物語る亀

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物語愛好者の雑文

映画『GHOST IN THE SHELL 攻殻機動隊(1995年 押井守監督)』感想など この未来、案外近いかも?

カエルくん(以下カエル)

「今回は約20年前に公開になって、今でもアニメ史に残る大傑作と評判の押井守版攻殻機動隊だね。

 ちょうど実写映画も公開されるし、押井さんの一番弟子とも称される神山健治監督の最新作も公開間近だから、ちょうどいいタイミングなんじゃない?」

 

ブログ主(以下主

アニメの押井作品は初めて記事にするなぁ。一時期激的にハマったことがあって、その時に書いていれば相当濃密な記事になったと思うけれど……

 今回はその時の記憶も思い返しながら書いていくことにするよ」

 

カエル「押井作品って人気度は高いし、アニメ史的にもすごく重要な立ち位置にいるのに、オタク人気に反比例するように一般的に人気も知名度少し落ちるよね。オタク人口が増えたから知名度も上がったみたいな……」

主「ジブリとか細田作品のように誰にでもオススメできるアニメではないしね。

 だけど『アニメ』『映画』にしたのは押井守だと思う。確かに宮崎駿なども素晴らしい技術をもって作品を書き上げたけれど、それはやっぱり昔から続くアニメは子供向け、の延長線上にある。

 そんなアニメを大人も鑑賞できる『アニメ映画』にしたのは間違いなく押井守……だと思うよ。それが海外の芸術性の高い『アニメーション映画』とも違う、日本特有の文化を生み出したというのが個人的評価」

 

カエル「詳しい人に言わせれば『〇〇さんの功績は?』とか言われそうだけどね」

主「でもやっぱり押井守……あとはテレビアニメでいうと富野由悠季か。この2人が今の『アニメ』に残した功績って素晴らしいものがある。子供向けアニメからの脱却を図ったというか、人間を描いたというか……

 日本には元々手塚治虫がいたり、漫画やアニメを子供だけのオモチャにしないというクリエイターの下地があるとはいえ、文学的要素などを加味した功績などはもっと評価されるべきだ。

 海外だとそういうことがよく見えるのかな? 押井さん、海外ではよく表彰されるしね」

カエル「それじゃとりあえず攻殻機動隊の話に入っていくよ。

 あと20年以上前の作品なのでネタバレありです」

 

 

 

 

GHOST IN THE SHELL/攻殻機動隊

 

1 十年過ぎて理解される押井守

 

カエル「ではまず、主が初見で攻殻機動隊を見た時ってどういう印象だったの?」

主「よくわからなかった。

 原作も読んでいないし、有名なアニメ映画だから面白いんだろうな、って印象だけで見ていたのよ。押井守作品自体、初だったしね。

 それこそ神山健治版のテレビアニメ攻殻機動隊も見ていたのかどうかは怪しいけれど、多分……断片的には見ていたんじゃないかな? とにかく、ほぼ事前知識がない状態で入ったわけ」

カエル「それだとよく分からないよねぇ」

 

主「いや、押井守作品ってどれもそんな印象なんだよね。

 初見ではお話の意味とか、何を語りたいのか、あまり理解できない。初見時はわからんちんで終わる。だけどある瞬間で何かが繋がることがあって『あの時あの作品で語っていたのはこのことだったんだな』ってわかる瞬間が出てくる」

カエル「それが攻殻機動隊でもあったわけだ」

 

主「それが1番大きかったのが、実は『スカイクロラ』なんだよね。

 スカイクロラはもちろん映画館で初日に鑑賞したけれど、見終わった直後は『クッソつまらねぇ!』っていう印象だった。何年か過ぎて2回目も鑑賞しているけれど、印象は変わらない。やっぱり面白くない。

 でも『なんでこんなに面白くないんだろう?』とか色々考えた後に、ようやく見えてくるものがあって……今年で公開10年ぐらいになるけれど、ようやくその意味がわかった。それがわかるとスカイクロラでやったことは本当に素晴らしい。

 『つまらないことに意義がある』なんて思ったのは初めてだし」

カエル「それはスカイクロラの記事で語るとしてようか」

 

 

 こちらも色々考えさせられました……

blog.monogatarukame.net

 

 

SF作品として

 

カエル「押井さんといえばやっぱりSFって印象だよね」

主「アニメと相性がいいのはファンタジーとSFだからね。実写だとお金がかかったり、どうしても制約が多いジャンルだけど、アニメだったら絵にすることができればなんでも表現できる。

 さらに言えば、アニメって脳内で補完するメディアだし、ファンタジーやSFも『世界観から構築するジャンル』と言えるわけだ。実写だとその世界観の構築も大変だけど、アニメだったらちょっとあやふやな世界でも脳内で補完してくれる」

 

カエル「え〜それってどうなの?」

主「例えば実写でやってしまうと、どうしてもおかしなことって増えてくる。道端の花とか、電灯が現代と似ているとかさ……

 そういうどうしようもない部分が積み重なって、作品世界観になんとも言えないリアル感がでてきてしまう。それが足を引っ張る部分もある。だけど、アニメは手で描けばいいし、慣れた観客であれば脳内で補完できるし……ということだよ。

 顕著な例が『王立宇宙軍 オネアミスの翼』でさ、あれは工具から何から全てデザインして絵で描いた。これを実際に作っていたら、予算がいくらあっても足りないだろうね。まあ、今はハリウッドが全てCGでやっているけれど、あれは『アニメの実写化』なんだよ」

カエル「ふぅ〜ん……なるほどねぇ」

 

 

 

 

2 作品テーマについて

 

カエル「結局、このお話ってなんだったの?」

主「簡単にいうと『人間とは何か?』ということを問いかけてきた作品だね。

 その意味ではなぜこのタイミングに攻殻機動隊の記事なのか? というと……それは『劇場版 ソードアート・オンライン -オーディナル・スケール-』があったからでもあるんだけど……人間とは何か? というテーマについて考えるならば、アプローチこそ違うけれど、似ている部分はある

 

カエル「サイボーグと人間の違いだよね」

主「主に語られるのはそこだ。主人公の草薙素子は脳みそ以外に全てのパーツを義体という形で人口化している。そうなってくると、どれだけ怪我をしても体のパーツを入れ替えるだけで済むし、ネット社会でもダイブすればなんでも検索することができる。

 ほぼ完璧な超人になるわけだ。

 ただ、それって『本当の自分ってなんだ?』という問題に直面してくる」

カエル「ふむふむ」

 

主「ある意味では仏教の否定にも繋がってくる。なぜならば仏教って『未来も過去も関係ない』『全てが無である』ということを説いた宗教だけど、その真意って『とにかく目の前の現実を見よう』という宗教でもある、というのが個人的な解釈なわけ。

 目の前に花もあれば木もある。そういうことにも目を向けて生きれば、ただ生きているという事実、それが何よりも素晴らしいことではないか? というような。

 でも、それって人間の体が……心臓が鼓動して生きているという『体』があって初めて成り立つ概念なんだよ

カエル「仏教では身心相関、つまり体と心がセットになっているという考え方があるけれど、体が偽物だとその考えが成り立たないということだね」

 

 

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やっぱり攻殻機動隊というとこのシーン。

押井さん、強い女性が好きだよね……(押井作品で弱いヒロインってほとんどいない?)

(C)1995 士郎正宗/講談社・バンダイビジュアル・MANGA ENTERTAINMENT 

 

素子の悩み

 

 

主「そう考えると、実は素子の悩みってもっと単純な言葉で表すと……『生きている実感がない』ってことじゃない? そういうとすごくわかりやすいでしょ? 今も生きている実感がない人ってたくさんいるから」

カエル「誰でも生きていればお腹は空くし、便意はあるし、痛いとか、体が熱い、冷たいなどの感覚があるけれど、素子はその実感すらないわけだね……」

 

主「脳みそは自分のオリジナルらしいけれど、あれほど高度化した社会ではそもそも『独自の意識』というものが果たして存在するのか? ということを疑わざるとえない。我々が現代社会においてそのことを考えずに済んでいるのは、他の人と脳を共有化することがないからであり、またそこまで高度な人工知能が発明されていないからだ。

 だけど、あんな世界になったら人間と機械の間はさらに近づいて行って……むしろ、独自性なんてものがあるのかどうかわからなくなってしまう

カエル「ふ〜む……」

 

主「だとすると『私って一体何?』ということに行き着く。そもそも私は生きているのか? という悩みを抱えいく……これは究極の悩みじゃないかな? 言葉だけなら現代社会人にも共通することかもしれないけれど……」

カエル「生きている実感と、その意味というのが、体がないから我々よりも切実になってくるわけだね……」

 

 

 

 

3 人間の必要性

 

カエル「結局、人間を人間として定義できるのは何か? というお話なんだね」

主「それって、ここ20年でさらに実感を持ってきたんじゃないのかなぁ? 

 例えば人工知能がどんどんレベルが上がってきていて、今や人間を超えるほどのレベルにある。このままいくとまず間違いなく人間より優秀な存在になるわけだ。その時『人間が人間である証明』ってどのように為されると思う?」

カエル「え? それってどういうこと?」

 

主「例えばさ、最近ホットだった話題だと『将棋ソフト問題』があったあわけだ。これはトップ棋士がカンニング行為をしているのではないか? という疑惑が持ち上がって、結局は証拠不十分で汚名を返上した……と言っていいのかは微妙だけど、とにかく終わった事件じゃない?

 でも、この問題ってそもそも、人間よりソフトの方が優秀だからこそ起きた問題であるわけだ。囲碁だって人間より強いソフトが出てきて、むしろ人間が発展させてきた囲碁の型というか定石は、実は間違っていたかもしれないという指摘もある。

 ということはさ、もはやチェスや将棋という遊戯の発展だけで考えたら人間が行う必要性ってないんだよ。囲碁も近い将来そうなる可能性がある。人類よりも、より優れた存在がそのゲームを発展させてしまって、それに劣る人間がそのゲームに興じる意味って何よ?」

 

カエル「それはさすがに言い過ぎじゃない?」

主「でも、実際にコンピューター制御とかは基本的に機械が行っているし、今の人間がソロバン弾くよりも遥かに高性能なコンピューターが様々なものを計算しているわけだ。

 そうなってくると、人間はどんどん必要なくなってくる。チャップリンが『モダンタイムス』で描いたけれど、もうコンピューターに全ての仕事をとられる未来ってすぐそばにある」

カエル「競技のレベルだけを考えたら人間にこだわることの方が古い考えなわけだ……」

 

主「もちろん、競技としては人間にこだわり続けることはわかる。だけど、それが『世界最高峰のレベルの対局』というには(人間だけならば)という注釈がつく。

 人間がその将棋という競技を行う必要性が果たしてあるのだろうか? ということになり兼ねないんだよね。

 さらに言えば、人間が社会に存在する必要があるのか? という問いにもなってくる。だって人間よりも高性能なコンピューターが世界を回すのならば……それを製造するのも修理するのもコンピューターであるならば、人間は必要ないじゃない?」」

 

 

 

 

4 ゴーストの存在

 

カエル「……話を攻殻に戻すと、ラストにおいて素子は電子の海で新たに生み出された知的生命体と融合して、新たな生命として生まれ変わったよね?」

主「インターネットはさ、人間が作り出したもう1つの世界だと思うわけよ

カエル「……どういうこと?」

 

主「電子のやりとりで人間が世界中の人とやりとりができる、それって実はとんでもないことでしょ?

 そして人工知能を生み出して、ロボット技術がすごく発展した先の世界……そこはすでにもう1つの地球を生み出して、神になることと同義だとすら思うわけだよ。現時点においてもVRで現実と違う世界を見つめることができるけれど、それってもう『別の世界を創造し、視認する』ということに他ならない。

 こうなってくると、やがて五感を刺激する装置なんかも生まれてきて、その世界にフルダイブ出来るようになれば、もうそれは世界を創造したことと何が違うの?」

 

カエル「結局、生物が生きるということは電子信号のやりとりと考えたらインターネットなども同じようなものだけど……」

主「多分、自分の物言いにすごく反感を持つ人、または理解できないと思う人がいるかもしれない。

『人間とロボットを一緒にするなんて!』とか、『現実と想像の区別がつかない』とかさ……

 だけど、そんな意見が過去のものになるかもしれない」

 

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意外と女々しいバトーさんが好きです!

(C)1995 士郎正宗/講談社・バンダイビジュアル・MANGA ENTERTAINMENT

 

 

ゴーストの存在

 

カエル「その『人間とロボットを分けるもの』がゴーストなんだ」

主「ゴースト、言い換えれば魂みたいなものだよね。

 結局のところ、高度に科学的になった社会では人間と機械の区別がつかなくなってくる。その時に役に立つのが『ゴースト』とか『魂』とか、そういう観測不可能なものなんだよ

カエル「あれだけデジタル化を果たした世界において、そんなオカルトじみたものにしがみつくのが人類か……」

 

主「今の社会も似たような部分があって、例えば『ハンドメイドで職人が作りました』なんていうと、それだけでブランド化された高付加価値商品な気がしてくる。

 だけど、実際は職人が1から作るよりも、機械のほうが正確な仕事をする場合だってあるわけだ。高付加価値なのは『ハンドメイドで作った』という手作りのぬくもりとか、そういう非科学的な部分であるわけ。性能は関係ない場合もある。そもそも比べている購入している人ばかりじゃないし」

カエル「でも、確かにそれはあるよね。食品でも『この人が作りました』とかってあると、安心して買っちゃう、みたいな」

 

主「その人たちが何故安全な作り方をしていると思えるのか? 

 むしろ、大量生産されて工場ラインを通った食品のほうが、自社の厳しい安全基準をクリアしているから安心かもしれないのに……

 でも、それが人間らしいというのも思うけれどね」

 

 

 

ゴーストを獲得した情報体

 

カエル「じゃあ、あのラストって……」

主「つまり、人間や神にしかないと思われていた最後の砦であるはずの『ゴースト』というものを、知的生命体ならぬ、知的情報体が獲得してしまった、ということだ。これによって人類は究極の生命を生み出すことに成功した。

 だけど、それはやっぱり禁忌の生命体でもある」

カエル「倫理的にもNGだろうしね……」

 

主「そうなってくるとロボットや人工知能にも人権や生命としての権利が生まれてくる。

 現在においても人類は『人間とは何か?』という定義付けができていない、というけれどね」

カエル「自然分娩で生まれた人、とかっていうと、試験管ベイビーとかそういうのが問題になってくるんだろうし……」

主「この映画は『生命と物質の間』を描いた映画なんだよね。

 押井守はいつも『何かと何かの境界線』を描き、それが壊れる瞬間を描いてきたとも言えるけれど、この問題はこれからの社会……時代が進めば進むほど、重要な意味を持つと思うよ」

 

 

 

 

最後に

 

カエル「攻殻機動隊論はこれでおしまいになるけれど……」

主「本当は押井守について語るときは、1作ずつじゃなくて全作品を総括して語る方がいいかもしれないけれどね。実写映画はともかく、アニメ映画は……代表作とされる作品は似たようなテーマがあるから」

カエル「いつも同じテーマを扱っているという人もいるよね

 

主「それはそうかもしれないけれど、それが悪いとも思わないけれどね。

 やっぱり押井作品って現代人にとって重要なことを示しているよ。この作品があるからこそ『イブの時間』や『劇場版 ソードアート・オンライン -オーディナル・スケール-』のような傑作が生まれてきたとも思うし。

 多分、この先さらに存在感が増していく監督じゃないかな?

カエル「押井守作品はこれからも語っていくの?」

主「さすがに全作品となると膨大だから、とりあえず主要作品だけ……『イノセンス』『スカイクロラ』『ビューティフルドリーマー』『パト1、2』はやっぱり語らないといけないだろうね」

 

カエル「……主って結構押井守に影響受けているね」

主「映画の語り口とか、結構似ているかもね。時々1人称の語りが似ているなぁって思うときもあるし。

 押井さんって映画評論も面白いんだよね。結構的を得ているし」

カエル「ただのぼやき節のおじいちゃんじゃないんだね」

 

 

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色々な関連作品がいっぱい!

やっぱりこれからは攻殻機動隊が熱い!

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