物語る亀

ネタバレありの物語批評

映画『ズートピア』感想 完成度の高い脚本に打ちのめされた

 映画ズートピアを見てきたのでその感想を。

 元々はレヴェナントを見に行ったのだが、160分近い上映時間に慄きあえなく断念。そんなに長い時間を映画館でじっと見続けるのは私には難しいので体力を整えることにして、偶然映画館が安い日だったのでたくさん観れるアニメ映画をチョイス。

 やっぱり映画は90〜120分がベストでしょう。それ以上は集中力がもたなくなってくる。

 

 今回見たのは

 女子中高生向けアニメ『ずっと前から好きでした』

 オタク向けアニメ『響け! ユーフォニアム』

 子供向けアニメ『ズートピア』の三本。

 本当はクレヨンしんちゃんも候補だったが、時間の都合上断念した。ズートピアはこの3本の中では一番うまい映画だった。

 

 では一言感想から

 脚本で映画を語る人間はズートピアは絶対に見ておけ!!(命令形)

 

 なおネタバレは後半なので、そこまでは安心して読んでもらって構わない(ここから先ネタバレという表記をしている)

 

 

 1 動物を使う意味

 昨年の夏頃に公開された『GAMBA』の発表がされた際、今更なぜガンバなのかと謎映画扱いされてしまったが、これは3DCGの特性を知っている人間であればむしろ妥当な選択と評価するだろう。

 3DCGはその特性上、車や爆発などのエフェクトなどを表現するのは非常に向いているのだが、人間を描くとなると不気味の谷が発生したり、また独特の光沢などのせいでマネキンが動いているように見えてしまうことが多々ある。

 

 例えば同じ日に公開の『響け! ユーフォニアム』の作中でもパレードのシーンで CGが使われているのだが、その動きは揃いすぎていて気味が悪いものだった。なので基本アップの絵は手書き、引きの絵はCGという采配がされていたのだ。

 

 アメリカの製作者もそこは十分に理解していて、だからこそ世界で一番はじめのCG長編アニメーションが『トイ・ストーリー』というおもちゃを主人公にした作品だったのだ。おもちゃであれば時に無機物のように見えても問題ないし(そもそも無機物)造形も様々、個性付けもできるという見事な着眼点だった。

 

 その後も様々なアニメが作られてきたが、バグズライフやカーズなどの動物や無機物が主役の作品が非常に多い。確かに人間が主役のアニメもあるにはあるが、それはリアルな人間を表現したというよりは、3頭身の人形に近い人間を使っているわけで、その本質は人形劇とそう大差ない。

 日本の場合はそのような人形劇は難しく、アニメといえばリアル寄りの頭身の作品も多いことからCGの壁にぶつかってしまっている。最近ではセルルックの開発などにより、だいぶマネキン感は薄れてきたが、それでも手書きのアニメーションを超える日はまだまだ遠いと言わざるを得ないのが現状だ。

 

 では日本で3DCG作品を作ろうとした場合、動物や機械が主役で人間がモブ以外登場することなく、ストーリー性の優れた名作を探したら『ガンバの冒険』というのは当然選択肢に入ってくるし、その中でも有力候補だろう。子供向けアニメでドンパチするのは抵抗感があるし、大人と一緒に見られる作品として考えたら、むしろその選択しかないような気もしてくる。

 ちなみに『GAMBA』は非常にいい作品だったので、この先のアニメ界の将来像も見せてくれてワクワクさせてもらえた。

 

 そのような理由から今回も動物を選んだということは、CGの特性を考えれば納得がいくのである。

 だが、さすがはディズニー、今回は一味も二味も違った。

 本作は動物でなければ出せない味が非常に強く出ていた。

 

 

2 本作の基本構造

 ではこの作品の基本構造を見ていった場合、まず気がつくのは『夢と現実』の対比の話である。

 

 主人公のウサギのジュディは警察官になることを夢見ていたが、大きな肉食動物には体格で劣るため両親の反対や、周囲の動物たちはみんなできるはずがないとバカにしていた。だが必死の努力によって警察学校を首席で卒業して、晴れて警察官になることができたのである。

 このように子供向けアニメ映画としては王道の『夢を追い続けることは大事だよ』というメッセージがわかりやすく伝えられている。

 

 ジュディの相棒はキツネの詐欺師であるニックで、真面目な警察官と不真面目な詐欺師という組み合わせで事件を解決してくバディ・アクションである。

 この基本的な構造は『相棒シリーズ』であったり、『トリックシリーズ』などと変わらないわけで、古今東西どこにでもある王道のミステリー、サスペンスの基本形である。バディ・アクションの場合、二人の性格や能力をどのように設定するのかというのが問題になるのだが、今作はホームズとワトソンのような有能と無能の組み合わせではなく、お互いに有能なのだが足りない部分を足し合わせるタイプのバディ・アクションになっていく。

 

 つまり身体能力に優れて精神力の強いジュディと、小狡くて頭のいいニックの組み合わせということだ。

 このコンビがまたいい味を出していて、警察官と詐欺師という正反対の性質を持つ2匹が組み合わさることによって快感になっていく、大人も楽しめる構造になっている。

 

 またこれは白雪姫やピノキオの時代からの伝統でもあるのだが、絵と音楽が一致した時の感動というのは筆舌に尽くしがたいものがある。初めてズートピアに電車で向かうシーンというのは、『ジュラシックワールド』にてテーマソングと共にパークに入っていくのと同じくらい感動した。

 

 

 ここから先はネタバレを含むので未見の方は引き返してください。

 本作は何の情報も入れないで見て欲しい。見終わった後に、またこの記事を読んで欲しい。

 それだけ面白い作品なので!!

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3 伏線に次ぐ伏線(以下ネタバレ)

 もうこの部分が非常に圧巻で、私は本作の脚本がどのように練られたものなのか是非とも知りたい。この伏線の張り方と回収があまりにも上手すぎて、映画館で驚愕したものだ。

 

 ディズニー映画(ピクサー買収後)というのはおそらく今最も理論的に映画を作っている会社なので、全てが計算でできている。その基本構造や流れというのはいつも変わらないものなので、私は本作を見ながらその流れに当てはめて考えていた。

 詳しくはこの本を読んで貰えばわかる。  簡単に言えば3段構成になっていて、その3段の中でも13個の要素で作られているのだ。

  

超簡単!売れるストーリー&キャラクターの作り方

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 スタートの日常から始まって、主人公の決意、少しの挫折、そこからさらに冒険を決意して障害を乗り越える。

 その後に手助けをくれる賢者(相棒など。本作ではニック)と出会い、試練が訪れ、一度破滅して、復活して、一応の解決。

 さらに大きな事件に向けて戦い、最大の勝負を繰り広げて、最後に褒美をもらう。

 基本で言えばこの流れを毎回毎回踏襲しているだけに過ぎないので、話の流れとしてはどの作品を見てもそう変わらないのである。

 

 では本作がこれほどまでに素晴らしいと私が絶賛する要因の一つが圧倒的な伏線の回収能力だ。

 ミステリーとサスペンス仕立てになっており、所々大人でも笑えるギャグを挟んでくるのだが、それが伏線としても機能している。また登場人物が少ないながらも、きちんと犯人を仕立て上げながらも違和感や先読みをあまりさせない展開となっている。

  

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4 なぜ動物なのか?

 さて、最初でも述べたのだが本作は登場人物が動物でないと表現できない作品であるのだ。

 それはなぜか? 

 人間では草食動物と肉食動物の住み分けができないからである。

 

 本作が大人でも楽しめる作品に仕上がっている一番の要因はここにあり、本作は見かけ上の主題は『夢を追い続ければ叶うものだよ』というのが子供向けのメッセージだろう。

 だが、本当の主題は違う。

 この作品のテーマは『人種、国籍、宗教、その他の様々な要因を含んだ差別問題』である

 

 例えばウサギのジュディが警察官になれないとされた最大の理由は『ウサギだから』という生まれついての種族の問題である。

 キツネのニックは『キツネだから』差別され、友達にひどい目に遭わされて詐欺師になった。

 一連の事件の真犯人は『小さい動物、草食動物は馬鹿にされている』という種族の壁に憤り、このような事件を行った。

 これらは全て差別問題を含んでいる。

 

 

夢の都ズートピアとは一体何か?

 それはまさしく、人種、宗教、文化の坩堝と化している『アメリカ合衆国』そのものなのである

 

 夢の都として繁栄をしているようではあるが、依然として動物ごとの差別意識は根強い。電車で隣に肉食動物が座れば、子供を避けさせるというのは、様々なものに黒人専用、白人専用の物や店、入り口があった旧時代を思い起こさせる。

 本作は白人、黒人、スパニッシュ、黄色人種という区分けをしないで動物を用いることにより、その区分けが如何に馬鹿馬鹿しいかということを表現したのと同様に、各人種の個性とそれを受け入れる寛容を描いている。

 

 確かにナマケモノの動作の遅さというのは苛立ちを感じさせるものがあるし、キツネのようにズル賢いやつらもいる。だが、それらの個性一つ一つが合わさることで『夢の都ズートピア』は構成されているし、何かがおかしいということでもない。だからそのようなレッテル貼りはやめて、寛容と友好的な態度でいようということである。

 

 これが実際に人間に演じさせた物語であれば、あまりにも生々しい上に批判を恐れてここまで深いことは描き出せなかったかもしれない。だが、動物という擬人化したキャラクターを使うことでより深く突っ込んだテーマ性をもたせることができたのである。

 

 

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脚本の教科書

 私は本作は映画における脚本の教科書としてこれほど最適な作品はないと考えている。

 実写作品を含めてここまでの気概を感じる作品は見たことがなかった。その構成方法、流れ、伏線、キャラクターの活かし方、子供向けのテーマ、大人向けのテーマ、そのどれを取っても完璧でケチのつけようがない映画に仕上がっている。

 

 同日に見た『響け! ユーフォニアム』も素晴らしい出来だったが、こちらは非常に熱い作りでジンワリと涙が浮かんでくる作品だったのだが、本作はあまりの脚本構成のうまさに「う〜む」と途中から唸ることしかできなかった。多分日本アニメーション界とディズニー映画のヒット率の違いというのは、こういった部分にも出てくるのだろう。

 逆に言うと技術に頼っているから、全く新しい、分析もできないような映画は生まれてきづらい環境かもしれないが、これほどの映画を作り上げてしまう力に驚愕してしまった。

 でも日本アニメ映画とディズニーではやりたいこともやることも違うので、あんまり悲観する必要はないけどね。一番いけないのはハリウッドを真似して劣化コピーですらない駄作を生み出すことだから。(金もかけずにCGを多用する映画群のこと)

 

 

 子供向けだからといって鑑賞しないというのは、本当に人生損していると言えてしまうレベルだろう。

 

 

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