物語る亀

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物語愛好者の雑文

映画『GARMWARS ガルム・ウォーズ』感想 実写の押井作品登場!

『GARMWARS ガルム・ウォーズ』が日本語吹き替えされて公開された。

 鑑賞してきたので、その感想を少し書いていきたい。

 どうやら本来は2000年に公開する予定だったのだが、プロジェクト凍結をした後、2013年から撮影開始、鈴木敏夫や虚淵玄が加入し、本作が2016年に公開された経緯となっているらしい。

 でも、押井守ファンからしたらやはり実写よりもアニメを撮ってほしいものである。

(本人はやる気はあるようだから、石川Pの決定次第らしい……まあ、あんまり儲からないかな)

 

 それではいよいよ感想を

 2000年前後に見たらどうだったのかな?

 

 

1 実写の押井作品は……

 押井守といえば一部では宮崎駿のライバルとされており、日本アニメ映画界でも屈指の知名度と実績を上げていることは、疑いようのない事実である。日本ではアニメ好きを始めとした一部しか知られていないかもしれないが、海外では日本以上に評価されている監督とも聞く。

 『うる星やつら2 ビューティフル・ドリーマー 』や『機動警察パトレイバー 劇場版』『攻殻機動隊 GHOST IN THE SHELL 』『イノセンス』『スカイ・クロラ 』などのヒット作、名作、良作を量産しており、アニメ史に残る名監督である。

 

 しかし!!

 

 押井監督は他のアニメ監督と違い、実写映画にも手を出すことで有名である。実写映画の監督がアニメ業界に何らかの形で参入することは最近も岩井俊二が『花とアリス殺人事件 』を製作したり、『踊る大捜査線』の本広克行が『PSYCHO-PASS 』で参加したこともあるが、その後の活動を見ても基本は実写分野である。 

 アニメ監督が実写映画を撮るということでは変り種だと庵野秀明がシン・ゴジラを撮るが、あれはほぼ趣味の延長線上なのでカウントせず。(その後庵野監督が実写で撮り続けるならば実写転向と言えるだろうが)

 

 では、コンスタントに撮り続けている押井監督の実写作品はといえば、ことごとくコケているというのが実情だろう。口が悪いな、と思ったが「ゴミを量産している」という意見に私は反論のしようがなかった。

立喰師列伝は好きだけど、あれは売れないし人に勧めづらい。脚本を書いた宮本武蔵‐双剣に馳せる夢‐ も勉強にはなるのだが、あれはNHKの教材のようで映画なのか疑問だし)

 

 それでは本作はその評価を覆したのか!? と聞かれると……

 

 うん、まあ無理だろうね。 

 

 

2 2000年当時なら評価されたかも?

 では本作の感想に入るのだが、スタートから映像表現は確かにすごくて、迫力もあれば臨場感も抜群だった。

 もちろん2016年の技術もふんだんに使われているから、2000年の構想時ではここまでの映像の迫力は出せなかったかもしれないが、2000年でこの作品が同じようなクオリティで発表できていたら相当な評価をもらえたのではないだろうか?

 

 しかし残念ながら今は2016年であり、しかもハリウッドなどで派手な世界観を持つ CGを見慣れてしまった現代人には、少しばかり古臭く感じてしまうのも事実である。分かりづらい例えになってしまかもしれないが、テレビアニメで2000年代中盤にCGを多用した作品(ラストエグザイルやゼーガペインなど)を見たときの、全く新しい技術なのだが、あまり洗練されていなくて違和感があったことを思い出した。

 

 その意味ではやはりすごいんだけども、5年〜10年古い印象をどうしても拭えなくて、これが現在の日本映画界の実力なのだとしたら、押井監督がよく発言している「アメリカに10年遅れたCG技術」というのも納得してしまうものである。

 

10年後にどう評価されるか

 ただ、押井監督の作品は公開直後よりも、10年後、20年後に評価されるものである。

 

 例えば今では名作と名高い『ビューティフルドリーマー』も公開直後は「うる星やつらではない」と原作者に叩かれているし、そこまで売れた作品ばかりではない。

 しかし、公開から何年もたった現代になって鑑賞すると別物かもしれないが『ループ物』としてよく出来ていて面白いし、他にも『パトレイバー2』は安保法案や改憲が現実味を帯びてきた現在の世相を顧みるとよりリアリティーを感じるし、攻殻機動隊などはあの時代にあれだけのネット社会描写を描き出したという驚愕もある。おそらくこれから先『スカイ・クロラ』も再評価される時代が訪れるように感じている。

 

 その意味では押井守の表現というのは最先端の技術を使って10年先を走っている。だからその先見性に観客がついてこれないということもあるのだろう。一番わかりやすいのが『イノセンス』で、「10年後に評価される」と押井監督も語っていたが、あれほどのハイクオリティな作品は2016年現在に発表されても、違和感のないものだ。

 

 逆に現代の技術を使って10年以上昔の過去を表現したのが宮崎駿で、未来はわからないが過去は観客に伝わりやすいので、ここまで流行ったのだと思う。

 

 なのでガルム・ウォーズも10年後に日本CG映画界において、「あの時代の作品としては画期的だよな」という評価が下される可能性はあると思うのだ。

 そもそも、ここまでCGを活用して世界観を作り出す映画なんて今の日本にはほぼないし、スポンサーがたくさんついた漫画原作ですら大コケするのだから、こんな作品があっても良いのではないだろうか。

 

 

3 映画としては……

 ただ、その技術の革新であったり、先見性などの『映画史』を考えた場合に意義があるのはわかるのだが、1本の映画作品としては正直お粗末なものである。

 

脚本

 まず脚本云々言う前に、話が1番盛り上がる、ここから本番というところで終わっている。この後に続編があるのであればそういった評価を下すが、それもあるようには思えないし、結局惑星滅亡エンドですか? と疑問符がつく内容になっている。

 巨神兵が動き出したのはいいので、そこからある程度の戦闘やら何やらを見せて、ある程度のまとまりがなければ物語として評価のしようがない。

 

 世界観が特殊なので、設定を覚えるので精一杯。8つの部族がどうのとか、3つに減ったとかはわかるのだが、特殊な単語や会話が多いので、理解するだけで疲れてしまう。ある程度SFに対する理解や事前知識は必要だろう。

 

 あとは「鳥しか行けない」などがいつもの押井作品らしく、死のメタファーになっているなどもわかるのだが……それが暗喩として意味があるかというと、あるようなないような、微妙なところ……

 

音楽

 いつもの川井憲次の音楽と民謡調の歌声が多用されていたのが気になってしまった。他の作品でも使われた組み合わせであるが、似たような調子の歌も多く、作品自体が1本調子に感じられてしまう大きな要因になってしまったのではないだろうか?

 押井作品全体に言えることなのだが、やはり初見時はたるくて眠く練ってしまう。若干意識が飛びながら鑑賞していたのだが、これは音楽も影響しているのではないだろうか?

 

テーマ

 テーマとしては攻殻機動隊やイノセンスと同じように『無機物(人工物)に生命は宿るのか』というようなものなので、目新しさはない。多分、これが押井監督の生涯のテーマだからそれはそれでいいのだが、特別なものは感じない。

 ただ押井監督のテーマは『脚本が云々、社会性云々』ではなくて、その作品を作る意義だったり、映画というものの追求だからメッセージ性などを期待するのは少し的外れかも。

 技術的革新や発明というテーマであれば、門外漢だが成功しているように思う。

 

 というわけで、正直なところ熱狂的な押井ファンだったり、ガルム戦記やファンタジーが大好き、映画の技術革新に興味がある、という人以外にはまっっったくオススメできない作品になっている。

 正直、この作品を作るのであれば、アニメをまたやってくれないかなぁなんて思ったり。

 まあ、いつもの実写版押井映画なので、あのテイストが好きな方はどうぞ劇場へ。

 

GARM WARS 白銀の審問艦

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