カンヌでも最高賞に輝いた是枝監督作品が登場です!
賞レースを勝ち抜いた作品ですか……
カエルくん(以下カエル)
「是枝監督作品は結構見ていて『誰も知らない』以降は……『空気人形』とCOCCOの映画を除いて、全部劇場で鑑賞しているんじゃないかな?」
主
「まあ、賞レース向きの作品なんでしょうね。
だいたいどんな作品か想像できますよ」
カエル「……えっと、結構作品以外の部分が一人歩きしているよね。監督の発言や今作のタイトルが物議を醸し出しているけれど……
でもさ、実際に公開されて鑑賞しないと何も語れないし!」
主「発言よりも良し悪しは作品で語るべきである。
というわけで、早速感想記事を始めましょう!」
作品紹介・あらすじ
『誰も知らない』『三度目の殺人』など数多くの作品が国内外から高く評価されてきた、是枝裕和監督作品最新作。
本作はカンヌ国際映画祭にてパルムドールを日本人では21年ぶりに獲得し、大きな話題を呼んだ。今作でも是枝は監督の他、脚本・原案・編集まで多くの作業を手がけている。
主演は是枝作品でも常連であり、多くの作品で存在感を発揮するリリーフランキー。樹木希林などの是枝常連組から、安藤サクラ、松岡茉優などは是枝作品初参加となる。また、子役の城桧吏、佐々木みゆの演技に高い評価が集まっている。
東京下町のマンションの影に建つ古びた1軒の家屋に暮らす一家がいた。父である治(リリーフランキー)や信代(安藤サクラ)などは働く傍ら、足りない生活費を子供も含めた万引きや、年老いた初枝の年金で生計を立てていた。
そんなある日、近所の団地で外に寒空の下外に放り出されている幼い少女を見つけた治は、思わず拾ってきてしまう。
そして奇妙な家族の波乱に満ちていながらも、笑顔の絶えない生活はいつまでも続かと思われたが……
感想
では、Twitterでの短評から始めましょう!
#万引き家族
— 井中カエル@物語るカメ/映画・アニメ系VTuber(初書籍発売中!) (@monogatarukame) 2018年6月2日
これは……確かに賞レース向きな作品なのは否定しないが、ここまで是枝監督が撮ってきた多くの作品の集大成とも言えるのでは?
脚本、演出もやはり良く、特に役者陣は文句のつけようがない
『映画』を堪能しました pic.twitter.com/XD4N9MLCGV
今年最も『観るべき』邦画といえるでしょう!
主「冒頭でも述べたように、賞レースに勝ち残りやすい作品というのは大筋で決まっている。
特に、カンヌ国際映画祭は……いわゆるエンタメ作品を表彰する場ではないから、その内容も必然的に重くなってくるのはわかりきっている。
例えば近年グランプリを獲得した『私はダニメル・ブレイク』も今作と同じように、貧困に悩む高齢者のお話だったんだよ。
その色眼鏡があって観に行ったのも事実ではあるんだけれど……そして、それは間違いではないんだけれど、でもそれでもパルムドールも納得の作品だった。
本当に『ごめんなさい!』って気分」
カエル「是枝監督作品だし、エンタメ映画ではないよね。観ていて楽しくなる、誰もが大好き! とは言いづらい作風だし、やはり賛否は出てくるんじゃないかな?」
主「自分は見ていて、今年公開の『フロリダ・プロジェクト』を強く連想した。
アメリカのディズニーランド近くにある安モーテルに暮らす、貧困層の物語なんだけれど……社会の闇を見事に切り取った作品なんだ。
そして『万引き家族』は日本の貧困層の現実を切り取っているんだけれど、何がすごいって、ちゃんと我々にも理解できるような『家族』の物語なんだよね」
カエル「決して派手な映画ではなく、誰もかれもが楽しめる作品でもいかもしれません。
しかし、社会派の作品として現実を知る分にもとても面白く、また家族の物語として胸にガツンとくる熱を持った作品です!」
役者について
今作は特に役者陣を大絶賛です!
この面々が外すわけがないとは思っていたけれど……文句なしに素晴らしい!
カエル「特に今の邦画界でも人気、実力の突出した人たちをかき集めた、という印象で……どの映画監督もこれだけの役者を集めたことに垂涎の眼差しを向けるんじゃないかな?」
主「『誰が』素晴らしいではなくて『みんな』素晴らしいというのはほとんどない。
それだけの濃密な演技合戦だったし、今年も素晴らしい邦画が次々と公開されているけれど、演技のレベルの高さだけならば……1番と言っていいのではないかな?
それほど圧倒的です。
いや、今年の邦画はレベルがとんでもなく高い!」
カエル「とりあえず……子役の子についてはどうだったの?」
主「今回、とてつもなく素晴らしいのが妹役のゆりを演じた子役の佐々木みゆちゃんの使い方だよね。世間ではお兄ちゃんの柴田祥太を演じた城くんの方を推す意見の方が大きいのかな?
何が素晴らしいかというと、子役ってどうしてもヨソヨソしい演技になったりするところがある。
だけれど、本作はそれでいいんだよ! だって元々他人だからさ。
この設定や演出方法がとてつもなくうまい。
そしてみゆちゃんと城くんの素が見えるシーンもあって徐々に引きこまれるし、本当に『お兄ちゃんと妹』になっていくところが見える作品でもある。
本当、是枝監督の子役の使い方が抜群に光った作品です!」
見所について
カエル「では、本作の見どころについて……どこに注目しながら見ればいいの?」
主「主に2ヶ所かなぁ。
是枝監督作品は全てそうだけれど『食卓』と『役者の演技』は必見。
この2点は特に突出している。
毎度毎度同じことを言うけれど、食事のシーンは極めて重要です。
そしてその重要性を誰よりも理解している監督が、是枝裕和。
何を、誰と、どのように食べるのか?
本作は食べ方が綺麗な映画ではない。ずるずると音は立てるし、唾は飛ぶし、決して美味しそうなものばかりじゃない。
どの位置で誰が食べているのか、それだけで彼らの状況がとても伝わってくる」
カエル「それは後半になっても効いてくるよね。何気ないシーン、何気ない会話がとても重要な意味を持ってくる作品でもあって……」
主「もうね……見所ばっかりなんですよね、この作品。
それと『性』の描き方かなぁ。
今作は松岡茉優がめちゃくちゃエロいのはわかるとしても、安藤サクラがとてつもなく艶かしい作品でもあります。いや、決して美しい女優ではないけれど……だからこそ、生々しい生に満ちた魅力がある作品です。
男と男の世界、女と女の世界を映し出した作品なんで、そちらにも要注目!」
カエル「もう、全部が見所です!」
以下ネタバレあり
本作の演出について
序盤の魅力
では、ここからは作中に言及しながら語っていきましょう!
まずはスタート5分から見所ばかりなんだよね
カエル「えっと……まずはここでは序盤の食事シーンから語るとしようか」
主「ここがさ、本当によくて……みんなで同じ釜やテーブルを囲んで食べているわけではないんだよね。それぞれが好き勝手に、好きな場所で食事をしている。しかも食べているものもバラバラでさ、カップラーメンやら何やらを食べている。
これだけで、この家族がスタート時点ではそこまで足並みが揃っているわけではないということがわかる」
カエル「ゆりに対してのそれぞれの立ち位置を示しているのかもね。
ちょっと距離感があったりして、あまり快く思っていなかったり。そりゃ、あの状況ではそうだろうけれどさ」
主「確かにテーブルも別々だし、食べ方も汚いし、あまりいい家とは言えないかもしれない。だけれど、同じ屋根の下で食事を取っていて……それがこの家族の状況をとてもよく示しているんだよね。
そして圧倒的なリアル感!
ここからすでに役者陣のそれぞれの魅力を醸し出しており、とてつもない映画であることを予感させている」
本作の注目点の1つ、男と男の物語
『生』と『性』と『食』の物語
カエル「この作品はやはり『性』と『食』に関する描き方が特徴的だよね」
主「これは是枝作品が特にこだわる部分でもあり……そうだなぁ『海街diary』が特に顕如なんだよね。あの作品は食べる描写や性に関する描写が非常に多いけれど、それは3回も挿入される葬式や法事という『死』に対する出来事との対比である。
この映画も同じで、実は『死』に対して濃密な関係がある作品でもあり、また同時に犯罪などの後ろ暗い行動もたくさん描かれているんだ」
カエル「だけれど、暗くなりすぎないのは食事シーンと性のシーンが多いからなのかなぁ」
主「性に関するシーンからは逃げる作品も多い。だけれど、この映画はびっくりするほどそこから逃げずに、しっかりと向き合っている。
それを象徴するのが安藤サクラと松岡茉優で……この2人の色気はとてつもないものがある。
特にさ、松岡茉優のお仕事シーンなどは本当に素晴らしい!
あそこでしっかりと下着姿を披露する。お仕事のシーンではスカートがめくり上がりそうな場面において、微妙にカメラを寄らせることでそこを見せないようにしていたり……憎いほどに見事! なカメラワークを発揮している!
ちくしょう! 馬鹿野郎め!」
カエル「……えっと、褒めているんだよね?」
主「でもさ、本当に素晴らしいなって思うのが、中盤以降の大雨の中でのリリーと安藤サクラのシーンでさ。
艶かしい場面から子供達が急いで帰って来る場面までをノーカットで撮影しているんだよね。
あの子供を持たなくてもドギマギするシーンをノーカットで見せてしまう……これは驚異的なことではないでしょうか?」
カエル「それこそ、一歩間違えれば危ないシーンだしね。それも微笑ましく見るけれど、是枝監督の本気が垣間見えるシーンと言えるのかな」
それぞれの『光』と『影』
この映画の見所の1つが『光と影の演出』なんだよね
いや〜……ものすごく面白い演出してますよ
カエル「普通は光と影の演出というと、主人公たちは光り輝く側にいたりして、悪役が闇の中にいたり……それだけで状況説明をするわけじゃない?
でも、本作は逆なんだよね」
主「この家が特にそうだけれど、ずっと薄暗いんだよ。
この点だけ見ると、本作はこの家族を肯定的に描いているわけではない、と解釈できるような演出になっている。
一方で、もう1つの家庭……おばあちゃんの元旦那さんが再婚した先の家庭では、明るくてしっかりとした家のように強い光が当たっている。
もちろん、これは貧しい家庭に暮らす主人公一家が日当たりの悪い場所に住んでいるという演出でもあるでしょう。
ただ、それ以上に今作の主題である『幸せな家族とは何か?』ということに言及した演出であることは間違いない」
カエル「とても明るくて理想の家族のようでも大きな問題を抱えていたりということかなぁ」
主「本作は『闇の中を生きる家族』の物語でもある。幾つか強い光を浴びるシーンがあって、その1つが外を歩くシーン。そこでは祥太とゆりなどの強い絆が感じられるようにできている。
そしてもう1つが……あの家族が崩壊を迎えてしまうシーンであり、そこでは闇の中にいた存在に、強い光が当たることによって、この生活の終焉を描いている。
何が面白いって『光が善、闇が悪』という簡単な構図を採用しなかったこと、それがこの作品の特色の1つであり、重要なテーマの1つになってくるんだ」
強い光を当てることによって、それぞれ全くべつの意味を持たせる
海の映画
カエル「是枝作品って海の描写が多いよね」
主「特に今作もそうだけれど、海で遊ぶ描写がとても強く印象に残って……『海街diary』でもとても印象深い海のシーンがあるかな
是枝作品で海や川が出てくると、それは『家族を再構成する』という意味があるのではないかな?
少なくとも、この2作はそのような意味で撮られているシーンだよね」
カエル「特にアドリブが多い印象かなぁ。海で遊ぶシーンって絶対脚本ないだろうな、って思わせるほど自然な表情を引き出しているよね」
主「そのドキュメンタリータッチな映像美こそが是枝作品の魅力の1つであり、そこで役者同士が深く結びついていく様子があるからこそ、演技や物語を超えた大きな説得力を獲得している。
本作もその魅力は健在でさ、いたるところでそんなシーンがある……というか、今回役者陣がうますぎてどこまで演出&脚本なのか全くわからない!
それほどとんでもない作品なんだね」
家族の描き方
聖痕の存在
本作の家族の描き方で重要なのが、この『聖痕』の描き方ということだけれど……
今作は傷、聖痕を使うことで、より魅力的に家族を演出しているんだ
カエル「えっと……描写としては以下のようになります」
腕の火傷→信代とゆり
足の怪我→治と祥太
主「つまり、同じ傷を抱える者として描くことによって、その2人は同一の存在だよ、ということを描いている。
腕の傷なんてまさしくそうでさ、そこで血の繋がらない母と娘に強い関係性が発生しているじゃない?
1つの傷を共有化することがとても重要なんだ」
カエル「一方で男たちは2人とも足をやっているよね」
主「ここも象徴的な怪我なんだよ。
元々無理があったにしろ、この家族関係の破綻が始まったのって治が足を怪我した時からなんだよね。
労災は降りないし……ここもブラックだな、と思ったけれど、これが貧困層の現実でもある。
そして同じように祥太が足を怪我することによって、家族関係は決定的に破綻する。やはり傷がもとで崩壊するんだよ」
カエル「でもさ、家族関係の崩壊につながるととても重いことだけれど……同じ場所を同じように怪我をするって、親子の物語として微笑ましいシーンでもあるはずなんだよね。
『うちのバカどもは!』って母親が怒るシーンが思い浮かぶけれど……」
主「父と子供ってそういう風に少しずつ似ていくものであるし、それを決定的に描いたいい演出だよ」
男と男の物語
カエル「そして本作は同時に『男と男の継承の物語』でもあるよね」
主「父親が子供に何を伝えることができるのか? そこにグッと向き合った作品でもある。
このテーマ自体は是枝作品でも何度か登場していて、より象徴的なのは最近だと『海よりもまだ深く』かな。あちらは離婚で離れて暮らす父親と息子の物語であり、また同時に父となった男が自分の父と向かい合う、親子3代の物語である。
つまり、本作も明確に父と子の物語であり、そして男と男の物語であるわけです」
カエル「あの海での会話シーンとか、本当に素晴らしいよね。
城くん自身も性の悩みを持ち始める年齢だけれど、そこを導いてあげるリリーフランキーというのが、役を超えた演者同士の絆にも見えてきたりさ。
ほら、リリーさんはそういう悩みに対して得意そうだし!」
主「いい映画は演者が役を超えるものだけれど、本作もその要素を見事に兼ね備えている。
リリーフランキーが城くんに何を伝えてあげることができるのか……それを考えるような作品でもある」
女と女の物語
カエル「もう一方で重要なのが、この『女と女の物語』です!」
この女性4人というのはどことなく『海街diary』を連想するかな?」
主「多分、意識していると思うよ。海街は原作付きだったから簡単に改変できないけれど、是枝流女家族の描き方でもあるんじゃないかな?
特に先ほど述べたように、信代とゆりのシーンもとてもいい場面だけれど、同時に美しいのが亜紀と初枝の関係性でさ。
また演者の話になるけれど、松岡茉優は現代の天才女優だというのは誰もが認めるでしょう。間違いなく今後もこの業界のTOPを走っていく、とてつもない才能の持ち主である」
カエル「そして樹木希林は言うまでもなく、大ベテラン女優であり独特の存在感を示し続けていて……まるで樹木希林から松岡茉優への継承があったような作品だよね」
主「本当に松岡茉優という役者は人に恵まれているよなぁ……と感心する。
橋本愛という最高の親友兼ライバルがいて、広瀬すずという現代の大女優と『ちはやふる』で正面から対決し、そして今作では樹木希林だよ?
しかも監督の作品の中でも代表作となる作品に次々と出演している……この人運の強さこそが、彼女の最大の強みだろうし、それを引き寄せているのはあの突出した演技力だろうな」
カエル「是枝監督は『人を育てる監督』であることは有名だよね。役者では柳楽優弥、広瀬すずをはじめとして多くのキャストを見出しているし、映画監督としても西川美和を育てているし……」
主「もしかしたら松岡茉優もまた、本作で大きく成長したと後で振り返った時に言われるかもしれないね。
もちろん、安藤サクラとの演技合戦もまた見事で……本当に惚れ惚れとしたなぁ」
是枝作品として
これまでの是枝作品が描いてきたもの
では、ここからは是枝作品としての本作を評価していきましょう
まずは過去の是枝作品を振り返るとしようか
カエル「是枝作品は沢山あるので、今回は家族について撮った作品に絞って簡単に説明する上に、引用として活用する作品のみの紹介になります」
誰も知らない→家族に捨てられた少年少女の物語
歩いても歩いても→再婚する家族が実家へ向かう物語
そして父になる→子供の取り違えによる親子の血縁の物語
海街diary→4姉妹の家族再生の物語
海よりもまだ深く→家族の別れとその後の絆の予感を描く
主「すっごく簡単に考えるとこのようになっている。
近年は比較的アットホームな物語というか……優しい映画を多く撮ってきた印象だけれど『3度目の殺人』のからは再びダークで過酷な現実を描くようになってきている。
そして本作は是枝作品の集大成に近い作品に仕上がっていると言える」
本作は『女と女の物語』でもあります。
女性4人は海街と同じ……偶然? ではないような……
是枝作品の家族像
カエル「『万引き家族』って家族再生の物語でもあり、そして家族の別れを描く作品でもあるんだよね……
子役の使い方などは『奇跡』などにも通じるところがあるのかな」
主「基本的に是枝作品が描いてきたものは同じなんだよ。
それは『血縁主義の否定』と『家族の発見』というもので……血縁だからと言って、それがイコール健全な親子関係とはならない、と描いた『誰も知らない』と『そして父になる』がある。それで言えば、家族の物語とはちょっと違うけれど『3度目の殺人』もにたようなものだな
血縁なんて関係なくても家族になれるはずだという願いの籠った『歩いても歩いても』
そして1から家族を作り直すのが『海町dairy』
家族関係の終焉とそ親子の絆を予感させるのが『海よりもまだ深く』となっている」
カエル「産みの母より育ての母、という作品が多いんだね」
主「それが最も強い形で表現されたのがこの映画だろう。
血縁関係が必ずしも重要なものではない。それこそ『万引き』のように盗んできた先に生まれた家族である。
それが本当の家族になるのか? というと……さて、どうでしょうか? というのがこの作品です」
弱者の物語
もう1つの是枝作品のテーマが、この『弱者の物語』です!
賛否が巻き起こるリベラルな物語だ
カエル「是枝監督は『誰も知らない』が顕著だけれど、必ず悪と断罪されるような存在は描かないという特徴があって……
世間の一般常識では悪とされていても、それが果たして悪なのだろうか? という視点が必ず存在しています」
主「それは最近だと『3度目の殺人』が顕著で、とても重く日本の裁判や、死刑制度について考えさせられる作品だった。その分、分かりやすいエンタメ性を確保していないんだよね。それが美点でもあり、欠点でもあるけれどさ。
今作もそれは同じで、本当にエンタメ性を確保するならば警察に捕まるシーンなどはもっと劇的な音楽を使ったり、煽るような演出にすることも可能ではある。
だけれど、そういう形にはしなかったのが、是枝流だ」
カエル「だからこそ評価される部分もあると」
主「万引きが果たして悪いことなのか? という決定的な疑問を投げかけてくる。もちろん、犯罪だし彼らの行為は悪と称されるものかもしれない。もちろん、迷惑を被る人たちだってたくさんいる。
本作だって風俗嬢と客の恋愛など、かなり踏み込んだところも描写している。
だけれど、それを『不健全だ』と簡単に断罪してしまってもいいものだろうか?
生きるとはどういうことなのだろうか? と考えさせられる作品でもある」
カエル「結局世間は好き勝手言うだけだし、警察の言い分はとても一方的で酷いもので……常識だと思っているものが本当に常識なのか? ということを考えさせられるね……」
主「今作でさらに賛否が巻き起こるポイントでもあるけれど、近年は『絆』や『家族のあり方』が特に重視されている。
自民党の改憲案でも『家族は助け合うものだ』というものが組み込まれているという報道もあるけれど、ここはものすごく難しい問題にもなってくる」
現代を揺るがす『家族の形』
カエル「家族の形かぁ……
近年は同性愛なども理解が進んできて、それも新しい家族の形だという一方で、夫婦別姓などにも反感の声があったり、色々と複雑なことになっているよね……」
主「自分は個々の案件に対しては賛成も反対も表明しません。
ただ、1つ言えるのは家族ってそんなに簡単なものじゃないよ、ってことでさ。
この映画もそうだけれど、実の親の元にいるのが不幸な子供だってたくさんいる。同時に、子供によって不幸になる親もたくさんいる。それを規定するということは、実はても難しい話である。
是枝監督はやはり弱者の目線、もしくは一方的に悪と称される者の目線から物語を作る。
だからこそ、我々の価値観に対して深い揺さぶりをかけてくる」
カエル「何が正しいのか、何が間違いなのかを考えさせるように作られているよね……結局、あの家族が正しかったのか、否か……」
主「ただ、本作でのその部分での答えになるであろう演出について考えていこうか」
ラストの演出から見える是枝流メッセージ
今回注目するラストシーンの1つがバスでお別れをするシーンです
このシーンは『過去への思いと未来への希望』を同時に描いた名シーンです!
主「ここで重要なのは祥太が振り返りながらもバスは進む、という描写で……
やはり祥太は振り返る→父親を見ているんだよ。
それでもバスは勝手に進む。この描写が非常にうまいと感じたのは『父のことを思い返しつつ、彼らは成長する』という過去と未来への希望を一気に描ききったこと。
つまり、これが彼らの成長でもあるんだよね。
松岡茉優演じる亜紀はあのオンボロ屋敷に戻ることを決意した。そういう道もあるでしょう。
一方で、他の道を歩むという未来だって等しく残されているんだ」
カエル「それは男の子の物語と言えるかもね。それまでの家を出ていって、そして新しい場所で生きることを選択する……」
主「一方で、ゆりはラストで外を眺めている。その視線の先には何があるのかわからないけれど……彼女も『選択する可能性』を残したまま物語は終わる。
ゆりちゃんはそれまで、選択する余地を与えられてこなかった。全て大人の都合で振り回されてきた。
だけれど、彼女に選択肢が与えられた時に、どうなるのか……それが本作の最後の意味でしょう」
本作の巻き起こした賛否両論の騒動? について
カエル「公開前から是枝監督の発言や思想もあって、大きな賛否両論を巻き起こしたことも記憶に新しい作品だよね……
万引きという行為は犯罪であり、それで家族の絆を描くなどというのは許されない! ということを言う人も少なくなかったのかなぁ」
主「遵法精神が立派なことで、よろしいじゃないですか。
コンプライアンスは大事ですよ、特に現代は」
カエル「……皮肉?」
主「自分はむしろ『犯罪に手を染めてでも成し遂げたい大きな思い』を扱った作品の方が好きだけれどね。それこそ……古典的にはルパン三世とか。
まあ、でもこの手のお話は昔からあってさ、映画と社会規範の問題はとても重要な問題であり、アメリカをはじめとして世界中で自主規制が行われてきたこともある。
その意味では、別に今始まった問題でもないし……それこそ、アニメ・漫画の非実在青少年問題も似たようなものじゃない?」
カエル「犯罪万歳! という映画は確かに問題だけれど、でも犯罪に手を染めるから面白い映画ってたくさんあるからね。それこそ泥棒、詐欺、あるいはサスペンスやアクションも含めて殺人を行う作品なんて挙げるまでもないし」
主「むしろ、この作品は『万引きなんてもってのほかだ!』という人に見て欲しい。
そしてその意見がどのように変わるのか、あるいは変わらないのか……しっかりと考えて欲しいね」
カエル「別に『この家族はひどい! 犯罪に手を染める必要はないのではないか?』という意見もあってしかるべきだし、誰もが大絶賛するような家族像でもないしね」
主「実際、自分も一部の犯罪描写についてはドン引きしている部分もあった。
そういう感想自体は映画の感想として、それもそれで正しいのだから、あってしかるべきなのではないかな?」
助成金やなんやらの状況について
えー……これは公開後の追記ですが、また助成金やらなんやらが話題ですが……
いいから映画観ろって話だよ!
カエル「えっと……もう少し穏便にね……」
主「監督が左派発言したのはその通りだし、それで賛否荒れるのもわかる。また、内容から左派がこの映画を持って色々とアピールしたいのもわかる。
でも、まずは映画を見て欲しい!
そして映画の感想を語ることが先じゃないのか!?」
カエル「穏便に、穏便にね……」
主「映画を見た後に批判するなら何の問題もない。監督も『映画そのものについての賛否は是非継続して下さい』と語っている。
映画業界は苦境なんです!
儲からないんです!
みんなそれでもやっているんです!
政府の助成金も必要だし、興行収入も必要。
薄い給料袋を抱えて、冷や飯を食べながら表現を続けている人がたくさんいる。
少しでも映画館にお客さんを運ぼうとしている人もいる。
今回のカンヌだって、それでお客さんを呼べるならみんな喜ぶ事ですよ。
それを……政権がどうとか、実際にこんな家族はいないとか、そんな下らないことで……って思いを抱える映画ファンがたくさんいるんだ、ということを伝えたい。本当、飽き飽きします」
カエル「……ま、まあ、政治も大切な話だから」
主「もう、今回は炎上覚悟ですよ」
物語の存在意義
カエル「最初で1番大事なことから始めます」
主「映画というのは……物語というのは『願いと祈り』である、というのが持論です。
『こんな苦境を乗り越えてほしい』
『ひどい目に遭う子供を救ってほしい』
『この現実を知ってもらい、少しでも1人でも大人が手助けして欲しい』
『辛い境遇を生きる人が今日を生きる支えになって欲しい』
そういう願いと祈りがこもっている作品は、とてもいい物語です。
子供を巡る痛ましい事件だってありました。万引きをした家族が捕まりました。そういう人たちに対する……そして世間一般に対する願いと祈りがとても込められている作品です。
そうでなければ『すべての日本人に見て欲しい大事な作品!』なんてタイトルにしない。例えカンヌでグランプリとろうが、作品がイマイチだと思ったらコケ下ろします。
今の状況はこの映画に込められた『願いと祈り』を馬鹿にしているとしか思えない。だから苛立つ。
『シンゴジラ』や『聲の形』の時も右派や左派が色々語っていたけれど……それ以上に今回は酷すぎる。
はっきり言わせてくれ。
これが表現だろう!
左派だからいい、右派だから悪い、そんな単純な問題じゃないんです。だから、まずは映画館に行って欲しい……それだけです」
是枝監督が獲得してきた評価
でもさ、これはやっぱり『是枝監督だから』ここまで話題になったんじゃないかな
?
主「例えば、同じくカンヌ常連の河瀬直美監督が同じようにパルムドールを獲得し、同じような政治的なコメントを口にしたとして、そこまで騒がれるだろうか?
多分、世の中の一般人の8割は『河瀬直美って誰?』という話になるだろう。
自分も大好きな監督だし、最新作を絶対に観に行く! と決めているけれど……でも、このブログを行っていなければ知らない監督だったろうね」
カエル「アクションや娯楽映画をほとんど撮らないで、ここまで一般層に知名度がある日本人監督ってほとんどいないんじゃないかな?
もちろん、それだけ海外を中心に高い評価を獲得してきたこともあるけれど……」
主「是枝監督も日本でももちろん評価されているけれど、むしろ海外の方が評価されている監督の典型例だよね。
あの騒動で自分が1番思ったのが、是枝作品の知名度の高さでさ。
いくらカンヌを制したからといって、1つの発言が話題になるのは、やはり知名度の高さがあるからだろう。
今の日本の映画界の状況で、そこまで監督が高い知名度を獲得することはかなり難しい。
それだけ話題になるもの、日本の現実を切り取ったメッセージ性の強い作品を発表してきたという証だろうな」
もはや世界的な巨匠、是枝裕和監督
まとめ
では、ここで記事のまとめに入ります!
- 是枝監督のこれまで描いたきたことが全て詰まった作品!
- 役者陣が惚れ惚れするほど素晴らしい名演技!
- 家族って? 幸せって? 改めて日本人に問いただす!
今年最も『観なくてはいけない映画』なのではないでしょうか
カエル「もちろん、映画なんて好きなものを見ればいいけれど、これだけ社会的テーマも詰め込まれた作品を是非是非鑑賞してください!」
主「最後になるけれど……自分はあの家族関係……是枝監督の描く家族像って理想的だな、とも思うんだよね」
カエル「え? それはどういう意味?」
主「もちろん、万引きや子供の取り違えなどはダメだよ。だけれど、子供を育てる環境として、いくつもの場所を与えられるのはとてもいいことだ。
実の親の元で育つだけでなく、違う環境もあることを知る。それが子供の将来の選択肢の幅が大きく広がることにつながる。昔はおじいちゃん、おばあちゃんがその『もう1つの実家』の役割を果たしたのだろうけれど、今はそれも難しいからね。
子供を庇護するのは親の役割だけれど……それだけではなく、もう1つの実家、子供が安心できる環境をどれだけ用意することができるのか……それも社会に与えられた、これから特に注目しなければいけない問題なのではないかな?」
カエル「色々考えさせられる作品だねぇ……」
最後にお願い
こういうことを書くのは初めてですが、最後にお願いがあります。
ぜひ万引き家族の感想などを、TweetやFacebook、Instagramや口コミでもなんでもいいので、あげていってください!
この映画のタイトルで損をしていることが多く、実際の感想の声があまり届いていない感もあり、いち映画ファンとしてとても悔しい思いをします。
もちろん、否定意見もあるでしょう。
観た上で否定する分には全く問題ありません。
ただ、観ていないのにタイトルと監督の発言だけで損をしている映画でもあります。
別にこの記事を拡散してくれ、とは言いません。
お好きなブログやインタビュー記事を拡散する形でもいいですし、ただつぶやくだけでも構いません。
ぜひぜひ、多くの方にこの映画を観て、そして議論して欲しい。
タイトルだけで決めつけないで欲しい。
それが映画ファンとしての切実な願いです。