カエルくん(以下カエル)
「あの三池崇史の新作がいよいよ公開されたね……」
亀爺(以下亀)
「昨年の三池作品はどうもハズレばっかりらしいという評判じゃったからな。わしは興味ある作品がなかったから回避したが、それで正解なのかもしれん」
カエル「三池監督、なんでも撮ることで有名な人だけど、あまり評価された作品ってないような気がしていて……」
亀「良くも悪くもなんでも撮る監督じゃからな。ヤクザ映画を撮ったかと思ったら、グログロの映画も撮り、しかもSFなどのとんでも映画を作ったかと思いきや、今度は文芸映画なども撮っておるからの。
『神様の言う通り』を撮った後に『風に立つライオン』を撮り、その後に『極道大戦争』に『テラフォーマーズ』じゃろ? 滅茶苦茶としか思えんが、それが三池崇史というものじゃろう」
カエル「もはや三池崇史というジャンルになっているのかもね……
しかし、今日は主はどうしたの?」
亀「『キムタクが咲耶派と判明したからボイコットする。千影こそが至高なのだ!』などと呟いてどこかへ去っていったぞ。今頃をはニコニコ動画などで伝説のウニ回でも見ておるのかもしれん」
カエル「あ〜要はいつも通り馬鹿やっているということかぁ……
じゃあ感想記事を始めるよ!」
1 ざっくりとした感想
カエル「じゃあ、ざっくりとした感想だけど……三池監督作品と聞いて連想するような作品にはなっていると思うんだよ。
だけど、ここ最近はいろいろと言われてきて……まあ、はっきりというと残念な映画が多かったけれど、今作は結構満足度もある作品に仕上がっているんじゃない?
アクションが多くてさ、楽しい作品だなぁって印象だけど……」
亀「決して悪い作品とは思わなかったの。かといって素晴らしい作品というわけでもないがの」
カエル「アクション邦画に対して厳しくない?」
亀「このような題材は三池監督向きじゃとは思うのじゃよ。グログロバイオレンスじゃし、派手なアクションを多用する作品じゃしな。漫画原作のチャンバラ時代劇であるが、今の映画界ではこのようなアクション多めの時代劇というのは一種のファンタジー映画として成り立っておる。
じゃから、リアリティがどうの、などという時代考証などはすべて度外視じゃ。わしが時代劇に対してよく言う『服のディティール』に関すること、つまり色がはっきりとしておる服装などもあまり気にならん。
これがリアルな時代劇を作ろうと思ったら、あれほどはっきりとした色の服を着ている人などそこまで多くないし、農民などは土に汚れているのが普通じゃ。顔にも泥を付けたりしての。そのギャップが画面の中に入り込めない違和感となるが、本作はその点は心配いらん」
カエル「もう1対300とか言っている時点でリアリティなんて度外視だということがわかっているしね」
亀「そう考えるとの、細かいディティールよりも馬鹿馬鹿しさが目立つ三池作品にはもってこいなのかもしれんが……少し思うところもあるかの」
今作の主役のキムタク
作中でもキムタクやってます!
アクションの限界
カエル「あ〜……これはちょっと感じたかも」
亀「この映画は最初が少し工夫されておって、そこは確かに『これは意外な傑作か!?』と思うような演出がされておった。
しかし、その後というのが……どうにも同じようなアクションが続いてしまったような印象じゃの」
カエル「現代劇ならもっと火薬をバンバン使っての爆発だとか、あとはトンデモ映画に成ってくるとカンフーの達人とか、特殊能力持ちとの対決とか派手な演出がいくらでもできるんだけどね」
亀「基本的には刀で斬り合うだけじゃからの。その刀もいろいろと変化して確かにバリエーションはあるのじゃが、斬り合う、という行為自体は変わらん。
そうなると同じようなシーンが続いてしまう。昔の、例えば黒澤明などであれば馬に乗って颯爽と逃げたり、もしくは戦うシーンなどもあるのじゃろうが、今の役者にそれを期待するのも酷じゃろう」
カエル「馬に乗れる俳優ってどれだけいるんだろうね? しかもその馬上で殺陣をするというのは、かなりの難易度だろうし……」
亀「次から次へと敵がやってきてはバッタバッタと切り倒して行って……というアクションは続くわけじゃ。1つ1つは確かにしっかりとしておるかもしれんが、それが何回も続くと少し飽きてくるところがあるかの。
あと、アクションの影響もあるのか若干話のテンポが早すぎると思うところもあったわい。そこが減点かもしれんな」
2 役者について
木村拓哉について
カエル「今回は安定のキムタクだったね!」
亀「キムタクというと評価の分かれる役者であるが、わしは高く評価しておる。確かに何をやっても木村拓哉になってしまうし、木村拓哉以外は演じることができんかもしれんが、主役を張るスターの名優というのはそういうものじゃと思っておる。
例えば三船敏郎がそうじゃろ? 三船敏郎は何を演じても三船敏郎じゃが、しかしだからこそ今でも語り継がれる名優でもある。海外でもそれは同じではないかの?
その俳優の個性が強烈であればあるほど、やはり主役として映えるものになるのではないかの?」
カエル「今作のMVPは間違いなくキムタクだったし、いい場面を全て持っていくような演技をしていていたよね! その意味では、キムタクのことが嫌いという人には全く向いていないかも。
キムタクがキムタクを演じているところが好きな人は、たまらない映画だと思うよ」
亀「『ちょっと待て!』とか安定のフレーズも飛び出してきての。お約束を通り越して、安心感すらも漂う演技じゃったな」
今作のヒロインを演じるのは杉咲花
注目の若手女優の1人
杉咲花について
カエル「一方のヒロイン役の杉咲花は日本アカデミー新人賞を受賞するなど、話題の女優でもあるね。この後にも『メアリと魔女の花』で主役の声優を務めることが発表されているけれど……」
亀「う〜む……わしは苦手な子じゃな」
カエル「基本的に若い俳優が苦手だもんね」
亀「それもあるのじゃが、確かに目力もしっかりとしておるし、可愛らしくもあり、凛々しいところもある。特にあの目が出来る若手女優はそこまで多くはないじゃろう。その点で考えると、確かに人気が出るのもわかるのじゃが……
演技があまりにもワンパターン過ぎるように思っての。
小さな声で喋ったかと思ったら、声を張り上げて叫ぶ。役のこともあるのじゃろうが、わしにはこの2種類の演技しかないように思ったかの」
カエル「え〜? まだ若い女の子だし、そんなものじゃないの?」
亀「この後に『メアリ』も控えておるからわしは心配しておるところもあるがの。確かに顔のアップなどの『表情の演技』は素晴らしいものがあるかもしれん。使われるのも納得できる。
じゃが、それ以外の演技……特にセリフ、声のバリエーションがあまりなかったことが気になる。例えば怒りにおいても様々な怒りの出し方があると思うのじゃが、どうにも最近は怒鳴る一辺倒な気がするの。
これは杉咲花だけの問題ではなくて、演出や監督の演技プランの問題かもしれんが、この子とキムタクの演技もまたこの作品自体がワンパターンに見えてしまった原因かもしれん」
本作の敵役の福士蒼汰
その他の役者について
カエル「他の役者陣も迫力あったんじゃないかな? 福士蒼汰も優男に見えて……という敵の親玉を熱演していたし、市川海老蔵はさすが、異彩を放つ役を異彩を放って演技をしていたし」
亀「あとは何と言っても戸田恵梨香のスリットから覗く足の美しさじゃの。わしは予告編の時からそこが一番楽しみにしておったのじゃよ」
カエル「……このエロジジイめ!」
亀「いやいや、しかし戸田恵梨香も見事に役に合った熱演じゃったと思うぞ? ああいう影を抱えた美女の役所をうまく演じることができる女優じゃからの。
一方の栗山千明はその良さを生かしきれんかったように思う。まあ、そんなに出番のないちょい役じゃが、あそこまで金髪のカツラが似合わんとはな。やはり栗山千明は黒髮じゃよ」
カエル「……無限の住人に何を期待して行ったんだ!」
亀「脇役を含めてみんな熱演だと思うし、作品にもあっておった。作風自体がばかばかしいような作品じゃから、オーバーリアクションくらいで丁度いいのじゃろうな。リアリティのある演技を求められておらんからこそ、邦画の俳優に感じるようなオーバーリアクションな演技の違和感や、説明台詞などにもそこまで気にならんかったわい」
カエル「……褒めているんだよね?」
亀「褒めておるよ? これは役者と演出サイドの演技プランの成功じゃな。
まあ、これだけの俳優陣と共演させられたら杉咲花もかわいそう、というのはわかるんじゃがな……どうしても比べられてしまうところがあるからの」
以下作中言及あり
3 アクションの難しさ
カエル「じゃあ、ここからは作中に言及しながら感想を語るけれど、まずは先ほども語ったようにアクションの難しさから語るとしようか」
亀「簡単に言えば、同じようなアクションがどうしても続いてしまうところが問題での。例えばこの映画の冒頭は白黒のアクションであるが、これはこれでいい。確かに古い映画が好きな人間には刺さる演出じゃし、一気に引き込まれる。
現代の映画を愛する人にはわかりづらい話かもしれんが、決して白黒映画というのは古い映画の技術というわけではない。
むしろ『色の情報』が遮断されるからこそ、絵の迫力は増すということもある」
カエル「黒澤明の『羅生門』なんかはまさしくそうで、雨に墨を混ぜて真っ黒にしているんだよね。白黒だから違和感はないけれど、やはり色が真っ黒だから豪雨ように見えるという……」
亀「白黒というのは現役で使える技術じゃとわしは思っておる。2009年にカナダで撮られたヴィルヌーヴ監督の『静かなる叫びなどは白黒じゃからできる映画になっておるしの。
それはそれでいいとして……わしはこの冒頭は黒澤明の『用心棒』などへのオマージュも詰まっておると感じた。古い時代劇に対する愛があるの、と感心したものじゃ。
しかし、それをただ踏襲するだけでなく現代的にグログロなテイストを足しておる、それも、暴力映画にならないように配慮もしておるように感じたの」
カエル「グロテスクだけどただグロいだけでなくて、美学も感じたかなぁ」
亀「R15じゃし、色々な意見もあると思うがの、全体的にはそこまで過度に煽るようなグロテスク描写ではないように思うの」
美しき戸田恵梨香
影のある美女の役が映える役者
アクションシーンの限界
カエル「じゃあ、このアクションシーンの限界について詳しく言及しようか」
亀「結局のところ、この映画は同じようなパターンの繰り返しじゃ。1対多数の斬り合いもなんども出てきたし、敵との1対1の対決もキムタク演じる万次が徹底的に攻撃されて普通なら死んでいるところを、虫の力で生き残ってしまい敵を倒すというやり方じゃしの。
それは原作からしてそうなのじゃから仕方ないのかもしれんが、やはり『不死身の主人公』の難しさを感じたの」
カエル「確かに万次って特別強い人でもあるけれど、その最大の武器はタフさにあるから、どうしてもやられるシーンが多いかも……」
亀「しかも杉咲花演じる凛が何度もピンチに陥り、その度に万次が助けに入り……というお決まりの流れじゃろ?
アクションが多いから頭を空っぽにして見る分にはいいかもしれんが、それにしても同じようなシュチュエーションがあまりにも多すぎるようにわしは思うの」
カエル「基本的には
敵に遭遇→万次のピンチ→虫の力で再生→逆転勝ち
の流れだからね……」
亀「そしてそれが2時間以上ずっと続くわけじゃ。途中から若干物語もごちゃっとなってくるしの。まあ、それも混乱するほどではないのじゃが、そこから1対300の戦いへと入るが……実際には3対300ではないか? あれは」
カエル「まあ、そこの数については置いておこうよ」
亀「その1対多数の戦いも何度も見せられてしまったからの。こちらにも耐性ができてしまっておる。
物語の盛り上げを考えるならば、この作品は山場が多すぎている。全部が山場じゃ。その結果、1作の物語としてはちと退屈なようにも思うが……アクションが好きな人にはあまりそうは思わんかもしれん」
最後に
カエル「え!? これでおしまいなの!?」
亀「おしまいじゃよ。今作はこれ以上語ることが何もない」
カエル「ほら、いつものように『テーマが……』とか、そういうことは!?」
亀「何もないじゃろ。この映画を見て『命の大切さを……』とか、そういう教訓なんか1つも思い至らん。だからこそこの映画は娯楽映画として成り立っているとも言えるかもしれんがの。
その点でも少し不満は残るかもしれんが……アクション大作として考えたら、このようなものかもしれん」
カエル「まあ、アクションとキムタクの演技が魅力の映画ではあるけれど……」
亀「それ以上のものを望む観客もそうそうおらんじゃろう。
これはこれでいいのじゃよ」
カエル「う〜ん……なんだかなぁ」