物語る亀

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物語愛好者の雑文

テレビアニメ『イエスタデイをうたって』3話までの感想&解説 緻密に練られた日常表現が物語を魅力的なものにする!

 

 

 

今回はテレビアニメ『イエスタデイをうたって』の感想記事になります!

 

 

この春のアニメでも期待している作品です!

 

カエルくん(以下カエル)

「ちなみに原作既読の意見となりますが……3話以降のネタバレは致しません」

 

「……ネタバレしたくても、結構改変されているから、予想ができないというのが正確かもね」

 

カエル「それでは、早速ですが記事のスタートです!」

 

 

 

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TVアニメ「イエスタデイをうたって」4月4日(土)テレビ朝日 新・深夜アニメ枠「NUMAnimation」放送開始

 

 

 

 

感想

 

それでは、Twitterでの感想からスタートです!

 

 

 

(タイトルを『ランウェイで笑って』と混同し、間違えている箇所があります。Twitterでは訂正できないので、そのまま記載しています)

 

日常表現の魅力を兼ね備えた、見事な作品だよ!

 

カエル「元々、冬目景作品は大好きで、全部ではないにしろ、多くの作品を読んでいたんだよね。だから『イエスタデイをうたって』がアニメ化すると聞いて、なぜ今? という思いもありつつも、すんごく楽しみにしていて……それがこれほどの出来だったことが、とても嬉しいね

主「それこそ『羊のうた』の終盤の展開には痺れたし、『ももんち』みたいな日常的なお話から、『ACONY』のような明るい怪奇譚まで、色々かける人だしね。一部では遅筆だったり、完結させないとか言われているけれど、長くかかっても作品を完結させている。

 また、連載中の『空電ノイズの姫君』『空電の姫君』も楽しんで読ませていただいています」

 

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空電の姫君(1) (イブニングKC)

 

カエル「冬目景大好き話は置いておくとしても、アニメとしてのレベルの高さを感じる作品だよねぇ」

主「日常的なお話ではあるからこそ、下手すれば派手な魅力のない作品になってしまいかねない。

 だけれど、丁寧な演出を積み重ねることで、物語としての面白さを追求している。

 改めて動画工房の丁寧な仕事ぶりに、惚れ惚れしてしまうね」

 

 

冬目作品としては、原作からしてポップさとシリアスのバランスがちょうどいい塩梅の作品でもあるのかな

 

アニメもシリアスになりすぎず、ポップな魅力も両立しているな

 

 

カエル「なんていうのかなぁ……これって、冬目作品あるあるではないだろうけれど、短い髪だったり、跳ねた髪の女の子は元気でコロコロと表情が変わるタイプ。一方で黒髪ロングのストレートの美人系は、シリアス寄りって印象があるんだよね。

 で、『イエスタデイをうたって』はそのちょうど中間というかさ。

 だから、シリアスで重い展開もありつつ、楽しんで見られる

主「冬目作品も漫画的表現が使われている。例えば、顔が簡略されたり、あるいは軽く怒っている時は💢のマークがついたり……そのコロコロと変わる表情も魅力的だ。

 だけれど、今作はそういう記号的表現は少ない。

 その分、シリアス寄りになるし、実際シリアスなんだけれど、晴などのキャラクター性が中和してくれているな」

 

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日常的な表現

 

そういった、日常的な表現のアニメ作品って、やっぱり京アニが多い浮かぶかなぁ

 

……実は意外と京アニも、全部が日常的なテレビアニメって作ってなかったんじゃないかなぁ

 

カエル「あれ、でも『けいおん!』とかは日常系の象徴的な作品だし……」

主「物語はね。だけれど、映像表現は……時には漫画・アニメらしいコミカルな描写も多くあったし、あるいは『たまこまーけっと』のデラモチマッヅィなどのような、非日常的な存在もいるように、なんらかのアニメ・漫画的な強みを活かした表現はあったんだよ。

 実は、映画にならないと日常的な表現の追求のみで構成された作品はなかった……気がする」

 

カエル「断言はしないんだね」

主「断言するのは難しいからなぁ……

 だけれど、間違いなく1つ言えるのは、近年は日常的なことを、日常的な芝居で魅せるアニメ作品が増えている。

 特に、この作品はそのまま実写で作られていても違和感がないほどで……コメディ・あるいは頭身や背景などを含めても、嘘がないように作られている。

 で、アニメでリアルを追求することの意味ってなんだろう? という話になるわけですよ」

 

映像的な飛躍というか、実写ではできない極端なデフォルメなどが、アニメ・漫画の魅力という意見もあるよね

 

だけれど、ここまでリアルに作られたアニメは、時に現実の時間を超えるのではないか?

 

主「この辺りって難しいけれど……特に3話を見ている最中、まるで一昔前のトレンディドラマを観ているような印象を受けた。それは、おそらく制作側も意識している部分でもある。まだスマホも携帯電話もそこまで普及していなかった時代の物語でもあるわけじゃない?

 自分も微かに記憶はあるんだけれど、そこまで実感があるわけでもない。

 だけれど、なぜか体感しているような気がしてしまう。

 それがアニメでリアルな作品を作る意味なのではないだろうか

 

カエル「……え、アニメで作られた方が、よりリアルに感じるの?」

主「おそらく。

 ……なんか、この話って以前もしたかもしれないけれど、まあいいか。『この世界の片隅に』の時も言われたけれど、より作り込まれた作品の場合……その当時に撮られたものは別として、時代感を宿すのにアニメというのは、ちょうどいいデフォルメとリアルの境界にあるんじゃないかなぁ

 

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原作改変能力の高さ

 

こんなツイートもしています

 

 

いやぁ……ちょっとびっくりするほど、うまく改変しているね

 

カエル「原作は1998年から約18年連載されていたんだよね。だからこそ、90年代後半の雰囲気が漂っているわけではあるけれど……同時に、お話が散らかっている印象もあるかなぁ」

主「連載されている漫画作品のテンポと、テレビアニメのテンポはまるで違う。

 原作通りに再現することが、映像化における正解とは限らない。

 原作も全11巻とあって……今作は1クール作品だけれど、尺に収めることは、かなり難しい分量だ。原作からして会話の量も多いしね」

 

カエル「でも、この3話までで2巻の中盤以上一気に作り上げたんだよね!」

主「この改変力がとても高い。

 それでいながらも、物語の肝心な部分を外しているとは思わない。

 それが最大限発揮されたのが、3話だよ

 

3話の後半って……完全オリジナルとまでは言わないけれど、相当な改変していてびっくりした!

 

ここまでやり切るとは思ってなかったからなぁ……

 

カエル「原作ではバイクに乗って配達に向かう晴のシーンはありますが、ほんの数ページの軽いシーンです。また、陸生は榀子と一緒に歩いていて、そこに晴が通りかかって少し話をするだけですが、このアニメでは重要な改変がなされています」

主「ここが上手いよねぇ。

 映像的な快楽もある晴のシーンを、物語全体で重要な3話のラストでぶっ込んできた。

 だけれど、特別目立つようには作られていないけれど、深く印象に残る。

 また、母親との確執……とまでは言わないけれど、それをサラリと描きあげる手腕も目立つ。

 重要なシーンの取捨選択がしっかりとできているけど、飛ばしすぎない。その結果……まるで文学を読んでいるような印象を与える作品に昇華されて居る」

 

またAMEBAで配信されているミニエピソードもいいよね

 

カエル「2話では榀子と、亡くなった早川湧との金沢時代の思い出が明かされています。死を見つめていた彼の視線に惹かれるというストーリーは、まるで山田詠美の『ひよこの目』のようでもあったね」

主「日常的な人と人の関係性を深く掘り下げていくことで、生まれてくる味だろうな。

 じゃあ、説明が少ないのか? というとそういうわけではない。むしろ、それは映像として表現されている。ここからは、日常的な作品の中にある演出について考えていこう」

 

 

 

 

映像表現について

 

1話について

 

まずは、1話について考えていこうか

 

自分は、この1話のいくつかのシーンで『こりゃ、すげぇな』と感心した

 

カエル「特にこのシーンは語っておきたいね!」

 

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©️冬目景/集英社・イエスタデイをうたって製作委員会 

 

冬目景の独特の絵柄を、過去の回想で表現したシーンだ

 

カエル「時には油絵のような時もあれば、時には鉛筆画のような独特の……線がかすれているというか、そういう画風だよね。

 あれを動かすことは……さすがに、できないんだろうなぁ」

主「それだけでアニメ作品としては毎週放送するため、労力がかかりすぎて大変なことになってしまう。だから、基本タッチは変えながらも、一部回想シーンで原作を踏襲するような絵柄を使っている。

 この画風はどこかノスタルジックな印象も与えるんじゃないかなぁ。

 回想だからこそできる、味のある表現だね」

 

カエル「そして1話で、この作品のクオリティの高さに驚愕したのが、このシーンです」

 

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©️冬目景/集英社・イエスタデイをうたって製作委員会 

 

この一連のシーンは痺れたね

カエル「映像的な背景の美しさもさることながら、引きの絵が印象に残るね」

主「日常的な芝居の味があるし……引きの絵って、場合によってはキャラクターの動きを少なくすることもできるから、ある種の省略を兼ねた手法とも言えると思う。

 だけれど、ここでは2人の関係性をじっくりと描こうという意図が感じられる。

 晴とより近づいていくということもあって、おそらく、このシーンは今後も大事になってくる。それくらい作画カロリーが高く、見応えがあるシーンだった」

 

カエル「そしてこの話数を語る上で外せないのは、この2つのシーンです」

 

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©️冬目景/集英社・イエスタデイをうたって製作委員会 

 

告白と玉砕のシーンだね

 

カエル「ここでは榀子がその告白に困惑している様が、すごく伝わってきます。

 

  • 真正面から直視することなく、少し斜めになっているレイアウト
  • 決して榀子の顔を映さない
  • 少し距離があって陸生を映す

 

 会話劇だけでなく、映像としてどのように魅せるのか? ということを工夫した部分だね」

主「そして、下の2枚のカットにいくわけだ」

 

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©️冬目景/集英社・イエスタデイをうたって製作委員会 

 

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©️冬目景/集英社・イエスタデイをうたって製作委員会 

 

視線の動きだけで、2人の感情のすれ違い、困惑を見事に表現している

 

カエル「……なんか、観ているだけでこっちがモゾモゾとしてくる場面。

 いたたまれないというか」

主「この1話は視線の動きがとても重要な意味合いを持ってくる。

 このシーンは上記のように、ふられた時の気持ちを伝えているけれど、

 

  • 榀子→逸らした視線を困惑の汗を垂らしながらも、陸生に視線を向ける(暗に察してと送る)
  • 陸生→向き合っていた視線を逸らし、察する

 

 こういうドラマが視線だけで生まれている。この時の声の芝居もいいんだ。今作は声優陣の演技も合っているし、レベルも高いものだと感じる。

 で、この直後にカメラが引くんだけれど……この少し前の、上記に挙げた晴といた時の引いたカメラは『桜と夕焼けの中、2人の様子を優しく見守る』というものだったのが、このシーンでは『暗い夜道で破綻する2人を気まずそうに見つめる』というものに変化しているように感じられる。

 この2つのシーンが対比関係となっており、晴と榀子のキャラクター性に違いについて、言及しているわけだよね」

 

 

子供以上・大人未満の関係性

 

そして、1話で最も感銘を受けたシーンがここです

 

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©️冬目景/集英社・イエスタデイをうたって製作委員会 

 

タバコを使った、痺れるほどいい芝居だよ

 

カエル「ここでは原作では晴がタバコを吸っています。ただ、今のご時世では10代の晴がタバコを吸うのは問題があるため、改変されたものと思いますが………それが、演出として組み込まれているという話だね」

主「このカットの直前の流れは

 

 陸生と晴がベンチに横並びになる

 ↓

 斜め上にカメラがあり晴のアップ

 ↓

 陸生の手

 

 となっている。つまり、この手を観ているのは晴であることは、誰にでも伝わる。

 じゃあ、なぜ晴は陸生のタバコを持つ手をじっと見つめたのか? ということだ」

 

カエル「タバコというアイテムの意味、だね」

主「晴は夜はバーになる喫茶店でホステス? アルバイト? として働いている。つまり、大人の世界に行きたい、背伸びをしたい人物である。それを強調するのが、このタバコに対する視線。つまり”大人である陸生に惹かれる”と考えることができる。

 3話までの時点であれば、父親代わりを求めている……なんていう風に言えるかもしれない。

 一方で、榀子は高校の新任教師ということで、大人になり始めた人でもある。

 陸生はその中間で、子供や学生ではないけれど、大人にもなり切れない。

 

  • 大人(未来)に憧れる子供(学生の歳)の晴
  • 過去(子供の頃の思い出)に縛られる大人の榀子
  • その両者の中間にいる陸生

 

 という、大人を未来、子供を過去とすることで、恋愛だけでない三角関係も描き出そうという意思を明確に感じる。

 わずか30分弱の中で、しっかりとドラマを作り、今後に向けた伏線も込みで制作されているのが伝わってくる」

 

 

 

第2話の演出について

 

それは、2話でも発揮されているの?

 

もちろん! 特に印象に残ったはが2カ所だ

 

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©️冬目景/集英社・イエスタデイをうたって製作委員会 

 

過去に囚われる榀子をしっかりと捉えている

 

主「2話は、1話が晴メインの話だったからこそ、2話では榀子が中心の物語となっている。

 この公園のブランコのシーンは、本当にわかりやすいよね。

 徹底的に榀子の孤独に、陸生が寄り添うことができないことを主張する。

 飲み会でも帰りに1人になり、光り輝く電車と逆に歩き、ブランコに座る。陸生はその柵の中に入ることはできない。

 ブランコは”揺れ動く心”という解釈もできるし、同時に榀子の心の結界がそれだけ強いということが、強調されているわけだ。

 その後の晴の乱入も含めて、この一連のシーンは結界の演出が効果的に何度も使われていて……短い中でも接触しかける2人、そして離れていく2人という関係性の変化を描いている。この日常的でありながら、繊細な演出はすごく好きだなぁ」

 

カエル「そして、このシーンにつながります」

 

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©️冬目景/集英社・イエスタデイをうたって製作委員会 

 

ここは、原作だと晴は座ったまんまなんだよね

 

主「ここで晴を立たせたことで、好戦的な勇気のある行動を起こしたということも描ける一方、榀子が立ち上がれない、困惑する姿を強調している。

 そこから一連の……女と女、男と男の話し合いを経て、晴の宣戦布告が起こるわけだけれど、言葉以上に爽やかな雰囲気すら漂う。

 また、この公園のシーンは1話の晴たちのシーン、2話中盤の夜の桜の中での会話があるからこそ、面白くなっている印象もあるんだよね」

 

それと、3話はもう、あのラストでしょう!

 

演出どうのというよりも、動かし方が気持ちいいね

 

主「話の運び方、背景動画を使ったアニメーション、晴の溌剌とした叫び……そういったものが、全部くっついていった。

 3話は前半とかは、話自体が動かないというか……言葉が難しいな、話は動くし、絵も動いているけれど、それは静かなものに抑えられていた。

 だけれど、ここで一気に気持ちよく動かすことで、視聴者に快感を与えている。

 この緩急の使い方などが、良かったね」

 

カエル「さすがは動画工房のアニメ、といったところかな」

主「自分は動画工房って日常的なギャグアニメが上手いイメージだったけれど、シリアスなドラマもここまでできるということを証明したのが、とても良かったし、今後にもつながっていくのではないだろうか。

 原作がありつつも、そのまま描かずにオリジナルのような要素も入れていく……作品制作の良さが発揮されているし、今後も十分に期待した作品であるのは間違いないね」

 

 

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