カエルくん(以下カエル)
「では! 嘘を愛する女の感想記事です」
亀爺(以下亀)
「さすがに今回は何も冒頭で語ることもないの」
カエル「高橋一生と長澤まさみファンが観にいく映画だろうしね……監督はこの作品でデビューらしいから、作家性を期待する人もそんなに多くはないだろうし」
亀「昨年末からずっと予告を流しておったから、今月の邦画では相当な注目作ではあるんじゃろうが……果たしてどうなるかの?」
カエル「じゃあ、ちゃっちゃと感想記事に入ります!」
作品紹介・あらすじ
オリジナルの優れた映画企画を募集した『TUTAYA OREATORS' PROGRAM』にて第1回グランプリを獲得したものを映画化、主演は長澤まさみと高橋一生で激しいラブシーンなども話題になっている。
監督は今作が長編デビューとなる中江和仁が脚本も担当し、共同担当の近藤希実も2016年に脚本の賞を受賞し、本作が初の長編映画となりフレッシュな面々が揃う。
他にもDAIGO、川栄李奈、吉田鋼太郎、黒木瞳などの個性豊かな面々が脇を固めるほか、主題歌は松たか子を起用している。
食品メーカーに勤めている川原由加利は研修医の恋人、小出桔平と震災の日に知り合い、5年間同棲生活を送っていた。そんなる日、母と小出を会わせる予定日に彼は姿を現さず、家に訪れたのは警察だった。
そこで告げられたのが職業、名前、免許証などもすべて偽造していたという事実……すでに意識を失い、何を問い詰めても答えない小出の過去を求めていくうちに、驚愕の真実へとたどり着く……
1 感想
カエル「じゃあ、いつものようにTwitterの短評からスタートです」
#嘘を愛する女
— 井中カエル@物語るカメ/映画・アニメ系VTuber(初書籍発売中!) (@monogatarukame) 2018年1月20日
まぁこんなものでしょう
過剰な脚本、演出や音楽に若干の違和感を覚えつつも酷評する作品でもなく、かといって絶賛する作品でもなく……
高橋一生の美声に惚れる
あのイケメン反則すぎるでしょ……そりゃ長澤まさみも惚れるわ
亀「酷評もせんが、絶賛もしない普通の邦画、というところかの。
特につまらないとも言わないが、特別面白いとも思わんかった。
確かに役者陣の魅力があったものの、あらすじにもあるように高橋一生は割と序盤で意識不明になってしまうためにがっつりと主演を望んていた人は少しはがっかりしてしまうからもしれん。
それでも出番は多いし、いい声を堪能することができるから満足度もあるかもしれんの」
カエル「でも、極端にダメなポイントがあるわけでもないよね。長編デビューとなる監督とか聞くと荒々しい印象があるかもしれないけれど、むしろその逆で綺麗にまとめすぎた印象かなぁ……
もうちょっと冒険してみても良かったと思うけれど、結構手堅くまとめてきていたね」
亀「ちゃんと前半に伏線を引いていたりして、その回収などもあって面白いのじゃが……冷静に考えると疑問に思う部分があったり、またスマートさがないポイントがあるのも残念じゃの。
感動する場面で音楽が大ボリュームで流れるなどの邦画らしい演出は健在であり、わしには違和感があるが、それでも効果音バリバリなどではないから、多くの人がそれなりに満足出来る作品と言えるかもしれん。
わしは万人が60点をつける作品のように感じたの」
カエル「……それが褒め言葉になるの?」
亀「なんとも言えん。
この規模の大作邦画としてはそれが正解だという考えもあるかもしれんが、結局はよくある恋愛邦画が量産されているだけとも言える。
もっと色々な味付けもできたとは思うが、まあこんなもんなのかもしれんの」
この2人を目当てに行く人も多いのでは?
役者について
カエル「続いて役者について語っていくけれど……まずは高橋一生の魅力が発揮された作品だったんじゃない!?
あらすじにあるけれど、今回の高橋一生って身元不明の怪しい男なんだよ。だけれど、医者でもあって知性があって、不審者という感じでもない。
その絶妙なバランスが感じられて、これは確かにみんな惚れるな……って納得した!」
亀「わしなどは『シンゴジラ』以降高橋一生の魅力にやられまくっている人間じゃから、長澤まさみよりも楽しみにしておった。
今回は意識不明に陥ることもあり、登場シーン自体はそこまで多くないのじゃが、ナレーションでそのイケボを披露する場面もあってその味が発揮されておる」
カエル「長澤まさみも美人でバリバリのキャリアウーマンだけれど、どこか脆いところを感じさせる役など良かった面も多かったんじゃないかな?
特にタバコを吸うシーンなどはちゃんと吸っていてさ、こういう映画はタバコを吸うふりで終わらせる役者もいる中で、仕方ないけれどちょっと萎えるなぁ……と思っていたら、ちゃんと喫煙しているし、それが様になっていてかっこいい女性にもなっていると思うんだよね」
亀「喫煙者がいいというわけではないが、そういうシーンでも様になるというのはこの作品では大事じゃの。茶々な小娘ではない、ということでもある。
彼女のある種の……かっこいい女性の面と、そして不安に揺れる女性らしい面の両面性などもきちんと演じられていて、特に疑問はなかったの」
カエル「あとは褒める対象としては意外? と言ったら失礼かもしれないけれどDAIGOがとても良かったと思うんだよ。きっちりと脇役に徹しながらも、存在感や個性を見せつけていて……」
亀「長髪の探偵助手の役であるが、ある種漫画的でもあるがオタク的な部分も感じさせて……こういうとなんじゃが『世間を舐めている感』などもあってわしは結構好印象を抱くの。
意外な名優が見つかった気分じゃな」
脇を固める面々も個性的! 特に川栄李奈がいい味を出しつつも……
一方で疑問に思ったキャストも……
カエル「だけれど一方で疑問に思ったのがこれもまた意外かもしれないけれど、大ベテランの吉田鋼太郎でもあるわけで……
なんというか、そういう役なのはわかるけれど浮いているというか、ね?」
亀「この作品の方向性の問題じゃな。
わしはこの作品を観に行く際は、サスペンス風味の強いラブストーリーだと思って劇場へ向かった。もちろん、それは間違いではなかった。しかし、序盤などは特にコメディパートもあるわけじゃな。
吉田鋼太郎の役はこの作品では唯一と言ってもいいコメディリリーフの役所であり、はっきり言ってしまえば作品世界では浮いているシーンもあった」
カエル「それでいうと川栄李奈もそうなんだよね。
彼女自体はとてもいい演技をしていて、予告編でも使われた後ろ回し蹴りなどは惚れ惚れとする、さすが今若手NO,1もアクション女優であるという実力を見せ付けてはいるんだけれど、彼女のキャラクター性が強すぎて浮いているような気も……」
亀「かなりラノベやアニメ的な存在であるからの。ゴスロリに身を包んでいるだけでも異物感が半端ないのに、さらに特徴的な行動を何度もしておる。
彼女自身は可愛いのじゃが、果たしてこの作品が大人が鑑賞するシックなサスペンスにしたいのか、ライトなサスペンスにしたいのか迷っている感じがした。それが見やすさにつながっておるのかもしれんが、わしにはスマートな映画には全く思えんかったの」
カエル「で、結局彼らのキャラクターが作品世界に変な味を入れているんだよね……」
亀「後々詳しく語るが、わしならば川栄李奈のキャラクターは除くか、むしろ彼女を主人公にするかを考えるかの。
そうしないと本作は1本調子にならず、演出の軸がぶれてしまうように思う。
本作が凡作になった最大の理由がそこにあるわけじゃな」
以下ネタバレあり
2 感動的に思わせてはいるけれど……
カエル「では、ここからネタバレありで語っていくけれど、でも決定的なラストのネタバレはしないのでご安心ください。
で、この話の突っ込みどころだけれど……」
亀「まあ、ラストは感動できるようになっておる。確かに高橋一生の秘密もわかり、そこに至るまでの伏線の回収などもあって、一見するといい話風になっておる。
しかしの……わしは1つ、とても大きなことが気になっておる」
カエル「え? なになに?」
亀「過去を消したかったのは制作側の都合としても、高橋一生演じる小出の都合からもわかる。そういう物語である市の。
ただ、身分証を偽造したのは一体何だったのじゃ?」
カエル「れっきとした犯罪だしね……しかも免許証の偽造って簡単にできるものじゃないから、何らかの犯罪組織とのつながりも疑われるし……」
亀「勤めている病院の社員証などレベルであれば、まだわかる。小出の経歴からしてもそういうものを手に入れることもできるじゃろうし、厳密には犯罪かもしれんが起訴される可能性もそこまで高くないじゃろう。
しかし、免許証の偽造はいかんじゃろう。
これはただの犯罪であり、姿を消したいとか過去を消したいというレベルを超えておる」
カエル「まあ、そこまでやるのはわからないでもないけれどさ、それなら携帯電話を持っていないって設定もいらなかったと思うんだよね。
過去がない=身分証明ができないから携帯を持っていない、なら話はわかるけれど、でも結局は偽造されたものを持っているならば、携帯も持てただろうし……現代において携帯電話って、ある意味身分証明書以上に重要なアイテムだとも思うけれどね」
亀「他にも車のシーンも溝にはまる前に何か起きていたように見えたのに、溝にはまったから動かないように見せていたり……その辺りの詰めの甘さが感じられた作品じゃの」
本作はバディムービーでもあるけれど、それがイマイチに見えたかなぁ……
物語の方向性が……
カエル「そして前にも語っているけれど、この作品の方向性が迷子になっている印象もあるんだよね」
亀「本作には幾つかの要素があり、以下に箇条書きにすると……
- 小出の過去を探すサスペンスパート
- 小出と由加利の恋愛パート
- 由加利のキャリアウーマンパート
- 由加利と海原のバディ探偵パート
とまあ、単純に考えてこの4つのパートがあるわけじゃな。そこにコメディ的な要素も絡んでくる。
もちろんメインは1と2であるが、実際は中盤以降4がかなりメインになってくる」
カエル「ここは難しい部分だけれど、それを望んでいたわけではないんだよねぇ……という思いもあるんだよね」
亀「結局、それが凡庸な作品になってしまった最大の原因だとも思うわけじゃな。
例えば3のバリバリのキャリアウーマンパートなどは序盤の由加利の日常を伝える上でも、そして後半でも意味を持つ重要なものであるのはわかるのじゃが、その描き方が華々しすぎて作り物感があった。あれだけのキャリアウーマンにする必要が果たしてあったのだろうか?
そして会社を休む失敗なども、確かに重大な問題であるがあそこまで重要な立ち位置にいる人にある種のお役御免をするほどの理由なのか?
そういうところが、ある種のご都合主義というか、物語らしさを感じさせるわけじゃな」
カエル「大事なのはわかるけれど加減ってものがあるよね……」
松たか子の主題歌も本作を引き立てていました!
キャラクターが立ちすぎて……
カエル「そしてキャラクターが立っているんだけれど、それがやりすぎじゃない? というのがこの欠点で1番思うところでもあって……」
亀「その象徴が川栄李奈の役じゃの。
彼女はある種のストーカーでもあり、かなりヤンデレチックな少女でもある。確かにあれはあれで面白いのではあるが、しかしこの作品で果たして本当に必要であったか?
彼女が発端になって物語は進展していくが、それは彼女がいないとできないものであっただろうか?
小出が意識不明になる→研修医が嘘とバレる→ではその勤務時間中は何をやっていたの? と探偵が調べる→行きつけの喫茶店を発見→パソコンの情報を入手
の流れの方がスマートなように思うがの」
カエル「ただ、それだとエンタメ性が少なくなってあまり面白くなりづらいかも……
あと、この作品では由加利に対する対抗馬が欲しかったんじゃないの?」
亀「かといってもあれはやりすぎじゃろう。
エンタメ性を強くするならば吉田鋼太郎ではなく、川栄李奈をパートナーとして過去の捜索をしてバディムービーとするか、もしくは別行動で終始ライバルとして対立行動させる。それが作品の味を損なうならば川栄李奈を外す。
このどちらかの決断が必要だったと思うがの」
カエル「まあねぇ……結局あれだけ個性的であり、あの後ろ回し蹴りを披露して印象付けているのに、前半以外はほぼ要らない子扱いになっていたからねぇ」
亀「そのチグハグさが今作を『凡庸』な作品にしてしまったように考えている」
3 一方で良かった点も
カエル「厳しい意見が続いたから、良かったところを挙げていこうか!
今作で面白かった演出は?」
亀「演出というかは微妙じゃが……やはり『靴』じゃの。
さて、カエル。男の3大ステータス……この場合は物に限定するが、それはなんじゃ?」
カエル「え? 昔ながらのならば靴、財布、腕時計だよね?」
亀「そうじゃの。そして、この3つはその人物が社会的にどのような位置にいるのかを示すものであるが、特に靴はさらに重要なものである。
例えば革靴であればその人物はバリバリのビジネスマンであり、ホワイトカラーじゃろう。一方で同じサラリーマンでもブルーカラーであれば少し汚れた安全靴であったり、スニーカーなどを履いておるじゃろうな。
今作での由加利は女性らしいヒールの高い靴を履いておったが、これは『社会でバリバリと働くキャリアウーマン』の靴である」
カエル「おしゃれもあるだろうけれど、それ以上に女性の戦闘靴でもあるもんね」
亀「小出が当初履いておったのがボロボロのスニーカーであるが、これはその時の小出の状況がどれほど追い詰められていたのか、ということを示しておる。
つまり社会的なステータスもなく、自身もそのスニーカーと同じ状況であったわけじゃな。
そして、その後に『裸足』で歩き始める。まあ、実際には靴下はあるが……これは素足をしてみるとしよう」
カエル「つまり自分の足を守るものがない状況で歩き出す、自分の本当の姿を晒しながら歩くということだね」
亀「それは由加利も同じである。ここでは由加利が裸足で歩くシーンは序盤の小出との同一性も描いておるが、同時に由加利という人間が自分の社会的なステータスを一度全て捨てて自分と見つめあうという2重の意味を含んである。
この話は『小出の過去を捜索する』物語である一方で『由加利の気持ちを見つける』物語でもある。だからこそ、あの裸足になるシーンは絶対必要だったわけじゃな」
最後に
カエル「というわけで、レビューを終えるけれど……他に言いたいことはある?」
亀「だいたい、小説を書くのにあんな形式で書いている人はいるのかの? わざわざ原稿用紙にする必要があるのか?
普通はWordとか一太郎とか、まあそのあたりの文書ファイルが一般的であると思うが……」
カエル「まあ、ケチをつけ始めるとキリがなくなりそうなのでこの辺りで!
あと決して悪い映画ではないです! ただ……まあ、普通かな? と思う部分も多かったかなぁ」
亀「しかしこのTSUTAYA云々の試みは非常に面白いの。こうやって新しい才能や発想が世に飛び出ていくのはとてもいいことである。
この動きは今後も注目していきたいの」
カエル「というわけで、嘘を愛する女の感想でした!」