ついに人狼が実写化したね……
楽しみなようでもあり、怖いようでもあり……
カエルくん(以下カエル)
「最近のNetflixは攻めるね!
韓国では興行は苦しい思いをしたみたいだけれど、劇場公開していたら日本でもそれなりに苦しい戦いだったかな」
主
「アニメ好きには知られた作品だけれど、あくまでもカルト的な人気の作品だからね」
カエル「攻殻機動隊ですらあれだったら、人狼はもっと厳しいよね……」
主「ものすごく評価の高い作品なんだけれどな。
これを機に、アニメ版を手に取る人が増えたら嬉しいね。
じゃあ、感想記事を始めましょう!」
感想
では、Twitterでの感想はこのようになっています
#人狼
— 井中カエル@物語るカメ/映画・アニメ系VTuber(初書籍発売中!) (@monogatarukame) 2018年10月20日
韓国版を鑑賞
うーむ…良くも悪くも韓国風にされている
1作の映画としてみれば確かに面白いが、これを人狼として認めてしまっていいのだろうか?
アニメ版へのリスペクトは感じるものの、あの独特の雰囲気は再現不可能か?
これは……評価が難しいなぁ
カエル「元々のアニメ版の人狼が結構人を選ぶ内容で、しかも癖が強い上に物語も複雑で理解しづらいという、なんとも言いづらい作品ではあるもんね」
主「まず、間違いなく言えるのは万人ウケする”面白い”作品は韓国版です。
自分も人狼という作品に興味があると言われたら、まあ韓国版をオススメするかな。
特にアクション描写も派手であり、ここは邦画ではほぼ不可能と思われるものであり……それを考えると、この実写が韓国で作られたのは良かったと断言することができる。
でも、一方で問題もあって……これは韓国映画全体に言える気がするんだけれど、多くの作品がエンタメとしての面白さを確保するために、かなり作為的な物語になってしまうんだよ」
カエル「今作も相当わかりやすくなったもんね。
アニメ版は公安がどうとか、セクトがなんだとかっていう話に加えて、スタートから独自設定の世界情勢を伝えたりするナレーションも入るから、情報量が非常に多いし……」
主「その点、今回の実写版はとてもわかりやすくするために、色々な工夫が取られていて、しかも1つ1つの描写をしっかりと尺をとって描いている。
結果的に120分を超える長尺にはなってしまったけれど、でも飽きることがないであろう作品になっている。
ただ、それが人狼の魅力につながるかというと……それはまた別のお話なんじゃないかな」
アニメ版の人狼について
では、簡単にアニメ版について触れていきましょう
本来はそれだけで1記事できますが、手短にね
カエル「まず、アニメ版は押井守のケルベロスサーガというシリーズの1つとて制作されています。ただ、この作品だけでも完結しているので、特に他の作品を見なくても問題ないです。
1999年に製作され、日本を代表するスーパーアニメーターである沖浦啓之が初めて監督を務めた作品です。原作、脚本は押井守のほか、作画監督に西尾鉄也、演出にTVシリーズ版の『攻殻機動隊』などの監督を務める神山健治のほか、平松禎史、黄瀬和哉、井上俊之などが主要スタッフとして参加しています。
また、製作担当に現在P.A.WORKSの代表を務める堀川憲司、また製作進行に『クレヨンしんちゃん』の映画作品の監督を務める橋本昌和が名を連ねるなど、今でも第一線で活躍する一流クリエイターの多くが参加していました」
主「本当、とんでもない伝説的な作品よね。
おそらく、今現在においてもある種の作画アニメの最高峰の1つ。
リアルな作画というのかな? 人体の動き方であったり、あるいは重厚感、銃器や兵器の描写などはどれをとっても最高の作画レベルを誇る作品です。
ただし、それが全く派手でないことが最大の問題」
カエル「作画が凄い作品と聞くと『君の名は。』とかってとてもわかりやすいんだけれど……絵がすごく綺麗で、ヌルヌル動いてというのは派手だからね。
でも、本作はすごく地味な作風でもあって……」
主「本作の本当のヤバさを理解できるのはアニメーターしかいないのではないか? と言われている。
例えば、主人公たちが着るプロテクトギアの重厚感や、有名なのは螺旋階段のシーンで、とても難易度が高い作画なんだけれど、でもあまりにもさらっと普通にやるので一般的な観客には全く伝わらない。
しかもこれが今のデジタルと違ってセル画で作られているんだから、もしかしたら日本最高のセル画アニメかもしれないね」
プロテクトギアも見事に再現!
人狼を実写化する意味
そんな人狼を実写化するという、とても凄い英断を下しているんだね
……ここは1つ難しい部分でもあるんだけれどね
カエル「難しい部分?」
主「人狼らしさってなんだろう? って問題というか……自分は恥ずかしながらケルベロスサーガは詳しくなくて、それこそ人狼しか知らないようなレベルなんだけれど。
人狼の魅力の1つがその高い作画レベルにあるのは間違いなくて、最高峰の作画クオリティでキャラクターが動くだけで快感が大きいんですよ。
本当にちょっとした仕草……例えば走ったり、しゃべるだけでも面白い。
アニメで難しいのはいかにキャラクターに芝居をさせるか、という問題だけれど、あまり動かないシーンでもアニメが好きな人間には大きな快感があるんですよ」
カエル「それはアニメならではの魅力だよね。実写だったら人が話す、動くなんて当たり前のことすぎて快感にはつながりにくいし……」
主「さらに難しいのは、アニメの人狼の魅力の1つが架空の東京の街であるということ。
本作はアメリカが参戦しなかった第二次世界大戦という独特の設定を組み込んでいるけれど、作中の年代的には1960年代あたりをイメージしていると思われる。
ちょうど学生運動が激しい時代だよね。その時代の東京の街並みも再現していて、それがどことない懐かしさなどに溢れていて……それこそ、公開があと5年遅ければ『3丁目の夕日』で巻き起こった昭和ブームにうまく乗れたかもしれないな」
カエル「それだけ当時の東京の街並みにがしっかりと描かれているということだね。
……なんか沖浦監督作品だけれど、すごく押井守っぽいことしているなぁ」
主「当初は押井守を監督にする予定だったらしいからね。
つまり、この作品は作画技術というアニメならでの快感と、当時の東京の街並みという美術設定の面白さを兼ね備えているんだ。
正直な話をすると、自分は銃や装甲、メカなどにほとんど興味がなくて、細かい銃の動きや違いなどは全くわからないんだけれど、そこに魅力を感じる人だってたくさんいる。
それをどこまで再現することができるのか、また快感に繋げることができるのか?
アニメならではの快感をどこまで実写で描けるのか……というのが問題になってくるんじゃないかな」
以下ネタバレあり
作品考察
エンタメ作品としてよりわかりやすく
では、ここからはネタバレありで語っていきます!
かなりエンタメとして優れた作品になっているな
カエル「原作の要素もしっかりと取り込みつつ、アクションを中心にとても面白い作品に仕上がっているよね。
多分、今の所アニメが好きな人を中心に人気が広がっているかもしれないけれど、アクション映画や韓国映画が好きな人の方が本作を気にいる可能性が高いんじゃないかな?」
主「それは冒頭の会話からそうだよね。
本作では主人公が在籍する特機隊、公安、セクト(過激派運動家)の3者の物語になっているんだけれど、アニメではさらに首都警なども絡んできて、かなり複雑な作品だ。
それを整理して首都警を排除し、最初から公安と特機隊の対立を描くことによって、あくまでも今作の敵は公安であるという、組織内の権力争いであることを強くアピールしている」
カエル「これは声優ファンの見方だけれど、吹き替え版は主人公には細谷佳正、上司には三木眞一郎、ヒロインには坂本真綾と声優好きに人気の高い、アニメなどでも活躍する有名どころが出演しているから、誰が重要人物かわかりやすくもあるよね」
主「元々アニメ版を見ているから、もちろん誰がどのような立ち位置なのかわかるけれど、初見でもわかりやすい。
これは正しい判断だよ、アニメ版を鑑賞したことがない人の方が圧倒的に多いわけだし」
カエル「今作のメインの敵である公安に所属するかつての同期だったハン・サンウも結構出ずっぱりで、わかりやすい悪役になっていたよね」
主「……じゃあ、それがいいのか? って話ですよ」
赤い服装が画面により映える
政治劇が減り、わかりやすくなった弊害も
わかりやすくなっても文句を言うんだ
……いや、まあ押井信者だからねぇ
カエル「でも、まあ確かに押井守監督どくとの言い回しとか、会議の理解の追いつかない会話なども一切なくなってはいるよね。
あれって説明シーンのはずなのに、観客には全く理解できないから、どれだけ意味があるのかわからないけれど」
主「例えばさ、本作の疑問点では何で近未来の話にしたんだろうか? というものがあって……もちろん、その方がアクションやSF要素を入れやすいというのはあるかもしれない。
中盤の飛び降りるシーンや、ドローンを使った戦闘などはSFとまでは言わないまでも、若干近未来の戦闘のようにも見えて『攻殻機動隊』を連想したし。
多分、少しは意識していると思う」
カエル「作品からは押井守への愛が伝わって来るよね」
主「でも、北朝鮮との統合がどうたらという設定はあんまり意味をなさなかったな、という印象がどうしても拭えない。
ただの組織内の権力争いだからね。
だったらさ、旧政権への抗議デモなどが巻き起こった1980年代後半を舞台にしたほうが、もっとわかりやすいと思うんだよ。日本では学生運動の時代を選択しているし、架空の歴史モノだからできないことはない」
カエル「う〜ん……韓国の場合は日本の学生運動と違って、民主化も勝ち取っているし、学生運動を悪のように描くことはできないんじゃないの?」
主「あ〜……そういう事情は確かにあるかも。
近未来にしてしまったことで、あの独特の雰囲気がなくなってしまったようにも感じられてしまってさ。
これは翻訳の問題かもしれないけれど、赤ずきんの物語もそこまで魅力がなくなってしまって……あの独特の節回しが好きだったのに」
カエル「……押井信者の感想だねぇ」
人狼とは何か?
で、結局は最初に語ったここにたどり着くんだ
人狼とはなんだろうね?
カエル「リメイク版の悩みでもあるよね」
主「アニメの特異的な作画も実写になると当然失われてしまい、押井脚本の複雑さや難解な台詞回しもなくなってしまった。まあ、アニメ版は退屈な部分も多くあるんだけれどね。
もちろん、本作が人狼とは別物の作品だ! とは言いません。
実写リメイク版ならばエンタメ作品寄りだけれどかなり楽しめるし、人狼という作品の物語はしっかりと踏襲しているし、何よりも原作への愛が溢れている。
中盤の赤ずきんの話をするシーンなんて鳥肌ものだよ。
アニメ版のED曲とアニメを意識したような寓話を見せる演出は本当に素晴らしかった」
カエル「それだけ絶賛する内容だと思いながらも、どこかノレないところがあると」
主「こればっかりはねぇ。
自分が好きな人狼って退屈で、眠くなって、それでも最後のあのシーンでガツンとやられる感覚が好きなのよ。
しかも、軍事オタではないから実際のところはわからないけれど、少なくとも自分が見た限りでは一切の無駄がない。
これは実写版の欠点だけれど、終盤でアニメ版から大きな改変をするシーンがある。その際に、ある人物がアクションを始めるんだけれど、そのシーンは全く持ってナンセンス。普通に考えれば、狙撃でどうにかしてしまうから、あんな風な格闘シーンには絶対にならない」
カエル「う〜ん……あの人がわざわざ直接出向く必要はなかったのかな」
主「しかも最後にあそこを見せ場にしてしまったせいで、一番大事なプロテクトギアのマスクが外れてしまうんだよね。それは役者の顔が見えないと観客に対して混乱を招くという映画的な理由だろうけれど、それが大きなノイズになってしまっている。
だけどエンタメとしてはこれが正解だと思う。
公安の彼がトンデモナイ小物になってしまったけれど、すごくわかりやすい。
でもそれは自分が好きな人狼の魅力とは大きく違っていて……この辺りが押井守が関わった作品の実写化が難しい理由になってくるのかな」
トラウマを植え付けるシーンもしっかりと再現
ラストについて
多分、誰もが語ると思うけれどあのラストについてはどう思う?
う〜ん……難しい判断よねぇ
主「ここもさっきと同じでさ、エンタメとしてこれが正解。
だけれど、じゃあ物語としては? というと……やっぱりアニメ版の方が好み」
カエル「アニメ版の衝撃のラストがあったからこそ、人狼って今でもカルト的な人気を誇る圧倒的な作品に仕上がっているようなところはあるもんね」
主「落とし所は難しいと思うよ。アニメ版のラストは普通はできない。やったら非難轟々だけれど、それをOKとしてしまえる雰囲気と、そして押井守という名前があった。
基本的に押井さんって実はアニメ作品はメロドラマが多いんだよね。
『パト2』にしろ『イノセンス』にしろ『スカイクロラ』にしろ、結局は男女の恋愛を描いた部分もあって……まあ、大体悲劇的な内容なんですが(笑)」
カエル「笑っている場合か!」
主「実は無骨なように見えて、案外女々しいというかね、そういう部分もある監督なんですよ。
で、人狼もそれは同じで、物語としては非常に残酷だけれど、だからこそ美しい物語になっている。
だけれど、今回の実写版は見かけ上は美しい物語になっているんだけれど、でもそれがあんまりマッチしていないというかね……いや、合っているんけれど、でもこのラストで伝説の作品になりましたか? と問うと、かなり微妙な部分があるかもしれない。
その意味では、今回の実写版人狼は韓国映画の面白い作品にはなったとしても、10年後に鑑賞されるような作品ですか? と問われると……それはかなり怪しいと思っている」
カエル「アニメ版と比べてしまうとどうしてもね……」
主「美しい万人向けの終わり方って、美しいからこそ印象に残らない可能性がある。むしろ、悲しいラストの方が印象には残りやすい。
安易に悲劇を選択するのもよくないけれどね」
まとめ
ではこの記事のまとめです
- 人狼の実写化として、エンタメ作品として完成度が高い
- アニメ版が好きな人、押井信者には少し違和感もあるかも……
- アニメ版への愛が多く詰まっている作品!
どうしても押井信者からするとね
カエル「この辺りは元の作品が好きであれば好きな分だけ、違和感は出てきてしまうよね」
主「逆に、原作を見たことない人の方が好きだろうし、韓国映画が好きという人にはオススメする。
間違いなく面白いし。これを劇場で見たかったな、という思いはとても大きいし、1800円全然払える作品ですよ。韓国ではそこまで受けなかったけれど、悪い作品じゃない。
おヒマがあれば是非大きなテレビで鑑賞してください!」