今回は『ユニコーン・ウォーズ』の感想&考察記事になります
小規模ながらも話題の海外アニメーション映画だね
カエルくん(以下カエル)
この記事では感想と考察をしていますが、個人の心情と作品の技術評価は別というスタンスです
主
どこまで分けられているかはわからないけれどね
主「ちなみに、自分は今作は大嫌いですが、作品としては評価するけれど、それをこれから説明していこうっていう記事だね」
カエル「……よくわからないけれど、それでは記事のスタートです」
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Xでの短評
#ユニコーンウォーズ
— 井中カエル@物語るカメ/映画・アニメ系VTuber(初書籍発売中!) (@monogatarukame) 2024年6月5日
なるほど、確かに話題になるのもわかります
聖書を元にタイムリーすぎるほどに今だからこそ語るべき物語性を獲得し、アニメーションも高レベルでまとまっています
これならば安心して言える
2024年ワーストです、大嫌いな作品… pic.twitter.com/UPVLyBImN4
Xに投稿した感想
#ユニコーンウォーズ
なるほど、確かに話題になるのもわかります
聖書を元にタイムリーすぎるほどに今だからこそ語るべき物語性を獲得し、アニメーションも高レベルでまとまっています
これならば安心して言える
2024年ワーストです、大嫌いな作品
可愛らしいティディベアとユニコーンの戦争をグロテスクに描くという作品で、聖書に興味がある人が観ればこの映画が語っていることの骨太さ、そしてなぜこの時期に日本公開されたのかという理由もわかるでしょう
またポスターにもあるように『バンビ』をはじめとした過去の名作のオマージュも優れていますし、日本人ではあの映画を思い浮かべることは間違いない
森の中の描写も美しかった
ただ、ボクは大嫌いです
露悪的で残虐にキャラクターたちを退場させていく姿などは、反吐が出るかと思いました
アメリカのアニメーションの某作品がマジのガチで大嫌いなので、それを連想させる物語性と残虐表現の数々に何度退場を考えたことか
ここまでいくとアニメーションという表現を冒涜しているのでは、という思いすら浮かんできます
今作は PG12で公開されていますが、保護者さん同伴だとしても12歳以下の小学生がこの映画を観るのは絶対にオススメしません
最低でもR15にすべきです
ここまでしっかりと計算され、様々な意味でよく出来ている作品だからこそ、安心してボクの偏屈な嫌悪感をぶつけることができます
2024年ワースト、おそらく決定しました
感想
それでは、感想からスタートです
今年ワーストと言えるほどに、嫌いな作品だね
カエル「えっと……ここまではっきりと”嫌い”と言い切ってしまうほど、合わない作品だったんだね」
主「ただし、ここでいう嫌いというのは、あくまでも主観的な好みの問題だ。
あとで亀爺から解説があると思うけれど、作品解釈や本作が描いた奥深さ、技術的なレベルの高さに関しては、もちろん認めるものである。
それでいうと、うちは……少なくとも近年は単純に出来が悪い作品を”嫌い”とは形容しないようにしているつもりだ。
だから、嫌いと言える作品は、ある程度技術・テーマ・メッセージ性を認めた上でそれでも感覚的に”嫌い”というようにしている」
嫌いだけれど、作品としては認めると
むしろ技術力やメッセージ性は、高いとも言えるだろう
カエル「……なんだか、高評価なのか、低評価なのかわからないなぁ」
主「2024年は海外アニメーション映画がそこまで数が多くなさそうだというのは、現在発表されている公開スケジュールを見ても思うのだけれど、でも質としては一定のレベル以上の作品が揃うと思っている。
その中でも今作は……もちろん好みはあるし、公開規模も小さいけれど、でもカルト的に語られるような作品になるのではないだろうか」
嫌いな作品と形容する理由
どういうところが嫌いなのか、というのを先に説明しておこうか
単純に言えばゴア表現・グロテスクな表現だよね
カエル「この映画を見終わった時の感想で出てきたのが、例えば園子温とか、あるいはアメリカの某アニメーションのような、ゴア表現が強烈な作品だよね」
主「園子温とか『愛のむきだし』が絶賛されているけれど、自分は監督の人間性云々以前に作品が合わなかったからなぁ。
ゴア・グロテスク表現そのものがダメというよりは、そこに人間に対する愛が感じられればいのだけれど、単に強烈な印象を残すための表現としてのグロテスクは嫌い。それは快楽でも表現でもなく、単なる反射でしかないっていうのが、自分の理屈なわけだ」
反射……つまり、グロテスクなゴア表現が出てきてしまったら、反射的に興奮なりの反応をしてしまうということだね
それを快感として受け取る人もいるのはわかるけれど、自分は表現として反対している
主「大体さ、今作をPG12で公開するって、どうにかしていると思わない?」
カエル「……まあ、映倫の基準とはいえ、ホントにこの作品を保護者同伴とはいえ小学生に観せるのか? というのは、褒めている人の中でも揉めそうな話だよね」
主「極端な人体損壊描写があり、しかも劇場という逃げられない空間で見せられる子供に一生のトラウマを残す可能性すらあるよ。
カートゥン的なルックだからって、騙されているんじゃないかって。
そういう意味では、アニメーションだからといってゴア表現に対して緩すぎない? っていうのは感じるし、自分は世界基準における暴力表現の許容とエロ表現の締め付けに対しても、アンバランスだと感じているっていうのも大きいかもね」
以下ネタバレあり
作品解釈
様々な作品のオマージュ
では、ここからは亀じいと一緒に作品の解釈について話していきます!
今作は色々な解釈が成り立つ作品じゃからの
カエル「結構メッセージ性も攻めていて、面白い作品なんだよね。
単に可愛いキャラクターたちがゴア表現を重ねているというだけではない、奥深さがたくさんあると言うことだけれど……」
亀「まずはオマージュ元となった作品について考えていこう。
冒頭のユニコーンが飛び回るシーンなどは、明らかに『バンビ』のオマージュであった。自然と四つ足の動物の動きなどをアニメーションとして豊かに描いた作品として、今でも最高峰の作画の1つとして数えられる、ディズニーの名作の1つじゃな」
物語も結構近しいところがあるよね
公式ポスターでもあるように、今作が下敷きになっているのは間違いない
カエル「ある意味では光あふれる森の映画としてのバンビがあって、闇の森の映画として今作が登場した、みたいなね」
亀「それから、日本人であれば『もののけ姫』も間違いなく連想するじゃろうな。
日本公式ではその喧伝はしていないと認識しているが、描写の数々からして、ここは意図的じゃろう、
他にもベトナム戦争を扱った作品など、色々なオマージュが溢れているんだね
それらを扱いながら、唯一無二の個性あふれる作品に仕上がっているの
旧約聖書の世界
そして今作を語るのに重要なのは、聖書、特に旧約聖書ではないか? ということですね
旧約聖書を引用すると、今作が語ったあるメッセージにも気がつくのでは?
カエル「メッセージというのが何かは後述するとして……どのようなところが旧約聖書と絡むの?」
亀「では、以下のようにまとめてみた」
- 森 → おかしくなった約束の地
- 主人公の兄弟 → カインとアベル
- テディベア → ユダヤ人
ここについて、これから語っていくとするかの
森=おかしくなった約束の地
まずは、森とは何か? ということだけれど……
これは約束の地であり、また人の意思が反映されづらい世界としての原初の地じゃな
カエル「森の中は色々とカオスなことになっていたけれど、あれは一体……?」
亀「神の意思に反した者たちのいる場所ということじゃな。
昔は約束の地だったのじゃろうが、それがおかしなことになってしまったのが、あの森ということじゃ。
それを象徴する描写が『チンチンを見るな』と『双子のテディベア』じゃな」
チンチンを見るな……というのは、森の中でそう言っておきながら見せようとする描写だよね
あれは明らかに同性愛を描いておる
亀「つまり、あの森の中で描かれたことは同性愛、双子のベアは近親愛、またドラッグなどが描かれておる。
さらに足を噛まれるのも蛇であり、これは神に叛逆する動物として旧約聖書の中では描かれておることから、最初に森の悲劇が始まるのは、蛇の部分から物語が始まるわけじゃな。
さらに森が約束の地だというのは後述するが、このように解釈すれば、本作が旧約聖書について語っていることは明らかじゃろう」
主人公の兄弟はカインとアベル
これは指摘する人も多いと思うけれど、あの主人公の双子の兄弟はカインとアベルの描写なんだね
聖書に書かれている中では、最初の殺人とされているの
カエル「簡単に説明するとカインとアベルは兄弟なのですが、兄のカインは神が捧げ物において弟のアベルばかりを優遇しているように感じ、アベルを野原に誘って殺してしまいます。それを神に咎められると嘘をつき誤魔化しますが、アベルの血が語りかけてきて神は全てを知ります。
カインはこのまま野に放たれると他の人に攻撃されて生きていけないので神に懇願すると、神はカインを殺すとその7倍の復讐を受ける印を与えて、エデンの東に追放されることになります」
旧約聖書の中でも議論されやすく、解釈が分かれる部分じゃな
カエル「なぜ明らかに悪いカインが追放だけで赦されたのか? とか、色々な問答があるんだよね」
亀「聖書の解釈は専門家に任せて、映画の話に戻ろう。
作中ではカインとアベルと兄と弟の立場は逆じゃが、それも今作が森に代表されるように、聖書を引用しながら真逆の歴史を語ろという意思なのじゃろうな。
精神医学者の権威であるユングは、この話からきょうだい間の確執のことをカインコンプレックスと名付けた。親からの愛情の不均衡であったり、能力に対する劣等感などから恨みを抱いてしまったりする現象じゃな。
作中でも母親の愛情を受けられていないと感じた弟のアスリンは、兄のゴルディに対して恨みを募らせておるが、まさにカインコンプレックスと言えるじゃろう」
その後の人間関係にも支障をきたす問題なんだよね
この2人の対立……一方的なアスリンの嫉妬が、この先大きな問題に発展していくわけじゃな
テディベアは何者なのか?
そしてテディベアについてということだけれど……
おそらく、彼らはユダヤ人を連想するようにしておる
カエル「あ〜……つまり、森を約束の地だと解釈すると、そこから追い出されたということは……」
亀「ユダヤ人ということじゃな。
そう考えると、今作が旧約聖書を下地に作られているのも、意図があると感じる。旧約聖書はユダヤ人がユダヤ人であるための根拠であり、そこを語り直すことで大きなメッセージを発しようとしておるのじゃろう。
神父はあの森の混乱の中でも平気だったのは、神の言葉を信仰しているからであり、ユダヤ教の原理を知っていることにつながる。
つまりアスリンたちの隊はユダヤ教、あるいはそれに準ずるあの街の宗教を忘れ、神を信仰しなかったからこそ、森であのような目に遭ってしまうわけじゃな」
今作が語る強烈なメッセージ
……そう考えるとさ、あの後半の展開って
アスリンがヒトラーのような存在になったということじゃな
カエル「えっと……それって、つまり、ユダヤ人がってこと?」
亀「ここに関してはあくまでも映画の、しかも個人の適当な解釈の話だと注釈はしておきたい。
しかしあの町や軍に帰ってきて、軍隊の英雄となり、クーデターを起こして全体主義となり、そして約束の地である森を手に入れるためにユニコーンと対峙する。
それはまさに、今、イスラエルがやっていることと、かなり似通ってきているのではないかの」
なんと言えばいいのかわからないけれど……
今のイスラエルの状況がどのようなものか、という話じゃな
亀「もちろん、今作が制作された時点で今の社会情勢を予見していた、ということはないじゃろう。軍事衝突すらも、制作が終わった後のことじゃろうしの。
しかし、ここまで語ってきたメッセージ性の先にあるものが、今の状況というのは、まさにタイムリーな作品になっておるし、わしは偶然の産物だと語ることはできない。
もちろん、これも1つの解釈に過ぎないのじゃが、わしの中では決定的な解釈じゃとすら思う。
実は、本作は日本公開日が近い実写映画の『関心領域』とほぼ同じようなテーマを扱っているわけじゃな」
そう考えるとあのラストは……
強烈なメッセージじゃな
カエル「もちろん善性と悪性、ある種のユニコーンの凶暴さと融和の可能性すらも混ざって人間が出来上がるという解釈なんだろうけれど……」
亀「人間の属性によって……つまり加害者や被害者を分けるようなものとして、例えば白人が暴力を振るい有色人種がその暴力を受けるというレッテルが貼られがちであり、それは社会全体の一面を見たら事実かもしれん。
しかし立場が変わればそれは解決するというものでもなく……結局は暴力の連鎖は止まらないという話なのかもしれんの」
それでもやっぱり好きになれない理由
ここまで語ってきて、技術的にもメッセージ性も意味があると感じているけれど、主は嫌いなんだね
もうちょい見せ方ってもんがあるわな
カエル「穏やかな作品にできたんじゃないかってこと?」
主「本作が『反戦映画だ』という記事も見つけたけれど、自分はそうは思わない。確かに全体の描写は反戦的だけれど、ここまで表現においてゴア表現を……もっというとキャラクターを損壊させ、尊厳を凌辱することを楽しんでいる作品じゃないかってこと。
それは反戦などのメッセージ性と合致するのか?
むしろ、暴力性を楽しむ作品なんじゃないのか?
アニメーションは確かにゴア表現も可能だけれど、同時に色々な表現も可能なはずだ。だからこそ、今作が語ることは一定の理解がありつつも、この表現そのものは気に食わないという立場だね」