今回は『鹿の王 ユナと約束の旅』の感想記事になります!
先に言っておきますが、基本的に絶賛意見です
カエルくん(以下カエル)
「お、今回は褒め意見なんだね」
主
「『どうせコロナを理由に延期でしょ? 制作が間に合ってないんだろうし、こりゃダメだろうな』とか言って申し訳ありませんでした。
この出来ならば延期も納得といえるくらい、とても素晴らしい内容になっていました」
カエル「というわけで、誰に向けてなのかもわかりませんが土下座も披露したところで、感想記事のスタートです!」
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感想
それでは、Twitterの短評からスタートです!
#鹿の王
— 井中カエル@物語るカメ/映画・アニメ系VTuber(初書籍発売中!) (@monogatarukame) 2022年2月4日
なんと芳醇で豊かなアニメなのだろうか。人の動きや生活、文化、自然や動植物を描き世界を描き作ると同時に社会と人生、生命を語り切る
東映アニメーションからの日本アニメの伝統はまだまだ生き続けていたのかと感じ感慨深い。真の意味での作画アニメであり傑作というほかないでしょう pic.twitter.com/3yiKdrcgQf
確かに2時間弱の映画では難しい物語なのですがしっかりと腕のある日本オールスターとも言えるアニメーターが集まり時間をかけて制作すればこの作品が生まれるのかとわかりましたし、この映像体験はまさに映画館ならではのもの
— 井中カエル@物語るカメ/映画・アニメ系VTuber(初書籍発売中!) (@monogatarukame) 2022年2月4日
久々に「日本伝統、本流のアニメ映画」を観た気分です
これはまた、とんでもないアニメ映画が生まれたものだ!
カエル「今作はちょっとだけ意見が割れているところもあって、大手映画レビューサイトだと評価がそこまで高くないんだよね」
○ 映画.com → 2.5
○ Yahoo映画 → 3.1
これだけ評価が割れているなかで、うちは絶賛ということだけれど、その差ってなんだと思う?
……これを言っちゃいけない気もするけれど、単純に”アニメへのリテラシー”の問題じゃないかな
じゃあ、どういう人がこの映画を楽しめるわけ?
……冒頭のカットだけれど、モブである男性奴隷が落ちるシーンを見て『この倒れ方や重力表現がすげぇ!』となる人だね
こういうアニメ表現が気になる人は、ずっと面白いと思う
カエル「……なんとニッチなアニメなんだ」
主「でもさ、今作の楽しみ方ってそういうところなんだよね。
徹底的にアニメ表現で語っているし、物語も映像表現力を信じているのか……もっと単純に尺が足りないのか、説明ゼリフもたくさんあるんだけれど、説明しきれていない。だけれど、この映像表現で全部伝わってくる……そういう作品なんだよ。
逆に、そういう視点に興味ないよって人は……ほとんど刺さらないかもね」
動物たちの書き分けや動きに痺れます!
声優について
ちなみに、声優についてはどうだった?
とても良かったのではないでしょうか
カエル「今回は芸能人声優として堤真一、竹内涼真、杏などが参加しています」
主「今回は絵と声が結構合っている印象があった。やっぱり、リアル寄り路線だから芸能人声優の朴訥とした演技が合っていたのかもしれないね。
アニメ声優陣もそこまでアニメアニメさせる方向ではなかったと思うし」
カエル「ふむふむ」
主「芸能人とアニメによく出ている声優が合わさると、演技の方向性が微妙に違って浮くこともあるけれど、今回はそういうことも少なかった。ちょっと杏がんん? と思うところはあったけれど、それでもキャラクターに合っていたのでOKです!
それから、音楽も今回は映像とマッチしていたし、全体的に文句が少ない作品となりました」
作品考察
近年の”作画が素晴らしい”とは何か?
『鹿の王』って、他の作画がいいアニメと何が違うの?
……そもそもさ、”作画がいい”ってどういう意味よ?
カエル「え、なんだろう。それこそアニメにおける映像がすごいってことじゃないの?」
主「今はアニメに対する評価として一般の人でも『作画が良い』と語るけれど、じゃあその作画って何よ? と一歩進めてみよう。
結構この辺りの話は難しくて、自分もわかっていないところがあるかもしれないけれどね」
カエル「この話って根が深くて、アニメ制作者やプロデューサーの方が『一般の方がいう”作画が良い”とプロがいう”作画が良い”の意味が違っている』という発言も聞いたことがあるよね」
主「近年はそれこそ『鬼滅の刃』やら『呪術廻戦』のMAPPAとかが注目を集めているけれど……もちろんこれらの作品も一定以上の作画レベルにあるけれど、撮影とかCGのセクションの力もある。
そしてアクションも高速で楽しめる作品なんだよね。
そういう、わかりやすいアニメの映像的快楽を『作画が良い』と指しているのではないだろうか」
つまり、作画(原画・動画)の良し悪し以外の映像の迫力のことを『作画が良い』と語っている可能性ということかな
映像が派手でわかりやすくて、普段アニメを見ない人にも伝わる映像の迫力があるよね
カエル「もちろん、これも日本アニメが……特にデジタル化以降、撮影技術などが進んで手に入れた進化であり、立派な功績でしょう」
主「一方で『作画が良い』って、そういう意味だけではないと思うんだよ」
極論を言えば”バカでもわかるアニメ表現”とは別の進化
すんごく極端なことを言えば……今のアニメってバカでもわかるように進化しているんだよね
カエル「いや、それはだいぶ極論なんじゃ……」
主「だから極端に、それこそ誰にでも通じる言葉で言っているけれどさ。
それこそ新海誠作品とかも、音楽をバンバン鳴らして、物語を盛り上げている。そこで観客が感情を昂らせて泣いたり笑ったりするようにね。あとは上記のようなアクションアニメとかも、誰が見てもわかりやすくて凄い映像なんだよ。
それはそれで間違いとは言わない。
それも立派な進化だ。
だって物語は……アニメは玄人やオタクだけのものじゃない。アニメを普段見ない人、子供、お年寄りにだって門を開くべきだ。
『バカでもわかる』というのは、別の言葉で言えば『初めてその表現に触れた人でも凄さがわかる』というものなんだ」
一方で『鹿の王』はそうではないと?
ほとんどの人は猪の骨格なんて興味がないでしょ?
カエル「パンフレットで今作の監督を務める安藤雅司が『もののけ姫』の作画監督を務めた際、宮崎駿監督に『猪の骨格がわかった!』と説明されたと明かしていますが、今作もそういった楽しみ方があると」
主「本当にすごいアニメ表現、日常表現って通じないもどかしさがあると思っていて、自分もそうだけれど、普通に見ちゃうんだよね。
これは作画監督補佐の筆頭でクレジットされており、チーフアニメーターも務めた日本を代表するアニメーターである井上俊之が別作品(地球外少年少女)のインタビューで語っていたことんだよ」
井上:アニメーターは原画を描くためには絵を鍛えるけど、絵力を鍛えたりする場はなかなかないんです。原画を突き詰めれば独特のデッサン力は身に付くけど、一枚絵の華みたいなものからは遠ざかっていく。
吉田君の絵にはそういう華がある。僕も絵描きの端くれだから、パッと描いたら、みんながおっ!となるような絵を描きたいんだけど、原画にならないと僕の良さは出ないので、吉田くんは僕にないものを持っている存在なんです。
今は”一枚絵の華”ばかりが持て囃されてしまっているのではないだろうか
主「井上俊之って、日本最高峰のアニメーターであることは間違いないけれど、その癖があまり感じられないというか……とても自然に見えてしまう。
例えば上記で挙げた『冒頭のモブの奴隷男性が倒れるシーン』は、多分……完全に憶測だけれど、今作でも参加しているし沖浦啓之の作画か、あるいは作監したような気がするんだよね。重力というか、体の動かし方がそんな感じだったし。
井上俊之などは、その動きも癖があまりないように感じられてしまう。だから、あんまりアニメ表現に興味がないと”普通に”見えてしまうのかもしれない。
その普通がとてつもなく偉大なんだけれどね」
リアル路線のアニメ表現
つまり一枚絵の華……言うなればケレン味とかの派手さではなく、その”普通”こそが重要な作品であると
そうそう……リアル路線がすぎて、あまりにも普通のアニメに見えてしまうというね
カエル「そういえば、上記の記事で井上俊之はこういうことも語っているよね」
井上:そうですね(笑)。彼(礒光雄)は80~90年代を通じて“リアルアニメ”というものを牽引してきた存在ではあるんですけど、本人の中では、実はリアル一辺倒ではなく、画が動く面白さみたいなものを追求する部分があるんですよ。
僕自身がリアルアニメをやってきて、どうもそちらばかり突き詰めても楽しくはならない。描いているほうも見ているほうも楽しくならないと思っていた時期に『電脳コイル』に出会い、リアル一辺倒ではない、アニメならではの良さを再認識できたので、彼の作品であれば、またそれが体験できるのかなと思ったんです。
この映画からは80年代〜90年代のリアル指向のアニメみたいな雰囲気が感じられるんだよ
カエル「リアル指向のアニメというと……それこそ『AKIRA』とか?」
主「あるいは『人狼』とか、そういった作品。『AKIRA』はまだケレン味もマシマシだったけれどね。
昔、井上俊之の講演みたいなものにいったことがあるんだけれど『今はケレン味の方にアニメーターもいってしまって、リアル寄りの作画をする人が減ってしまった』と語っていたからこそ、この作品に尽力したのかもね。
それくらい、このリアルアニメ路線は久々に見た気分だよ」
リアルなアニメって……例えば京アニ作品とかにもリアルっていうけれど、それは違うの?
リアルにも種類があるんだよ……説明がすんごいむずかしいけれど!
主「上記の引用箇所でも語られているように、リアル一辺倒って面白みに欠けるというのもあって、それを打破するためにケレン味っていうのがある。で、そのケレン味がマシマシになったのが……例えば金田系作画で有名な今石洋之などのトリガーとかさ、そういうスタジオ。
一方でリアル路線の中にも色々あって、京アニのリアルってもちろん日常描写などのリアル路線なんだけれど、同時に萌えを組み込んでいるんだよね。
萌え×リアルみたいなさ。
だから、萌えが一種のケレン味になってリアルでも飽きずに見られる……むしろリアルの解像度が上がるというのかな。そういうアニメ表現になっていると考える」
↔︎ 侘び寂びのリアル寄りのアニメ
そのバランスが大事ということでもあるんだね
主「『鹿の王』に話を戻すと、今作は侘び寂びのようなリアル要素がものすごく強いんだよ。もちろん、ファンタジーもあるけれどさ、でもわかりやすいアクション要素などは控えめ。キャラも現実に根ざしたような、控えめな個性に収まっている。
それの控えめな個性をマシマシにするのが、リアル寄りの作画なんだけれど……ここで話が元に戻るけれど、この”リアル”がわかりやすいものではないし、興味がない人にはとことん興味がないし、観客に過剰に説明しているわけでもないから、だから興味がない人にはとことんつまらない。
その代わり、ここが興味あると全編面白い。
さすが安藤雅司監督&作画監督と唸るよ」
本当に天才アニメーターたちの夢の共演だし、こんな作品は2度と生まれないかもしれない……そんな至宝とすら思わせるほどの作品だからね
リアル系の作画が描き抜いた”世界”と”文化”と”自然”
それだけリアル系の、すんごい作画を駆使して、この映画は何を表現したの?
それこそ世界と文化と自然だよ
カエル「世界と文化と自然……?」
主「同時に人間の生死すらも描いているんだよ。
この映画が今この時期に……コロナ禍で揺れる時期に公開されたのも、それ自体は偶然だけれど意味がある。
医者として医学に基づき正しい知識を探求したいのに、宗教的な考えが邪魔をしてそれができないとかさ……そういうのは、まさに今のワクチンを巡る陰謀論みたいなものじゃない。
物語でもそれを説明するけれど、モンゴルで撮影されたという第1幕の村の様子や風土、人々が暮らす風景……そういったものが文化として表現されていた」
カエル「同時に、鹿や森の深さなどの自然描写も濃厚だったね」
主「だから、この映画がリアルな映像表現で何を語ったのかというと、それは”世界”なんだよ。
異世界系とか、あるいはセカイ系とかとは全く異なるものでさ。
主人公のヴァンとかが暮らす世界を濃密に、濃厚に描いた。ヴァンという登場人物たちを、単なるアニメのキャラクターにせず、実在感を持って描き切った。世界の厚みがあるとでもいうのかな。
物語的には説明が少ないとか、あるいは中途半端とか感じる人もいるだろうし、それは間違いとまでは言わないけれど、でもこのアニメ表現に感銘を受けていると、それが全く気にならなくなる。
なぜならば、それは世界や人物の厚みがあるから。
今作はそういった物語になっているわけだ」
だから”アニメへのリテラシーの問題”なんていっちゃうんだ
もしくは、映画に何を求めるかってことかな
主「個人的には宮崎駿監督と全く同じことを、同じレベルでやったとすら思うけれどね。
まあ、日本人の多くが宮さんのアニメが原体験になってしまっているから、比較できないんだけれどさ。故郷が1番! って人も多いし。
でも、この作品は最適な形で完成されていると思うよ。
まあ、この記事も半分くらいは井上俊之の話になってしまったけれど、それだけ露出が多い人だからということでお許しください!」
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