今回は志村貴子原作のアニメ映画『どうにかなる日々』の感想になります!
最近は短・中編のアニメが増えてきたな
カエルくん
「それでも、アニメ映画としてもレベルが高い作品も出てきたりして、これもいい流れと言えるんじゃないかな」
主
「長編ではリスクが大きくても、短・中編ならばできる作品も多いだろうし、スタッフの成長の場、あるいはアピールの場にもなると思う。
この流れは大事にしたいね」
カエル「今作も中編ならではのテーマの作品かと思います!
それでは、感想記事を始めましょう!」
感想
それでは、Twitterの短評からスタートです!
#どうにかなる日々
— 井中カエル@物語るカメ/映画・アニメ系VTuber(初書籍発売中!) (@monogatarukame) 2020年10月23日
3組の恋模様を描くオムニバス形式の短編アニメ映画
好き、大好き、さすが原作志村貴子×佐藤卓也監督!
様々な恋や思いを繊細に捉えながらもけして特別視することなく柔らかな視線で包み込む
扇情的にならず性に寄り添いドキリとさせながらも美しい…見事! pic.twitter.com/D7Zg3ERqFG
これは高く評価したい、視点などに優れた意欲作!
カエル「今作は志村貴子が原作、佐藤卓哉監督の作品となっています。
佐藤監督は、近年だと『あさがおと加瀬さん』『フラグタイム』などの、百合もの、同性愛要素が強い作品を監督することが多いよね」
主「『あさがおと加瀬さん』はともかく、『フラグタイム』に関しては正直、見ていて惜しいと思う部分も多々あった。制作期間や予算が足りていないのだろうな、と思うシーンもあったしね。
だけれど、物語そのものは輝くものがあった。だからこそ、より惜しいというのかな。
今作に関しては過去2作と比べても、ベストかもしれない!
佐藤卓哉監督の……LGBTQ3部作って勝手に呼称するけれど、その3作目でこれほどの作品を作り上げてきたことに、大きな拍手を送りたいね!」
何よりも、志村貴子原作の世界観をうまく表現できていたね
カエル「それこそ『青い花』は漫画、アニメの両方とも評判が高いし、うちとしては『放浪息子』をとても高く評価したいね。
『放浪息子』のアニメ版は、2011年に放送されましたが年間1位に選出、10年代のテレビアニメとしても『ピンポン』などと並んで、TOPを争うほどに高く評価しています」
主「日本は諸外国に比べるとLGBTQを描いた作品が遅れているという指摘もある。
まあ、わからなくもないんだけれどさ……いやいや、日本には志村貴子がいるじゃないか!
個人的には日本で、いや世界規模でもLGBTQをテーマにした創作を語る上で、絶対に欠かせない卓越した作り手だと評価している」
その志村貴子の世界を、本当にうまく映像化していました!
カエル「筆致からして、少し水彩画のような、淡い画風の方じゃない? 鉛筆のようにサラサラと書いているような……独特のタッチがある。
『放浪息子』も撮影技術などでそれを再現していたけれど、今作も同じような印象を抱いて、志村作品が動いている! と感じさせてくれたね」
主「『どうにかなる日々』自体は比較的初期に描かれた作品なんだけれど、約15年ほどすぎて、現代風にブラッシュアップされている印象も受けたかな。
原作の読み辛さなどを改変している印象も受けたし、オムニバスとして4話まとめてみると、色々な味わいの作品たちで飽きずに楽しめる印象だよ」
気負わずに、真っ直ぐに描きぬくLGBTQ描写
すごいなって思うのが、今作の本当に自然なLGBTQ描写だよね
普通は、ここまで真っ直ぐに描きぬくことってできないと思うんだよ
主「これは少し受け手である自分の思い込みもあるのかもしれないけれどさ、LGBTQ作品ってその多くが『これらかLGBTQを! 社会的な問題を描きますよ!』という気概を感じてしまう。
肩に力がどうしても入ってしまって、男女の恋愛ほど、フラットで自然な描き方ができないんだよ。
どうしても、頑張って自然に見えるように演出しようとするのが見えてしまう」
カエル「……正直、男性が男性を、女性が女性を性的な誘いをするシーンって、男女のそれよりもハードルが高いものだしね」
主「だけれど、本作はそれがない。
2020年の作品では『海辺のエトランゼ』も、LGBTQを描く気概をそこまで感じなかった方だけれど、この作品はその意味ではさらに上に行った。これは本当にすごい。
とても自然に女性同士の恋愛を、そして男性同士の恋愛を描いている。
さらに言えば"これを描いてしまうのか!"という驚きのテーマもあった。それくらい意欲に溢れているし、1つ1つに真摯に向き合うのはもちろん、魅力たっぷりなんだよ。それはエロチックという意味も含めてね」
これも、いつもいうけれど”間の美学”なんだよ
主「時間、空間、人間……多くの言葉に”間”という言葉がつく。間というのは、とても大事なものだ。
時と時の間、空と大地の間、人と人の間……それを表現するのが”間の美学”ということになる。
それでいうと、今作は”恋と愛の間”とも言えるし、あるいは”人と人との間”ということもできる。
そのどこにでもある間、その美学を描いているんだ。
LGBTQ作品となると”これがあるべき形だ!”という主張も大きくなる。だけれど、そうじゃなくて……あるべき形を決めるのではなく、その間にあるもの、それを描こうとすることが、とても大事なんじゃないかな。
そしてその間を描いたのが、今作だと自分は高く評価するね」
それぞれの話の簡単な紹介
オムニバス形式ということもあるから、他の作品と単純な比較はできないとはいえね
1つ1つの作品のテーマと描き方がしっかりと際立っていたのが印象的だったな
カエル「1話目は女性同士の恋愛を爽やかに描いた作品です。
主人公のえっちゃんは(CV花澤香菜)は、高校時代の恋人だった百合ちゃん(CV早見沙織)の結婚式に招待された。そこで出会った百合の短大時代の恋人だったあやさん(CV小松未可子)に惹かれていくお話。
第2話は男子校の先生である澤先生(CV櫻井孝宏)が、生徒の矢ヶ崎くん(CV山下誠一郎)との微妙な関係を描いた作品です」
主「3話が小学5年性のしんちゃん(CV木戸衣吹)が、従姉妹でAV女優になった小夜子(CVファイルーズあい)と、同級生のみかちゃん(CV石原夏織)の間で揺れ動くお話。
そして4話がしんちゃんとみかちゃんが(多分)中学生になったときのお話だな」
カエル「この中でも、それぞれ味わいが違くてどれが好きかは分かれるだろうけれど……」
主「自分はダントツで4話が好き!
元々、小学生ぐらいの恋愛話って結構好きなんだよね」
カエル「……え、ロリ……」
主「いや、そっちじゃなくて。
高校生くらいの年齢になっちゃうと、好きの感情に色々なものが混じってしまう。例えば、”セックスがしたい”なんていうのが、最も多いかな。あとは友達との関係性とか、お金の問題とか、その後の問題とか。
小学生ってそういうのがほとんど感じられなくて、ただ単純に、純粋に相手が好きって気持ちで描かれている作品が多い印象で、それが好きなんだ。
そして、その中でモヤモヤとする感情を描き抜いたのが、この作品だ」
以下ネタバレあり
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1話ごとの作品考察
第1話の描き方について
では、ここからはネタバレありでの1話ずつの作品考察に入っていきましょう!
1話目に入る前の映像もまた、とても良いものだったね
カエル「現在、冒頭10分間ほどがYouTube上でアップされているので、そちらでもご確認ください!」
元恋人の結婚式で出会う“えっちゃん”と“あやさん”『どうにかなる日々』冒頭映像
冒頭から、この作品の力の入れ具合が伝わってきた
主「例えば同じ中編のBLを扱った傑作アニメ映画である『海辺のエトランゼ』の場合は、背景などを写実的に、それでも雰囲気が伝わるように作られていた。
一方、こちらはより淡く、繊細に、水彩画のように描いている。
日常の中に宿る背景、その物語性を演出している。
また、小さな声がいくつも入ることによって、この町や世界で生きる人々を演出しているようにも感じられる。全体を通しても、ここだけで世界観が伝わってくる。
あとは、冒頭のクレジットの入れ方などもすごく映画的だ。
こう言った部分でも、観客である自分はすごくワクワクしたし、実際にハードルをあげたけれど、何も問題がなかった」
カエル「それこそ、志村貴子の世界だね。
そして物語はえっちゃんとあやさんのお話になっていきます」
主「何が素晴らしいって、この冒頭を見ても”LGBTQを描くぞ!”という、大きな気負いというものがない。
むしろ、そこには"あって当たり前のもの"というものが感じる。
そして"LGBTQなんて普通じゃないか!"と訴えかけるような気負いもない。
本当に、ただただ当たり前の恋愛、あるいは過去と現在を描こうとしているのを感じる
まあ、ちょいと京アニ的な……というか、山田尚子的な演出も感じるんだけれどw」
日常表現に度肝を抜かれるよね……電話中の座ってから、さらに足の動かし方とか!
キャラクターの当たり前の日常を綺麗に描いているな
カエル「これもよく言われることではありますが、アニメにおいて日常的な動きの方が作画が難しいものですが、今作はそこだけでも見所が豊富です!」
主「それと、この二人の関係性もすごく自然なんだよ。
単なる肉食系に出会いました、だから連れ込まれて、関係が始まりました……という、日常でもありそうなスタート。そのあとはどちらが彼氏的、彼女的ということもなく、2人の女性の物語として進行していく」
カエル「だけれど、ずっと百合ちゃんの後ろ姿を追いかけている、思い出しているというのも文学的な表現だよね……
突然現れた百合という恋人によって、その後も囚われてしまっているというか……」
主「それこそ、恋ってそんなものなのかもしれないね。
『チャンスの神様は前髪しかない』というのは、有名な言葉ではあるけれど、百合もそうだったんだと思う。振り返ったときには過ぎ去っていて、だけれど、ずっと心に残り続けてしまうもの……それが恋なのだとしたら、百合の存在そのものが、恋の象徴だったのだったのだろう」
第2話の描き方について
続いて、第2話の描き方について触れていきましょう
こちらはちょっと大人のビターな作風となっています
カエル「いやー……何と言っても櫻井孝宏の演技じゃない!?
最近は裏切り者と言われることも多いし、作ったキャラクターも多い印象なんだけれど、今回はカッコつけずに等身大の20代後半から30代くらいの男性を演じ切った印象だね!」
主「この作品は過ぎてもない過去なんだけれど、結局語っているのはLGBTQとか関係ないんだよね。
ただの独身男性の、独り身故の哀しい思い。
だけれど、それがどのように変化していくのかっていう部分が、とても惹かれていく」
カエル「ちょっと、あの気持ちわかるなー。
特に学校の先生なんて、目の前で次々と成長していき、それこそ卒業していく若者たちを見ていく仕事じゃない。その中で、自分の状況は何も変わらずに、哀しい思いを積み重ねていくのは、すごく伝わる。
また、あんな形式の卒業式の学校があるのかは謎だけれど……でもコロナ以降では、ああいう教室だけで卒業式を行う学校も出てきてしまうのかもしれないね」
主「仕方ないとはいえ、味気ないものだな。
それにしても……すんごくどうでもいいけれど、あれだけ多くの生徒がついていくって段階でもそれなりに慕われているんだろうけれど、あの人数を連れて行かれた側の家も、ちょっと驚きだろうね。
この作品はラストの言葉もクスリとさせられて、しょっぱい感じがオムニバスとしてちょうどいい味を醸し出していました」
第3、4話の描きかたについて
次は同じ主人公の話ということで、まとめて語っていきましょうか
ここが、一番力が入ったポイントなんじゃないかな
カエル「この映画って全体的にそうなんだけれど、この話はまだビデオテープが現役の時代で……おそらく、刊行された2000年代前半に合わせているんだよね。
だからか、町の様子も2000年代前半に近くて、それも懐かしさと、あるいは絵だからこその時代をそのまま切り取る感覚があったかな」
主「この作品がある意味、1番驚愕したかも。
何がすごいって
- 小学生の性描写に切りこむ
- 従姉妹のお姉ちゃんがAV女優という設定
ここだよね。
今では、小学生の性っていうものは、少しタブーになっている部分もある。だけれど、現実には早い子は小学生でも体験しているという話もあるわけだ。少なくとも、精通などを考えれば小学生の高学年だって、性の問題と切り離すことはできないだろう。
そしてそこも、扇状的にならずにしっかりと描き抜いた」
また、AV女優という仕事に対しても普通の仕事のように描いたよね
ちょっとエッチなお姉ちゃん、というのは時代を感じる属性かもしれないけれど、今作はあんまりその感覚がなかったかな
カエル「男子小学生・中学生だったら当たり前のように迎える性の衝動であり、そこを象徴するのが小夜子だったと」
主「だから、しんちゃんの気持ちってまるで初恋なんじゃないか? とみかちゃんは疑っていたけれど、多分、自分に言わせて貰えばそんなものじゃないんじゃないかな。
恋というよりももっと根源的なもの……それこそ衝動、というものに近い気がする。
男としての性の目覚め、その象徴としての小夜子がいる。
そして、みかちゃんにしてみれば、女としての性の目覚めが同じく小夜子のビデオであり、あれを見てしまった時の反応だよね」
カエル「いやー……あれで人生、変な方向にいかなくてよかったね」
主「その後の反応も、やっぱり衝動、なのだろう。
そして4話においてさらに成長し、その衝動というものが恋と呼べるものに変わっていった。とても純粋でありながらも、美しい描き方だよね。
この変化を描き抜いたという意味でも、とても味わい深い作品だったと思う」
そしてあのラストも好きだなぁ
カエル「ベストカップルに選ばれたあと……ってやつだね」
主「色々と想像をかき立てられるけれど、それが……なんというかな、すごく扇状的ではあるんだけれど、美しさを感じさせるんだよ。そこにある当たり前であり、目の前にある大人のアイテムを、子供時代のような遊びには使わない。
そこでサラッと成長を描く。
もしかしたら、眉を潜める人もいるかもしれない。まだ早いって思うかもしれないし、実際早いだろうけれど……でも止めることができない。それが成長であり、心の変化なのだから。
そういった、ごく普通のことに正面から向き合った作品だったと思うよ」
まとめ
というわけで、この作品のまとめです!
- 志村貴子&佐藤卓哉監督の味が出た作品!
- それぞれのオムニバス形式で紡がれる恋模様に心惹かれる!
- LGBTQと肩を張ることなく、自然に描きぬく視線が◎
- 全体的にとても挑戦に満ちた、作品バランスに優れていたでしょう!
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