もっと早くに語りたい作品だったけれど……ちょっと遅くなってしまったねぇ
是枝作品の中でも特に人気のある作品の1つじゃからな
カエルくん(以下カエル)
「やっぱり海街と本作がテレビでよく放送されているイメージかな。多分、わかりやすいからというのもあるんだろうけれど……」
亀爺(以下亀)
「テレビで鑑賞して初めて是枝監督に興味を持つという人も多いのではないかの?
では、そんな作品のどこが素晴らしいのか、考えていくとするかの」
カエル「早速ですが、記事の始まりです!」
感想
では……旧作の感想から始めましょう!
まずはざっくりとした感想から語るかの
カエル「え〜っと……まず、初見時はどう思った?
是枝裕和監督らしい家族の物語だけれど、毒も多い作品だよね」
亀「監督の近年の作品のスタイルがここで1つ固まったような印象もあるかの。
例えば『万引き家族』は血縁による家族というのが本当に正しいのか? ということにも疑問を呈しておるが、この傾向がさらに強くなったのはこの作品からといえるじゃろう」
カエル「子供の取違いってひどい話だよねぇ」
亀「ただ、わしはこの家族関係はむしろ理想なものに思えるがの」
カエル「え〜? 取り違えだよ?」
亀「もちろん、それを肯定することはできんが……子供の、特に男の子の成長のためには2人以上の大人の男を見せたほうがいい。
ひとりは父親だとして、もうひとりは誰になるのか?
大家族の時代であれば、歳の離れた兄弟や叔父、あるいは祖父などがそれに該当したかもしれんが……今では核家族となってしまい、それも難しい」
カエル「親戚一同が集まる機会だって1年で考えてもほとんど無い家もそれなりにあるんじゃないかな?」
亀「さらに言えば、父親の家族であったり友人だと父親と同じような環境にいた男も多い。
じゃが、色々な男の姿を……この作品で言えば、エリートサラリーマンとして働く福山雅治と、町の電気屋さんとして働くリリー・フランキーの姿の両方を見せることによって、子供には色々な生き方があることを教えることができる。
これはとても大きな事じゃろう」
カエル「う〜ん……でも、どっちがいいのか? と言われると……難しいかなぁ」
亀「その二択で考える必要もない。福山雅治の上流階級のような、エリート人生が勝ち組と言われておるが、キャンプに行ったりと遊ぶ事の多いリリー家の方を選ぶ子供だっておるじゃろう。
大事なのはどっちがいい、悪いという単純な二元論ではないんじゃよ。
この作品を語る際に例えば『福山のエリートは人の心がない』とか、あるいは『リリーの家は子供育てる環境には悪い』という人もおるじゃろう。もちろん、それはそうかもしれんが……そんな簡単に割り切れるものでもないじゃろう。
中にはエリートの教育が合わない子供もいれば、外で遊びまわるのが嫌いな子供だっておる。
その中でたくさんの選択肢を与えて、いろいろな生き方を提示してあげる社会が、いい社会じゃと思うがの」
作中描写について
では……ここからは作中の描写のお話です
今作はやはり是枝演出が光っておるの
カエル「それぞれの家庭の違いがとてもよく表現されているよね……
家もそうだし、親子の関係、夫婦の関係、それから食べるものすらも違うという是枝監督の家族演出が見事に際立っている作品だよね」
亀「まずは序盤の螺旋階段について考えていこう。
序盤で螺旋階段が長く映されておるが、これはやはりDNAの二重螺旋構造を連想させる。
視覚的に『血のつながり』を表現する演出と言えるじゃろうな。
またこのあとの子供たちをめぐる議論が堂々巡りしてしまう……そのことも示唆するような演出じゃろうな」
カエル「福山の野々宮家とリリーの斎木家の違いが特に良かったよね。
是枝監督って昔ながらの……なんというか、下町っぽい家族が理想みたいなところあって……それこそ『歩いても歩いても』は医者の家ではあるけれど、田舎の普通の一軒家が舞台だったし『海よりもまだ深く』は団地が実家じゃない?
それから『海街diary』もやはり鎌倉の生活感あふれる女性一家の物語だし」
亀「あまり……いわゆる上流家庭を描いてこなかった監督でもあるの。
ただ、よく聞くのが『福山雅治が演じる男は血も涙もない』みたいな話であり、上流家庭のエリートはダメだ! というメッセージを宿しているように思う人も多いようじゃが……わしはそうは思わんの」
本作の2つの家族の長所と短所
カエル「改めて言うこともないけれど、長所もあれば短所もあって……是枝監督はそこを描くことからはあまり逃げてないよね」
亀「では、どちらの家庭がより子供を育てることに向いておるのか? といえば……わしは理想は野々宮家だと思っておる。
何せ、教育に力を入れており、色々なことができるお金があるからの」
カエル「でもさ、斎木家の子供たちの方が楽しそうじゃない?」
亀「しかし、何かがやりたくなってもあの一家では何もできんことがあるかもしれん。
例えば子供がピアノやバレーをやりたくなったら……これらの習い事はお金がそれなりにかかる。
お金がないということは、それだけで子供の可能性を1つ潰してしまうとも言える。
それに、リリーだっておもちゃを直してくれたりもするが、あの裁判のお金がなければ新しいおもちゃなども買ってはくれないかもしれん。なにせ、病院あての領収書で子供たちに色々買ってあげるような男じゃからの。
『絆』や『家族』『無償の愛』という言葉が日本でも闊歩しており、それを信仰する人も多いかもしれんが……わしは最低限度のお金があって、初めて理想を言えると思っておるからの」
カエル「衣食足りて礼節を知る、ってことだね。実際、斎木家のあの仕事もいつまでもつかわからないしねぇ」
亀「もちろん、キャンプに行ったりするのはとても素晴らしいことである。
じゃから、最初に述べたのように、2つの家庭を行き来することはとても重要なわけじゃな」
食事シーンのうまさ
カエル「是枝演出の真骨頂といえば、やはり食事シーンだよね」
亀「野々宮家はすき焼きを食べておるが、やはりどことなく品を感じさせる。そして箸の持ち方から矯正されるわけじゃな。これは教育的な側面もある一方で、やはり2つの家の違いを多く感じさせるものじゃろう。
一方で、斎木家は餃子をみんなで食べておる。この時のリリーフランキーの演技がまた見事じゃな」
カエル「言い方は悪いけれど『いい教育を受けていないんだな』というのがすぐにわかるよね……
ほら、日常生活でも色々と出てくるじゃない? 人の家に上がれば靴を揃えるとかさ。そういう基本的なことができているのだろうか? という思いもあって……
でも、ご飯は美味しそうだしあれはあれで楽しそうで……賑やかさのない野々宮家との対比にもなっている」
亀「退屈じゃが教育の行き届いた野々宮家と、賑やかであるが行儀の悪い斎木家……そのどちらが果たして教育上いいのか? というのは答えの中々出ない、難しい問題じゃな」
血のつながりと家族
ここがこの作品の1番のポイントだよね……
家族と血のつながり……果たしてどちらが大事なのか?
カエル「それこそ『万引き家族』がさらに深く掘り下げたけれど……『生みの親より育ての親』なんて言うけれどさ、やっぱりあの状況でも、血のつながりを意識するものかな?
そのあたりが血も涙もないというか……」
亀「……それを日本人が言っていいのかの?」
カエル「え?」
亀「かつて日本では養子縁組がいくらでもあった。しかし、今ではその文化はほとんど廃れてしまい、現在では年間300件から500件養子縁組が成立しているような状況じゃ」
カエル「えっと……それは多いの? 少ないの?」
亀「社会的に保護が必要な子供たちが4万5千人とされている中で500人じゃからな。これは約1%と考えると相当に少ないと考えるべきかの。
日本では社会的に保護が重要な子供の85%もの、多くの子供達は施設に預けられるのが現状じゃな」
カエル「それは……確かに少ないのかなぁ」
亀「なんとなくわかるじゃろう?
『子供が産めない夫婦もいる』というのは、もちろんそれも事実であるし、わしも大きく納得する。
しかし『子供を産めない夫婦≠子供を育てられない夫婦』じゃろう。
子供を産めなくても育てることはできる……が、それを選択肢に入れている家庭は相対的に少ないと言わざるをえない」
カエル「もちろん、色々な理由はあるだろうけれど……」
亀「結局、日本においてはそれだけ血のつながりが重要視されるということじゃよ。
もちろん養子縁組はまた別の大変なことがあるじゃろう。しかし、育児において苦労は付いて回るものである。
血のつながりを無意識に重視している日本の現状を考えても、野々宮家の判断を非難することができるのだろうか?」
親を守る子供たち
カエル「この作品で1番グッとくるシーンはどこ? と聞かれると……あの取り違えの原因を作った看護師がいるわけじゃない?
その人に会いに行った時に子供が出てくるけれど……あのシーンってすごく印象に残るんだよね。
あ、この人にも子供がいて、ちゃんと親として愛されているんだ、という当たり前のようで大切なことを思い出させてくれて……」
亀「どんな立場であれ、どんな人であれ、子供は親を愛し、親は子供を愛する……まあ、現実にはそんなうまくいかないのかもしれんが、ここは親子の絆などを感じさせる場面じゃった」
カエル「実際にはそれだけ強く母を……親を思う気持ちが過ちになってしまうようなこともあるけれど……そのせいで過酷な状況にいる子供たちが助けを呼ぶことができず、救われないということもあるけれど、それだけ強い思いを抱えているということも分かるシーンだよね」
亀「わしは是枝作品を観るときに単純な善悪論、誰が正しくて間違っているのか? ということで結論を出して欲しくないかの。
そんな簡単に断罪できるような物語は是枝監督は作っておらんと、わしは考えておる。しかし、人間は簡単に断罪する。誰が正しい、この考え方が当然だ、とな。
それを考えさせるのが目的の映画じゃからの……」
2つの対になるシーン
カエル「では最後になるけれど……今作で特に印象に残る2つのシーンってどこ?」
亀「序盤の子供の取り違えが証明されてしまうシーンなどでは、福山雅治と尾野真千子は暗い廊下を歩き、部屋の中も暗かった。
それは当然じゃろう、これから自分の人生を揺るがすことが発表されてしまうわけじゃからな。
あとは尾野真千子が真木よう子と電話をするとき、部屋は暗いままである。あれはこの2人の中にある葛藤がよく出ているシーンとも言えるじゃろう。血縁なのか、それまで育ててきた絆なのか? というの。
そして……その伏線が最も活躍するのが、ラストシーンになる」
カエル「最後に父と息子の会話があるシーンだね」
亀「あの明るい光の中で、2人の別々だった道が交わる瞬間、2人は本当の意味で親子になる。
『そして父になる』わけじゃな。
結局、子供を産んだから親になるわけもない。
ちゃんと世話をし、教育をしているから親になるわけでもない。
子供にしっかりと向き合うことができますか? ということじゃな。
ここで子供がいる中、光輝く道を行く姿こそが……この映画が特に素晴らしい点と言えるじゃろうな」
まとめ
まとめになります!
- 取り違えはダメだけれど、子供を育てるには理想の関係では?
- 血縁主義に対する抵抗!
- 是枝演出が炸裂した作品!
やはりそれだけの話題になる作品じゃの
カエル「特に今の時代に重要な作品と言えるかもね」
亀「絆が叫ばれる中、ではその絆とは何か?
ただの純血主義のことを言うのか、血縁主義のことを言うのか、それとも違うものなのか……?
ここの結論もないままに、家族の絆を叫ぶこと……それが果たして正しいのじゃろうか? ということを考えさせられる作品じゃの」
カエル「今話題になっている是枝作品の中でも多くの作品に共通することを扱い、またエンタメとしても見やすい作品だと思います!
ぜひ鑑賞してください!」