物語る亀

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物語愛好者の雑文

映画『幸福路のチー』感想&評価! 台湾ってどんな国? 日本中に見て欲しいアニメーション映画が日本に上陸!

 

今回はTAAF(東京アニメアワードフェスティバル)でもグランプリを受賞した台湾アニメ『幸福路のチー』の紹介です!

 

 

 

いまだにこのタイトルには慣れないところがあるかなぁ

 

 

カエルくん(以下カエル)

「うちは以前に2018年のTAAFでグランプリを受賞した際に鑑賞しており、待望の一般公開ということになりますね」

 

「この時は原題の『幸福路上 On Happiness Road 』のタイトルで日本語字幕のみで上映されていたから、どうしてもこの名前の方がしっくりくるんよね」

 

カエル「それでいうと『ぼくの名前はズッキーニ』も年度こそ違うものの同じくTAAFで上映された『ズッキーニと呼ばれて』というタイトルの方が叙情的でスッキリとするかなぁ」

主「どちらもファミリー向け感も出ていて、悪くないんだけれどね。こればっかりはどうしようもないかな」

 

カエル「ちなみに、うちは今作のクラウドフォンディングにも出資しています!

 もしかしたらエンドクレジットロールに『物語る亀』という名前で載るかも?」

主「あってもすんごい小っちゃいところだと思うけれどね。

 しかも、支援者向けの試写会もメールが迷惑メールボックスに転送されてしまい、気がつかなかったという失態まで……まあ、いいんですけれどね。お金払って観ればいいだけのお話なので」

 

カエル「そんなこんなで思い入れがある作品です! 

 では、レビュー記事のスタートです!

 あ、今回はネタバレなしの予定ですが、後半は少し語りすぎた感もあるので気をつけて下さい!

 

 

 

 

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(C)Happiness Road Productions Co., Ltd. ALL RIGHTS RESERVED.
 

作品紹介・あらすじ

 

 東京アニメアワードフェスティバルで長編グランプリを始め、オタワ国際アニメーション映画祭審査員特別賞など世界中の映画祭で絶賛を受けている台湾製アニメ映画作品。

 監督は実写映画の撮影経験や、日本での留学経験もある女性ソン・シンインが務める。

 日本語吹き替え版では主人公のチーを安野希世乃が演じ、高森奈津美がチーの親友であるペティを演じるほか、映画コメンテーターとしても活躍するLiLiCo、アニメーターとして活躍する沖浦啓之が声を当てるなど多彩な顔ぶれに。

 

 台湾で暮らす少女・チーは時々ケンカもするけれど仲のいい両親の元で育つ。学校の友人たちに囲まれながら成長していきながら、社会の変化もあり様々な困難が押し寄せながらも、変わりゆく風景と、変わることのない日常に思いを寄せる……

 

 


映画『幸福路のチー』予告編

 

 

 

 

感想

 

今回はTwitterの短評はありませんが、一言感想から始めましょう!

 

台湾から生まれた傑作アニメーション映画です!

  

カエル「例えば毎月1回Twitterで行っている映画ブロガーの生配信番組の”おれなら”とかで、機会があるごとに『この作品は見て欲しい! 応援したい!』と何度も言ってきてはいるんだよね。また、TAAF以降でも有志の方々が日本公開を応援するTwitterなどのアカウントを作って、盛り上げていったという経緯もあって……

 なんていうか、面白いとかそういうことの以前に、すごく応援したくなる作品なんだよね

 

主「一言で語るならば”台湾版『この世界の片隅に』”だと思うんだよ。

 『この世界の〜』は日本という国の歴史、第二次世界大戦という過酷な時代を生きる普通の主婦の物語だった。そしてそれが多くの人の支持を集めて、異例の大ヒットを記録することになった。

 自分はこの映画も同じような印象を受けるんだよ。

 台湾という国の歴史と文化、そして少女たちの成長をじっくりと描いている。

 もしくは、高畑勲作品を連想する人が多いかもしれない。

 特に『おもひでぽろぽろ』辺りかなぁ……」

 

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カエル「見た人が応援したくなる映画、という点でも同じなのかもしれないね」

主「今年は特に海外製のアニメーション映画……さらに言えばアメリカ以外の国の作品にも傑作が多いんだけれど、この作品もその中の1作だろう。人によっては2019年の映画ランキングTOP10に入ると思うよ。

 また”女性が活躍する映画”を愛する人であれば、刺さるものが多いんじゃないかなぁ?

 もちろん、男性でも楽しめる。

 そこまで派手さはないけれど、老若男女問わず、万人に愛される類の作品ではないでしょうか

 

 

この世界の片隅に

 

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本作の魅力について 

 

本作の魅力① 台湾の歴史と文化を反映したアニメーション

 

今作の魅力ってどこにあるの?

 

まずは何と言っても”台湾”という土地に根ざしたアニメーションなんだ

 

カエル「物語の序盤で明らかになることであり、予告にもあるので少しだけ内容に触れさせていただきますが、主人公のチーは1975年4月5日に生まれています。

 この日は台湾において非常に重要な指導者である蒋介石の命日でもあります

主「さらに言うと、チーのお父さんが元々台湾で暮らしていた本省人であり、お母さんが中国大陸からやってきた外省人なんです。だから、チーは台湾で中国語の教育を受けるんだけれど、お父さんは発音があまりうまくできなくて、お母さんと一緒に笑われてしまうシーンが出てくる。

 これだけでもすでに台湾という土地を示しているんだ」

 

カエル「つまり”台湾人とは何者か?”ということだね」

主「そう。チーというのは蒋介石亡き後の台湾に暮らす人々の象徴的存在でもある。台湾人と一言で表現しても、先住民族もいれば大陸からやってきた人もいて、その民族性は多様なんだ。

 だけれど、そこを分けることなんてすでにできないくらいに同化……という言葉が正しいのかは難しいところだけれど、共存というか、そういったことになっている。

 だから、内省人のお父さん、外省人のお母さんという両親の組み合わせはそれだけで台湾の民族性を示している

 

台湾という国、そのものが分けることのできないいくつもの文化によって出来上がっているんだね

 

そして近年あった若者が政府に対して立ち上がった『ひまわり学生運動』などの社会情勢の変化もこの映画は捉えている

 

主「だけれど、それが決してメインというわけではない。

 あくまでも主軸はチーという1人の少女がどのように成長するのか? 自分という存在、家族、友人や夢と向き合っていくのか? という人間を描いている

カエル「だから『台湾のことをよく知らないし、興味もあんまりないからなぁ…』と思わないでほしいかなぁ。

 あくまでも台湾の歴史や文化を知るともっと楽しめるというわけであって、社会派映画の側面もありつつ、メインは人間ドラマだもんね」

 

主「その点でも『この世界の片隅に』と似たようなものだと思う。

 戦争映画の側面もあるし、社会派映画らしさもあるけれど……でも、大事なのはすずさんという主人公の成長と葛藤、そして生活だ。

 今作も同じで、大事なのはチーの成長だから、そこに注目してほしいね」

 

 

 

 

今作の魅力② 文化的な影響を与えたアメリカ・日本の存在

 

今作を日本人だからこそ見てほしい、という思いはあるよね

 

台湾という国に与えた文化的な影響はとても大きいからね

 

カエル「もちろん、戦前は日本領だったことも文化的な影響としては大きいでしょうが、台湾光復以後も大きな影響を与えています」

主「何度か話しているけれど、昔……2011年くらいかなぁ? に台湾の台北に行ったことがあるんだよね。

 そこで台北地下街のマスコットキャラクターが日本風の萌えキャラクターで、しかも日本人の声優の花澤香菜が日本語で声を当てていたりさ。

 また、台湾のアニメイトに行ったら日本の漫画作品と全く違和感がないように置いている作品があって『あれ? こんな漫画が発売しているんだ』と思って手に取ったら、それが台湾発の漫画だったりね」

 

カエル「日本の作家名やタイトルが漢字に直されているのに、台湾発の漫画はむしろ日本語やひらがなの作家名やタイトルだったりして、むしろ違和感を抱かないことに違和感があったというか……」

主「自分はだいたい旅先では本屋に行くんだけれど、売上ランキング上位で日本紹介の本が何冊もあったり……かなりびっくりした覚えがある。

 台湾に与えた日本の文化的影響の大きさを実感した。そして、それはこの作品にも取り入れられているんだ」

 

 

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こちらは香港のオタク少女たちがバンドを組んだ傑作音楽映画!

日本文化の影響はアジア各国で見受けられます 

 

 

 

チーが生まれた時代が古いから、むしろ今の若者よりもちょっと年配の方の方が刺さるかもね

 

日本と変わらないであろう日常があったんだなぁ、と考えさせられるね

 

主「そして台湾にとっては国交がない……民間・政府ともに好意的な印象がありながらも政府の交流がない日本よりも大事なのは、アメリカの存在だ

 中華人民共和国(中国)と中華民国(台湾)は微妙な関係にあるけれど、アメリカは中華人民共和国と国交を結んだ一方で中華民国との国交は断絶されてしまったけれど、事実上の軍事同盟関係にある。

 武器を売ったりと色々としており、台湾のバックにいるんだよね。だからこそ、アメリカの存在は力関係の均一化に向けて重要な影響がある。それは文化も同じなんだ。

 だから、この作品を鑑賞するときは”日本とアメリカ”という視点があると、台湾がおかれた特殊な状況について色々と思いを馳せることができるのではないだろうか?」

 

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台湾版のポスター

日本人でも懐かしいと思う風景が多い作品です

 

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本作の魅力③ 台湾製アニメーションとしての気概

 

でもさ、台湾のアニメーションってあんまりイメージがわかないよね

 

アニメを作れる国って結構限られているのが現状だからな

 

主「今はデジタル化の影響もあって、比較的手軽に作れるようになってきてはいる。そして世界中で長編アニメーションが作られており”その国ならではのアニメーション”が作られている。

 例えばブラジルでは軍事政権を扱った『父を探して』が登場しているし、12月に劇場公開する『ブレッドウィナー(Netflixの邦題 生きのびるために)』は過激なイスラム教徒であるタリバン政権下で暮らす少女を扱っている」

 

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カエル「その文脈で語ると、本作も”台湾の歴史と文化を内包した、台湾だからできるアニメーション”ということができるね」

主「同時に、この作品の気概が素晴らしい。

 本作は中国大陸のスポンサーは一切入っていないんだよ。

 全部台湾内のスポンサーにこだわっている。なぜならば、大陸のスポンサーを入れてしまうと口出しされてしまい”台湾の映画”にならない可能性があったから、とのことだ。

 日本とは技術も資金も状況も何もかも違う中で、本当に1から作り上げたメイド・イン・台湾の作品だと言えるだろう

 

それだけの思いがこもっているんだね……

 

中国大陸のお金を当てにしない、というのは非常に大変なことなんだ

 

主「例えば現在世界中で大ヒットしているMCU作品をはじめとして、ハリウッド映画の大作作品では中国資本が興行的成功の鍵を握っているからこそ、中国系俳優の活躍の場が増えている現状がある。もちろん、それはいいことであるけれど、一方ではあまりにも資金源として力を持ちすぎてしまったために、中国批判をした役者などを干しているという記事もある。

 あれだけ差別や人権に関心のあるリベラルが多いハリウッドでも……いや、ハリウッドだからこそ、ある種の忖度しなければいけない状況があるわけだ。

 ハリウッドが大嫌いなトランプは逆に、台湾を公文書で国と表記するなどの中国との対立姿勢を強めているけれど、映画関係者は冷や汗モノだろうね」

 

 

 

以下語りすぎ? な部分あります

 

”願いと祈り”に満ちた物語に

 

う〜ん……そりゃ、どこも大口のスポンサーの悪口なんて言えないよね……

 

でも、本作は”台湾を描く”ということにこだわる以上、大陸に頼れない

 

主「台湾でアニメーションが作られることがないわけではなくて、実は自分は今年も新千歳空港国際アニメーション映画祭の短編部門にて台湾のアニメーションを鑑賞している。それも大陸を批判するような描写があったけれど、あまりにも苛烈で見ていて気分が悪くなるほどだった」

カエル「かなりグロテスクな要素が多くて、グロッキーになってしまった部分があったね。なぜかそのブロックは暗い印象の作品が多かったことも影響しているんだろうけれど……」

 

主「さ、本作はそのような人目を惹くような要素はあまりない……というと語弊があるか?

 例えばグロテスク・バイオレンスなシーンであったり、あるいは扇情的な場面というのはない。

 先にも述べたように”誰にでも受け入れられるであろう”作品なんだ。

 これってすごいことだと思わない?

 上記のように台湾を、自分たちの国を描く上で大陸の影響を受けないように配慮しながら描いている。だけれど、この映画は大陸への批判も……そりゃ0とは言わないけれど、あまりないんだよ。

 台湾に暮らす人はもちろん、全世界の女性、そして家族を大切に思う人たちへの”願いと祈り”に満ちている

 

カエル「いつも語る”物語とは願いであり、祈りである”という部分だね」

主「台湾という国を描く上では色々と難しい部分があると思うけれど、その現実を直視しながらも、未来をしっかりと見つめて”私たちの台湾”を描いた作品でもあるんだ。

 だからこそ、みんながこの映画を応援したくなる。

 陰鬱な気持ちではなく、明るく未来を語りたくなる。

 そんな作品だからこそ、ぜひとも多くの人に鑑賞してほしいね

 

 

 

まとめ

 

では、この記事のまとめです!

 

  • 世界中で絶賛された”応援したくなる”アニメーション映画!
  • 台湾の歴史や民族性などにも言及した台湾だからこできる作品!
  • 大陸に頼らず、でも大陸への感情を煽らない作り!
  • 未来に向けて祈りと願いに満ちた作品!

 

もっと公開規模が広がってほしい作品です

 

 

カエル「予想はしていたけれど、やっぱり日本だと公開規模がどうしても小さいものになってしまいがちだよねぇ……」

主「今の時代だからこそ鑑賞してほしい作品でもあるんだよね。

 香港が大荒れに荒れて、ちょうどこの記事を書いている今日にトランプ大統領が大きな発表をしたりしている。その香港の姿は、決して台湾も他人事ではないだろう。

 台湾からすると外国人の自分だけれど、僕はこのまま台湾は台湾らしくあってほしい。そう心から願うからこそ、この映画を見て台湾のことを知って、少しでも応援したいって気持ちが強いかな」

 

 

 

カエル「多くの人に支持される作品であり、オススメしたい作品です!

 ぜひとも劇場で鑑賞してください!」