物語る亀

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物語愛好者の雑文

映画『ロング・ウェイ・ノース 地球のてっぺん』ネタバレ感想&評価! 2019年を代表するであろう海外アニメーション映画が登場!

 

今回は小規模公開ながらも、多くのアニメーションファンに絶賛を受けている映画の紹介です!

 

 

 

 

公開規模が小さすぎて、なかなか観に行くのが難しいとは思うよ……

 

 

カエルくん(以下カエル)

「公開日には、恵比寿ガーデンシネマ内にある写真美術館ホールでのみの上映であり、その後も順次全国へと展開されていきますが、現状でも10館以下という少なさです」

 

「こればっかりはしょうがないけれど……日本においてディズニーやイルミネーションなどのアメリカ以外は、海外のアニメーション作品を広めることが難しいなぁ」

 

 

 

カエル「素晴らしい作品もあるんだけれど、アート系のアニメーションへのとっつきにくさなどもあるのかなぁ。

 特に2019年の後半は『幸福路のチー』などのレベルの高いアニメーション映画が多く揃っているから、そちらも含めて多くの方に鑑賞してほしいかな」

主「というわけで、早速ですが感想記事のスタートです!」

 

 

 

 

Long Way North [Region 2]

 

作品紹介・あらすじ

 

 アヌシー国際アニメーション映画祭でグランプリであるクリスタル賞に次ぐとされる観客賞を受賞した他、TAAF(東京アニメアワードフェスティバル)2016でグランプリを受賞するなど、世界的に高く評価されておりフランスのアニメーション作品。

 監督のレミ・シャイエは『ブレンダンとケルズの秘密』でも助監督兼ストーリーボードを担当して活躍していた経歴を持つ。現在2020年公開予定の新作を鋭意製作中。

 日本語吹き替えキャストには上原あかり、弦徳、吉田小南美、中西玲郎、前内孝文、石原夏織などが物語世界を魅力的に彩る。

 

 

 19世紀のロシア、サンクトペテルブルクに暮らす14歳の貴族の少女、サーシャは愛する祖父が北極航路の探検に出たきり、帰ってこないことを心配していた。探索船は遭難し、多くの予算をつぎ込んだ計画の破綻によってサーシャの父は苦しい立場に追い込まれてしまう。父は苦しい立場を脱却するために娘を舞踏会デビューさせて、皇帝の甥っ子に気に入れられようと画策する。

 しかしサーシャは自分ならば祖父を見つけることができると言って聞かず、皇帝の甥の機嫌を損ねてしまう。父に叱責を受けたサーシャは家を飛び出して祖父を探す冒険の旅へと出向くのであた……

 

 


映画『ロング・ウェイ・ノース 地球のてっぺん』予告編 祖父の名誉のために少女は北極点を目指す

 

 

 

感想

 

では、Twitterの短評からスタートです!

 

 

 

 

これはぜひとも多くの人に見てほしい傑作!

 

 

カエル「世界中で絶賛されたのも納得、2019年を代表するであろうアニメーション映画です!

主「うちの評価では2019年の海外性アニメ映画の中でもNo1をつけたい。

 もちろん、日本のアニメ映画と比べてもいい勝負をするどころか……自分が高評価を下した作品がテレビシリーズの続編や、ある程度の作品の文脈を理解していないと見方が変わってしまうものが多かった」

 

カエル「どれだけ『Fate』『ガルパン』が傑作だと言っても、初見であの作品だけ見てもなんのこっちゃ? となるだろうね……」

主「その点”1作だけで全て完全に完結しているオリジナル作品”というくくりでいえば、今作が今の所No1の満足度を誇る。

 また、物語、作画、演出、音楽……そういったあらゆる要素を点数化して円グラフにした場合、実車を含めてもこれだけ綺麗に大きな円になる作品はないだろう、と思わせるくらいの全体的な完成度も高い

 

カエル「あんまりネタバレせずに、アニメファンにも通じるように例えるとどんな話なの?」

主「そうだなぁ……(特に初期の宮崎駿や高畑勲作品)+『宇宙よりも遠い場所』と言えるのではないだろうか?

 今作は海外のアートアニメーションかと思いきや、内容はエンタメど真ん中です。

 老若男女に受け入れられる可能性が非常に高い。多分……小学生以上ならばお子さんも大丈夫。ちょっと辛くなる表現もあるけれどね。

 この作品の公開に向けて多くの方が尽力してきたというのも納得、絶対に映画館で見てほしい傑作となっています

 

f:id:monogatarukam:20190917201025j:image(C)2015 SACREBLEU PRODUCTIONS / MAYBE MOVIES / 2 MINUTES / FRANCE 3 CINEMA / NORLUM.

雪のシーンの寒さや静けさが印象的

 

日本人が忘れてしまったものを表現している映像美

 

一体何がそこまで優れているの?

 

映像面で言えば”日本人が忘れてしまったもの”が全て入っているんだ

 

主「これは自分たち、オタクのアニメファンも反省すべき部分なのかもしれないけれど……日本の”アニメ”は独特の進化を遂げており、それが世界的にも高い評価を得ている。そして自分などは特にそうだけれど、オタクなファンたちは……例えば萌えなどのキャラクター描写や、ロボットなどのガジェットを楽しんでいる。

 でもさ、本来アニメーションってもっと広いものなんだよ

 

カエル「それこそ『なつぞら』で描かれているような東映動画の時代のアニメとは別物になっているもんね……」

主「ジブリがその後継者と言われているし、それはまちがいないけれど高畑監督も宮崎監督も自身の作家性を入れているうちに、独自の進化を遂げた。

 もちろん東映動画の魂はあるだろうが……今ではむしろ”ジブリ的な表現”として日本人に親しまれ、今でもそれを追いかけている部分もあるだろう。

 その日本が忘れてしまった東映動画らしさ……あるいは言葉を変えれば『世界名作劇場』のようなアニメーションがフランスから登場したような感覚を抱いた

 

 

 

世界の名作アニメーションの流れを汲んでいるように感じられる

 

今作は高畑勲監督も賞賛しています

 

それも当然と言えば当然でさ、高畑監督や宮崎監督が影響を受けた作品の面影が強くあるんだ

 

主「例えば宮崎監督が強く影響を受けた作品の1つに『雪の女王』がある。1957年にソビエトで製作されたアニメーションだけれど、ディズニーとはまた違う豊かな表現を発揮している。

 この作品は今見ても通用するほど面白いんだけれど、ヒロインのゲルダや山賊の娘などは宮崎作品を見ているようだった。ここから影響を受けて自分の作品に使っているのだな、とはっきりとわかる。

 こういった作品を見ていくとアニメーションや、日本のアニメの源流がどこにあるのか? というのが分かるからそれも面白いんだ」

 

 

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カエル「その名作アニメーションの面影がたくさんあるんだね」

主「だけれど、同時に日本のアニメの影響も受けているように感じられる。

 例えば本作は3コマ打ちで製作されているシーンが多いようだけれど、世界のアニメーションと比較すると少しカクカクした感覚があるかもしれない。

 でも3コマだからこその快楽性もあって、そこは日本人に受け入れられやすいポイントだろう

 

カエル「あとは、単純に1枚の絵画として見てもうっとりとするシーンが多くあったり、動くとさらに迫力を増しているシーンも多かったね」

主「特に吹雪のシーンなどはまだ暑さの残る時期に見ているのに、半袖の腕が震えてくるかと思うくらいの没入感と迫力があった。

 ここだけを見るためにでも1800円の価値が十分にある」

 

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(C)2015 SACREBLEU PRODUCTIONS / MAYBE MOVIES / 2 MINUTES / FRANCE 3 CINEMA / NORLUM.

レイアウトなども素晴らしく、1枚の絵画としても観ていたくなる

 

写実的な日本のアニメとは違うシンプルな魅力

 

日本の……例えば同日公開の『ヴァイオレット・エヴァーガーデン』などを製作している京アニと比べるとどんな評価なの?

 

やり方は180度違うけれど、目指す場所は近いように感じられた

 

主「自分が本作を見ている時に感じたのは『ちょっとヴァイオレットぽいな』って部分だった。多分、ロシアの美術背景がイタリアをモデルにしたとされるヴァイオレットの背景と似ていたのかもしれない。

 作画の技術そのものは、むしろ真逆だと言ってもいい

カエル「京アニや日本のアニメがより写実的で、髪の毛の1本の揺れ方にまでこだわるのに対して、本作はベタ塗りで表現されており、1つ1つの描写そのものはそこまで細かさを感じないというか……

 本作は主線(アニメにおけるキャラクターの輪郭を現す線)がないことも話題になっており、背景とキャラクターが一体化しているように見えることも話題です

 

主「日本の場合は主線が細いものが流行しているようにも見受けられるけれど、一方で……近年だと『ワンピース スタンピード』のようなバトル作品では主線を太くして迫力のある作品になっていたりする。

 本作はその主線そのものがなく、さらにシンプルに作られている。

 この辺りを詳しく知りたい方は今作のパンフレットにある日本を代表するアニメーター、井上俊之の解説を読んで欲しいかな

 

カエル「日本の作品が美麗に、より精緻で写実的な表現を目指している風潮があるのに対して、本作はよりシンプルで新しい表現を目指しているようにも見受けられたね。

 その意味では高畑監督が『かぐや姫の物語』などで目指したところと同一なのかなぁ」

 

かぐや姫の物語 [DVD]

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主「ただ、自分は手法こそ真逆とはいえ、京アニなどが目指す部分と違うとは思っていない。

 今作の音響効果を見ても実際にある帆船、ルクーブランス号で船員の日常描写や所作と撮影したり、音源を撮ったりしている。

 そのあたりを考えても……なんというか『作品世界の登場人物たちをよりリアルな視点で描く』という目的自体は同一なものに感じられた。

 そのやり方が写実的でリアルなものか、シンプルで叙情的に仕上げるのか、それだけの違いなんじゃないかなぁ」

 

 

 

 

物語の面白さ

 

じゃあ、今度は物語について語っていきましょう!

 

物語が本当に素晴らしいんだ!

 

カエル「大絶賛だね」

主「少女の成長譚として、冒険作品として、ジュブナイル作品としてケチのつけようがない。

 冒険、苦難、淡い思い、友情、成長……その他にもこれらの多くのジュブナイル作品を構成する要素がほぼ全てが入っており、それも過不足なく綺麗にまとめられており詰め込まれた感もない。

 それでいて当時の社会状況も垣間見えるし、何よりも現代の物語(女性の物語)としても全く違和感がなく、嫌味もない作品となっている」

 

カエル「基本的には”貴族の少女が大好きなお爺さんを探しに北極へと旅をする”というものだよね」

主「すごくわかりやすいじゃない? 旅の目的もシンプルで、その道中のトラブルも特別な知識を必要としないものだ。

 でも子供騙しではないし、中盤から終盤にかけてはちゃんと人間の醜い部分も真正面から描く。

 あの状況では仕方ないと思いつつ、自分ならばどう行動するだろう? と考えてしまった。

 そして本作は……ちょっとしたファンタジー要素のある嘘のつき方もしているけれど、そこが本当にちょうどいい塩梅なんだよ。

 見ていて気持ちいいし、ちょっとした謎になるかもしれないけれど、それが物語に変な味を残さないでサラリと流れてくれる」

 

カエル「またどのキャラクターも個性があるもんね。変に定型的な部分は少なく、それでも普遍的な人間の営みをしっかりと捉えているし……」

主「サーシャはもちろんのこと、多くの人の心を掴むであろう食堂のおばちゃんは中期の宮崎作品に出てくるおばちゃんを見ているようだった。

 ちょっとだけ意識しているような描写もあったりしてね。

 また、男の継承のドラマでもあって……終盤の展開なんて胸が熱くなってくる。

 『宇宙よりも遠い場所』もそうだったけれど、お爺さんを目指す旅などもまるで人生の比喩のようにも感じられるし……シンプルながらも受け取り方が非常に多い物語であり、感嘆の声を上げるしかない。

 思わず『うまいなぁ』と呟いてしまったほどだからね」

 

 

 

 

まとめ

 

では、この記事のまとめです!

 

  • 多くのアニメーション映画ファンが絶賛したのも納得の作品!
  • 物語、演出、作画、音楽、音響、吹き替え陣の演技なども全てがハイレベル!
  • 日本のアニメが忘れてしまったものを内包した作品に!
  • 小規模上映だけれど是非とも鑑賞した欲しい1作!

 

多くの方に鑑賞して欲しいですね

 

カエル「今作は音楽も素晴らしかったよねぇ。スコアが欲しくなるし、少しだけネタバレすると歌付きの音楽が流れるシーンでは、うっとりと作中世界に没入したね」

 主「サントラとか発売しているのかな?

 是非とも聴き込みたいほどだった。

 全体的に満足度が非常に高いので、是非劇場に向かってください!」

 

 

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