそこまでお金に興味がないというか、基本的にお金はほどほど稼げていればそれで十分って考えの人間だからかもしれないけれど、あんまり共感することも興味も湧かなかったというのが実際のところかな。
映画としては面白おかしくするために乱痴気パーティなども描いていたけれど、まあそれで最低限のエンタメ性は確保していたのかなぁ」
メリハリのない物語
結局は起承転結などができていないという話になるのかもね
4人の対比となる金持ちの登場人物を上手く活かせなかったからね
カエル「それこそ、前述した4人の金持ちの描写を、主人公と上手く対比していたら寓話としてもっと印象も変わったかもしれないけれど……」
主「本作ってさ、物語が進みそうで全く進まないのよ。
なぜならば、元々の目的が『失った3億円を取り戻す』だから。
取り戻してしまったら話はおしまいになるから、なんとか引き延ばさないといけない。
だけれど、実は物語は途中で1回終わるんだよね」
カエル「割と序盤で競馬で儲けたシーンだよね」
主「あのシーンで1億円を本当に稼いでいたら、それで物語は終わっている。映画としてそこで終えないために、そして金持ちの道楽の嫌味をある程度カバーするためにも、実はお金は一銭たりとも貸しておらず、競馬も賭けていませんでした……というオチがつくんだけれど、それは物語としてないだろう! と思ったね」
カエル「現実的には妥当なラインではあるけれど、物語として面白いかと言われるとね……
もうちょっと練って欲しいって思いはあるのかな」
主「それでお金を取り戻すためにかつての共同経営者に話を聞きに行くけれど、結局は九十九の過去とお金に関する価値観を描いておしまいじゃない。
でも、物語の本筋は”九十九を探し出して3億円を取り戻す”なんだよ。
だけれど、その九十九の居場所も、3億円の所在に関してもお話が進まない。
で、結局は九十九が突然現れました……だとさ、『え、じゃあただ寝て待っていればよかったんじゃない?』という気持ちにもなる」
カエル「物語としては主人公の行動によって本来辿るべきだった流れが変化して、報酬を手に入れる、というのがあるべき形だもんね……」
主「例えば”あの3億円は一男自身が全て一晩で使ってしまったんだ”だったら、起承転結の転になる。じゃあ、そこから借金をどう返そうか? という物語だよね。
でもそういうこともないから、”九十九はどこだ、3億円はどこだ”では物語は動かないよ」
本作のラストへの違和感
直接的に言及するのもなんだけれど、ラストも違和感があるの?
何がやりたいの、このお話? って思いがある
カエル「基本的にはそれこそ”芝浜”と同じで、夢だと思っていたお金が実は存在して、その価値に気がつくというお話じゃない?」
主「でもさ、その割には中盤以降は”家族とお金”とか”お金で買えるもの、買えないもの”とかも出てきたじゃない。
『借金があっても離婚するつもりはなかった』なんて分かりやすい愛まで入れて……まあ、そういう夫婦関係もあるんでしょう。
でもさ、結局本作って最後に3億円が返ってくるわけですよ。それだったら、これまでやっていた”家族とお金”のテーマが淀んだものに見えてくるんですよ」
カエル「淀んだ?」
主「”お金がなくても、借金まみれでも家族がいれば幸せになれる”という価値観が示した奥さんがいて、それに勇気付けられた旦那さんがいる。
なのにそこで3億円が手に入り、それで家族が元に戻りそうな描写を入れてしまったら”結局はお金なんですよ”ってことになりかねないんじゃないの? って話。それでいいの?
お金があるから幸せな家族関係にある、というのは極めて現実的な考え方だし、そこに異論はないけれど、そこに疑問を持つような描写を色々してきた結果がこれ? というのがね」
自己啓発作品としての本作の評価
う〜ん……結局、お金の価値を問う物語だからね……
そうだとしたら自己啓発本としても三流だよ
主「物語調にしてお金の重要性や価値観を問う物語はたくさんあるよ。それこそ『夢をかなえるゾウ』とかは、まあ色々とアレな本ではあるけれど、内容自体が悪いわけではない。
その大ヒットした自己啓発書をアレンジして、ものすごく薄くして、結局何を語りたかったのかわからなくなってしまったのが本作。
だから先にも言ったけれど、川村元気は物を売る才能はあるし、売れるものが何だかよくわかっている。物語よりも……小説よりも、お金に関する本の方が抜群に売れるだろう。
物語に興味がある人よりも、お金に興味がある人の方が圧倒的に多いんだけからさ」
カエル「中盤の千住の物語なんかは、ブロガーとして思うところもあるもんね……
有名ブロガーがサロンを開いて、そこで”稼げるブログ講座”などを教えてお金をかき集めるのと、構図としては全く変わらないわけだし……」
主「やっぱりお金の話はみんな興味があるから稼げるんです。
でも、それでいいんですか?
結局物語が作りたいから、映画や小説を書いているんじゃないんですか? って思いですよ。
大友監督やスタッフ、キャストはよくやったよ。物語として成立するように、わざわざモロッコまで行って、美しい絵を撮って、映画として成立させるために人気者に派手な格好させて、キャッチーな絵を撮って、女性陣はセクシーに撮る。
だけれど、大元の原作がこれじゃあね。たとえ名料理人でも不可能はものはあるって話だ」
芝浜と名前に関して
本作は落語の芝浜が結構重要だよね
日本で一番有名な落語なのかな?
カエル「有名になると”饅頭こわい”とか”寿限無”になりそうだけれど、でも落語を勉強する際には結構序盤に知るお話だよね。
簡単に説明すると、腕のいい魚屋だけれど酒癖が悪い夫が大金の入った財布を拾ってどんちゃん騒ぎをする。だけれど、次の日に起きると財布はなくて、奥さんに『夢でも見ていたんじゃないの?』と怒られてしまう。
残ったのは借金ばかり、ここで気を引き締めて酒を断ち商いに精を出すと、数年で立派な店をかまえるまでになる。
そこで奥さんがこう告げます。
『実はあの晩、あなたが拾った財布は本当にあった。だけれどネコババしたら最悪死罪だから、黙ってお上に渡してきてあんたを騙したんだ。落とし主が不在で結局うちのものになったんだけれど……』と言いながら、その財布を見せる。
旦那はその財布を見てびっくりするも、奥さんの気持ちを知ってそれを許し、自分を支えてくれた妻に感謝するという人情噺です」
主「今作でも使われたオチは有名だよね。
本作はまんま芝浜を題材にしているけれど……
まあ、芝浜推しが強すぎる!
最近の若い子などは特に芝浜を知らない人が多いのかもしれないけれど、これだけ何度も芝浜を演じて、さらに『芝浜だ!』というセリフまでしたら、なんというか粋じゃないよね。
映画ファンに分かりやすく言うならば、スターウォーズのあらすじなどをペラペラ喋るようなものでさ、『知っているから! それ説明いらないから! くどい!』って気分になったかな」
カエル「知らない人向けの説明なので……」
主「それにしてもクドイよ。こういうのはさらりと演じて『実は芝浜のお話はこういうお話で、作品とリンクしているんですよ』と解説する方がうちとしてもありがたいわけですよ」
カエル「……個人的な事情なのね」
主「そっちの方が粋でしょ?
なんでモチーフになった作品をベラベラと紹介するのよ、そんな無粋なことはないですよ。
落語は粋の世界ですよ。
それに一男の噺が『死神』というのも、まあ落研の大学生がやりたくなるのもわかるけれど、そこは作品とリンクさせるなら『黄金餅』などの方が金に対する人間の欲が出ているんじゃないですかね?」
カエル「落語の選択へのケチですか」
主「1番大きな違和感は『九十九+一男=100点コンビだ』って名言のように決め台詞があるけれどさ、おいおいちょっと待てよ!
百瀬がいるだろうが!
千住なんて100点の10倍だぞ!
こういうネタを仕込むならば、登場人物に数字のつく名前はつけちゃダメだって!
この2人の100点コンビの意味が台無しになるんだからさ!
もう、本当物語としての根本がガタガタすぎて……どうしようもないと絶望感を抱きますよ」
まとめ
ではこの記事のまとめです
- 監督やスタッフ、役者陣は頑張っていたのでは?
- ただし、物語としてのツッコミどころがあまりにも多すぎる
- 結局何がしたかったのか、まるで見えてこないお話
まあ、わかりやすいんだろうけれどさ
カエル「文句の多い作品となってしまいました……」
主「本作は吃音描写のある映画でもあるけれど、その描き方も不誠実だよね。
『何だ、普通に喋れんじゃん』とかさ、無神経な描き方だと思わない? 吃音に対する偏見が出てしまっているんじゃないの?
なんか1つ1つの描写に誠意が感じられないんだよねぇ」
カエル「う〜ん……川村元気が嫌いっていうのはあるかもね」
主「最後になるけれど、自分は本作を見ている最中は『東のエデン』を思い出していたんだよね。
ノイタミナでも放送されたテレビアニメであり、結末は劇場で上映されたけれど……まあオチは別として、作中で『オレは金は払うより貰う方が楽しいって社会の方が健全な気がするんだけどな。』って名言がある。
消費者よりも労働者の方が大事なんじゃなの? ってことなんだけれど、こういうセリフ1つあるとガツンとくるんですよ。でも、本作はそういうものがなかった」
カエル「お金をテーマにするエンタメ作品の難しさが出て形なのかなぁ」
主「難しいテーマではあるけれどさ、だからと言ってこれは、ねぇ」