この日は映画が安い日だったのでアニメ映画を3本鑑賞。本作は興味はあったものの、明らかに私を対象としていない作品だったので、少なくともDVD化するまでは見ないだろうと思っていたのだが、60分という短さもあって時間つぶしにとりあえず鑑賞。
なので本作に関しては一切事前情報なし、予告編すら見ておらず、キャストとスタッフをチラシで見た程度の知識しかない。Honey Works自体は銀魂のOPも歌っていたので知っているし、私も結構好きな歌手である。(ボカロは苦手だが、米津玄師とかニコニコ系は面白い歌手もいるんだなという印象)
その程度の知識で対象外の人間が鑑賞した感想として読んで欲しい。
まず一言感想から
精一杯まとめあげたという印象の強い一作
1 詰め込みすぎ
本作以外に見た映画というのが『響け! ユーフォニアム』と『ズートピア』だったので、その意味においても少し可哀想だなと思う部分もある。この2作は私の年間アニメランキングでも間違いなくTOP5には入ってくるし、これを超える作品が2つもあるとは思えないので、おそらくTOP3に入るのは濃厚といってもいいだろう。
そんな作品と比べられるというのは確かにひどい話でもあるのだが、同日公開のためある程度仕方ない。 GW週なのでコナン、クレヨンしんちゃんなどもあるし、ターゲット層は被っていないが、やはり同じアニメ作品として一括りにしてしまう部分はある。
本作は先ほどにも述べた通り、60分しかないのであるが、そこで繰り広げられる恋愛は主に3つである。
主人公と幼馴染みの男+主人公の事が好きな男
奥手男子と奥手女子
付き合っているらしいカップル
単純に考えるとこの3つの恋愛をまともに取り扱おうとすれば、60÷3で20分しかないわけで、映像作品における20分なんてあっという間である。
すでに出会いの場面は終えているし、やることと言ったら「好き!」と告白するくらいであるが、面倒なのは主人公が告白の練習と称して何度も告白しているという設定である。
(この部分が本作の根幹であるのは理解しているが)
そもそも近年における恋愛作品は障害が少なすぎてドラマ性をもたせるのが難しいのであるが、本作はその障害を『嘘の告白』と『奥手(草食系)』というものにした。それはそれでいいのだが、20分でやりきるには短いように思う。
3組描くのは難しい
ではどうするかといえば簡単で、付き合っているらしいカップルはほぼ全カットである。
この2人よりも、むしろ彼氏の兄貴分である教師の方が目立っていたほどで、「これは腐女子が喜びそうだな」という感想しか抱かなかった。
あとは Honey Worksの音楽も同様に作中でOP,EDを含めて6曲ほど流れるのだが、これは10分に一曲は流れる計算である。この上に映像に乗せるBGMも流れるのだから、音の洪水でありその印象が薄れてしまう。
本作は Honey WorksのPVのような作品であるのは承知しているが、それにしても映画として成立させるのであればもう少し音を減らすなどの工夫は欲しかったところだ。これならばライブを見たほうがいい。
似たような時間で曲を印象的に使ったというと、やはり新海誠の『秒速5センチメートル』や『言の葉の庭』が思い浮かぶのだが、あれは独特の世界観や映像と共に、ボーカル付きの曲は一曲しか使わないなどの印象に残るような構成をしていた。
恋愛やテーマも作品と一致していたので印象に残った。
2 テンプレートのオンパレード
一番気になった部分はここである。
私は『響け! ユーフォニアム』の感想記事にて、その『リアル感』について触れた。高校生の制服姿というのはみんな同じであるが、それをメインの服装とした場合にどのように外見で個性をつけていくのか?
それはスカートの短さであったり、靴下の長さであったり、小物類であったり、携帯につけるストラップであったり、そのような細かい部分で人物を描写することが性格づけには大切である。(男ウケを気にする女子のスカートが膝下まであったら違和感がある)
その中でいうと主人公は制服の下にジャージというのは、奇抜ながらもいいと思うのだが、その他の女性陣はそこまで差が見られなかった。そのために髪の色などを弄ることや声優の演技力でカバーしている。
逆に男子はというと、ネクタイの有無、シャツを開けるか閉めるかなどにより性格づけができていただけに、主要登場人物である女子の方もそうした個性がほしかった。また、モブに関してはみんな同じ服装であまり動かないのも残念だ。
セリフに関しては一つ、先生の「タバコ2本飴3本、大人の事情だ」というものが琴線に引っかかったものの、それ以外はほぼ予想どうりのセリフと展開で取り立てて注目することはなかった。どちらかというと中学生の書いたような、少女くさいセリフが目立ったものの、主ターゲット層が女子中高生というのと、作品世界観からするとそれは狙い通りかもしれない。
(脚本の成田良美が少女作品を得意としていることから、狙ったものだと推察できる)
設定に関しては告白の練習というものは独創性があったものの、それが十分に発揮できているかというと疑問符がつく。
この予定調和の感もある展開や台詞は、やはり60分という短さの中である程度の恋愛劇を成立させたいという懸命の思いであり、また Honey Worksの歌の世界とリンクさせるという意識が働きすぎて、特筆すべきお洒落でウィットに富んだような会話や展開というものが作りにくかったのだろう。
やはりこの時間の短さでは詰め込みすぎた弊害のようにも感じられた。
3 テンプレートでは悪いのか?
本作は先にも触れたように、よく言えば王道、悪く言えばありきたりのテンプレート通りのストーリー展開である。冒険や挑戦こそ少ないものの、物語の破綻などはなく、細かい部分で言えば疑問点もあるのだが大きな問題は見当たらないのである。
だから本作は作品として整ってはいるし、酷評する作品ではない。
おそらく多くの人が、趣味の問題はあるとはいえ40〜60点の採点はつけるのではないだろうか?
私はズートピアの記事の中で『ピクサー(ディズニー)作品は全て流れが同じ』と書いたが、これはある種決まったテンプレート化だということができる。テンプレートに沿った作品展開という意味では本作と同じだ。
しかしそれは例えば作家性だとか、その監督や制作会社のテーマというべき、根底にあるものが同じであるというだけであり、話の展開や会話というものは作品ごとに大きく変えられている。
テンプレートというのはある種の技術であり、それに沿ったストーリー展開そのものは決して悪いことではない。王道の展開というものあるし、奇をてらいすぎて破綻してしまった作品も世の中にはたくさんある。ただ、そこから冒険していかなければせいぜい60点の作品にしかならないのではないだろうか?
その意味において本作からは柳沢監督や脚本家の成田良美、 Honey Worksなどのスタッフでないといけない理由というものが見えてこなかった。そこは残念である。
本作の面白みは『プロジェクト』
本作が一番面白いのは、Honey Worksという音楽ユニットの作品を元にして映像化したという一点であり、小説や漫画のようなものではなく音楽が原作であるということだろう。
その面白い挑戦というものは、ニコニコ動画などで人気を集めるクリエイター集団だからこそできた映像作品かもしれない。
だがそれだからこそどこにでもありそうな少女漫画のような世界観ではなく、やはり Honey Worksの原作にしか出せない世界観だったり、原作の独創性を引き出して欲しかった。これでは歌詞が物語になっている歌手、例えばBUMPなどでもよかったのではないのかなと思ってしまう。
(Honey Worksがそのような少女漫画の世界観で人気を博しているのはいるのはわかるが、これでは映画としてあまりに独創性に欠ける)
ただ前代未聞のプロジェクトに対して、時間や曲、原作の世界観という制約もある中でこれだけまとめ上げた監督等スタッフ陣には敬意を表する。(本来ならば破綻してもおかしくないプロジェクトだろう)
これがアニメ業界に対する一つの挑戦であることは評価するし、ニコニコ動画などのネット新時代が生んだ新しい面白い流れであるとは思う。
次があるのであれば、もっと独創性を出して様々な歌手の世界観を映像化して欲しい。(個人的には中島みゆきとかBUMP、amazarashiなども面白いと思う)
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