物語る亀

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物語愛好者の雑文

<良作>映画『怪物』ネタバレ感想&評価‼️ 賛否分かれる是枝作品とLGBTQと映画の描き方について考察

 

今回は是枝監督の最新作『怪物』について語っていきましょう!

 

…色々な物議をわかせている作品だね

 

怪物 (宝島社文庫)

 

カエルくん(以下カエル)

今回は、怪物の感想というよりは、少しその外側の話が中心になります!

 

…作品内容よりも語りたいことがたくさんあったからね

 

カエル「それでは、早速ですが感想記事のスタートです!」

 

 

 

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感想

 

それでは、Twitterの短評からスタートです!

 

 

…さすがは是枝監督! という出来だったのではないだろうか

 

カエル「カンヌでも脚本賞などを受賞するなど、高い評価を獲得している作品であり、日本を代表する映画監督である是枝監督らしさも発揮されたのではないでしょうか?」

 

主「まず映画としての評価としては、全体的には好きな作品です。

 でも……ボク個人の意見としては、1部と2部の前半はあんまり合わなかったけれど、後半に一気に盛り返してきた……けれど、多分、そういう意見は少数派なのかもね」

 

カエル「今作は『羅生門』形式で、1つの事件をいくつもの視点で映し出す映画ということになっているけれど、1幕目と2幕目が、あんまり合わなかったんだ?」

 

主「やりたいことがわかるし、実際成功しているとは思うけれど……なんというか『シャラクセェ!』って気分ではあった。うまいと言えばうまいのだろうけれど……それが、個人の嗜好に合っているかと言われると、そこは全然違う。

 1幕の描写にも、2幕の描写にも違和感を抱いていたし、その意図もすぐにわかったけれど、だからこそ……苦手な部分も多々あったかな

 

今作では坂元裕二の脚本も高く評価されていましたが……

 

…技巧的なうまさを感じたけれど、前半に関してはその技巧が目についたという印象なのかな

 

カエル「まあ、テレビドラマをあまり見ないうちとしては、坂元脚本についてあんまり詳しく語れないよね。

 その代わり、後半は良かったんだね?」

 

主「そう‼️

 後半に関しては、少年たち(子どもたち)を見つめる視線が好きな是枝監督の作風だったから、とても好きだった。ボクは3部を……特に3部の前半を絶賛します。

 是枝監督作品としては『奇跡』とか、ああいった視点に近かったのではないかな?

 そこがとても好きでしたので、トータルとしては好きな作品になります」

 

以下ネタバレあり

 

 

 

作品感想を離れて

 

今作を巡る論争について

 

えっと……ここ最近では、是枝作品では恒例になりつつありますが、今作も論争があるんだよね

 

…それだけ注目を集める監督&作品という証明でもあるんだろうけれどな

 

カエル「簡単にうちが知っている範囲でまとめると、試写会などの際に物語後半の展開については、口外しないように公式が要請しました。その結果、制作サイドが本作がLGBT関連を隠したいのではないか? という憶測が広がります。

 そして監督も『ただこの作品はそれ(LGBTQ)に特化した作品ではありません。』などの発言が、本作の本質を違うものにそらそうとしているという意見もあり、様々な論争を呼んでいます」

 

www.asahi.com

 

さらにカンヌ国際映画祭では、LGBTQを扱った優れた作品に与えられるクィア・パルム賞を受賞したことで、話はややこしくなります

 

カエル「結果的に『この映画はLGBTQ関連の映画なの?』というネタバレにもなってしまい、監督のリベラルな過去の言動なども合わせて様々な論争を呼ぶという、とてもややこしい問題になっています」

 

主「自分の意見としては……まあ、そりゃ、この映画の肝の1つだから、公式側はそこを隠そうとするよなぁ、と思う。

 言うなれば『猿の惑星』のラストのように、それが明かされた瞬間に物語の意味が180度変わるというものだからさ……それを知った上で鑑賞するのと、知らないで鑑賞するのとでは、まるで意味が変わるんだよね。

 自分も鑑賞前にそれを知ってしまっていたから、正直、そこを知らない方が良かったとは思った

 

物語に大きな影響を与える設定の1つなんだよね……

 

…そして、この映画を語る際にもっとも”語りやすい”部分なんだよ

 

カエル「うちもライター業をしているからわかるけれど、この映画を語る際にどこを1番語りますか? と問われたら、やっぱりこのLGBTQ関連のところをピックアップするかなぁ」

 

主「もちろん、うちとしては仕事であれば、そこに触れずに語ることもするけれどね。だけれど、全てのメディアやライターがそうというわけではない。

 製作サイドがLGBTQを隠したいって思いがあったのかと言われると、それはYesだと思う。ただし、それは興行的な意味合いだったり、ネタバレ防止という観点だろうから、そこに関してはボクは違和感を抱かない。

 明らかにそれを知っていると、作品評価に影響を与えるから、公開後の口コミという観点からも公開前にそこを重点的に語るのは、確かに違うと感じている。

 だけれど同時に、今の映画メディアや製作サイドは、LGBTQや多様性の問題に対して慎重になっているのも事実だ」

 

 

 

 

怪物だ〜れだ?

 

それは、まあ、うちのような末端の映画ライターでも感じるよね

 

…ここはアメリカの価値観との違いだろうな

 

主「実際、自分レベルですら『この作品では多様性などのことは触れない、あるいは触れても言葉に慎重になってください』と言われることはあるよ。

 それをもってして、日本のメディアが遅れているという言説につながるのも……まあ、理解はできる。

 でもさ、それも当然と言えば当然で……是枝監督って誰がどう見てもリベラルな監督であって、この手の問題を意識しているし、むしろ積極的に是正するように提言しているタイプの監督だろう。その監督の新作がこうやって議論になる。

 『万引き家族』の時は日本を悪く言うことが許せない右派と、監督のようなリベラルの対立だったけれど、今回はリベラルとリベラルの対立になっているように見える。

 触れなくても炎上するけれど、触れても炎上するのがこの手の問題だから、じゃあ触れないで誤魔化そう……という意識になるのも、理解できる」

 

意識しています! といえば100%オッケーじゃなくて、むしろその描き方が問題だ! となるわけだもんね

 

触れても触れなくても難しい問題なんだよなぁ

 

主「だから、ちょうどこの作品と同じ『怪物だ〜れだ?』と言う問題になるわけだ。

 勘違いしてほしくないのは、ボク自身はこの映画をバッシングしている人や、LGBTQを推進する人を非難するつもりはない。 

 あくまでも製作サイドの考え方に理解を示すと同時に、この映画をバッシングする人の態度にも同様に理解を示す。

 でもそれって、この映画のように”視点”の問題なんだよ」

 

カエル「守りたいものが違うから、すれ違う部分もあるのかなぁ」

 

主「1人1人は善良な存在なんだよ。

 そして、人権とかマイノリティの人々を守ろうとするからこそ、善良なんだけれど、守りたいものが違うからぶつかり合う。

 映画を思想表現の手段にする人もいれば、映画を思想表現の手段にしてほしくない人もいるって形。

 だからこそ『怪物だ〜れだ?』と言うこの映画は、実は怪物なんて見方次第であって、本質的な怪物なんてどこにもいないということを証明しているのではないだろうか」

 

 

 

 

日本と海外の受け取り方の違い

 

この問題について、うちはどう考えているの?

 

…ボク自身は、アメリカやヨーロッパの価値観をそのまま日本に流入する必要はないと考えている

 

カエル「ほう? それはそれで議論を呼びそうな考え方だね」

 

主「そもそもLGBTQというのは、海外から生まれた考え方で価値観だろう。

 例えば英語においてはIとかyou、あるいはHe/Sheなどのように、自分や相手が何者なのかを表現しなければいけない文化がある。そしてHeでもSheでもない、他の選択肢というのが必要というのもわかる。

 だけれどそれは西洋の……一神教の価値観が強い、西洋哲学の文化や世界だ。つまり自我があったり、自分というものの存在を証明して、それを主張することが必要な世界。

 有ることが求められる世界、とでもいうかな」

 

ふむふむ……それこそデカルトの『我思う、故に我あり』や、人間は神の元で存在するという価値観だね

 

…一方で日本は東洋信仰……仏教に代表されるように無の思想

 

主「仏教もそうだし、あるいは西田幾多郎に代表されるように、日本や東洋思想では無の思想がある。それこそ無我という境地があり、明確な個人が存在するのではなく、社会や人との関わり合いの中で自分が定義されるという思想だ。

 例えば相撲・落語などの伝統行事は名前が変わる」

 

元・白鵬/現・宮城野親方

元・市川海老蔵/現・市川團十郎白猿

元・神田松之丞/現・神田伯山

 

 

今挙げた人々は、名前が変更されているけれど同一人物だよね

 

主「つまり、元々日本の価値観は名前とは生涯変わらないものではなく、その時の状況に応じて名を継いでいくものだった。

 つまり、大事なのは個人(I)ではない。

 むしろその変わりゆく名前や肩書きだったわけだ」

 

カエル「落語で言うところの三遊亭を統べる人が圓生の名を継ぐ、みたいな話だね」

 

主「他にもIを示すはずの主語であるボク、という言葉がYouの意味を指す場合もある。

 子どもに対して『ボク、どうしたの?』と聞いている時の”ボク”は、IではなくBoyだし、関西弁の『自分、何してんねん!』の”自分”はIではなくてYouの意味だろう。このように、言語を1つ取っても関係性や文脈で意味合いは大きく変化してしまうんだ。

 もちろん、昔の日本にも男尊女卑の一面もあるからそのままでいいとは言わないけれど、つまり、私が何者なのか、という明確な問いに対する答えがあるわけではない」

 

 

 

 

表現とLGBTQ

 

明確に表示することによってこぼれ落ちてしまうもの

 

その話がLGBTQと何の関係があるの、と言われそうですけれど……?

 

…明確化することが、必ずしも全てを掬い取るとは、ボクは全く思わないという話かな

 

主「例えば、ボクが高く評価する作品で『リズと青い鳥』がある。

 こちらは海外で、少しだけザワリとする話題になったんだ」

 

リズと青い鳥

 

海外の講演の際に、以下のような質問と回答があったので、そのchatGPTの訳を基本として、自分の修正を入れた文章を載せます

 

◆インタビュー記事より抜粋◆

質問者;『リズと青い鳥』は恋愛ストーリーと言えるでしょうか。また、その中で少なくとも登場人物の一人であるミゾレという女の子が、同性愛であると明言してもらえますか?

 

山田監督:

『リズと青い鳥』や『たまこラブストーリー』について、多くの人々が同性愛の恋愛ストーリーとして解釈していることも理解しています。しかし、それはあまり意図されたことではありませんでした。もう少し説明しますと、それは単一の性的指向の表現ではなく、むしろ思春期に誰もが経験することを表現したものです。人生のあの時期(学生時代)には、友情や特定の人への依存心などが強調されるように感じられます。また、キャラクターが暮らす世界の制約もあります。単に思春期の複雑さや、彼らが通過することがあることを描きたかったのです。

 ですので、それは「同性愛であり、これが彼女らの恋愛ストーリーである」という単純な描写ではありません。将来彼女らが誰と恋に落ちるか、またどのような人物になるかについて、私はコメントすることはできません。それはあくまで当時の彼女らを描いたものです。答えは、かなり複雑です。

 

以下の記事より抜粋

www.animenewsnetwork.com

 

…LGBTQを、簡単に言及してまとめてしまう危険性にも触れていると感じている

 

主「今回は山田尚子監督の意見が象徴的だと思ったから触れたけれど、思春期の女学生が、同性間でとても仲良く、ともすれば疑似恋愛を重ねていることは、よくあることだろう。

 それを同性愛と言ってしまうと、そのある種の感情の繊細さというのものを、取りこぼしてしてしまう。

 LGBTQの推進というのは、政治的主張としては正しい面も多々あるし、自分も同意するけれども、表現の上ではむしろ取りこぼしてしまうものもあるのではないか

 

先ほどの話と頑張ってつなげるならば『LGBTQです!』と正面切ってしまうと、取りこぼしてしまう感情を扱っているのではないか? ということだね

 

…IとYOU、あるいはLOVEとLIKEの間を描く作品ということも可能だからね

 

カエル「そういえば、鑑賞中に『アイドルマスター シャイニーガールズ』の樋口円香と朝倉透を思い出していたということだけれど、これも同性愛とも、友情とも違う幼馴染だからこそできる独特な関係性を描いたとして評価しているわけだよね」

 

 

 

…是枝監督は割と『普遍的な〜』という言葉を使いがちなイメージがあり、今作もそれを特別目指してはいないようではあるけれど、その意識が出ているような印象を受けた

 

主「先ほどの無の思想ではないけれど、IでもYouでもLGBTQでもない境地にあるからこそ、表現できるものというのが、この作品にも宿っているのではないだろうか?

 だから……クィア・パルム賞を受賞したのは、喜ばしいことだけれど、製作サイド、特に宣伝からするとちょっと頭が痛いんじゃないかなぁ……とは、思うね。

 自分なら頭抱えて寝込みそうだ」

 

 

 

 

本作で危惧するポイント

 

じゃあ、そんなうちが本作で危惧するポイントはどこなの?

 

…小学生という未熟な頃の性嗜好を描いたポイントではないだろうか

 

カエル「是枝監督は、インタビューでこのように答えています」

 

◆インタビュー記事より抜粋◆

是枝監督;あの年齢(11歳)の子たちが、例えば自分がゲイであるとかトランスジェンダーであるという自認、もしくは他認をするということはまだ早い段階なので、『そういう特定の描写をむしろ避けた方がいいのではないか』というアドバイスをいただいて、極力というか、そういう描写を脚本から少しカットした

以下の記事より抜粋

www.tokyo-sports.co.jp

 

…ここは自分もとても気になったポイントだ

 

主「10代の……しかも小学生というのは、性的嗜好も移り変わる前の話だろう。むしろ他者への恋愛意識すら芽生えていないような子どもがいても、普通な頃だ。

 その中で性的嗜好を固定化するように描くことは……適切だとは、思わないんだよなぁ

 

カエル「今後異性に出会ってバイセクシャルになるかもしれないし、この歳で自分の性的嗜好を決めちゃうのは、あまりにも早いのかな」

 

主「監督は十分に配慮しているのだろうけれど、それでもボクの目には、ところどころ危ういようにも感じられたし、創作の嫌らしさというのは感じた。

 だから、この映画を『LGBTQを超えた普遍の感情』と呼ばれると、それはオイオイ! と突っ込みたくなる気持ちもわかるかな」

 

あとは他作品と比較するという話だけれど……

 

…どうしてもこの題材は志村貴子の『放浪息子』が、圧巻だからね

 

 

主「日本においてジェンダー論が遅れている部分もあるのは同意しつつ、そういう作品がないという人には、ボクはまず志村貴子を……特に『放浪息子』を読んでほしいとすら思っているけれどね。

 小学生の性自認とジェンダーに関する作品としては、世界を見渡してもこれ以上の作品はないと思っているくらい、高評価だから。

 是枝監督の良さも十分に発揮されているから単純比較はできないけれど……ボクは今作からは、上記のような危険性は感じつつも、でも全体的には好きな作品でした

 

 

 

最後に

 

というわけで、ほとんど映画の外側の話になってしまったね

 

…そっちの方が語りたいし、難しい問題だと感じたからかなぁ

 

カエル「全体としては、2023年の邦画を代表する作品だったと感じています!」

 

主「多分、日本アカデミーなどの賞レースでもいくつもノミネートされるだろうし、その先進性から評価されるポイントは多いのではないか。

 またLGBTQに関して、日本の作品が世界に優っているとは、とても言えないのも事実。だけれど近年は『劇場版 きのう何食べた?』とか『エゴイスト』とか、劇場アニメならば『海辺のエトランゼ』のような作品も生まれている。

 少しずつ、変化はしているんだよね。

 その変化を意識する上でも、とても大切な作品だから、是非とも鑑賞してほしいね」

 

 

過去の是枝作品の記事はこちら

 

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