今週はズートピアと響けユーフォニアという年間ランキング(アニメ部門、映画部門の両方)でも屈指の作品が同時公開された。いい機会なので日米のアニメ分野における現状とこれからについて、考えていきたい。
当然のことながらバリバリの私感なので、突っ込みどころ満載かもしれないが、とにかく書き進めていく。
ちなみに2作品の記事はこちら
1 宮崎駿なき日本アニメ界
かつて日本アニメ界では誰もがNo1と認める偉大な巨匠がいた。
そう、宮崎駿である。
だがその宮崎駿も引退し、今は名実ともにNo1と言える巨匠アニメーション監督というものはいなくなってしまった。(押井守は一般性や興行収入が振るわないし、細田守が現状一番近いだろうが、アニメの質という意味では宮崎駿ほど他を圧倒している感はない)
そのことを残念に思う人もいるだろうが、考えてみれば今までの状況こそが異常なのであり、表現の世界というものは『みんな違ってみんないい』というのが基本のはずなので私はアニメ界が健全化したと思っている。
日本アニメ界は宮崎駿という巨人の呪いからようやく解放される時が来たのである。
アメリカにはピクサー(ディズニー)という誰もが認める世界一のアニメコンテンツを制作する企業があるが、日本はどうだろうか。唯一ピクサーに匹敵することができたとすれば、それはやはりスタジオジブリであろうが、宮崎駿と高畑勲以外では他を圧倒するほどのクオリティや興行収入を維持することができないということは証明されてしまった。
高畑勲も『かぐや姫の物語』は確かに高く評価すべき傑作だし、そのクオリティに関してはケチのつけようもないのであるが、企業に大切な利益という点においては大きな赤を出していると言われる。『となりの山田くん』でも興行成績を振るわなかったことから、20年前はともかく、もはや高畑勲すらも高いクオリティと興行収入の両方を稼ぎ出すことは不可能といっていいだろう。
つまりスタジオジブリとは一皮むいてみれば、宮崎駿という天才の元に成り立っていた砂上の楼閣であることが証明されてしまったのだ。
2 アメリカのアニメ業界
では一方のアメリカに目を向けてみると、やはりこちらで最大に注目するのはディズニーの存在だろう。
誰もが認める世界一のキャラクター産業であり、その著作権を維持するために国すらも動かしてしまう世界的大企業である。(私は20年後には任天堂の方が上回っているような気もしているが、ここは割愛)
ディズニーに注目してみた場合、気がつくのは『特定のクリエイターの名前がそこまでフューチャーされないこと』である。もちろんファンはジョン・ラスターがどうだとかいうのだが、一般的に日本においては「ディズニー(ピクサー)の最新作」として紹介されるし、もしかしたらこの2社の違いというのも知らない人の方が多いかもしれない。
つまり、日本のジブリ=宮崎駿で、宮崎駿以外のジブリ作品にはそれほど動員のかからない日本とは違い、ディズニーという名前だけですでに確立されたブランドイメージがある。おそらくそれはラスターが退任、引退した後も続くだろうし、一般的な映画、アニメオタクが知らない監督やプロデューサーが製作指揮をとったところでクオリティや興行収入に大きな劣化というものは起きないのではないだろうか。
監督という個人に依存するのではなく、企業としてブランドイメージを確立し、その中でも卓越したノウハウを蓄積して物語を紡ぎ上げていくという、とんでもない映画製作スタジオである。
確かにこれでは日本に勝ち目はないかもしれない。最新作のズートピアを鑑賞してもらえばわかるが、多層的で大人向けのテーマが内包されている脚本を見ても、さらに滑らかで圧倒的なスケール感を持ちながらも、楽しくコミカルに展開する画面を見ても、毎年1本どころではなく、何本も公開するスピードについて考えてみても日本のアニメーションというのが太刀打ちできるものではないかもしれない。
そしてテーマに注目しても、差別問題という今アメリカを左右する大問題を取り扱ったズートピアに対して、響けユーフォニアムは個人の才能と集団内で『特別になる』という個人に着目したテーマであり、比較すると矮小なものであると言わざるとえない。
このテーマ性の違いというものも非常に大きい。
だが、私はあまり気にする必要がないと思うのだ。
3 日本の強み、アメリカの弱み
今回日本で制作された響けユーフォニアを制作したのは、間違いなく2000年代後半から今に至るまで、日本アニメーション業界を代表する会社であり、涼宮ハルヒ以降の数年間は京都アニメーションというだけで非常に高い注目を浴び続け、高いクオリティと売り上げを誇った『天下の京アニ』である。
もちろんディズニーに比べれば全く話にならないほどの規模の違いがあるものの、ではアメリカのアニメーションといえばディズニー以外で何があるというのか?
おそらく、ほとんどの人がカートゥーンネットワークという答えしか出てこないのではないか? (カートゥーンは放送局の名称であるため、オリジナルもあるようだが正確にはアニメ制作スタジオとは言い難い)
日本の最大の強みというのがここにあって、東映、タツノコの老舗もあれば、サンライズのように現代でも人気の大ヒット作品を制作してきた歴史のある会社もあれば、京アニ、A-1のような美しい絵の力で勝負する会社もあれば、ボンズ、シャフト、トリガー、ガイナックスのような独特の作品を生み出してきた会社もある。
この多様性こそが日本の最大の強みではないだろうか?
ディズニー作品というものは誰にでも面白く見られるし、その壮大なスケール感もあって、やはり他を圧倒するクオリティを誇っている。それは疑いようのない事実であるが、ではピクサーに響けユーフォニアムのような作品が作れるか、まどか☆マギカやあの花やちはやふるが作れるかというと、断言しよう。
絶対に不可能である。
先ほどディズニーに比べて日本の作品はスケール感が小さいと述べたが、だがテーマのスケールはデカければいいというものではない。個人の矮小な感情に肉薄した文学などは未だに数多く発表されているし、スケールが大きくなれば扱いきれない大切なテーマもたくさんある。
確かにもうスタジオジブリのような、ディズニー作品と対抗できる巨大アニメ制作スタジオは誕生しないのであろうが、むしろあれが異常だったのであり、ようやく日本のあるべき形に戻ったのである。ジブリの栄光再び、というのはもはや経済規模も、作品に投資する金額も、企業に蓄積されたノウハウも段違いな日本のアニメ界が目指すべきではないとすら考えている。(100億200億出せるなら話は変わるが、そんな投資はできないだろう)
4 もはやアメリカはアニメにこだわらない
日本の実写作品でも大ヒットしたハリウッド作品の圧倒的なスケール感を真似てCGを多用した作品が大バッシングをされている。近年では進撃の巨人もそうだし、おそらく近々公開のテラフォーマーズも予告編等を見る限りにおいては、似たような結果になるのだろう。
あれほどの作品を違和感なく作品世界にのめり込めるように作るためには、やはりそれだけの金額と手間をかけなければいけないのだが、日本にはその体力がないためにお遊戯会になってしまっている。
だが、ここで私が注目したのは、今のアメリカではマーベルヒーロー作品であったり、トランスフォーマーであったり、一昔前ならばアニメでやりそうなものを次々と実写化していることである。
ズートピアはアニメーションでなければできないことだったと思うのだが、一方日本のアニメ作品はというと、響けユーフォニアムなどはあまりアニメでやらなければいけない作品だとも思えないのだ。おそらく実写でやっても特に違和感のない作品であるし、ガールズ&パンツァーのように戦車が出てきたり、まどか☆マギカのように魔法を使うファンタジーでもないのだから、アニメーションでなければ表現できない世界観の作品でもない。
重ねて言うがアメリカの場合、技術革新により、それまでアニメという形式以外では表現の難しかったマーベルヒーロー作品などを次々と実写化している。そのため、アニメ表現にこだわる必要がなくなっているように感じられる。
おそらく、これから先アメリカは実写で表現出来る幅が広がったことにより、アニメでしか表現できなかったことを今以上に次々と実写で作り上げていくだろう。
映画のアメコミ化が進むと思われる。
一方の日本はこれからアニメ表現でしかできない作品ばかりではなく、そこに拘らない多様性のある作品が次々と生まれていき、中にはこれまでアニメが取り扱わなかった深いテーマの作品が次々と生まれていくと思う。
というわけで結論としては、アメリカと日本では目指すべき方向性が全く違うために、そんなに比較して気にする必要もないという結論に至ったのだ。
だが、私見ではあるがアニメ業界のピークはもう既に過ぎ去ってしまったような印象がある。ドラマが80年代から90年代後半にかけてピークを迎えてあとは視聴率を落とし続けているように、その流れというものは止めることができない。
90年代後半からじわじわとアニメ人気は上がり、おそらく2000年代後半でピークを迎えて、今はじわりじわりと下降線をたどっているような気がしてしょうがないのだ。
明確なデータがあるわけではないが、この気が私の勘違いや年寄りの昔は良かったになってくれることを祈りつつ、今回の記事は終えようと思う。
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