2018年6月はアニメ映画ではそこまで大きい作品が少ない中で、1番の注目先は今作になるのかな?
どうしても7、8月にまとまってしまうからなぁ
カエルくん(以下カエル)
「逆に7、8月は夏休みシーズンというのもあるけれど、多すぎるくらいだもんね……」
主
「今からどうするべきか考えていかないとな……アニメ以外にも観たい作品がたくさんあるし」
カエル「では、今回は百合映画としても注目を集める『あさがおと加瀬さん』の感想記事を始めます!」
感想
では、いつものようにTwitterの短評から始めましょう!
#あさがおと加瀬さん
— 井中カエル@物語るカメ/映画・アニメ系VTuber(初書籍発売中!) (@monogatarukame) 2018年6月9日
尊い……!
作画は劇場クオリティを期待すると若干肩透かしな部分もあるかもしれないが、とても丁寧に、丁寧に演出された作品
しかも山田目線と加瀬さん目線だとちょっと味が違って……本当、いい作品でした
いやー……浄化された pic.twitter.com/1Maj7gIQto
尊い、しか言葉が出てこないような映画だった……
主「近年のアニメのクオリティはとんでもなく高くて、テレビアニメですら劇場に負けないクオリティの作品も増えている。しかも、劇場アニメのクオリティはとてつもなく高い作品もでていて……大きな制作会社はともかく、それだけのクオリティで作りたくても難しい作品も多いだろう。
今作は本来OVA作品らしいけれど、劇場でかける以上はクオリティを期待してしまうのが人の性でもある。
本作は決して作画クオリティが低いわけではないけれど、劇場で観るには……と思うこともあるかもしれない。
でも、とても丁寧に演出されていて、その分見応えもちゃんとある作品である」
カエル「深夜アニメクオリティかな? と思うシーンもあるけれど、それ以上にしっかりと丁寧に作られているから、じんわりと心に染みてくる作品になっているよね」
主「確かに百合アニメだしさ、劇場には男の人しか……さすがに10割男性はこの手のアニメ映画でも初めてだけれど、でも男女問わずに楽しめる作品だろうな。
オタク向けな部分もそこそこあるものの、基本的にはちょっとアニメが好きな程度の人であれば、誰にでもオススメできる作品なんじゃないかな?」
2つの物語
カエル「そういえばTwitterで『2つの物語が〜』という話をしていたけれど、それってどういうこと?」
主「基本的に本作はのほほんとしてふんわりとしている、いかにも純粋な女子、というような山田の目線で描かれている。だから、観客も基本的には山田の視点に感情移入するようにできている。
だけれど、加瀬さんの目線もこの映画ではちゃんと描かれていて……それは強調するような、モノローグなどを含めるようなものではないけれど……
ことあるごとにその気持ちを推し量ることができるような描写があるんだよね」
カエル「ふむふむ……」
主「同じような描写、あるいは同じ場所にいるんだけれど、でも抱いている感情は全く違う……その2つの味が楽しめる作品でもある。
もちろん、物語を楽しむ上では山田の目線で楽しんでもらっても何も問題ないけれど、加瀬さんの目線になるとまた少し違った物語になる。
それが本作が『百合物語』である1つの大きな強みなようにも感じたかな」
とても魅力的な女子だった加瀬さん!
ここに注目!
本作で注目して欲しい点はどこ?
重ねて言うけれど、1つ1つの丁寧な演出だね
主「もちろん、高橋未奈美と佐倉綾音の演技を楽しんでもいいよ。特に、佐倉綾音の低いボーイッシュな声はあまり聞く機会がないように思うし、しっかりと女の子らしさを残しながらも、かっこいい女子に仕上がっている」
カエル「あとは音楽だよね。ピアノを基調とした音が多かった印象だけれど、静かに流れていて2人の関係性を盛り上げていたよね」
主「その音楽と声優の演技ももちろん見所。
だけれど、自分が推したいのは……1つ1つの細かい仕事でさ、例えば太陽の光、草花の様子、その時の天気、2人の仕草……そういうものがとても大きな意味を持つ。結構多岐にわたる印象かなぁ?
本作は映像や絵がとても大きな意味を持っている。
それは大きくは語らないけれど、でもしっかりと意味を持っていると感じさせてくれるから……ちょっと恥ずかしなるような描写もあるし、そちらに注目が集まるだろうけれど、かなりいい仕事をしている作品だね。
詳しくはこれからネタバレありのパートで書いていくけれど、この演出がとても丁寧で見事だからこそ、心に強く響く物語になっている」
カエル「ふむふむ……では、これから鑑賞する方は背景などにも注目しながら鑑賞してください!」
以下ネタバレあり
作品考察
スタートの大胆な描き方
ここからはネタバレありになります!
まずはスタートが驚きだったね
カエル「本作は最初から2人が付き合っているところから始まっていて、それ以前の描写を丸々カットしているんだよね。
だけれど、OPに合わせて2人の絵だけでどのような関係だったのか、しっかりと説明されていて……あれがグッと心に残ったなぁ」
主「特に素晴らしいと思ったのがさ、山田が加瀬さんの服を少しだけつかんでいるシーンで……あれだけでどのようなやり取りがあったのか、そして2人がなぜ付き合うことになったのか、よくわかるんだよ」
カエル「みんなの中にある理想の百合像を見せてくれるというか、想像させる余地を残しているんだもんなぁ」
主「確かに60分もないような作品でさ、すごく短いけれどそこで出会いから付き合うまでを描くと、それで終わってしまう。本作が描きたいのはそういうことではなくて、1組のカップルがどのように歩むことを選択するのか? という物語だからね。
スタートを大幅にカットするというのは、非常に大胆な構成だったけれど、これが見事にハマった印象だな。
ここで下手にグダグダやって尺が足りなくなるよりも、よっぽど素晴らしい英断だったよ」
ED曲も名曲だけあって本作をより引き立たせている
2人の恋愛観
カエル「ここで『2つの物語』というのが出てくるんだね」
主「最初に思ったのがさ、この作品って百合である必要があるのだろうか? と考えてしまった。
加瀬があまりにもカッコイイ、サバサバ系女子だからさ『これって男子と変わらないんだじゃない?』という思いを抱いてしまった。だって、加瀬の態度などは初めて女の子と付き合う純朴な普通の高校生男子と全く同じものだからね」
カエル「ベットに座る時もあぐらを組んだりしているし、リアルといえばリアルだけれど、女子として描く必要があるのか? という疑問が最初はあったんだ」
主「だけれど、中盤くらいから『ああ、これは百合だから出せる味だな』と思ったんだよ。
山田はベッドに2人で座って、加瀬に迫られた時もその意味がわからないかったほどに純情な女子である。その先を知っているのかもしれないけれど、自分がそういう関係になることは全く予想にもしていないような素振りだった。
だけれど、加瀬はその先も知っているし……何なら、現実もよく理解している」
カエル「……というと?」
主「序盤でさ、山田と加瀬が電話をするじゃない? その電話を切った後に、山田は『大好きな人と会話ができて幸せ〜』みたいなハッピーな顔をするけれど、加瀬はどちらかというと呆然としているように見えるんだよね。
ここは自分は『大好きだけれど戸惑っている』という風に見えた。
つまりさ、この恋が普通のものではないということはわかっている。分かっているけれど、止まらない。それが本作の加瀬の気持ちなんじゃないかな?」
太陽に照らされる2人の絆
いいシーンでした
(C)2018 高嶋ひろみ・新書館/「あさがおと加瀬さん。」製作委員会
加瀬の性格
カエル「えっと……加瀬の気持ち?」
主「加瀬ってさ、感情を顔に出さないように気をつけている人でもあるんだよ。
本作の面白いところで、山田はとても感情表現が激しい。しかも記号的表現も多く使っていて、頭から煙が出てきたりとかさ、しかも双葉が生えていたりする。
加瀬もそのような記号的表現もあるんだけれど、それはあまり見せないようにしている。
色々な気持ちを押し込めて生活している女子でもあるんだ」
カエル「それを象徴するのがあの進路相談のシーンかもね……」
主「あのシーンで加瀬はとても笑顔でいる。あれはこれから大切な話をしに行くけれど、山田を心配させないためなのは間違いない。
そういう風に心に思っている感情を押し殺している……
作品を見ている最中に、実は山田が加瀬を想う気持ちよりも、加瀬が山田を想う気持ちの方がずっと強いんじゃないかな? と思ったほど。
ボーイッシュでサバサバしているけれど、実は女子らしい……と言ったら問題かな? 相手への執着が強いのは、むしろ加瀬の方だったりね」
カエル「そう捉えると最初の方で山田よりも友人を選んでいたというのは……」
主「もちろん付き合いもあるけれど、加瀬の中で揺らいでいる部分もあったんじゃないかな?
『山田とこんな関係になっていいのだろうか?』って。
加瀬が友達に連れられて山田から離れていくシーンって、階段から見下ろすようなカットになっていて『思わず見ちゃった!』感があるじゃない?
ちょっとどうすればいいのか加瀬もわからない……そんなシーンに思えたかな」
太陽の映画
加瀬の悩みを証明するのが『太陽の描写』ということだけれど……
本作を彩るもう1つの重要な役者が『太陽』なんだ
カエル「飛行機の中でも太陽に対して言及するような描写もあったけれど……『雲の上だと太陽はずっと昇っているんだね』だっけ?」
主「自分は本作を見ていて、すごくいい仕事をしているな、と思ったのが太陽だったんだよ。
というのも……例えばさ、初めて2人がキスをするバス停のシーンがある。そのシーンは夕日がカンカンに2人を照らしているんだけれど、太陽というと『お天道様が見ている』というように、神様が見ているという諺もある。
そしてその太陽の光がまるで十字を切っているようでもあるんだ」
カエル「太陽が十字架……これは結構宗教的に意味がありそうだね」
主「百合、すなわちレズビアン(同性愛)というのは今でも賛否が分かれる行動である。そして、加瀬はこの2人の関係性に若干の悩みを抱いているようでもある。
それでも2人は止まらない。
止まることができないから恋なんだ。
その初めてのキスシーン……つまり『友達』から『恋愛ごっこ』を経て、そして『恋愛』に発展するシーンにおいて、太陽はカンカンに照らしてしかも十字を切っている。
これは2人を祝福しているんだよ。
少なくとも、作品世界はこの愛をしっかりと認めているし、それを象徴している」
太陽の光と草花がとても印象に残る、自然が美しい作品
(C)2018 高嶋ひろみ・新書館/「あさがおと加瀬さん。」製作委員会
学校の中のキラキラ
カエル「それでいうと学校の描写も光を示す白い玉がたくさん浮いていて、とてもキラキラしていたね」
主「面白いなぁ、と思ったのがさ、これはもしかしたら偶然かもしれないけれど……学校の中で男子だけが出ているシーンがあるんだよね。もちろん、モブであってそこに意味はないかもしれないけれど……でも、そのシーンでも光を示す白い玉がたくさん浮いている。
今作はもちろん百合のお話であり、女性同士の恋愛だけれど、決して男性同士の恋愛を否定しているわけではないのかな? と感じた」
カエル「そこまでは言わなくても、この手の作品って女子ばっかりが学校にいて、共学校であったも男子がほとんど出てこない、出てきてもモブしかいないってことも多いじゃない?
本作もその意味では同じだけれど、男子が結構チョロチョロと出ているんだよね」
主「共学校の描写であるし、異性間との恋愛の可能性も示した上で女性同士の恋愛を選んだという意味かもしれないけれど、無視されがちな男子という存在をある程度でも描いているのは好評価だね」
カエル「それと、やはり『学校という限られた世界』を示すキラキラだったよね」
主「その限られた3年間だけの疑似恋愛なのか?
それともその先も続くしっかりとした恋愛なのか?
あの先も考える上で、とても大切な『学校のキラキラ感』だったね」
太陽と雨と……
本作の1番の見どころはここだ! という話だけれど……
『あさがお』とも密接に絡みついた大切な描写だね
主「本作における山田は園芸が趣味であり、園芸係にもなっている。だから草花がとても多く出ているんだよ。
じゃあ、問題。
草花を育てるのに大事なものは?」
カエル「えっと……水?」
主「そう。水と、そして太陽の光だ。
太陽の光というのは前述したように本作でも多くのシーンで魅力的に使われている。キスシーンの多くは太陽のもとで行われているしね。
では、水は? それはあの雨なんだよ」
カエル「終盤のちょっと辛くなってくる描写に加えて、雨がザーザーと降りしきるのは映像演出としても観客に強く訴えかけてくるものがあったね」
主「でも、それだけじゃない。
今作は『草花=2人の絆』として表現しているんだ。
太陽いっぱいのかんかん照りでも草花は枯れてしまう。その中でも雨が降って水分が補給されていかないと、草花はうまく成長してくれない。
それは2人の絆も同じであり……だからこそ、本作は『太陽と雨』がとても大切な作品になっているんだ」
太陽と水が織り成す虹……この描写が2人の絆を象徴する
(C)2018 高嶋ひろみ・新書館/「あさがおと加瀬さん。」製作委員会
あの作品の影響も?
カエル「では、最後に『なんだかあの作品に似ているなぁ』のコーナーです」
主「ズバリ『たまこラブストーリー』っぽい部分が多いんだよね。
それこそラストシーンもそうだけれどさ……絶対にくっつくと解っている2人の関係性をいかに描くのか? ということも、ちょっとは影響されているような印象がある。
それと東京に行ってしまう相手に対して……というのも似ている部分はあるかな」
カエル「学校という庭を飛び出していくところとかね。
それと、やっぱり雨の描写があると新海誠感が出てくるよねぇ。
それほど新海誠監督は強く雨を意識するような描写をしたということだろうけれど」
主「1つ1つの自然表現の見せ方や光の使い方なども含めて、どことなく類似性はあるように感じられたかな。
もちろん、それでいながらも百合でなければできない物語でもあり……キチンとこの作品ならではの落とし所もある。
短いながらも、観るべき価値のある作品に仕上がっていたね」
まとめ
では、この記事のまとめです!
- 丁寧に作られた演出が見所!
- 山田と加瀬、2人の思いの差が心を揺さぶる
- 本作は太陽と雨の映画である
良作だと思うし、こういう作品ももっと観たいな、と思ったね
カエル「それこそ2本立てとかでもいいんじゃないかな?
色々そっちの方がめんどくさいのかな?」
主「短い分少しは安いけれど……それでも割高感はどうしてもあるからなぁ。
売り出し中の若手の作品とセットで公開するのも面白そうだけれど、観客が入らないのかな?」
カエル「色々な形式でアニメ映画業界も発展していってほしいね!」