亀爺(以下亀)
「いよいよブレードランナーの新作が公開じゃの」
ブログ主(以下主)
「いやー、いろいろな意味で楽しみだね!」
亀「このブログとしては『ブレードランナー』の新作として楽しみというよりも、監督を務めるのが今や世界中がその続編を熱望しておる、現代の巨匠ヴィルヌーヴだからというのが大きな理由なのじゃが……」
主「何を言っているんだよ!
もちろんヴィルヌーヴが撮ったというのも大事だよ! でもあのリドリー・スコットの世界的な名作をリメイクするんだよ! それだけでも面白いじゃないか!」
亀「……そのリドリー・スコットの作品は何作見た事あるのかの?」
主「え? ……4作かなぁ」
亀「ふむ……中々反応に困る数字じゃの。一般の人であれば十分な数字であろうが、映画好きとしては少ないと言わざるをえないかの」
主「というか、見始めたの10月になってからだしね」
亀「……衝撃の新事実じゃの」
主「元々SFってそこまで好きじゃないし……いや、嫌いじゃないよ? 『BTTF』は大好きだし『スターウォーズ』も全部見ている。もちろんSFアニメもたくさん見ているけれど……このブログを読めばわかるけれど、自分は『物語』や『脚本・メッセージ性』が大好きなわけで、SFなどの画面の演出については興味がない……というと語弊はあるけれど、まあでも詳しくないの」
亀「銃や車、バイク、ロボットに関して全く興味がないという人間じゃしの」
主「その銃の特性を生かした戦術、どのように生み出したのかという歴史、それにまつわる逸話……そっちが大好きな訳。そういう人間にはSFはそこまで水が合わないわけですよ。だって、一番の売りである先進的な画面構成とか、未来的なガジェットの魅力がわからないわけですから。
そうなるとSF映画の監督の代表であるリドリー・スコットには向かわないわけ。だから今まではそこまで見ていなかった。
じゃあそんな人間が『ブレードランナー』を見たらどうなるか……それを含めての記事になります。まあ、語っている人も多いのでその序章にあたる3作品も交えての感想記事です」
亀「ふむふむ……では、スタートじゃな」
1 ブレードランナーの感想
亀「まずは短評からじゃな」
ブレードランナー鑑賞
— 井中カエル@物語るカメ/映画・アニメ系VTuber(初書籍発売中!) (@monogatarukame) 2017年10月14日
まあ、わかっていたけれど今見ると「あの作品みたいだなぁ」と思うところたくさん
自分の場合は攻殻機動隊やカウボーイビバップ、ロボコップやら何やら……
もちろん原典はこちらです
音が何よりも素晴らしい!
音楽が作品をより魅力的にする好例
亀「これは中々の高評価じゃな」
主「……ちょっとした革命だったね」
亀「……ん? 評価が上がっておるのか?」
主「今回初めて『ブレードランナー ファイナルカット』を見たわけだよ。しかも劇場で。この作品を初見で劇場で見た事が良かった。しかも音響の良い映画館に行ったからさ。
なんていうか……生まれて初めてSFが好きな人の気持ちがわかったような気がした」
亀「それは絶賛かの?」
主「いや、現代で見るとちょっと苦しいところはあるよ? もっと豪華絢爛な映像を見ているし、どうしても古めかしい部分はある。既視感のある映像だしね。だけれど……やっぱり画面に艶があるんだよ。
それはデッカード役のハリソン・フォードもそうだし、レイチェル役のショーン・ヤングもそう。特にレイチェルが何処となく硬質的でありながらも、すごく綺麗で……それこそお人形さんのような美しさに溢れている」
亀「人間だけじゃなくて、あの独特のSF描写ももちろん注目度が高いの」
主「たぶん、リドリー・スコットは東洋の神秘的な雰囲気を入れたかったんだと思う。そして映し出された舞妓のCMなどを見ても、やはり間違った日本感がバリバリで……でもそれが不思議な魅力に溢れている。これが日本人の心に特に響いたのだろう。
既視感のある光景の中に、異常な、未来的なガジェットに溢れている……未来にリアリティが生まれたんじゃないかな?
もちろん昔ながらのSFのようなシーンもあるよ? 現代で見るとチャチなものかもしれない。
でも……当時のSF映画の中でこの作品の登場が高揚感を持って迎えられたというのはとても理解できる」
やはり本作はサウンドが素晴らしい!
数々の謎
亀「その中でも有名なのはこの物語の謎についてじゃな。
果たしてデッカードはレプリガントであるのか? そしてあの時何を4つ注文していたのか……それに意味があるのではないかと謎が謎を呼び、より観客をその世界へと誘って行く」
主「自分がとても好きなタイプの映画で……説明をしないことで、すごく意味深なように聞こえるようにする。それが狙ったのか、それとも編集上のミスによるものなのかはわからないけれどね。
これは『エヴァ』とか押井守作品に似ているところもあって、勝手に意味深にしておけば、それが好きなファンが勝手に考察して作品内容を深めてくれる」
亀「しかし、なんでもかんでも意味深にすればいいということではなくて、その作品を考察したいと思わせるほどの……ある種の説得力とでもいうべきものが必要じゃの」
主「それがディテールの部分だよね。
今作が凝られた世界観であり、そして特に日本人には既視感もありながらも、今までと違う未来的な描き方によって、新しいSFとして映った。たぶん、この作品を世界で1番楽しんでいるのは日本人だよ。断言してもいい。
これらの武器があるからこそ『これは何か意味があるにちがいない』と考えさせる……作品として崩壊する謎ではなく、語られなかった謎として機能している。
だからこの作品は考察したくなるファンが多くて、より熱狂的に語られるという構図になっているのだろう」
亀「実際、見終わった後の『デッカードは何者だったのか? あの折り紙の意味は?』などと考えておったからの」
主「もちろん、現代の作品を見慣れている自分にはそのラストは衝撃のものではなくて、まあそうなるよね、と思うようなものでもある。でも35年前にこの映画が出た時の衝撃……それはとてつもないものがあっただろう。
リドリー・スコットが世界中で愛されて、今でも現役で映画をコンスタントに撮り続ける理由がよく分かる。彼は世界中にファンが多いからであり、しかもきちんと当てる。ジャンルも問わない。
これは今まで見てこなかったことを後悔したね。これから全作観ないといけないなぁ……という思いに駆られている。
『エイリアン』だって新作公開したのになんで見てないんだよ! 怖いから嫌だとか子供か! って思ったよ!」
亀「それだけハマるものがあるんじゃな」
2 ブレードランナー2022について
亀「では、今回の短編作品であるブレードランナーのアニメ作品、2022について語っていくとするかの」
主「この作品は絶対観ておいたほうがいいです。
これはブレードランナー云々関係なくね!
もうアニメが好きだっていうなら必見!
これほどのアニメが公開されていること、これがもう奇跡だから! なんで劇場で公開しないのか、全く理解できないよ」
亀「クオリティが非常に高いことでも注目を集めておるの。
何せ、日本を代表する名アニメーターたちがこぞって参加をしておって……SF系の有名アニメーター達が参加しており、まさしくオールスターじゃな」
主「2017年のアニメ作品の中で、最もレベルの高いアニメだろう。
そのクオリティだけならばNo,1!
もちろん、長編と短編では全く違うし、資本もしっかりしているであろう本作と比べてはいけないだろうけれど……
それこそ神々の遊びみたいなもので、これだけのスーパーアニメーターが『ブレードランナーが好き!』という気持ちで集まって、そして作り上げたハイクオリティな作品に酔いしれるしかないでしょう!」
亀「作風としてはここ最近話題にのぼることも多い『人狼』などであったり、押井守作品……特に『攻殻』や『イノセンス』を連想させるの。まあ、後者はブレードランナーが元になっている部分も多いから当然じゃろうが……」
主「というか、沖浦作画だよね。
SF作品の沖浦啓之の作画。
特に今作の戦闘シーンで車のミラーを取って投げるカットであったり、アクロバティックな動きなどはおそらく沖浦作画でしょう。あの……言葉は悪いようだけれどネチっこい体の動きや、腰の入った重力を感じさせる投げ方などは、沖浦作画の特徴が出ているよ。(違ったらゴメンなさい)
もちろんそれ以外でも……特に中盤の戦争の描写などは本当に必見です!
この作品が日本から生まれたことに、自分は驚きと歓喜の声すらあるほどだから!」
沖浦監督作品中でもアニメーターに評価が高い1作!
渡辺信一郎監督を始めとするスタッフについて
亀「今作の監督である渡辺信一郎の要素も強く感じる作品であるの。
渡辺というと『カウボーイビバップ』が非常に有名であるが、あの雑多な街並みといい、SF描写などの多くに『ブレードランナー』の影響を受けておるのがわかる。それは音楽も同じで、ビバップ自体は菅野よう子の音楽であるが、まるでブレードランナーのような音楽も流れており……鑑賞中は『カウボーイビバップの音楽が流れ始めた?』と勘違いしたほどじゃ」
主「カウボーイビバップの劇場版である『天国の扉』なども思い出すよ。雑多なNYの街並みの中で生活する人々を描くというOPだけれど……あれがあまりにも素晴らしすぎた。もうあのOPだけで満足しちゃうくらいだからね。
『天国の扉』でも本作ほどではないにしろ白黒で色を落としているOPから始まる。他にも『交響詩篇エウレカセブン』の3つ目のEDは絵コンテを担当していて、演出は京田監督だけれど、やはり色が暗いんだよね。ヒロイン達の物憂げな表情と、そのラストに上がるシャボン玉と青い空の対比が素晴らしい。
そして代表作である『サムライチャンプルー』もOPは今をときめく橋本カツ代(細田守)の名演出が光るし、EDに至っては演出渡辺、原画村瀬修功の本作品の監督、作画監督コンビでもある。もちろん、こちらもオシャレEDで見ごたえがある」
亀「やはりこの作品は渡辺信一郎がそれまでのキャリアの集大成として、すごく力を入れて作っているのが伝わってくるの。
他にも『スペース☆ダンディ』ではそれぞれの名クリエイターたちの味を発揮した、オムニバス……と言っていいのかの? 好き放題やりたい放題のギャグやシリアスのテレビシリーズの総監督なども務めておった。それぞれの味を生かした作品じゃったな」
主「他にも村瀬修功は……ちょっと不遇だったけれど意欲にあふれていて自分も大好きな『ギャングスタ』であったり、また『虐殺器官』の監督を務めている。この2作品は評価がそこまで高くない印象もあるけれど……色々と紆余曲折があったからね。
どちらもの作品も男らしさの溢れた、グロテスクでありながらもどこかに美学があって……ナベシンのハードボイルドな世界観と見事に一致している。
その2人が手を組んで、スーパーアニメーターがついた本作……それがつまらないわけがない!」
批評として
亀「では少し、批評というか解説もしておくとするかの」
主「この作品はブレードランナーの後の世界を描いていて、おそらくブレードランナー2049では過去のレプリガントの記録が失われたということが重要なシーンがあるのだろう。その説明のための作品でもあるんだけれど、レプリガントが『過去を抹消する』というお話であるわけだ。
つまり製造番号などの過去を消すことによって、自分たちをレプリガントだと証明するものを無くしてしまう……そうすることで生まれをわからなくして、人間になろうという物語でもある」
亀「この作品からは現代的な要素も多く感じ取ったの。例えばレプリガントの反乱に手を貸す人間の男がおるのじゃが『本物より、ずっといいよ』とつぶやいてレプリガントの女性と情を通わせておる。
これは現代のオタク像に似ておる。2次元の異性に恋をして、現実の恋人を持たない……それは確かにこれから先、もっと成功なロボットが出てきたら現実にありえそうな話であるの」
主「初音ミクの登場でバーチャルアイドルは本当に生まれたけれど、現実はさらにその先へと行こうとしている。このままVRでより現実を増していき、そしてレプリガントのような存在が生まれたら……恋愛をする必要というのは無くなっていくかもね。
そして……あえてこの言葉で表現するけれど、ロボット同士の戦争というのも近い将来起こるかもしれない。現に、今やドローンなどを活用した戦争というのは世界的に常識になっている。これがさらに進歩した場合……人間が戦争することはなくなるかもしれない。
そういった様々なテーマをこちらに投げかけている」
亀「そして『天国までいける?』と鳥を見つめながら……というシーンじゃの」
主「あそこが本当に素晴らしくて……空を飛ぶ鳥というのは、いうまでもなく天使の象徴なんだよ。だけれど、彼女は空に飛び立つことはできない。天使になることはできない。
そのまま地上に落ちていくだけなんだ……だけれど、そこに1枚の羽が舞い落ちる。ここをどう解釈するか? ということだけれど……自分はやはり天使が迎えに来たということだと受け止めたい。
たとえレプリガントであっても、天使が舞い降りてきて天国へと連れて行ってくれる……その瞬間に彼女は人間となった」
亀「この『レプリガント』と『人間』というのはブレードランナー2049でも重要になってくるのじゃろうな」
主「とにかく! 絶対に見て欲しい1作なので、まだ見ていない人はいますぐ公式サイトにアクセスだ!」
3 ブレードランナー2036と2048について
亀「続いて実写の方の短編作品の2作品について語っていくとするが……正直、短編として成立はしておらんの」
主「やはり時系列通りに見るからさ、2022という世紀の大傑作を鑑賞した後で、ハードルが上がっているのは否定しない。
だけれど……この2作は短編としても成立していないんだよね。
単なる序章、説明の章でしかない。映画としての快楽もあまりなく『ふ〜ん』で終わってしまう」
亀「厳しいようであるがわしなどが見たいのは『設定』ではない。その裏にある『人間(レプリガント)としての葛藤』などが見たいわけじゃ。しかし、本作は設定を開示しただけのSFになってしまっておる。
もちろん、映像は素晴らしい。素晴らしいが……では短編作品だからこそできる味が詰まっておるか? と聞かれると微妙じゃの」
主「この作品は長編の作品の1部分をそのままカットしたにすぎないんだよ。確かに完結しているように見えなくもない。
でも実際は全く完結なんてしていない。オチもない。ここから先繋がるというだけでしかない。
それはそれで正解かもしれないけれど……でもなぁ……2022が短編として批評性もあって、物語も完成されているのに対して、こちらは全くそうなっていないから不満がある」
亀「おそらく2036の『違法なレプリガント』であったり、2048のあの暴れているレプリガントが重要な意味を持ってくるのであろうというのはわかるのじゃが……」
主「それだけじゃねぇ。確かにに迫力はあったけれど、これじゃ未完成だよ」
ルーク・スコット監督について
亀「本作を手がけたのはリドリースコットの息子であるルークスコットじゃが……」
主「自分はリドリーに息子がいたことも、その子が映画監督なのも初めて知った。もちろん、映画を見たことはない。だから、これから本作だけで評価するのはかわいそうかもしれないけれど……でも、まあ、2世らしいといえば2世らしいよね。結局父の世界観の真似をしているだけに見えてくる」
亀「『MORGAN モーガン』も興行的、批評的にも失敗したらしいの。まあ色々と不運な事情……『エクスマキナに似ている』などという、ある種の偶然性にも左右されてしまったらしいが……」
主「映画界における2世って実は結構いて、成功者もいれば失敗した人もいる。日本だと深作欣二と深作健太、それから宮崎駿と宮崎吾朗がいるけれど、父を超えるというほどではないのかなぁ……2人とも、父と似た様で違う世界を歩み始めているけれどね。
それから成功例で言ったら何よりもコッポラのところでしょ。ソフィア・コッポラはヴェネチアで金獅子賞を受賞しているし」
亀「賞だけが全てではないが、コンスタントに撮ることができておるからの」
主「そうなるとルークスコットはどうなんだろうね?
少なくとも、今回はちょっと注文などがあって難しいところもあったかもしれないけれど、ルークじゃないと撮れない映画になっているとは思えなかったのは残念かなぁ……
短編って色々と勝負できる表現形態だと思っているからさ、もっと監督の個性が見たかった」
亀「2022に比べるとやはり語りづらいところがあるの」
最後に
亀「さて、ブレードランナーたちの記事ということじゃが……」
主「やはり、歴史的な作品だろう。間違いなく世界のSF作品に影響を与えたし、そこから脱出することは難しくなった。どの作品にもブレードランナーの影響下にあるという意味も何となくわかるよ。
それだけの作品をリメイクするというヴィルヌーヴに恐れ入る」
亀「しかし、ヴィルヌーヴが表現してきたものとブレードランナーは合うのかの?」
主「間違いなく合うでしょう!
むしろヴィルヌーヴ以外の誰がいるのよ!? それまでの作品で深い人間像を描いてきたんだもの。これ以上の適任者はいないって!」
亀「ほう……ではそれも含めて楽しみにしておきたいの」
主「さて! 金曜日は頑張るよ! 早起きして映画館行かないと!」
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