今回はOVAの期間限定公開アニメ作品である『フラグタイム』についての記事になります!
年に1作は出てくる百合枠アニメだな
カエルくん(以下カエル)
「今回は佐藤卓哉監督が手掛けるけれど、この後にうちも大好きな志村貴子作品も制作するようだし『あさがおと加瀬さん』とセットで、百合や性の多様性を描くアニメ作品を手掛けるんだね」
主
「これも1つの三部作ってことになるのかなぁ……」
カエル「それでは、早速ですが記事のスタートです!」
作品紹介・あらすじ
さとが原作を務めた同名の漫画作品をOVA形式でアニメ化し、期間限定で上映しているアニメ作品。
監督は『あさがおと加瀬さん』など、多くのアニメ作品を手がけてきたベテラン監督の佐藤卓哉が務める。
キャストには伊藤美来、宮本侑芽の若手女性声優陣がW主演を果たしており、フレッシュな演技で青春の1ページを盛り上げている。
森谷美鈴は時間を止める能力を持ち、その間に変態行為を楽しむ少女であった。ある日、時間が停止する3分間に、クラスメイトの村上遥のスカートの中を覗いていたが、彼女には時間停止の能力が効かず、美鈴の行動がバレてしまう。変態行為を人にばらされたくなかったので美鈴は遥に対して謝罪し、美鈴はお詫びとして、遥の願いなら何でも聞いてあげると約束をする。そして、その事件を機に美鈴と遥の少し風変わりな学園生活が幕を開けるのであった。
感想
ではTwitterの短評からスタートです!
#フラグタイム
— 井中カエル@物語るカメ/映画・アニメ系VTuber(初書籍発売中!) (@monogatarukame) 2019年11月23日
ケチをつければいくらでも出てくる
色々と大変だったろうな、とも思う
でもこの作品が描いたことは単なる百合ものを超えて注目されるべきものだろう
後半は予想外の方向性にゾクゾクしたし耽美な雰囲気も味わえる佳作アニメ映画だと思います pic.twitter.com/GGTLaqIcp0
恋愛キラキラ映画というよりも、ホラー映画を見たような味わいの作品でした
カエル「この項目ではあまりネタバレせずに所感だけ話すつもりではあるんだけれど、ちょっと予想外のものが出てきたなぁっていうかさ。
『あさがおと加瀬さん』の佐藤卓哉監督だという思いもあったから、百合のキラキラした純情な思いを見に行こう! としたら、思わぬ映画が出てきたというかね……」
主「これも最近よく語るけれど、青春映画で1番重要なのは”登場人物の青春を映像に詰め込むこと”だと思っている。
そのために多くの実写映画では光が不自然なまでに強くなって、埃すらも煌めくようなキラキラ感を映像として捉えている。
では、この作品は? と言われると……それはできているんだよ。
ただし、キラキラした青春じゃない。どちらかというと……ドロドロとしか形容のできない青春だ」
カエル「……それこそ『氷菓』のキャッチコピーを思い出すなぁ。
”青春は、やさしいだけじゃない。痛い、だけじゃない。”
その辛い痛みと、ある種の優しさを表現した作品だったね」
主「本作はその性質上、劇場内はおじさんばっかりだったんだよ。でも、本当に自分が見て欲しいのは女子中高生なんだよね。登場人物たちの思いに共感する子たちって絶対にいるし、むしろ同じ悩みに翻弄されていると言える。
現代の……いや、昔からなのかなぁ、若者たちの共通の悩みとも言えるものをドッシリと描き出した作品だったのではないだろうか?」
それでもケチをつけたい部分
でもさ、ケチをつけたい部分もたくさんあるんでしょ?
……現場は相当な地獄だったんだろうな、というのが嫌でも想像できる
カエル「簡単にまとめると以下のものになります」
- モノローグ重視で説明の多い脚本
- 素人目にもわかる崩れた作画バランス
- 突飛なキャラクターたちの行動
- 間がない物語構成
主「ざっというだけでこれだけある。
モノローグの多い作品に共通するものかもしれないけれど、全部何もかも語りすぎなんだよね。
それが何でか? と言うと、本作がそこまで上映時間がないから何とか物語詰め込もうとして本来映像的に表現してほしいことを、会話で処理してしまっている。
だから物語構成にも間がなくて、かなり駆け足な印象を抱いてしまった。
あと5分……いや、3分あればガラリと違う作品になるんだろうけれど、まあ、それは難しいよな」
カエル「しかも現場が修羅場だと想像できるくらいの作画の崩れっぷりだったわけでしょ?」
主「エンドスタッフロールを観たけれど、この短い上映時間の作品であれだけ作画監督が多いのは、本当にびっくりした。また話によると劇場で販売する予定だったOVAの発売延期、またパンフレットにもスタッフロールが載っていないなどの話もある。
これってさ、多分本当にギリギリのギリまで製作していたんだろうね。
それだけ人員の確保や技術的な差のあるスタッフを起用せざるを得なかったくらい、修羅場だったんだと思う」
その結果、違和感のある作画シーンもちょいちょいあったよね……
力を入れているな! と思う部分もあっただけに残念な気持ちはある
カエル「あとは、これは物語上の問題だけれどキャラクターたちの行動が突飛に見えて、感情移入を妨げたところはあるかなぁ」
主「2人の出会いのシーンとかは、観客にガツンとダメージを与えようとしているようだけれど、残念ながら単に突飛なだけに見えてしまう部分もあった。
また中盤以降の展開で村上遥の行動が理解できない部分もあったし、ドン引きしている部分もあった。
でもそこも含めてラストとこの映画のメッセージ性につながってくるからさ……それだけに否定もしづらい部分もなくはないけれどね」
本作の長所〜声優陣の演技〜
でも、いい部分もあったわけでしょ?
まずは何と言っても声優陣の演技だね
カエル「伊藤美来と宮本侑芽の20代前半の若手声優が主演を張っていますが、特に見せ場のシーンはしっかりと感情を揺さぶられたね!」
主「伊藤美来もいいんだけれど、特にいいな、と思ったのが宮本侑芽の演技だった。
自分は初めて演技を聞いたけれど、最初は癖のある声質が小見川千明のようにも聞こえてきたんだよね。声に感情がのっているし、主に吹き替えでも活躍されていたようなので、実績十分の演技が印象に残った。
正直、今時の20代前半の若手女性声優ってよく分からない部分もあるし、これから売れていくんだけれど、その中でもまた注目したい女性声優だな、と思ったんだよ」
カエル「そして特に絶賛したいのは誰?」
主「安済知佳はすごいね!
自分は『響け! ユーフォニアム』の高坂麗奈の印象が強い。でもさ、ユーフォの場合は比較対象というか、戦う相手となる主演が演技力モンスターの黒沢ともよだから、特別演技の魅力を自分が理解していたか? と問われると、そこは難しいところがある」
カエル「あくまでも麗奈というキャラクターに惹かれていて、安済知佳に惹かれていたわけではない、ということかな。
でも声優としては役よりも役者が目立ちすぎる、っていうのも考えものな部分もあるから、それはそれで悪いことではないのかな」
主「特に今年は『荒ぶる季節の乙女どもよ』でも印象に残る演技をされていて、今作もそこまで出番が多いわけでもないけれど、自然な演技をされていたのが印象的だった。
この作品って主人公の森谷美鈴は比較的素直な演技が求められると思うけれど、村上 遥と小林由香利は二面性を持つキャラクターだから、その演技の幅が要求されると思うけれど、十分魅力的なものになったのではないかな?」
以下ネタバレあり
本作の長所〜強いメッセージ性〜
ちょっとネタバレになる部分になりますので、ご注意ください
社会で求められる役割、みたいな話にもなる
カエル「そういえば、こんなTweetもしていたよね」
アナ雪2に期待していたことをフラグタイムがやり切っちゃったんじゃないか、これ?
— 井中カエル@物語るカメ/映画・アニメ系VTuber(初書籍発売中!) (@monogatarukame) 2019年11月23日
主「あの遥の感覚って、なんとなく理解出来るものがあるじゃない?
誰からも好かれるために一生懸命努力している。嫌なことも我慢する、クラスの中心になる……でも、それでも絶対に自分のことを嫌う人が出てくる。万人に受け入れられる人になるなんて絶対に無理なんだよ。
それは言ってしまえば”社会(とじた世界)に求められる、あるべき姿”の模索というかさ。女らしさ、男らしさとはまた違う”あってほしいいい子の姿”の強要とでもいうのかな?」
カエル「今回は女子高生の話だけれど、この手の”社会であるべき姿”の話は成人女性のみならず、男でもおじさんでも誰にでもある話だよね……」
主「その役割を果たすのは嫌われたくないっていう、ただそれだけの理由なわけ。そのためにあれだけの努力を払った結果、個の存在というものが消え失せてしまう。
それってもうただのホラーじゃない?
でも、どこにでもあるホラーなんだろうなって。『本当の私って何?』というと、まるで中二病のようだけれどさ、でもその思いってすごく切実なものなのではないだろうか?」
サントラのジャケットも”時間”の要素や”あるべき姿に囚われている”というものを示す本作を簡単にビジュアル化したイラストでは?
刺激的な描写が繋がるラスト
それを描くために、あのエキセントリックな行動は必要だったと?
多分ね。改めて考えてみると、理解できる気がする
主「ある種のセカイ系に近いものはあるんだよ。
3分間だけ時間を止められる、というのも『2人だけの世界=社会と隔絶したセカイ』を生み出すことが大事だった。そして2人の出会いもエキセントリックだったけれど、もっとも人間の内側にあるもの、秘匿したいもの1つが性であるわけじゃない。だから相手の性の象徴……しかも表面上の性でもある、パンツを覗くというのは、相手の心の奥底を見に行こうという行為とも解釈できる」
カエル「じゃあ、教室内でのいろいろな行動も……」
主「全部”相手を知り、自分をさらけ出す”ことだよ。
完全に偶然だろうけれど、やっていることは『アナと雪の女王』に似ている。エルサだって誰とも関わりのない、隔絶した空間だからこそ『私らしく生きるの!』と言ったわけで、それが時間を止めるという現象として説明したのがこの作品なわけ。
でも、自分が本作が好きなのは魔法の世界が永続するものではなく、それがなくても2人の世界がきちんと存在していること。
止まる→動くというだけでも、2人だけの時間とともにキャラクターたちの進歩につながっている、いい演出だったね。ただ、作画があまり良くなかったこともあって、それでも動き出している感がなかったのがちょっと残念な部分だったかなぁ」
まとめ
では、この記事のまとめです!
- 青春期の痛みを描いた作品に
- 作画や物語には難があり、相当な修羅場だったことが予想できる……
- それでも本作の描いた”痛み”はとても意義深いものだったのではないか?
自分は結構評価したい作品かな
主「技術的には優れた点は少ないかもしれないし、多くの人が語るように『リズと青い鳥』を模倣して失敗した感もある。
だけれど、そういう技術とは違う所……魂の部分で響いてきたし、ガツンとくらうものがある女子の物語だった。その点において、評価するべき作品のように感じたかなぁ」