物語る亀

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物語愛好者の雑文

映画『海街diary』感想 4姉妹の美しさが際立っている (海街ダイアリー)

 GWに入る前日だっただろうか。私は次の日から訪れる黄金週間に向けて、ウキウキワクワクしながらTSUTAYAへと入店した。この記事を読んでいる一部の読者はご存知かもしれないが、GWの語源は映画をたくさん見てもらおうと大映の専務が名付けたものである。

 なのでGWの一番正しい過ごし方(と思われる)の映画を鑑賞しようと思い、この映画を借りてきた。

 

 その日の夜。

 まさかのテレビ放映決定のニュースが!!

 いや、驚いた。あと数時間早かったら借りずに済んだのに……

 

 そんな与太話はこれまでにして、海街diaryを鑑賞したので、その感想などを挙げていこう。

 

 

1 是枝裕和の魔力

 

 私は是枝監督作品は『誰も知らない 』『花よりもなほ』『歩いても歩いても』『奇跡』などを鑑賞している。

 『そして父になる』もテレビ放映時のものを録画しているので近々見る予定。空気人形なども見たいなぁ。

 是枝監督作品の独特の間や柔らかい雰囲気が非常に好きで、新作も当然見に行くし、樹木希林と阿部寛と共演したボクらの時代も楽しんで見た。

 

 ちなみに原作も3巻まで読んでいるのだが、原作の雰囲気もよく再現されていて違和感なく鑑賞することができた。

 唯一あった違和感といえば、この4姉妹がここまで圧倒的な美女4人ではなかったような気もするのだが、そこは突っ込むだけ野暮というものだろう。

 この作品の見どころはやはりこの美人4姉妹が繰り広げる、鎌倉を舞台にした日常のお話であり、そこには遺産を奪い合う骨肉の争いだとか、男を巡っての大合戦というようなことは一切なく、美人であることを除けばどこにでもあるような平凡な4姉妹の日常の話である。

 

 その意味においては映画として製作するには、ドラマ性がないために少しばかり地味な作品でもあるのだが、これまでの是枝作品というのはどれを見ても『家族』や『日常』をテーマにした作品となっており、誰も知らないなどはその特殊な設定から血みどろのドロドロとした作品に仕上げることも可能(というよりもそれが普通)なのにもかかわらず、静かに事態が進行していく様というのが高く評価された。

 設定自体は奇抜であっても、その中での日常描写が安定した説得力のあるものだからこそ、是枝作品というのは強く観客の心に残るのだろう。

 

 

2 是枝マジック

 

 イキナリだが、私は子役が嫌いである。

 基本的に子役が出ている番組はバラエティであろうともチャンネルを回すし、映画やドラマを見ようとは一切思わない。いっそのこと、子役の大仰で不自然な演技を見せられるくらいならば、画面に出さないほうがいいと思うくらいである。

 

 だが是枝作品に限っては例外的に子役が好きなのである。だから子供が主役の奇跡も劇場へ観に行った。

 本来、子供というのは演技をしないものだし、大人を騙すための演技も精一杯やるから真剣味がある。だが、子役の演技は「いや、子供はそんなことをしないだろう」と思わせるような、不自然な演技が多い。もちろん、是枝監督だってそれはある程度は同じである。

 だが『役者に演技をさせない』ことによって見えてくる素の表情が、子役に限らず役者を非常に魅力的に仕立て上げてくれている。

 

広瀬すずの引き立て方

 

 今作で一番名を売ったのは間違い無く広瀬すずだろうが、飛ぶ鳥を落とす勢いの彼女が最も運が良かったポイントを挙げるとすれば、姉が有名人なことでは無く、キャリアのスタートで是枝作品に抜擢してもらえたことだろう。

 初めてすずが登場した時、その姿は田舎娘らしく非常に芋っぽく見えた。ちょっと可愛い田舎の女の子でしかなかったのだが、おそらくこれは今の垢抜けてしまった『女優の』広瀬すずには出せない味だろう。

 

 その後も作品は続いていくが、3姉妹との生活に漂う余所余所しさはおそらく演技ではなく、どのようにすればいいのかわからない上に、高揚していることもあるのだろうと推察できる。

 その後、徐々に仲良くなっていく様というのは、もちろん映画という環境に慣れたということもあるのだろうが、綾瀬はるかなどの役者陣とも打ち解けてきたということでもある。

 本作は当然のようにフィクション作品なのであるが、そこに流れる人間模様というのはノンフィクションの要素を多く含んでいる。

 

 

3 圧巻の女優陣

 

 本作の女優陣というのは本当に魅力に溢れていて、日本アカデミー賞を総なめしたというのも納得だ。

 細かい調理シーンの会話や、なんてことのないカットにアドリブの演技も多々入っているという話であるが、そこが女優陣一人一人の個性を発揮させており、他の女優陣ではでない魅力に溢れている。

 

 特に素晴らしいのは是枝組と言っていい、お馴染みの存在である樹木希林で、もうこれは演技なのか素なのか全くわからない。樹木希林の出るシーンは全て笑ってしまったような気がする。

(特に「旦那に女が出来るのは妻にも問題がある」というセリフは、内田裕也とのことを思い出して、映画館でなくて良かったと思うほど笑った)

 

 ボクらの時代にて「台本は読んでこない」と語っていたが、このような自然な演技が求められる芝居において、ほぼ即興で演技が作れる女優というのは素晴らしい。何せ作り込んでいないのだから、自然な演技になるはずである。

 もちろんこれが樹木希林が上手いというのもおこがましいほどの演者であることは当然だが、もっと驚愕すべきはこんな大女優を相手にやり取りをしても、違和感のない若手女優陣である。

 

 本来ならばこのような大ベテランを相手にしてしまったら、大なり小なり浮いてしまい、役者としての格の違いを見せつけられてしまうはずである。だが、そこを感じることなく、最後まで鑑賞できてしまった。

 これは女優陣のうまさもあるが、それを引き出した是枝監督の上手さというものだろう。

 

 最後に

 

 特に大きく動かない物語を魅せるというのは、展開という大きな武器がない状態なので難しいと思う。特に是枝監督は子供の取り違えや、育児放棄という衝撃的な設定であったり、子供だけの旅といったこちらがハラハラとするような設定を活用してきたが、今回は腹違いの妹とはいえ、四人姉妹の日常という何でもないような設定を上手く活用したことに驚愕している。

 もしかしたら、今後設定のない映画というのも作れるのではないだろうか? と映画の常識を揺るがす可能性すら感じる。

(誰も知らないの台本のない映画も衝撃的だった)

 

 今週公開の新作、『海よりも、まだ深く』も非常に楽しみにしている。

 土曜か日曜には感想をアップするので、よろしければ覗いてみてほしい。

 

海街diary

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