物語る亀

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物語愛好者の雑文

映画『旅猫リポート』ネタバレ感想&評価! ハマる人にはハマるだろうけれど……コトリンゴの音楽の素晴らしさが際立ってしまった作品

 

 

泣けると評判の映画のレビューです

 

有川浩、脚本まで書くんだね

 

カエルくん(以下カエル)

「色々と幅広い作家だよね」

 

「基本的にはなんでも書くし、なんでもやるんだから化け物みたいな作家ですよ」

 

カエル「では、その大人気作家が直接脚本を書きおろす作品ははどのような作品に仕上がっているのか、楽しみに鑑賞しましょう!」

 

 

 作品紹介・あらすじ

 多くの作品が映像化されている人気作家、有川浩のベストセラーである『旅猫リポート』を原作に実写映画化した作品。

 『植物図鑑 運命の恋、拾いました』でも有川浩作品を監督した三木康一郎がメガホンを取り、有川浩自らが脚本を手掛ける。

 主演は福士蒼汰、相棒のネコであるナナの声を務めるのは女優、高畑充希。

 

 元野良猫のナナは交通事故にあったところを、悟に助けられてそれ以来一緒に暮らしている。しかし、悟の事情により猫を飼っていられなくなったため、新しい飼い主を探すことになる。

 その道中、様々な人に出会うことでそれまでの人生を振り返る……

 

 


福士蒼汰『旅猫リポート』長尺予告編

 

 

 

 

感想

 

Twitterの短評は以下のようになっています

 

 

泣けるという触れ込みの映画はだいたいこんな話っていうのは、どうなんだろうね……

 

カエル「まあ、観る前からなんとなくわかっていたけれど、この手の作品とは相性が悪いのかなぁ」

主「自分は本作の評価は辛くなってしまう。

 周囲ではグスグスと鼻をすする音がしていたから、もしかしたらツボにハマれば泣ける話なのかもしれないけれど……この手の作品はあまり好きじゃないです

 

カエル「難病ものは確かに流行るのもわかるけれどね」

主「確かに猫好きな人には刺さるかもしれない。後は、とてもわかりやすい作品でもあるけれど……今作の監督である三木康一郎監督作品を鑑賞したのは、これが3作品めなんですけれど、やっぱり何か違うような気がする。

 ただし、音楽は素晴らしいですよ。

 コトリンゴの楽曲たちが流れるシーンでは、不覚にも涙腺を刺激された。

 でもそれはコトリンゴの魅力であって、映画や物語の魅力ではないんだよ。

 だからこそ、余計に戸惑いが大きくなった形なのかな」

 

 

 

原作者の有川浩について

 

今作の原作の著者である有川浩は今作で脚本家デビューを果たしています

 

現代を代表する大ヒットメーカーだよね

 

カエル「『図書館戦争シリーズ』『三匹のおっさん』などの大ヒットをはじめとして、多くの著作はほぼ毎年のように映画やドラマ化を果たしています。それこそ東野圭吾などと並ぶ、映画界、テレビ界がこぞって作品を映像化したがるエンタメ作家でしょう。

 その中でも三木監督は『植物図鑑』を映画化しています」

主「自分はデビュー作の『塩の街』を初版で発売当日に買って、それ以来ある時期までは刊行するたびに新作を貪るように読んでいたよ」

 

カエル「電撃文庫出身の作家は、ライトノベルレーベルということもあって当然そのままラノベ界にいることも多いけれど、有川浩は2作目で早くも一般向けの単行本を発売するなど、特異な作家になっていったね」

主「特に初期作の自衛隊三部作の中でも『空の中』『海の底』は大絶賛だよ。

 エンタメ作品として非常に完成されていたし、万人にオススメしたい作品でもあった。

 でもなぁ……最近はあまり読んでない」

 

 

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カエル「そういえば”ある時期までは”と言っていたけれど、なんで読まなくなったの?」

主「それこそ植物図鑑を読んだ時だったかなぁ……胃もたれしたんですよ

カエル「……小説を読んで胃もたれ?」

主「『図書館戦争』くらいから……まあ、有川浩のキャリアからすると結構初期なんだけれど、徐々に恋愛要素が強くなっていって、それがあまりにもベタ甘すぎて胃もたれをして、それ以来はダメになった。

 それ以降はエンタメ性がわかりやすい作品がさらに増えたような気がする。極端に恋愛描写が過激で甘かったりというのが多いけれど、本作の少なくとも映画版なんかはその最たるものかもしれない」

 

カエル「まあ、猫というテーマだけで売れる要素ではあるよね」

主「ただ、それだけではないけれどね。

 『レインツリーの国』などもそうだけれど、ある種の偏見などと戦う作家の一面もあるけれど……今作はその要素を、少なくとも映画からは一切感じないし、むしろ無神経な映画だな、という印象だよ」

 

 

 

 

役者について〜高畑充希と猫の演技〜

 

じゃあ、役者については?

 

う〜ん……これも難しいなぁ

 

カエル「主人公は福士蒼汰、猫の声は高畑充希が勤めているよね」

主「まず、自分が違和感を抱いてしまったのは高畑充希の声の演技なんだよなぁ。

 彼女の声の演技自体がうまいか下手かと言ったら、うまいですよ。

『ひるね姫』の演技は思うところがあったけれど、今回はかなりいいんじゃない?」

 

カエル「え? なんかめっちゃ褒めてない?」

主「……う〜ん、だからさ、難しいのよ。

 自分は高畑充希の猫声の演技は、あまりにも猫声すぎて、しかもそれがあまりバリエーションがないのが気になった。

 そしてこれが致命的なんだけれど……あの猫と高畑充希の演技って合ってた?

カエル「合ってた? と言われても……」

 

主「あの猫の演技がふてぶてしいし、猫って自分のイメージだともっとワガママな印象なのね。だけれど、本作は高畑充希の声もあるのか、なんていうのかなぁ……忠犬的に見えたのよ。ここがどう考えてもアンバランスだし、なんならば途中から同じような演技で飽きてきて、終盤はあまりにもうるさく感じてしまった。

 さらにいえば、全部人間に都合がいいセリフだよね。

 コメディ映画であるような人間は良かれと思ってやっているけれど、動物からするといい迷惑、というような描写は一切なくて、最初から2人は心の底から伝わり合っているというのは、物語としての面白さがないように感じてしまう

 しかも、全部猫の気持ちをセリフで表現するし……邦画ではいつものことだけれど、これって映像表現としてどうなんだろうね?

 

カエル「これだけ大規模公開ですから、誰にでも届くようにする必要があるんじゃない?」

主「本作では沢城みゆきも出演していて、これは有川浩がファンで『シアター』という作品では彼女がモチーフとなったキャラクターも登場しているから、有川自身ファンだからかなぁ。

 で、沢城みゆきは猫っぽく演技をしていないの。それは前野智昭もそうで、決して犬にだけ寄せてない。

 猫っぽい演技はワンポイントならばありかもしれない。

 実際、感情も乗っていたし。

 でも、それが延々と続くと流石にうざくなってくる。

 映画という映像で語るメディアを最大限に活かすならば、むしろ喋らせない方がよかったかもね」

 

 

 

他の役者の演技

 

高畑充希だけで長くなったけれど、福士蒼汰はどうなの?

 

自分はかなり懸念がある演技だった

 

カエル「……演技に懸念?」

主「今作って、ある種の……なんていうか、ネタバレしないように話すのが難しいけれど、色々な要素があるのよ。当然動物ものでもあるし、ロードムービーでもある。

 で、終盤の展開などは、特に10年くらい前に大ブームを迎えた展開に発展するのね

カエル「泣ける物語の王道だよね」

 

主「じゃあ、ああいう状況にある人の演技として、あれが適当なのか? って問題がある。

 本作の福士蒼汰は結構悟ったような演技をしていて、もしかしたら棒に見えるかもしれない。あまり感情を荒げずに、静かに語っているしね。それが良いか悪いかというと、自分は退屈に感じてしまった部分が大きいけれど、懸念はそれだけじゃない。

 つまり、あのような状況にある人があまり感情を荒ぶれずにいるように見える演技で良いのかね?

 

カエル「もっと激しく動揺したりとか?」

主「この映画全体に言えることなんだけれど……

”感動する映画にしよう”

”じんわりと染みるシーンを多くしよう”

という意図をとても強く感じる。

 だからこそ、本作はどことなくスピリチュアル映画のように見えてしまう。

 自分は最近、某宗教団体が作ったアニメ映画を観たけれど、そっちの方がよっぽど普通の物語だったよ。

 この主人公は悟りすぎだし、周囲の人も良い人すぎるし、困難をどのように迎えるのか? ということも綺麗すぎて……

 ものすごく強い言葉を使えば、虫酸が走る」

 

カエル「……えっと、一応フォローすると、福士蒼汰の演技が悪いって話ではないんだよね?」

主「物語と演出、演技プランなどの全体のバランスの問題だね。役者個人の問題じゃない。

 その意味では出番が多いからこそ福士蒼汰と高畑充希に文句が多くなってしまっただけで、他の役者も出番がもっと増えていれば、同じような文句を言ったかもね

 

以下ネタバレあり

 

 

 

 

作品考察

 

三木監督の特徴として

 

ここからはネタバレありで語っていきましょう

 

三木監督の過去作と少しだけ比較しようか

 

カエル「えっと、三木監督作品で鑑賞したのは、昨年公開した恋愛要素の強い作品である『覆面系ノイズ』『リベンジgiri』だよね」

主「で、この両者とも映画としての評価はそこまで高くないんだけれど……これはテレビを多く手がけてきた人の悪癖でもあるのかなぁ?

 なんか、物語に対する愛や、こだわりを一切感じないんだよ

 

カエル「今作を含めた3作品ともに、脚本の評価はかなり手厳しいものになってしまうね……」

主「テレビドラマってそれこそ老若男女が観るから、映画に比べるとさらに高い配慮が求められる。だからこそ、なかなか突っ込んだ表現はできない。

 それこそ、有川浩は『図書館戦争』のアニメ版から、聴覚障害者が重要な役を果たす話を放送できないと告げられて、怒りの声を爆発させている。

『障害を持っていたら物語の中でヒロインになる権利もないんですか?』は本当に社会に対する名台詞だと思うし、この意見を物語クリエイターはみんな胸に刻みつけなければいけない。

 これが、自分が先に語った”戦う作家”としての有川浩の一面だ

 

カエル「少し話がずれてきたので、戻そうか」

主「テレビで物語を作る際には万人に伝わりやすい物語が良いんですよ。

 テレビは視聴率を稼ぐ=万人ウケこそが最短だし、めんどくさくない。障害の話なんてやったら、非難が来るかもしれないから極力触れないほうがいい。

 その結果、物語が非常に単調なものになってしまい、しかも社会性もあまりない作品になりがちで……本作もわずかながら社会性はあるけれど、現代社会を鋭く斬りこむような作品にはなっていないね」

 

 

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無神経に感じられた2つの描写

 

問題だと思ったシーンはどこになるの?

 

1つは家族が亡くなってしまった子供に対する反応だね

 

カエル「作中では、家族が亡くなってしまった子供に対して、その友達が寄り添うような描写があります」

主「家族が亡くなった子供に対して、友達の親が『かわいそうだねぇ』って連呼するんだよ。

 そういうことを物語として描くことに、なんの配慮も感じられなかったのは、かなり問題だろう。

 それがよく現れていたのがもう1つのシーンで、後半家族が亡くなってしまった子供にさらに驚愕の事実を告げるシーンがある」

 

カエル「そのシーンは作中でも『無神経な発言だった』と謝罪するけれどね」

主「いやぁ、そんなことで許して良いのかねぇ。

 あれはまず物語としても余計なノイズを産んだだけだったように思う。本作は家族のあり方について考える一面もあるけれど……描き方がかなり乱暴だよ。

 伏線も何もなく、唐突にそのことを語り、それで物語が展開していく」

 

カエル「似たようなところだと、Twitterを中心に大好評の『若おかみは小学生』にも同じような懸念を感じていたもんね」

主「本作はさらに悪質、無自覚だからこそ頭を抱えてしまう。

 このテーマは相当重いものだからこそ、もっと丁寧に、慎重に扱うべきだよ。

 お葬式のシーンもモヤモヤしてさ、あんな形で無理に親の死と向き合うなんて、配慮がなさすぎるんじゃないの?」

 

 

 

 

映像と物語のちぐはぐさ

 

あんまりコケおろしてもなんだから、何か褒めるポイントはないの?

 

映像表現の美しさかなぁ

 

カエル「お、それは映画としてとても大事なところじゃないですか!」

主「ただし、それは物語としての映像演出がうまいとかではなくて、背景などをとても美しく撮る、って意味だけれどね」

カエル「……また褒めてるんだか貶しているんだか」

 

主「序盤に出てくる団地と桜のシーンがあるけれど、そこはとても美しかった。

 そこに暮らす一家がどれほど幸せなのかが、何も語らずとも一気に伝わってきた。

 この一連のコメディシーンは有川浩らしいなって感じてさ。

『三匹のおっさん』などもそうだけれど、結構コメディ描写も多い作家なんだよね。その味が活きた一連のエピソードだったんじゃないかな?

 子役演技は苦手だけれど、そこはグッときたね」

 

カエル「他にも虹のシーンやあとは月なんかもとっても綺麗だったよね」

主「それとこだわりを感じたのが、団地に住む一家の家の中の様子なんだよ。

 映画だと生活感が全くない、異様に片付いた家なども出てくるけれど、小学生の男の子がいる家なんて物が溢れていて当たり前じゃない?」

カエル「それは偏見もあるだろうけれど、団地だから収納スペースは限られるのかな」

 

主「それがすごく良くてさ、子供部屋に黄色い帽子がかかっていたり、お父さんがパジャマ姿だったり、もう雑多な家なわけ。

 一方で終盤に訪れる家は、引っ越してきたばかりということもあってとても片ついている。ここだけでも、団地のすでに完成して何年もすぎる家族と、新しい家の新しく生まれた家族の差がとてもよく描かれていたよね」

 

 

奇跡は

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  • コトリンゴ
  • サウンドトラック
  • ¥250
  • provided courtesy of iTunes

 

猫と月の対比〜本作が描いたメッセージとは?

 

他にもうまいところはあるの?

 

やっぱり、前に書いたのととかぶるけれど”猫と月”かなぁ

 

カエル「背景描写の一環になるのかな?」

主「自分が特に気に入ったのは猫が月を見上げるシーンであり、ここは当然のように夏目漱石の『I LOVE YOU=月が綺麗ですね』のモチーフを使っている。

 本作では冒頭で『吾輩は猫である』のセリフを引用していたけれど、それはこのシーンでも生きていて……あの満月の美しさの分だけ、それだけナナが悟のことを思っている、大好きであるということが伝わって来る描写だった

 

カエル「しっかりと映像でも語っているんだね」

主「あとは、作中でもあったのは『親になってはいけない人もいる』というセリフで、これは悟の特別な環境と、今の日本社会におけるネコが置かれた状況を示している。

 あの時悟が受けた行為は、そのまま今の日本でネコが受けている行為と同じになるんだ。

 だからこそ、あそこまでキメ顔で語っている」

 

カエル「つまり悟=猫(ナナ)という描き方をしているんだね。

 確かに、なぜ悟があそこまでナナを一生懸命に助けたのかといえば、両親に関することがあったからであり、猫=愛する家族という描き方は一貫していたよね。

 あれ? じゃあ結構うまいんじゃないの?」

 

主「う〜ん……でもさ、それをやりたいのは分かるけれど、作品として違和感がなかったか? と言われるとね。

 あまりにも唐突すぎたし、それが違和感につながってしまった。

 その意味では意義は認めるし、”戦う作家”としての思いは伝わるけれど、でも褒めはしないかなぁ……

 

 

 

最大の魅力、コトリンゴ

 

それだけ文句を言っていても、絶賛するポイントがあるんだよね

 

コトリンゴの歌声は涙腺を刺激するよ……

 

カエル「今作では3度ほどコトリンゴの挿入歌が挟まれますが、それが非常に魅力的で、涙腺を刺激します!

 とくにOPは作品世界に一気に引き込むよねぇ」

主「……ここもさ、コトリンゴの歌唱力や楽曲は大絶賛する一方で、映画として良いのか? って思うポイントでもあって。

 もちろん映画における音楽って非常に大事だし、いちいち例を挙げるまでもなく魅力的な挿入歌によって、傑作になった作品なんて古今東西いくらでもある。本作が泣ける映画に仕上がっているのは、コトリンゴの歌声の力が強いだよね」

 

カエル「映画に対して色々と文句を言っていた人からしたら、あの挿入歌はあまりにも完璧すぎて逆に文句を言いたくなるのかな?」

主「……この辺りに三木監督への違和感が生じるのよ。

 というのも『覆面系ノイズ』は人気ロックバンドのマンウィズが作曲したこともあって、音楽自体は良いの。もちろん、好き嫌いはあるし、中条あゆみがうまいか下手かは意見が割れるかもしれない。バンドの物語という音楽映画だと考えれば当然のことかもしれない。

 でもさ、それを考えると三木監督がやりたいことってなんだろうって本当に疑問に思う

 

カエル「ここまでをまとめると、背景などを美しく撮ることを目指していて、さらに音楽の使い方もうまいのに、物語に対してはそこまで愛を感じないってことだもんね」

主「本作もその意味では120分かけたコトリンゴのPVみたいな感もあるよね。

 物語に関して口出ししないのか、あるいは他にやりたいことがあるのか、本当に良いと思ってこの物語にしているのか……

 能力がない監督とまでは思わない。

 だからこそ、不思議になってくるんだよねぇ

 

 

 

 

まとめ

 

ではこの記事のまとめです!

 

  • 劇場ではすすり泣く音も響いたが、個人的には問題ありな作品……
  • 役者陣が悪いのか、演出が悪いのか……
  • 物語ももう少し練ってほしい! 唐突な印象も拭えない……

 

酷評のようだけれど、でも観る価値がないとまでは言いません

 

カエル「結果としてダメだったポイントを上げていくとこうなったけれど、そこが良い! と思う人もいるだろうし、難病ものが好きな人ならばむしろハマるかもね」

主「この手の作品にはかなりこだわりというか、うるさい部分があるから厳しいこともいったけれど、全体的にはそこまで悪い作品ではないかな。

 有川浩の脚本という意味でも注目をしたけれど、映画としてはちょっとなぁ、という思いは拭えないけれど!」

カエル「……フォローするのか、貶すのかはっきりしたら?」