カエルくん(以下カエル)
「えー、では是枝裕和監督の最新作を扱うわけですが……」
ブログ主(以下主)
「今回は前置きは不要です。
というわけで、いきなり感想スタート!」
カエル「え!? 早くない!? いつのもこの無駄話を楽しみにしているファン層もきっと……」
主「そんな人はいないし、今回は語ることが多いの!
さっさと感想始めます!」
作品紹介
日本を代表する映画監督である是枝裕和監督が『そして父になる』で主演を務めた福山雅治と再タッグを組み、『海街diary』以来となる広瀬すずを起用したことでも話題のオリジナル法廷心理ドラマ。
弁護士・重盛に舞い込んできた仕事は殺人を犯した三隅の弁護の依頼だった。犯行自体は供述しているものの、発言が二転三転する三隅の態度に四苦八苦しながらも、弁護士の仕事として減刑に努めるのだが、それも思うようにうまくいかない。
しかし調査を進めていくうちに次々と明らかになっていく真実。一体三隅の思惑とはなんだったのだろうか?
そして観客に待つ驚愕の真実とは……
感想
カエル「では感想となりますが、まずはTwitterの短評がこちらになります」
#三度目の殺人
— 井中カエル@物語るカメ/映画・アニメ系VTuber(初書籍発売中!) (@monogatarukame) 2017年9月9日
是枝監督、やはり素晴らしい!
これは過去最高傑作では!?
現代で重要な問題である司法と被害者意識にスポットライトを当てつつ、それまで是枝監督が表現して来た家族についても語った映画である
役者陣の演技も見事、一寸先すら想像できない展開……見事!
主「自分は過去の是枝裕和監督を全て見たわけではないけれど、主要な作品はそこそこ観ている。その上でやっぱり思うのが、今作は是枝裕和作品の最高峰かもしれないという思いがある。
もちろん、過去作とはテイストが全然違うから単純に比べることはできないけれど、今作の持つテーマ性や作家性というのは本当に素晴らしいの一言に尽きる。
ただ、かなり空白というか考察する余地を残していて、読み取り方は無限にあるし、よくここまで詰め込んだな、と驚愕した。
このブログ向きの作品なんだけれど……多分賛否は割れる題材だし、現に今も割れているみたいだね」
カエル「賛否割れる系は大好物でもあるけれどね」
主「本作を法廷心理劇ということで、例えばテレビドラマのように『意義あり!』なんて言いながら新しい証拠や反証をして、無罪を逆転有罪にしたり、その逆にするような娯楽作品を連想するかもしれない。ちょっと前にもそんなドラマが流行ったしね。
でも是枝だよ?
そんな作品になるわけないじゃない!
この作品はそれなりに難解で、明確な答えを提示してくれません! はっきりと三隅が犯人だ! とか、無罪だ! というような簡単な物語ではない。そこを誤るとこの映画の魅力は一切なくなってしまう」
カエル「予告の雰囲気からしてもそういう映画ではないことはわかるだろうけれど、すっきりしないという人も多いみたいんだね」
主「というわけで、この記事で解説というか、自分なりの解釈を書いていきますので、それを読んで少しはすっきり、もしくはモヤモヤを増してあとは適当にアフィリエイトリンクを踏んでAmazonから日用品でも買ってください!」
カエル「……ダイレクトマーケティングだ」
圧倒的な演技力を見せる福山雅治と役所広司
(C)2017フジテレビジョン アミューズ ギャガ
過去の是枝作品と比べて
カエル「是枝作品と聞くと、もっとハートフルな物語が多かった印象があるんだよね。結構多作な監督でなんでも手を出しているけれど、大作とされるような作品は大体優しい作品に仕上がっていた。
最近だと『海街diary』などが代表作になるだろうけれどやっぱり優しい作品で、本作のようなこういう人間の暗部に迫った作品って少なかった印象かなぁ」
主「出世作の『誰も知らない』などはかなり胸にくるような、ずしりと重い作品になっていて、トンデモナイ才能を抱えているということをアピールしていたけれど、それ以降はここまでダークな作品を描いていない印象がある。
でも、本作も紛れもなく是枝作品らしさが溢れている」
カエル「これだけ暗い作品なのに?」
主「昨年公開した『海よりもまだ深く』や『歩いても歩いても』や『そして父になる』などは、明確に家族がテーマの作品となっている。海街もそうだね。これらの作品は色々と問題を抱えて、歪かもしれないけれど家族を形成していくという物語と言ってもいい。
血のつながり以外の家族像などを追い求めたりというのかな。
そしてそのテーマは本作にも受け継がれている。自分が本作を絶賛するのは、そのアプローチ方法が逆なんだよ」
カエル「……逆?」
主「ここではまだネタバレなしで話すけれど、今作は家族関係の映画にもなっているわけで、加害者側の家族もいて、被害者側の家族もいて、弁護士にも家族がいる。それぞれの家族関係を描いているけれど、その形がかなり歪でもある。
これはいつも通りといえばいつも通りなんだけれど、ちょっとアプローチを変えてきている。なんていうのかなぁ……わかりづらい例えかもしれないけれど『十五少年漂流記』と『蠅の王』のアプローチがあったとしたら、本作は蠅の王の方なんだよ」
カエル「どちらも子供達が無人島で生活する作品だけれど、その描き方が180度違う作品だね」
主「このアプローチは近年の是枝作品とは違うものだ。
本作は是枝作品に対して思い入れがある人の方が、もしかしたら戸惑うかもしれない。
特に広瀬すずが出ているから海街が好きな人が見に行ったら面食らうかも。だけれど、監督自身が自分のアプローチに対して批判的に、そして自分への挑戦としてこのような描き方を選択したということに対して、自分は賞賛を送る」
今作に似ている作品
カエル「でもさ、この作品ってよくある『どんでん返し系』とかとは違うんでしょ?
それだったら、どのようなノリで見ればいいの?」
主「法廷を舞台にした映画ならば、大名作の『12人の怒れる男』だし、あとはヒッチコックの『裏窓』かな」
歴史的名画! 必見です
カエル「え? この手の作品って結構すっきりするけれど……」
主「この2作は娯楽としても作りが上手いから、単純に物語を追いかけているだけだと『あー、面白かった! 万々歳だね!』というものになってくる。
だけれど、実はこの2作って物事の真相はわからないんだよ。本当に殺人を犯したのかもしれないし、実はやっていないのかもしれない。情況証拠などを積み重ねて色々と考えてみるけれど、それが正しいのかどうかは誰にもわからないの。
特に12人の怒れる男は裁判員裁判モノとしても素晴らしくて、みんながみんな真面目に取り組んでいるわけでもなければ、偏見で物をいう人もいるわけだ。
やっていることはかなり近いと思う」
カエル「わかりやすいエンタメ性を排除された法廷モノかぁ」
主「そりゃ、賛否も捲き起こるね」
証言台に立つ福山雅治。彼は何を語るのか?
(C)2017フジテレビジョン アミューズ ギャガ
役者について
カエル「今作も豪華キャスト陣だけれど……」
主「もう大絶賛ですよ!
是枝作品って同じ人を使う傾向があって、よく出てくるのは阿部寛と樹木希林、リリーフランキーなどが印象に残っているな。今作も広瀬すずなんて、是枝組に入って女優として花開いたようなものだし、福山雅治も過去に主演を務めている。
でも、だからこそ違いがわかるんだよ。
特に広瀬すず!
この映画は彼女の陰の役柄のベストバウトじゃないでしょうか!」
カエル「普段は明るい元気な女の子役が多いけれど、本作のような暗い役も見事だったね」
主「役者の撮り方において外したな、と思うことが極端に少ない監督だよね。自分は子役はあまり好きじゃないけれど、是枝監督の子役は好きなんだよ。なぜならば、素が見えるから。でも、今作は役者の演出の中では大きな武器の1つである子供を封印している。
それでは誰が目立ったのかというと、もちろんこれは福山雅治と役所広司だ」
カエル「もうこの2人が対峙する場面なんてしびれたよね!
役所広司のただならぬ演技に加えて、いつもどおりに近いといえば近い福山雅治の演技だけれど、でも今作はそこに苦悩も感じられた!」
主「キムタクとか福山雅治とかっていつも同じ演技って言われるけれど、それってスターの条件の1つだと思う時もあるんだよ。例えば三船敏郎もそうだったけれど、圧倒的なその人の個性が作品に華を添える。そういうタイプの役者。
その意味ではいつもの演技に近いけれど、今作は深みもあって文句なし。まあ、自分が福山雅治が好きということもあるかもしれないけれど!
それから市川実日子や吉田鋼太郎なども素晴らしい演技を披露していたし、役者に関しては今年の邦画……特に大規模上映邦画ならトップと言ってもいいかもしれない出来でした」
日本アカデミー賞などで高い評価
カエル「日本アカデミー賞でも高い評価を受けたねぇ。
作品賞、監督賞、役所広司が助演男優賞、広瀬すずが助演女優賞、脚本賞、編集賞の6冠を達成して、2017年を代表する邦画になりました!」
主「正直、ノミネート段階で『ちょっとなぁ……』と思う作品やラインナップでもあって、あの中だったら三度目の殺人以外ないというのも本音ではあるけれど……でもいい作品だったということだろう」
カエル「結構賛否は分かれていたようだけれど、人を選びながらも刺さる人にはとても刺さる作品だったちう性子だろうね」
以下ネタバレあり
2 解説・司法と神
カエル「ではここから、今作の解説というか、解釈を述べていくけれど、まずはこの映画の特徴である司法について語るわけだね」
主「ここで重要なのが『司法と神』についてだ。
これは映画とは外れるけれど『法の元に平等』という考え方は日本国憲法14条にも書かれている通り、日本人にとって当然のことだろう。
だけれど、実はこれは西洋の常識とちょっと違うんだよ」
カエル「……違う?」
主「中世においてヘンリー・ブラクトンは『王は人の下にあってはならない。しかし、国王といえども神と法の下にある』という発言があり、これによって中世のイギリスには法の支配があったと考えられている。
ここで重要なのが『神』の存在なんだよ。人間は神の下で平等、この意識が司法では非常に大事になってくる」
カエル「現代の司法でも神様が出てくるの?」
主「アメリカなんかそうじゃない。大統領の宣誓に聖書を用いているし、それがオバマは政治的メッセージを発することになっていたりさ。
それから参考人招致などでも神様に宣誓するよね。私は嘘をつきませんって。これは、神の下に真実を明らかにし、司法を行いますよ、という重要な儀式なわけだ。
司法というのは『神の目』の存在があって、実は初めて成立する。誰も真相、真実なんてわからない。それを知るのは神だけなんだよ」
カエル「この映画で『真実なんてどうでもいいか?』とか『法廷のテクニックとして……』という言葉がなんども出てきたのって意味があるの?」
主「そこがこの項目の大事なところなわけ」
神への宣誓なき法廷……そこで何を語るのか?
(C)2017フジテレビジョン アミューズ ギャガ
神なき司法と十字架
カエル「十字架? あの十字架って一体なんだったのかな?」
主「おそらく、あれは神なき司法や日本に対しての三隅なりのメッセージだと思うんだよ。この映画の中では十字架を連想させるものは確かに出てくる。だけれど、それは明確ではない。
つまりロザリオなどのような宗教的象徴として出てくるわけではない。死体の焼け跡であったり、埋められた鳥の墓標としての十字架である。これは、神が存在しないことを三隅なりにメッセージを発しているわけだ」
カエル「神様不在の司法かぁ……」
主「作中で何度も語られていたのが『真実って興味がないですか?』ということで、誰もが本当のことをしゃべらない。なぜならば、司法で真実かどうかを判断する対象、すなわち神が存在しないからだ。
じゃあ、何が司法を支配しているのかというと法廷上のテクニックであったり、司法経済であったり、玉虫色の発言である。
本作の中で三隅は発言をコロコロと変えて、それに惑わされるわけだけれど、それは当然なんだよ。だって、その発言の真意や真実を見つけるべき存在である、神が司法には存在しないんだから。
人間にはそれが真実かどうかは判断できないわけ。
この映画を見ていて『真実は何!?』って思うかもしれないけれど、神がいないからわかるはずがないじゃん。それを表現している。
そしてそれが日本の法制度でもあるわけだ」
カエル「裁判官ですらも『死刑にしておけば良かった』って簡単に発言してしまうわけだ」
主「どのような理由が有ったかによって、全く同じ行動なのに罪の重さは変わる。それはおかしいと言えばおかしな話だ。でもそれが司法の世界だということもできる。
だけれど、その司法の世界にどっぷりと浸かってしまった日本は、神の目という公平な真実の追求をやめてしまった。少なくとも、この映画の中ではね。
本来であれば司法とは、真実をあぶり出して、それを判定する場であるはずなのに、単なる嘘とその場しのぎの弁明に終始するようになっている。
そう考えるとさ、なぜ三隅が飼っていたのがカナリアなのかもわかる気がする」
カエル「カナリアの意味?」
主「カナリアって炭鉱などに連れて行って、酸欠の危険を知らせる鳥なんだよ。
そして鳥自体は天使と悪魔の羽に鳥の羽があるように、生と死の境目にいる動物でもある。この動物を飼っていたけえど、あえて殺してしまったというのは、もう三隅はその境目を超えるという決断をしたのではないか?
そして警告などを発しても聞いてくれるわけもない現代の司法に絶望感を抱いているのではないか? ということでもあるんじゃないかな?」
3 加害者と日本の一般人の意識
カエル「三隅は何を言ってももうすでに信じてもらえなくなっていた、哀れな男だったけれど……」
主「これってさ、日本の一般人の反応と同じじゃない?
加害者が何を言ったところで、それを全て無視してしまうようなところがある。一度貼られた異常者、犯罪者のレッテルを剥がすことはないし、その声に耳を傾けようとはしないんだよ。
自分は時々『創』という雑誌を読むんだけれど……犯罪加害者の手紙を載せたりもしている、色々と賛否の割れる雑誌でもあるけれど、そこで秋葉原殺傷事件の加藤被告の手紙や論調を読んだことがある。
驚いたよ、これがかなり面白いの。彼がなぜあのような犯行に至ったのか、その経緯を自己分析して書いていたけれど、その理由は現代の若者が抱えるであろう閉塞感や孤独感によるものである、というものであった。かなり納得いったし、これは大事な問題だと思った」
カエル「加藤被告のことについては置いておくとしても、そういった意見はなかなか一般には届きづらいよね」
主「異常者は異常者のままだって、みんな思うんだよ。
だけれど、異常者のレッテルを張る割には精神医学には否定的だったりする。本作もあったよね、精神医学は文学だ、という批判。
加害者や前科持ちが何を言ったところで、それはもう聞く意義のないものである、という風潮がある。それは公判のやり直しを却下したあの話の流れでもわかるでしょ?
もう誰も真実なんて……加害者の発言なんて興味がないの」
今作が広瀬すずのベストバウトでは?
(C)2017フジテレビジョン アミューズ ギャガ
ピーナッツとパン
カエル「このシーンてすごく印象に残っているんだよね。三隅が美味しそうにコッペパンにピーナッツクリームを塗って、コッペパンを食べているんだけれど……」
主「あのシーンを見て連想したのが森達也の『A』であり、『FAKE』だ。オウム真理教の信者が『バナナ好きなんだよね』と語るシーンがあったり、佐村河内守が豆乳が好きでゴクゴクと飲んでいるシーンもある。
それって、すごく人間らしいじゃない? 好きな食べ物があって、それを食べる時には笑顔になる。普通のことだよ。
だけれど、一度レッテルを貼られてしまうと、そんな当たり前のことすら目につかなくなる。この映画って真実がわからない、神の目が消失した司法社会を描いているけれど、この『ピーナッツクリームが好き』ということはまぎれもない真実なわけだ、
だからあれだけ力を入れて撮影した。
カエル「『FAKE』という佐村河内守のドキュメンタリー公開時に、是枝監督はメッセージを寄せているし、森監督と対談もしているんだよね」
主「多分、それなりに意識はしていると思うんだよ。FAKEと今作って、ドキュメンタリーと創作の違いはあるけれど、描いていることは実は似ているように思うし……実はこの映画は森達也がやったことの延長線上にあるんじゃないのかな」
佐村河内守のドキュメンタリー
必見です、あなたのあの事件に対する常識が揺らぎます
主「結局さ、人間は信じたいものしか信じないの。
『あいつは血も涙もない犯人だ!』ということを信じるのか、それとも『事情があって犯行に及んだんだ』ということを信じるのか。
奥さんは愛人でもなければ、殺しを依頼していないのに、あたかも犯人のように報道されてしまう。そしてそれが本当か嘘かはわからない。
この映画においておそらく真実を……まっすぐなことを告げているのは、広瀬すず演じる咲江だけだよ。他は全員嘘をつく。
そこに真実という神の視点は存在しない法廷において、何を信じるのか? ということを突きつけてきた。
咲江の足の理由もそうだよね。本人が『落ちた』って言っているのに、何を信じているのかわからないけれど、それを嘘と決めつけられてしまう。
人を信じることから始まる弁護士でも、人を信じないようになっていく。そして真実には辿り着けない……神なき法廷のそういうジレンマを描いている」
吉田鋼太郎などの助演も光る!
(C)2017フジテレビジョン アミューズ ギャガ
三度目の殺人の意味
カエル「じゃあさ、この映画のタイトルの三度目の殺人の意味って何よ?」
主「まず、一度目は30年前の殺人事件だよね。
そして二度目は今回の殺人事件。ここまでは疑いようがない。じゃあ、この三度目の殺人事件とは? と言われると、それは解釈ができるけれど、まずあるのは三隅の死刑判決だろう。
死刑判決の時は主文は後回しで読み上げるんだよ。それはこの映画では守られていなくて、現実と違うけれど、もしかしたら無実かもしれない人間を死刑台に送ることになった。それをさして三度目の殺人と語っているのかもしれない」
カエル「他にも解釈があるの?」
主「社会的な死もあるよね。三隅の両親と妻も三隅のせいで失意のうちに亡くなったけれど、これは命が選別されているという意見そのものの現象だ。
で、それが行われそうになったのが広瀬すず演じる咲江だ。彼女は辛い過去を抱えており、それが公になれば人生は終わってしまうレベルのものである。しかも、相当注目度の高い事件だから、日本中の人に知れ渡るだろう。
それは……一人の女の子の社会的な殺人と言えるのではないか?」
カエル「セカンドレイプ問題だね……」
主「これは死刑制度を差して三度目の殺人と言っているのかもしれないし、社会的な死をもって三度目の殺人といっているのかもしれない。自分は前者だけれど、他の意見もあると思う。
他にも様々な意味が込められているのかもね」
4 それぞれの対比
カエル「では、ちょっと追記していくけれど……この作品は是枝裕和作品としてもいつもの物語を踏襲しながらも、それとは違うものでもあるんだよね?」
主「是枝作品というと、やはり誰もが連想するのが『ヒューマンドラマ』であったり『家族の物語』だったり……あとは子役の使い方かな。そういったことに注目を集めることが多い。
本作は確かに法廷を舞台にしたサスペンス調の作品であり、その視点から語るとするとかなり異質なようにも見える。だけれど、今作は紛れもなく是枝風の家族の物語に仕上がっている」
カエル「3つの家族の物語が今作にはあって、どれもうまくいっているとは言い難い……重盛の一家は娘が万引きを繰り返しているし、離婚をしているようだった。三隅は過去に犯した罪によって一家が悲惨な目にあって、娘とも何十年も会っていない。そして山中家は一家総出である秘密を抱えていて、それが2つも重なっていて……何が本当なのかはわからないけれど、かなりひどいことが行われていた」
主「1番まともだと思われていた、被害者である山中家が1番悲惨な結果を迎えていた。そしてこの映画の登場人物の子供って全員娘なんだよね。父親と娘の関係だけでも3通りのパターンを用意していきた。
じゃあさ、どこが1番幸せそうだと思う?」
カエル「え? う〜ん……どれもみんな不幸そうにはみえるけれど……一概には言えないよね。どこもコミュニケーションはそこまでうまくいっていないようだけれど……」
主「是枝作品って、家族のあやふやな形を描いている作品が多かった。
例えば『誰も知らない』は徐々に崩壊し、じっくりとおかしくなっていく家族を実際の事件を元に描き『歩いても歩いても』は血の繋がらない息子を連れて帰省するお父さんの物語であり『海街』は三姉妹が半分だけ血の繋がった妹を引き取り家族になっていく物語であり『海よりもまだ深く』は離婚した男と新たな道を歩き始める妻の家族について描いている。
そして本作もそれは同じなんだよ。ただし、それはヒューマンドラマのような形ではない。面白いのがさ、1番家族関係が破綻していると思われる三隅の家が、ちょっとだけ親子の絆を感じられるところなんだよね」
カエル「何が本当で何が嘘かはわからないんだけれどね……」
主「この家族の描き方って、それまでとは違うけれど、間違いなく是枝作品らしいものだった。ただ、それまではちょっと問題はあっても平凡な家族像として描いていたのを、犯罪に関わる家族像という形でかなり過激なように見える。普通の家族ではないよね。
こうやってそれまでのやり方の逆のような形で家族を描いたということが自分は是枝作品として高評価する」
器としての三隅
カエル「三隅は『器だ』っていうじゃない? あれってどういう意味なの?」
主「……あれを見て思い出したのが『ガンダムUC』なんだよね」
ガンダムシリーズの中でも名作と名高いUC
主「ユニコーンの中でシャアだと言われる男が出てくる。この映画ではアムロもシャアも行方不明になった後の世界観なんだけれど、その男、フル=フロンタルは『私は器だ』と語るんだよ。
周囲がシャアだと思うのであれば、私はシャアであり続ける、と語る。つまりネオ・ジオン側の人々の象徴であり続ける。
そして、この作品でもその意味は同じだ」
カエル「……? どういうこと? 器であり続ける?」
主「器の何を盛るか、それをどう見るかはその人による。三隅自体はからっぽで、自分の中に主張というものは何もない。
ただ、周囲の人が勝手に想像するだけ。
『犯罪者だ!』としてその本意を決めつけるような発言をしたり、逆に誰かを守るために行動したと思うならばそれでいい。結局は器だから、自由にそれを眺めてくれればいいんだよ。
だから『殺人者だ! 犯罪者だ! 死刑だ!』と思うならばそれでいいし、『いや、彼には理由があったんだ!』と思うならばそれでいい。
本当のことは神だけが知る。だけど、神なき法廷ではそれは暴くことができない。
それならば、私はその器であり続けるという話だ」
最後に
主「語りたいことが多すぎて、まとまらないので一度アップして、ゆっくりと考えることにするよ……
でも、これだけでもこの映画が表現したものがトンデモナイという理由がわかるでしょ?
自分はこの映画は……今年の大作邦画の中では文句なしのトップだと思います!」
カエル「おー、そこまで言い切ったか……趣味があったのもあるんだろうけれどね」
主「いや、すごいものを見たわ……」
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