物語る亀

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物語愛好者の雑文

アニメ映画『グリンチ(2018)』ネタバレ感想&評価 イルミネーションらしい長所と短所に溢れたクリスマス映画!

 

 

 

 

 

 

こちらは2018年に公開されたアニメーション映画版の『グリンチ』の感想になります

 

実写映画もあるから、区別が大変だよなぁ

 

カエルくん(以下カエル)

「特に本作は新進気鋭のアニメスタジオ、イルミネーションエンターテイメントの最新作ということでも注目を集めています」

 

「2000年に公開された、ジムキャリーが主演のグリンチを覚えているという人も多いのかな」

 

カエル「実は僕は今回のアニメーション映画でグリンチの存在を知ったけれど、結構昔から有名な絵本だったみたいだね」

主「かなり独特の文体の文章でもあって、これが大きく受けたみたい。

 どうしても日本語には翻訳が難しい部分もあるから、できれば言語で読んでみたいという思いもあるけれど……自分のあまりにも低すぎる英語力ではそれも不可能なので、諦めています」

 

カエル「英語を習いに行こうとしたら、初心者コースにも届いていないと言われて門前払いを食らったからねぇ……自宅に申し込み表が届くはずだったのに、それすら来ないという……」

主「初心者からでも大丈夫! ほど信用できない宣伝文句はないよ……

 そんな馬鹿話はともかくとして、感想記事のスタートです!

 

 

 

 

 


『グリンチ』予告編 (2018年)

 

感想

 

 

 

では、いつものようにTwitterの短評からスタートです

 

 

イルミネーションらしさが溢れたクリスマスにぴったりの映画だったよ

 

カエル「いつものイルミネーションらしく、音楽などのノリノリで面白い作品だよね。

 ただ、これは実写版でも感じていたけれど、物語の展開が甘いというか……」

主「当然、原作の絵本はある程度尊重する必要があるけれど、物語の尺はどうしたって短いものになる。そこをどのように脚色し、物語を足していくのかが腕の見せ所にもなってくる。

 本作はそれもある程度はうまくいっているんだけれど、もう1つ2つほどの伸びが欲しかった。

 特にグリンチに対する設定などはいいだけに、いつも通り勿体無い印象を受けたかなぁ

 

カエル「だけれど、映像クオリティはすんごく高いよね!

 冒頭からスピード感のある映像で没入するし、できれば3Dなどの環境でみた方が面白いんじゃないかな?

主「それとイルミネーションが特にこだわるのがキャラクターだけれど、今作もそこがとてもいい。

 グリンチは実写版では……ドラゴンボールでいえばピッコロのような体の色などもあって、気持ち悪い、怖いという感想が先に来てしまうようなデザインになっていた。

 ジムキャリーの演技力があるからコミカルには見えるんだけれどね……

 今作はアニメになったことで、どことない気持ち悪さの中にも可愛らしさがあり、多くの人がとっつきやすいデザインに仕上がっている

 

カエル「あとはヒロインのシンディ・ルーもすごく可愛らしかったしね」

主「今回注目して欲しいのは毛先の表現と、雪などの表現かなぁ。

 特に毛先の柔らかさはまるで人形のようであり、CGとは全く思えないほど!

 実際に人形を使ったストップモーション・アニメーションのような繊細さがあり、冬の雪山に対して独特の暖かみがあったね

 

 

 

 

イルミネーション作品に対する印象

 

うちはイルミネーションエンターテイメントが製作した映画が好きで、ちょっと贔屓目なところがあります

 

”好き”だけでいったらディズニー・ピクサーの作品を上回るな

 

 

主「まあ、上手いのは圧倒的にディズニー・ピクサーなんだけれどね。

 今の物語製作集団でディズニーを超える会社、組織は多分存在しない。それほど映像クオリティや脚本制作のノウハウ、メッセージ性はとても強くて上手い作品ばかりになっている。

 だけれど、個人的には”うますぎる”ことが減点でもあるんだよ。

 この辺りはエンタメの難しさでもあるけれど」

 

カエル「で、イルミネーションはどんな作品なの?」

主「基本的には映像クオリティが非常に高いし、おそらく2010年以降に誕生したキャラクターではミニオンが世界で最も知名度の高いキャラクターではないだろうか?

 一気にここ数年伸びて来たし、王道で万人がみて楽しめるディズニーの作品と比べると、少し悪いキャラクターが主人公というのが面白い

 

カエル「みんな大好きなミニオンは警察にご厄介になるような存在だし、そもそも1作目は怪盗グルーの物語で、泥棒の作品なんだよね。

 それに『ペット』などもバイオレンスな表現があったり『SING』も主人公のコアラの人間性に対して色々な思いが出てくるかも……」

主「本作もグルーはクリスマスを盗もうとするから、怪盗グルーと同じような主人公な訳だ。

 色々な犯罪があるけれど、泥棒と詐欺は映画の華であり、多くの作品で好意的に描かれることも多い。

 そんな”ちょっと悪い子達の物語”として、とても面白い一方で……重要なメッセージ性もあるんだけれど、物語の展開が甘いんだよなぁ

 

カエル「だからこそ、いつも歯がゆく思う部分もあるね」

主「ダメな子ほど可愛いではないけれど、そういう作品だからこそ愛してしまうということもあるけれど……

 今作もとてもいい作品になりそうなのに、あと一歩の物語の工夫や展開の面白さが足りなかったなぁ

 

 

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吹き替えについて

 

今回は吹き替え版で鑑賞したので、その感想を

 

正直に語れば”惜しい!”というのが本音かな

 

カエル「今回、グリンチを演じたのは声優経験も豊富で安定感もある大泉洋だけれど……」

主「グリンチの役は相当難しいよ。

 本来は泥棒側のキャラクターだから悪党なんだけれど、主人公だから過度に恨まれるようなことは防ぎたい。コミカルさの中に悪さと、そしてグリンチの抱える孤独感を描く必要がある。

 その意味では、大泉洋が悪かったとは言わない。

 だけれど……これは役も難しい弊害もあるのかなぁ

 

カエル「文句があるわけ?」

主「文句というか、どうしても一人芝居のようなシーンも多いんだよ。愛犬のマックスも話すわけではないし、基本的に孤独なキャラクターだからね。当然主役だから出番も多い。

 掛け合いも少ない中で、物語を1人で背負う必要があるわけで、演技の幅や力が相当求められる難役だと感じた。多分、専門の声優でも難しいんじゃないかな?

 ちょっと中盤などは飽きてきた部分もあって、それは大泉洋だけの問題ではないけれど、もう少し演技でカバーできたらもっと最高だったんじゃないかな?

 

カエル「母親のドナを演じた杏は?」

主「いわゆる芸能人声優演技っぽいところはあるけれど、それがドナにあっていたと思う。シンディー・ルーを演じた横溝菜穂も明らかに子役演技なんだけれど、だからこそ可愛らしさが強調されていた。

 ここは上手い下手ではなく、合っていたんじゃないかな?」

 

カエル「それから……グリンチの友人であるブリクリバウム役の秋山竜次もいくつかの作品で声優経験があるけれど、やっぱり声が抜群にいいんだよね。

 ちょっと歌うような演技だけれど、元々コントでも特徴的な人物を演じることも多いし、とても合っていたよね!

主「昨年公開した『夜は短し歩けよ乙女』のパンツ番長みたいな、コメディリリーフのキャラクターを演じると抜群にハマる。

 他にも宮野守ナレーションなども良いんだけれど……ここは難しいのよ。

 今回、独特なポイントが多いからこそ吹き替えは翻訳者も含めて相当難しかったんじゃないかなぁ?

 

以下ネタバレあり

 

 

 

 

 

作品考察

 

原作が独特ゆえに実写版、アニメーション版が難しい?

 

では、ここからはネタバレありで語りましょう!

 

自分は3バージョンを鑑賞しているけれど、かなり独特で難しい作品だ

 

カエル「原作が絵本だとすぐに読み終えるから嬉しいなぁ……というのは置いておいて、その難しさってなんなの?」

主「グリンチの魅力の1つに原作者ドクター・スースーの独特の言葉使いがある。

 自分は英語版を読む力はないので、日本語版を読んでいるけれど、かなり苦労しているというのは伝わってきた。

 それは今作でも同じで、宮野真守のナレーションも普通の文章ではないんだよ」

 

カエル「絵本のドクタースースーを紹介する欄に『現代のマザーグース』と書いてあったけれど、言葉遊びなどが面白いある種の詩のような面白さがある作品なんだね」

主「じゃあ、その言葉の面白さをどのように映像化するのか? という問題が出てきて、そこを実写版もアニメーション版もナレーションで描いているようだけれど……

 自分は日本語吹き替えだけしかフォローしていないけれど、それがあまりうまく行っているとは思えない部分もあったんだよね

 

 

 

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ポイントを抑えつつも難しいポイント

 

あとは絵本だから結構唐突な物語でも納得感があるけれど、それを長い尺の物語とすると違和感があったかなぁ

 

原作でも大事なポイントは抑えているんだけれどな

 

カエル「簡単に原作の流れを説明すると、このようになります」

 

  • クリスマス嫌いのグリンチがクリスマスを盗むアイディアを思いつく
  • 色々なプレゼントを盗む
  • シンディルーに出会う
  • プレゼントを捨てようとして、感動的なことが起きる
  • 改心する

 

主「ものすごく簡単にいえば、これだけの物語である。

 それをどのように肉付けするのか? というのがポイントであり、実写映画やアニメーション版に共通するのが以下の3点のかな

 

  • スーの村の楽しげな様子
  • クリスマスツリーを巡る騒動
  • グリンチの過去

 

カエル「つまり、最初にスーの村の華やかで楽しげな様子を描くことでクリスマスの良さを観客に伝え、それを恨むグリンチと対比させるってことだね」

主「映画としてもこの描写が掴みとなるわけだ。

 そしてクリスマスの象徴であるツリーを巡る騒動で1つドラマを作り、なぜグリンチがそこまでクリスマスを嫌うのか? という過去を描くことで物語に深みを与えている。

 ただ、どれだけ足したとしても問題があって……最後のグリンチが改心するポイントが、どうしても弱い。

 それでは改心する理由としては、長尺の物語としてはちょっとなぁ、という思いがある」

 

カエル「こればっかりは原作を重視するとねぇ」

主「そして、アニメ版に限っていえばグリンチの物語とシンディ・ルーの物語がなかなか交差しない。

 実は原作ではシンディ・ルーが登場するのは最後の方だけで、今作はそれを尊重した結果主人公とヒロインである2人がほとんど絡まない。そして、グリンチは孤独な存在だからほぼ1人で行動する。

 だから、自分の印象としては……”グリンチの物語はここから始まる”という印象なんだよ」

 

カエル「つまり、グリンチ2のための序章ということ?」

主「物語の第1章が終わっただけ、その第1章に90分くらい使った印象。

 このあたりが惜しいんだよなぁ……2人とも好きだし、魅力もあったから、もっと物語をしっかりと見せて欲しかった」

 

 

 

グリンチの過去で描くテーマ

 

実写、アニメの両方とも映画オリジナルのシーンとして、グリンチの過去の話があります

 

ここがテーマを生み出す上では大事なシーンになっていたね

 

カエル「えー、実写版は記事も書いていますので、そちらをご参照ください。

  それで、アニメ版はどのようなテーマになっていたの?」

主「クリスマス映画の代表として挙げるのは『ホームアローン』だけれど、実はホームアローンは伝統的で保守的な映画なんだ。つまり、キリスト教徒の中流以上の白人家族が、家族の大切さを知る物語である。

 クリスマスは諸説あるけれど、キリストの生誕を祝う祭りというのが一般的な解釈だ。ここで家族揃って祝うことで、伝統的な家族の結びつきを確認する物語が多い」

 

カエル「今作が面白いのは、シンディ・ルーの家にはお父さんがいないんだよね

主「そしてグリンチは家族を持たない孤児だからこそ、クリスマスを祝う相手がいない孤独な存在である。

 ここはとても攻めている、いいアイディアだよ! 

 クリスマスは家族の絆を確かめよう! というのに対して、現代では両親が揃っていない家族、つまり片親の家族が増えている。

 そして祝うべき家族を持たない人間はどうすればいいのか? というのは、現代的で重要なテーマである」

 

カエル「だけれど、そこがしっかりと描かれたとは……」

主「どうしても思えないよねぇ。

 そこが本作の最大の欠点………というか、イルミネーション作品の多くが抱える欠点かなぁ。

 とてもいいアイディアがあり、テーマ性が抜群に面白い作品もあるのに、展開がなぜか雑になってしまう。

 だからこそアニメーションとしての面白さも提供してくれるけれど……ここだけが惜しいといつも感じるし、今回もそんな評価になってしまうなぁ」

 

 

 

 

 

アニメーション映画としての力強さ

 

-”寒さとあたたかさの対比”-

 

……えっと、ここからはちょっとだけ難しい話をします

 

今作は最初に挙げたように”毛先のアニメーション”が素晴らしい作品だ

 

 

カエル「グリンチや犬のマックス、それから人間のキャラクターでも髪の毛の先端が揺れたりとか、本当に見ていて暖かくなる作品だったね。

 特に僕が好きなシーンとしてあげたいのは、割と序盤の方でシンディ・ルーが北極にいるサンタさんに会うために4枚重ね着しているシーン!

 あそこはモコモコとした服装と、ゆっくりと動きまわる可愛らしさもあって、とても良かったなぁ」

主「本作を彩るの要素としてあるのが”寒さと暖かさの対比”である。

 例えばグリンチの家のテーブルは非常に大きくて、多くの人が座れるけれどいるのはグリンチとマックスだけ。一方でシンディ・ルーの家は食卓は小さいどころか、ほぼないようなもので、お母さんは2人の息子とシンディ・ルーの食事を作るのに大忙しで賑やかだ。

 食事シーンを1つとっても、2人のいる現状を示しており、それがグリンチの孤独の寒さと、シンディー・ルーの家族のいるあたたかさを表している

 

カエル「ふむふむ……」

主「で、さらに語りたいのは”細部のアニメーション”についてだ」

 

 

 

細部のアニメーションが持つ暖かさ

 

細部のアニメーション?

 

ここで注目するのは”髪の毛や服の毛先の描き方”なんだよ。

 

主「本来、アニメ作品は細かい描写が難しい。髪の毛の1本1本を動かすというのは手間がかかるし、それならばベタッとした髪の毛を描写して方が楽でいい。 

 多くのアニメ、アニメーションはそうしており、特徴的な髪型のキャラクターは大まかに髪の毛を動かすことはしても、1本1本まで動かすことはしない。

 だけれど、その影響もあってかアニメーションはどこか硬質的な印象を抱く

 

カエル「ちょっと前は『デジタル作画よりもセル画アニメの方が柔らかくて暖かい』という人もいたよね。

 3DCGアニメーションはどうしても高質感が出てしまって、それを逆に利用したのが『トイストーリー』であるわけだ。おもちゃを主人公にしたら、硬質感は気にならなくなるからね」

 

主「なぜデジタルよりもアナログの方が暖かく感じるのか? 

 あるいはそう思われるのかといえば、それは”ノイズ”が含まれるからだと思うんだよ。

 例えば線のムラ、撮影時のカメラの撮り方のムラ、色の塗りのムラ、そういう小さな、普通ならば気づかないようないようなムラが無意識に作用して、それが暖かみにつながる。

 この例って他にもあって、食品では大量生産された塩よりも、海から伝統的なやり方で作られた塩の方がまろやかで美味しいと言う人もいるよね?

 塩自体はNaClの塊であるけれど、海から伝統的な作り方をすると他にも様々な成分が混ざり、その雑味が返って美味しくなると考えられているから」

 

カエル「はあ……塩は置いておくとして、それがアニメにどうつながるの?」

主「つまり、そのノイズとなるムラがないからこそCGアニメは硬質的だという意見につながる。

 では、CGアニメにおけるムラとは何か? って話」

 

 

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ストップモーションアニメーションだからこそできる味わいに満ちた作品 

 

CGアニメの細かい描写が与える意義とは?

 

CGアニメーションでもその細かい描写は必要なの?

 

もちろん、これがあるからこそ本作もまた見所のある映画になっているんだよ

 

主「ここで比較対象にしたいのは伝統的なアニメーション、つまり人形を使ったストップモーションアニメーションだ

カエル「近年だと『KUBO/クボ2本の弦の秘密』などで、実際に人形を使って作られたアニメーションだね」

 

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「これらの作品は1つ1つの人形を使って、それをコマ撮り撮影することによって制作されているんだけれど、人形は何体も作られている。

 主役にもなるとどうしても汚れてしまうから、交換する必要があるけれど、その1つ1つは同じように作られていても、全く同じではない。

 それこそがノイズによって表情が違うんだよ。

 これはCGアニメには出てこないパペットアニメーションの味であり、それを活かしたのが先に挙げた『KUBO』であったり、あるいは今年自分がトップクラスに評価する『僕の名前はズッキーニ』であるわけだ」

 

カエル「だけれど、本作では髪の毛や服の毛先の表現が細かいことで、暖かみがあるんだよね?」

主「つまり”ノイズ”に近い、人形を作る際のウールなどの質感の再現に挑戦し、それが独特の暖かみにつながっている。

 もちろん、すべてにそれがあるわけではないし、まだまだ硬質的な映像も多いけれど、いつかはもっと”ノイズ”を足すことができて、ストップモーションアニメーションとCGアニメーションの差がもっと少なくなるのでは? という思いもあるね

 

 

 

 

まとめ

 

では、この記事のまとめです

 

  • イルミネーションの良さと悪さがまたしても出てしまった作品
  • 映像クオリティは高く、アニメーションのワクワク感は強い!
  • 物語の展開などは思うところも多い……かも?
  • 毛先の表現などでCGの硬質感以外の良さが出ている!

 

いつものイルミネーションらしい作品だったな

 

 

カエル「う〜ん……厳しい評価になってしまったのかなぁ」

主「悪くはないんだけれど、期待値も高かったから、是非ともカバーしてhそいいポイントが多かった。

 まあ、クリスマスらしい作品だし、オススメはオススメなんだけれど……今回は音楽の使い方もしつこい印象を受けてしまったこともあって、そこも減点ポイントかなぁ」

カエル「次はペット2になるのかな?

 どのような物語になるのか、楽しみに待ちましょう!」

 

 

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