今回は攻殻機動隊の新作、SAC2045についてのお話です!
……攻殻シリーズ、どこまで観たっけなぁ
カエルくん(以下カエル)
「シリーズが色々とたくさんありすぎて、しかも結構時系列とかも関係なかったりするからねぇ」
主
「映画版もOVAもあるし、アライズやら何やらも色々とあるから……多分、全部は観ていないけれど、8割くらい観ているはずなんだよなぁ」
カエル「結構複雑なストーリーでもあるから、似たような人も多いのではないでしょうか?
では、早速ですが感想記事のスタートです!」
感想
それでは、Twitterの短評からスタートです!
#攻殻機動隊SAC_2045
— 井中カエル@物語るカメ/映画・アニメ系VTuber(初書籍発売中!) (@monogatarukame) 2020年4月25日
シーズン1完走
最初は初見の方にも優しい作りがかえってノイズを生んでしまったが7話以降は徐々にテレビシリーズに戻ってきた印象
面白くなったところで終わるのはずるい!
CG化は過去作品のゴーストとの戦いであり、違和感がないといえば嘘だが後半はあまり気にならなくなった pic.twitter.com/TgBZjWwWs7
1話終了時点のツイートはこちら
#攻殻機動隊SAC_2045
— 井中カエル@物語るカメ/映画・アニメ系VTuber(初書籍発売中!) (@monogatarukame) 2020年4月23日
1話を観た
悪くはない…けど自分はCGアニメが苦手なんかなぁ…ちょっと微妙
新サクラ大戦でも思ったけど当時の手書きアニメの快楽性と比べてしまうからなんか微妙に見えちゃうんかなぁ
特にこっちは声優同じだし
あの頃の作画のゴーストに振り回されている感覚 pic.twitter.com/ymfZtHFaSG
攻殻機動隊らしさの感じる作品だったと思います
カエル「CG作品での長編シリーズは初だったと思うけれど、その違和感もなかったら嘘になるけれど、でも、まあ、これはこれでありなのかな? とは思ったかな」
主「この作品の難しい部分は”過去作のゴーストとの対峙”だろう。
みんなが意識する”攻殻機動隊らしさ”っていうのは一定ではない。原作漫画を読まないで押井劇場版2作を観た人もたくさんいるだろうし、なんならばテレビシリーズだけしか観たことない人もいるだろう。
- 士郎正宗の原作漫画
- 押井守のGOHST IN THE SHELL
- 神山健治のSAC
流石にアライブを原点とすると人は少ないとは思うけれど……では、攻殻らしい物語とはなんなのか? という問題がある」
この3作品全て、オリジナリティがあって面白さが違うからね……
攻殻機動隊という作品は原作を崩壊させることで完成したシリーズでもある
主「もちろん、原点である士郎正宗バージョンは非常に重要だ。今でもここがスタートと考えている人は当然多いだろうし、それは何1つ間違っていないだろう。
だけれど、ある種押井さんらしい原作を無視したとも言える改変をいくつか加えることにより、世界的にヒットしたGOHST IN THE SHELLも重要。
そしてその世界観をさらに広げたのが神山健治版である。
この3作というのは魅力も全く違うし、なんならばキャラクターの性格も何もかも異なる。その中で、どのような物語にするのか? という問題が発生するわけだ」
本来、最もCGに向いているアニメシリーズ作品?
神山監督って、最近はCG表現の方に移行しつつある印象もあるかなぁ
……ただ、その表現のレベルというものには留意しなければいけないけれどね
カエル「それこそ007もあったり、あとはNetflixの『ULTRAMAN』もあったし、『ひるね姫』以外はCG作品の方が多い印象かなぁ。
もしかしたら『ULTRAMAN』が予行演習と言ったら語弊があるだろうけれど、この攻殻には改善点を見出しているだろうし」
主「本来、攻殻機動隊てCGに向いている作品だと思うわけだよ。
理由としては単純で、SFのような描写が多いこと、ネットを描いた描写も多いこと、そして何よりも義体という設定だ。
その意味でいうと、これまでの攻殻はあまりにも人間味に溢れすぎていたとも言える。
もちろん、バトーの目ん玉とか、色々な要素があるにしろ……もっとメカメカしくてもいいのではないだろうか?」
カエル「CG表現が日本のアニメ作品と相性が悪いのって、その光沢感とか硬い印象を与えてしまうからで、ロボットなどのバトルでは魅力あるものができているから、その人間味さえクリアできれば、いいものが出来るかもしれないね」
一方で、やはり過去の攻殻との差別化が問題になるかもしれんね
主「やっぱりさ、今思うと押井版攻殻って、最もメカメカしかった気がするんだよ。
90年代という時代もあるけれど、今の萌え系の可愛らしさ溢れるデザインではない。むしろ、より硬質的な人間味というのか……それを人間味というのかは難しいけれど、仏頂面などのような要素を表現している。
特に草薙素子は、今ほど感情豊かではない。
そこは神山版の方が少し若いから、後から意識した部分でもあるんだろうけれど……そのどこか人間らしさのない部分が、発揮されていた。
でも、神山版は感情が豊かで……いや、もっとも感情豊なのは原作なんだけれどね。
あまりにもメカメカしくしすぎると、キャラクターとしての魅力を損なってしまうし……その難しいバランスが求められる作品でもあると、自分は考えているわけだ」
映像表現の難しさ
で、とりあえずウンチクというか御託はここまでとして……実際は、どうだったわけ?
う〜ん……自分がCGアニメが苦手なのもあるかもしれないけれど、映像表現そのものは微妙かなぁ
カエル「やっぱり、過去の作品と比べてしまう部分はあるからかなぁ。違和感があったというのは、そういう部分だよね?」
主「まぁねぇ。
イリヤ・クブシノブがデザインした少佐が可愛すぎるっていうのは、まあいいとしよう。慣れるし、チョイロリっぽい感じがあるけれど、それもまた魅力の1つであるのは間違いないし。そもそも、少佐はほぼ義体だから、見た目にこだわるのもナンセンスだし。
だけれど、これは自分がCGアニメが苦手ということもあるけれど、どうしても違和感が生まれてしまった。
特に、近年は髪の毛1本も動かすくらいのCG表現も生まれているし、表情を含めて全体的に硬すぎる印象を受けたかな」
カエル「硬質的な違和感はねぇ。それが義体だからっていうならばともかく、生身の人間のように描こうとしている部分もあるし……」
主「アニメって脳内で補完して見るものだから、この辺りは慣れしかないのかもねぇ。少なくとも、『ULTRAMAN』の頃よりははっきりと進化しているし、後半はそこまで気にならなかったけれど。
あと、制作スタジオであるSOLA DIGITAL ARTSの特徴でモーションキャプチャーをつけて動きを魅力的にするというものがあるけれど……動きの面白さが少なかったかもしれない。
アニメ的な外連味がないというか。
正直、自分はかつてのSACなどの手書き作画のゴーストが見えてしまって……それよりも上をいった! と言えるシーンが、果たしてどれだけあったのか……」
この辺りは感覚的な部分なので、そんなことはない、むしろそれが良いという人もいると思います
特にプリンのモーションが苦手なんだよねぇ……
主「少佐の動きは、女性らしさを非常に強調していた。
衣装もあるけれど、モデルかよっていうような動きで、一部シーンでは歩くときモデル歩きしていたじゃない。まあ、でも少佐はそれでも良いよ。作中でも語られているけれど、女性型の義体を選択しているだけで、中身はゴリラなわけだし、あえて女性の動きを強調しているとも言えるわけだし。
一方でプリンがなぁ……アニメ的な派手な動きを意識しているのかもしれないけれど、単なるぶりっこ演技にしか見えなかった。
それがあまりにも不自然すぎてねぇ」
カエル「男性陣はごつい男とかも含めて、比較的ナチュラルな演技に見えたから、余計にプリンの動きの派手さが気になったのかもねぇ」
主「確かにアクションシーンは良かった。そこは『ULTRAMAN』の時と同じで、この方向性の未来を感じさせる。
アニメのリアルって、実写そのままという意味でのリアルなものではないんだよねぇ……
アレンジした方がよりリアルに見えるっていうか。
まだまだ完成系ではないのだろうけれど、このアニメ的なルックとモーションキャプチャーの融合という点では、今作では一定の成果を出したものの、課題はあるのではないだろうか」
声優について
もちろん、声優陣には文句はないよね!
やっぱり、攻殻機動隊ってこの声優陣が大事なんだなぁ、という印象があるよ
カエル「一度『アライズ』で声優を交代していて……全員が若い頃の話であることと、押井版でも幼い草薙素子の声を演じた坂本真綾だから、それはそれで普通ではあるんだけれど、でもやっぱり違和感もあったよね」
主「特に、声優陣がいきいきと自分たちの演技をしているのがわかったよ。
だからこそ、余計に過去作のゴーストの話になってしまうけれど、そこと比べてしまうという点はあったかなぁ……『このシーンだったら、こういう映像にしたんじゃないかなぁ』って感じで。
声優陣のいきいきとした声に、アニメの表現力がついていきていない。
これは今作のみならず、他のCGアニメでも言えるけれど……やっぱり、映像の感情表現と、声の感情表現の差が浮き彫りになってしまったかな。
それでも、また田中敦子・草薙素子が観れて良かった。
あれはかっこいい女性像の、一種のアイコンとして、今のアニメ界でも有効に機能していると再確認できたね」
以下ネタバレあり
作品考察
前半と後半の物語の違い
では、ここからはネタバレありで語っていきましょう!
前半と後半では物語そのものが変わった印象かな
カエル「1話が『……あれ、これって攻殻なの?』という違和感もあったよねぇ」
主「マッドマックスという声も聞いたけれど、自分としてはやっぱり『メタルギアシリーズ』の方が近い印象かな。
どちらも『ブレードランナー』に多大な影響を受け……というか、近未来SF映画でブレードランナーの影響下にない作品なんて、多分そんなに存在しないんだろうけれどさ、そういう共通点はあったかもしれない」
カエル「世界観も似ているといえば、似ていなくもないのかな、という部分もあるしね」
主「細かく見ると全然違うってことになるのかもしれないけれど。
戦争状況の描き方とか、あるいは戦闘用のロボットが出てきたり……あの銃弾を避けるダンスシーンって、『メタルギアソリッド2』とかであったよね?
まあ、そんなあれやこれが被ってくる上に、映像表現もゲーム作品とどうしても比べてしまう部分もあるし……しかもテーマ自体も『PSYCHO-PASS3』と被ってくるというね。PSYCHO-PASS3では都知事が女性だったけれど、こちらでは白人にしたのか、って」
攻殻機動隊は美人な女性総理大臣も出ているし、その先を描こうとすると、外国生まれの白人総理大臣くらいしかないのかなぁ
そういったあれやこれがあって、色々とノイズになった部分はある
主「あとさ、これはやっぱり近年の世界基準を目指す、特にNetflixが重要な立ち位置に関わっている作品に多いけれど……ちょっとテーマが被りすぎな印象。
もちろん、神山版攻殻機動隊という作品そのものが、本来社会を論じてきたものだから、むしろこっちに時代が追いついたということもあるのかもしれないけれど……その設定を語るのに、序盤は終始してしまった印象がある」
カエル「一応、20年以上かけて愛されてきた作品だけでに、初見さんも多いだろうからという配慮もあるだろうけれどね」
主「誰もが語るけれど、本格的に攻殻機動隊になってきたのは7話かな。
なんだかんだ、神山版の攻殻の魅力って浪花節とか、あるいは若者の青臭さなのかなって」
『ライ麦畑でつかまえて』と感傷的な物語
結局、神山版の攻殻機動隊らしさってなんだろうね?
先にも語ったことに被るけれど、浪花節と青臭さなのかもしれない
カエル「以前に神山監督のトークショーに行ったことがあるけれど、SACで重要な意味を持つサリンジャーの『ライ麦畑でつかまえて』で、人生が変わるレベルの衝撃があったという話をされていたことが、印象的だったなぁ」
主「これはなんか、よくわかる気がする。
サリンジャーの『ライ麦畑でつかまえて』は自分も読んでいるけれど、野崎孝訳と村上春樹訳があるわけ。で、この2つって読後感とか全く違うけれど、どちらが好きなのか? と神山監督に尋ねたら、野崎訳しか読んでないと答えられた。
野崎訳の方が、アンニュイな雰囲気が漂う印象がある。自堕落的で、どこか絶望しているような、だけれど足掻いているような感覚がある。そして、神山監督はそちらを愛好しているということだけれど……それが、攻殻機動隊という物語にも漂っている」
攻殻って、社会に馴染むことのできない思い、個人VS社会という、ある種の対比関係で描いてきた部分もある作品なのかな
特に7話、11、12話なんてそういう話じゃない
主「7話は、社会に捨てられたような高齢者が反撃するという話だ。ここで使うのがスマホかよ、というSFのガジェットとしてはどうなんだろう? という思いもあるけれど、2020年の今に一般的なものが、時代に取り残されたものの象徴となるのは面白いといえば面白い。
特に強盗は物語の華でもあるしね。
語弊はあるけれど、強盗と詐欺は知的好奇心もあるから面白いんだよ。
そして後半2話は、ライ麦畑の主人公、ホールデン少年のように社会に落ちこぼれてしまったような感覚を持つ少年が、スーパーヒーローのような能力を手に入れたらどうなるか? という話でもある。大人の汚い部分を観ているし、人間の、同級生の闇もきっちりと描く」
カエル「1984も当然重要な物語だけれど、それと同じくらいに、やっぱり根底にあるのはライ麦畑なのでは、と」
主「神山監督って、完全に当り作って攻殻機動隊しかない印象なんだよね。
その一発がめちゃくちゃデカいけれどさ。
『東のエデン』もすんごくいい題材だったけれど、結局まとめきれなかったし。
でも攻殻はやっぱり良い。
自分も大好き。
その理由って、ホールデン少年みたいな雰囲気やキャラクターを出しやすいからなのかなぁって。
素子自体は強い女性だけれどさ。トグサとか、犯人とか、周囲がホールデン少年になってくれる。多分、神山監督に1番あっている企画を最初に引いたのかもね」