物語る亀

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物語愛好者の雑文

映画『初恋』ネタバレ感想&評価 これぞ三池崇史の声も多し! バイオレンスで任侠道溢れる三池流恋愛映画!

 

今回は三池崇史監督の最新作『初恋』のレビュー記事になります!

 

 

 

おうおうおう! お前ら、覚悟してけよ!

 

カエルくん(以下カエル)

「……え、急にどうしたの?」

 

「あんまり甘い物を舐めていると、その奥歯引っこ抜いてやるけんの!」

 

カエル「うん、ただのイメージで語っているから設定がガタガタだし、それじゃただの歯医者さんじゃない?」

 

おい、短気はそこまでしておくんじゃな、マサ。少しスッコンどれ

 

はい! 亀の叔父貴!

 

亀爺

「すまんな、堅気のにいちゃん。うちのモンの教育が行き届いておらんでの……」

 

カエル「……マサって誰? まあ、この寸劇をさっさと終わらせて、記事を始めましょう!」

 

 

 

 

【映画パンフレット】初恋 監督 三池崇史 キャスト 窪田正孝, 大森南朋, 染谷将太, 小西桜子, ベッキー, 三浦貴大,


映画『初恋』特報

 

 

 

 

感想

 

では、Twitterの短評からスタートです!

 

 

これぞ三池崇史の本領発揮! と言ったところかの

 

カエル「いやー、正直さ、見にいく前は『ヤクザ映画だし、あんまりバイオレンスな映画は得意じゃないし大丈夫かなぁ?』と思っていたけれど……そんな心配が吹っ飛ぶほどの面白さがある作品だったね!」

亀「三池崇史作品自体はいくつか見ておるが、前述のようにバイオレンスな映画が苦手なために、あまり特別多く見ている監督ではない人間でも、通じる面白さがある作品じゃったの」

 

カエル「もちろんPG12とはいえ、グロテスク&バイオレンスな描写があったりとして、子供に見せるのは適しません。また、この手の描写が苦手な人にはハードな描写もあるんだけれど……字面で見るほど、恐怖感は抱かないんじゃないかなぁ?」

亀「今作の場合はコメディとしても優れており、劇場内でもゲラゲラと笑い声が上がっていた。

 ワシもいくつかのシーンでは笑ってしまったほどじゃな。

 とても怖いシーンでありながらも、きっちりと外すように笑いをとる。

 その結果、暴力的なシーンが印象に残りづらいものになっておりながらも、この手の作品らしい”任侠道”の格好良さを描き出すことに成功しておるの」

 

今作は『孤狼の血』などに、東映ヤクザ映画の復権をかけた作品だったのだけれど成功したのではないでしょうか?

 

孤狼の血

 

blog.monogatarukame.net

 

 

現代においてヤクザ映画を撮ることは難しいが、バランス感覚も優れていたの

 

 

 

カエル「その手の映画の王道を描きながらも、きっちりと現代における闇も描き出す。そしてお約束も交えつつ、啓蒙的な視点もあったよね。

 キャラクターたちも、とても優れているので、気になっている方は是非鑑賞して欲しい作品です

亀「正直にいえばうち向きの……暗喩がどうとか、そういうことを語る映画ではない。

 ただただ”面白い”というだけの映画じゃ。

 しかし、だからこそ、この映画は多くの人に受けるのではないか? そう思わされる作品でもあったの

 

(……意外と解釈が割れる映画な気もするんだけれど……それは後述かな)

 

初恋 (徳間文庫)

 

三池崇史の資質

 

今作を監督した三池崇史だけれど……これがなかなか語るのが難しいタイプの監督だよねぇ

 

近年ではダメ映画を量産する監督のイメージもあるかもしれんの

 

カエル「映画好き界隈ではVシネなどのヤクザ映画の人という認識だろうけれど、一般的には『テラフォーマーズ』とかの漫画原作作品を多く手掛けている人ってイメージかもねぇ。

 仕事を断らないことで有名で、毎年何作も映画を監督し、今年も何作も公開が発表されています

亀「タフな監督じゃな。

 三池監督自身が『干されるのが怖い』と発言しておるが、起用する側としても非常にやりやすい監督なのかもしれんの。

 ワシが見た限りだと、やる気のあるなしなどはあるものの、どの作品もそれなりに真面目に取り組んでくれる監督じゃろう。

 また予算・人手・納期などをキチンと守ってくれる監督なのではないかの?」

 

カエル「ぶっちゃけ、興行側としては売れるかどうかの方が大事で、クオリティを気にしてオオコケしたら元も子もないからね……その点、しっかりと知名度もある監督だし、仕事がたくさん舞い込むのも納得かなぁ」

 

そんな三池監督の魅力ってどこにあると思う?

 

今作を見て改めて思ったが”キャラクター”をきっちりと魅せることができる監督じゃな

 

亀「あえてここでは”人物”ではなく”キャラクター”として呼称しておる。

 今作もそうじゃが、人間の奥深さを描くような作品ではない。むしろ、それは漫画的なキャラクターというにふさわしいものじゃろう。しかしそのキャラクターたちの魅力を描き、さらに見せ場ではきっちりと見栄を切ることができる監督じゃな」

カエル「今作でも印象に残るカットや、キャラクターの見栄を切るシーンが多かったもんね……」

 

亀「現代では作家や作品よりも、むしろキャラクターにファンがつくとされている。

 そのキャラクターできっちりと見栄を切ることができるからこそ、多くの作品に関わることができるのかもしれん。

 今作はそんな三池監督の魅力を堪能した作品でもあるの」

 

ジョジョの奇妙な冒険 ダイヤモンドは砕けない 第一章

  

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役者について

 

今作のキャストに関しては文句はありません!

 

誰を見てもいい演技を発揮しておったの

 

カエル「主人公のボクサーを演じた窪田正孝も良かったね。

 体もボクサーの役にふさわしいように作ってきているし、スレてはいるけれど、異様な人が多い中でも一般人らしい異物感を演じることができていたんじゃないかな?」

亀「ワシはボクシングに詳しくないからなんともいえない部分もあるが、世界チャンピオンクラスならばともかく、一般のボクサーとしたら違和感のない体になっておったの。今作にかける思いが伝わってくるようじゃった」

 

カエル「もちろん、ヒロインのモニカを演じた小西桜子は……ある病気? を患っているんだけれど、その切実さが伝わってくる演技だったよね。

 本当に心配になりそうなほどだったし!

亀「大森南朋、染谷翔太、藤岡麻美……それぞれが全く違うアウトローな人間たちを演じており、人によってお気に入りの役者やキャラクターは異なるじゃろうが、それも納得するほどみんないい演技をしておるの

 

その中でも絶賛相次ぐのがベッキーです!

 

女優・ベッキーの見方が大きく変わる作品になるのは間違いない

 

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(C)2020「初恋」製作委員会

 

カエル「これまで好感度で勝負してきたタレントであったけれど、今作でははっちゃけた暴走女性を見事に演じています!

 裸足にパンツ姿で疾走する姿や、武器を持ってある人物を追いかける鬼気迫る表情などは、それまでのイメージと全く異なるものです!」

亀「色々あったけれども、一部シーンでは『これが極道に惚れるってことだ』みたいなセリフなどもあり、恋に翻弄される女性という意味では彼女のスキャンダルを連想させた。しかし、その全てを吹っ切ったこの演技には、拍手するしかないの。

 中には2020年の助演女優賞は決まった人もおるのではないか?

 

カエル「また、うちとしては、昔ながらのヤクザ像を演じた権藤役の内野聖陽も絶賛したいね!」

 

f:id:monogatarukam:20200229104621j:plain(C)2020「初恋」製作委員会

 

亀「予告にも使われている、日本刀の鞘を落とすシーンなどは素晴らしかった。

 鉄火場の一挙手一投足に引き込まれたの。

 決していい人のようには描けないが、男が惚れる男を体現し演じ切った姿……ワシはベッキーと同じく、今作のMVPに推したいの

 

以下ネタバレあり

 

 

 

 

作品考察

 

序盤の描写について

 

では、ここからはネタバレありで語っていきます!

 

序盤は少し独特な印象があったの

 

カエル「正直、あの予告でも使われているパンチでモニカを助けるシーンに早くならないかなぁ……という思いはあったかな。かなり多くの人が登場するし、その整理だけでも大変だった印象もあるかなぁ」

亀「この作品を見ながらワシが連想したのは『街〜運命の交差点〜』というゲームじゃな」

 

街 ~運命の交差点~ 特別篇 - PSP

 

サウンドノベルゲームの傑作とされる作品だね

 

カエル「渋谷を舞台に8人の主人公たちがそれぞれの問題を追う作品だね」

亀「今作も群像劇のような要素があるが、そこがそっくりに思えたの。各々がそれぞれ違う思惑があり、物語が進行して行く。今作の場合は……そうじゃな

 

  • 葛城を中心としたボクサー視点
  • 大伴・加瀬のヤクザを出し抜く覚醒剤をめぐる暗躍
  • ジュリを中心としたモニカを斡旋する売春組織の視点
  • 権藤を中心とした組の視点

 

 この4つが複雑に絡み合うわけじゃな。さらにメインではないが、チャイナマフィアの視点もあり、物語そのものは非常にゴチャゴチャしている印象もあった」

 

カエル「でも、それがないと後半に続かないし……仕方ないところなのかなぁ」

亀「難しい部分はあったと思うが、ワシとしてはいいバランスだったようにも思うかの。

 ここをコメディ調も含めて語り切ったのも良かったかの。若干の長さは感じてしまったが……全体的には、この難しい物語をよくまとめた、という印象じゃな」

 

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(C)2020「初恋」製作委員会
 

 

様々な困難を工夫と勢いでカバー!

 

この映画は日本では難しいとされるカーチェイスなどにも挑戦していて、結構すごいよね!

 

あのあたりは上手く撮ったと感心したの

 

亀「三池作品はダメな作品もそうじゃが、様々な現実的な撮影の困難を工夫して撮ることで成立している。

 中にはよりダメダメ感が増してしまうものがあるが、今作の場合は上手くいっておるの」

カエル「今作でいうと、明らかに問題のあるカーチェイスはホームセンター内で行ったこととかだだよね。つまり私有地であれば問題ないってロジックなんだろうけれどさ。

 それに……1番の驚きポイントはあのアニメ演出!

 

亀「あれは正直にいえば、笑ってしまったの。

 予告でも使われておったから驚くことはなかったが、何も知らない人が観たら目を丸くするかもしれん。しかしアメコミ風であることも含めて、外連味とギャグを兼ね備えたいい演出であったと思う」

 

それも”外す”技術の1つだよね

 

大真面目に作っておったら、予算もグロテスクさも跳ね上がるからの

 

カエル「首が飛ぶシーンなんてさ、あれだけで怖さがあるのに、その前に加瀬が覚醒剤でイッているシーンを見せて、しかも笑い顔で若干コメディ調に見せているから、全く怖くないというね……」

亀「この辺りもR15にならないようにするための工夫でもあるんじゃろう。

 様々な事情なども感じさせながら、それを乗り越えるための工夫をたくさん入れて映画を作る。

 それが三池崇史の資質の1つであろうし、今作では多くが上手くいったと言えるのではないかの?」

  

 

 

邦画のお約束をぶっ壊す

 

でもさ、今作ってすごく独特な部分もあったじゃない

 

あの中盤の衝撃の発表じゃな

 

カエル「正直、あんなのアリ? って思いもあったんだけれど……でも、あれがあるから物語そのものが動いたというか……」

亀「この映画はある種、死を想定している者たちというか……アウトローな者たちの話である。

 葛城も宣告を受けることでアウトローの仲間入りをしたからこそ、あのホームセンターに行く羽目になった、という解釈もできるの。

 しかし、あの中では勇逸のカタギであることが、この物語では重要なわけじゃな」

 

カエル「ふむふむ……」

亀「この映画は”恋”あるいは”愛”の映画とも言えるわけじゃな。

 

  • 加瀬・大伴の自己愛
  • ジュリの恋人を想う愛
  • チアチーと権藤の始まらない愛

 

 今作の鍵を握る言葉は『相手を思いやることを学びなさい』ということであった。それでいうと、このアウトローたちは誰も相手を思いやることができていない。全部自分が可愛い、あるいは恋が始まらない物語でもあった」

 

カエル「ジュリも自分のために恋人のスマホに勝手に追跡アプリを入れているわけだもんね……」

亀「しかし、葛城はそうならなかった……いや、そうなりかけたわけじゃが、危険の中でも相手を想う愛が芽生えたことによって、生き残ることができた。そういうロジックもきちんとあるわけじゃな。

 単なる奇跡の物語ではない

 

この映画のキャッチコピーである『誰一人欠けても、この”恋”は生まれなかった』というのが象徴的じゃな

 

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(C)2020「初恋」製作委員会

 

カエル「確かにクソ野郎ばかりだけれど、加瀬やジュリがいないとモニカを巻き込めないし、大伴がいないと2人は出会わないし、チアチーや権藤がいないとあの局面を生き残れないんだよね……」

亀「その全てがあったからこそ実った恋……それがこの映画かもしれんの」

 

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このシーンが象徴するように、今作はやはり”恋愛”映画ではないだろうか?

(C)2020「初恋」製作委員会 

全ての映画の肯定へ?

 

なるほどなぁ……単なるヤクザ映画ではなくて、恋愛映画でもあるんだね

 

でも、それだけじゃない気がするんだよねぇ

 

カエル「うわ! びっくりした!」

主「この映画ってさ、やっぱり三池崇史だからこそ撮れる映画だったように思えるんですよ

カエル「え……? それはなんで?」

主「あの中盤の大どんでん返しなんだけれど、やっぱりあれが気になるのね。やり方が唐突というか、あまりにも無理やりな気がする。

 物語に当てはめれば”生き残ろうとする者が1番強い”という風にもできるんだけれど……それだけじゃない気がする」

 

はあ……それって何?

 

やっぱり”クソ映画”を作り上げてきた三池監督だからこその作品なんじゃないかなぁ、と

 

主「今作における権藤とかって、それこそ”古き良き時代の任侠映画の象徴”とも言えるわけじゃない。かつて隆盛をほこり、日本中を席巻していたヤクザ映画たち。ある時代においては、任侠道というのはある種のヒーロー映画に近いような人気もあった。

 それらが身を挺して生かしたのが葛城たち……つまりは”恋愛映画”なんだよね。

 だから、これはある種の映画の世代交代も描いている映画なのかもしれない」

 

カエル「……え、でも東映のヤクザ路線の復権を目標としている映画じゃ……」

主「それもそれで正解だよ。

 だけれど、同時に三池崇史は”過去の作品を内包”しようとしている……気がする。

 ほとんど三池作品を観ていない自分が言うのもなんだけれどさ。

 そう考えるとキャッチコピーの『誰一人欠けても、この”恋”は生まれなかった』というのは『どの1作が欠けても、この”初恋”は生まれなかった』と語ることができる。多分、誰かはそう受け取らせようとしている気がする。

 だから、今作は三池なりの映画論でもあると想うわけ」

 

自分は三池崇史という才能はすごいんだと、改めて感じた

 

主「それはこの映画がどうこうって言うことじゃない……むしろ、その逆かもしれない。

 これほどの映画を撮りながらも……撮れながらも、クソ映画と称される危ない企画にも果敢に挑戦する。

 その結果、失敗したり酷評されたりする。それでも、自分の得意フィールドに拘らずに突き進む。

 だから、コテコテのヤクザ映画を望まれながらも、あえて恋愛映画を撮りに行く……それってギャンブルじゃない。

 むしろ、三池ほどの才能と知名度があれば、わがままを言って自分のフィールドだけで戦う人もいる。

 でも、その真逆を突き進むんだよね。

 これは途轍もないことだよ。むしろ、自分の得意フィールドでしか戦わないことで傑作を連発する人よりも、偉大なチャレンジ精神かもしれない」

 

……それって、駄作を量産していると言うことでもあるけれど、本当に褒めてるの?

 

超褒めてますよ

 

主「傑作とか駄作とかって結果でしかないんだよ。

 作り続けることで、自分の作家性を磨き続ける、自分でもよくわからない道を突き進む。

 それって、自分の得意フィールドでしか戦わない……ある種整備された道を突き進み、自己模倣を繰り返すのと真逆の道じゃない。

 その獣道……いや、道とすらいえない道の途中を、自分の作家性を限られた条件で植え付けていきながら進む。

 クソ映画だろうが、なんだろうが全ての責任を負いながら、それでも突き進む。

 その姿勢、それが素晴らしいな、と……

 その意味で、やっぱり三池崇史というのは日本で稀有な監督ですよ。

 それを思い知った。

 それこそ自然体で映画を撮れるレベルになるかもしれないね」