物語る亀

ネタバレありの物語批評

映画『灼熱の魂』感想、批評 ヴィルヌーヴの作家性全開! 必見の名作です <ネタバレあり>

亀爺(以下亀)

「なんだか、久々に洋画を扱う気がするの。

 ここ最近はアニメに次ぐアニメばかり語っておったし……」

 

ブログ主(以下主)

「あれ、もしかしたら『ダンケルク』以来の洋画の記事になるのか?

 ここ最近はアニメ映画が多かったとはいえ……確かに久々かも」

 

亀「まあ、半分以上アニメ記事ばかりじゃからな。特に洋画に関しては詳しい人がいくらでもいるから、改めて主みたいな門外漢が語ることもないじゃろう。来月から洋画の大作がたくさん公開されるが、それだってどうするか決まっておらんのが実情だからの」

主「どうせみんな『このブログはアニメ記事だけ見ればいいや』とか思っているんでしょ……知っているよ、洋画だってそこまで詳しいわけじゃないしさ……

 でもね、ヴィルヌーヴは別なんだよ!

 自分が心から『好きだ!』って叫びたくなる監督って洋画ではヴィルヌーブなんだよ!

 

亀「過去に幾つかの作品を語っておるが、今回この作品を選んだ理由は何になるのかの?」

主「単純に大好きだから!

 オールタイムベストを選ぶとしたら、間違いなくこの作品は10作品の中に入ってくるだろうし、1位に選ぶ可能性だってある。

 もちろん、他にも名画が……アニメ、邦画、洋画を問わずにたくさんあるから簡単には言えないけれど、それほどまでの作品だからだよ。

 今回はヴィルヌーヴや洋画ファンの中では評価の非常に高いこの作品がいかに優れているのか、その点について語り明かしたいと思います!」

 

亀「ブレードランナーの新作もあるからの」

主「ちなみに、先に言っておくと自分は『ブレードランナー2049』は今年1の傑作になると思っているし、ヴィルヌーヴの代表作であり、またSF業界を一変させるとすら思ってます!

亀「……ファンの贔屓目込みじゃがな。今年そう語った作品もたくさんあったが、それだけの期待を寄せている作品であるのは間違いないじゃろう。

 では『灼熱の魂』について語るとするかの」

 

 

 

 

灼熱の魂 Blu-ray

 

 

作品紹介・あらすじ

 

 カナダ出身の映画監督・ドゥニ・ヴィルヌーヴがカナダの歴史ある映画賞であるジニー賞にて『渦』『静かなる叫び』に続いて3度目の監督賞を獲得した作品。監督とともに脚本を務めたのは現在のところ本作が最後である。

 また、アカデミー賞外国語映画賞のカナダ代表として出品されて、本選にもノミネートされている。(受賞作品は『未来を生きる君たちへ』)

 本国公開は2010年、日本公開は2011年で、131分の作品。

 

 中東系カナダ人の女性、ナワルは自分の子供である双子のジャンヌとシモンに遺言状を残して亡くなってしまう。遺言状には存在すら知らなかった兄と父への手紙が同封されていた。

 母の遺言状ということもあってその手紙を渡したいと、会ったことのない家族を探すためにナワルの母国を訪れたジャンヌとシモンは、母の戦争と苦難の歴史と向き合うことになる……

 


灼熱の魂

 

 

 

 

1 感想

 

亀「それでは、もう語っておるが感想から始めるとするかの」

主「もう大絶賛ですよ。

 ヴィルヌーヴは現代の映画監督の中でもアメリカ国内外を問わずに注目されているのはもちろんだけれど、この映画でそれは決定的なものになった。

 映画の面白さって色々あると思うけれど……これほどテーマ性や語り方が優れた映画はあまりないとすら思うね

亀「ふむ……まあ、当然のことながらベタ褒めじゃの」

 

主「この映画ってヴィルヌーヴの作家性が一番出ていている作品だと思うんだよね。例えばスタート付近で大学の講義があるんだけれど、これをヒロインのジャンヌが効いている。

 このシーンって『メッセージ』や『複製された男』などでも共通している描写であり、なんでもない講義のようだけれど、実は作品で1番大切なテーマを語っていたりする。そういった……後々の作品にもつながってくる技術や演出力がこの映画ではいかんなく発揮されている。

 もちろん、ヴィルヌーヴらしい映像の世界であったり、音の世界であったり……そういった色々な味が1度に楽しむことのできる作品に仕上がっている

 

亀「しかもそういったことに注目しなくても楽しめる作品でもあるからの。

 この映画をただボケ〜っと眺めるだけでも、そのとんでもなさはわかる。誰にでもわかるような刺激的な展開に溢れておるからの」

主「この物語が最後に帰結する結果、それこそが単純に驚きがあって、誰もが楽しめる……という言い方が正しいのかはわからないけれど、味のある作品に仕上がっている」

 

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監督を務めるヴィルヌーヴ!

(C)2010 Incendies inc. (a micro_scope inc. company) - TS Productions sarl. All rights reserved.

 

情報量の制御

 

亀「特にこの映画が素晴らしいのは、ヴィルヌーヴという監督が一体何を表現しようとしてきたのか、それがわかるところじゃな」

主「この作品の前作に制作した『静かなる叫び』と是非セットで鑑賞してほしい。ヴィルヌーヴが表現しようとしたもの……そしてその根底にあるものが何なのかすごくよくわかる。

 『静かなる叫び』というのはカナダで実際に起きた銃乱射事件の話なんだけれど、2009年に製作されているのに白黒なんだよ。ではなぜ白黒なのか? それはカラーだと出せない強さに溢れているから。

 この映画の記事でも語ったけれど、白黒にして映画の情報量を制御することによってのみ出せる味というものもある

 

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亀「そう考えると灼熱の魂も比較的暗いシーンが多いの。光のシーンと影のシーンのメリハリがはっきりしておる」

主「『静かなる叫び』に話を戻すと、白黒にすることによって却って浮かび上がるものがある。それは何かというと、人間の持つ生の力であったり、性の魅力が生々しく浮かび上がってくる。

 映画というのは……映像表現というのは、映像の中にある情報量をいかに制御するかということでもある。映画の技術的な歴史とは、その情報量を増やすための奮闘の歴史なんだよ」

 

亀「つまり、サイレントから音をつけてトーキーになり、そしてカラーになり、CGや特撮などの技法によって表現できる幅を広げるということじゃの」

主「でもその情報量を増やすことが必ずしも良い変化をもたらしたのか? というのは難しい問題で……例えば黒澤明が顕著だけれど、黒澤作品で誰もが称える名作とされる作品は白黒映画が多い。白黒だからこそできる映像の力、魅力に満ちている。

 カラーになると黒澤本来の画家志望の味などが出て、それが却って力強すぎてクラクラしてしまうこともある」

亀「人によっては白黒最後の映画である『赤ひげ』までを評価するという声もあるの」

 

主「つまり、カラーによる情報量が増えたことによって黒澤本来の力や癖が強すぎたとも言えるかもしれない。

 自分は『どですかでん』のラストシーンとか大好きだけれどね。

 情報量の制御といえば実はノーランも似たようなところがあって、『ダンケルク』にて極力会話を減らしてサイレント映画を意識したと語っている。つまり、映像の力を信じて最大限発揮しようとしているんだよね。

 ヴィルヌーヴの場合は色を落とし、会話を極力減らした。

 現代を代表する監督2人が、このCGで情報量を増やそうという時代で、真逆のことをしているからこそ……巨匠と呼ばれる存在になっていくのだろう

 

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ヴィルヌーヴの作家性

 

亀「では、ここでヴィルヌーヴが示した作家性について考えていくとするかの。

 どの作品にも共通する作家性、それが最大限に発揮されたのが、この灼熱の魂であるということでいいんじゃな?

主「そうだね。『静かなる叫び』とこの作品が一番強いかもしれない。それ以降、このテーマは他の作品でも共通しているところがあるんだ」

亀「では結論から言おうかの」

主「すっごく簡単に言ったら『愛』なんだよ。

 愛って何? ってこと。

 だけれど、ここで語る愛ってよくある、恋愛映画の語る愛とはまた違う。日本語の大雑把なところでもあるんだけれどさ……明治あたりに翻訳する際に、色々と日本語に翻訳をしていた。その際に日本には全くない概念を翻訳しようとしているゆえに、現代だとちょっと問題があったりもする……まあ贅沢な話なんだけれどね。現代では翻訳すらしようとしないから」

 

亀「日本人が語る『愛』とは『エロス』のことが多い。しかし、愛には4つの概念があるとされており、『エロス』『フィリア』『ストルゲー』『アガペー』があるとされておるの」

主「まあ、自分もどこまで理解しているかは微妙だけれどさ、ヴィルヌーヴが描いてきた『愛』というのはこの4つを統括するものなんだよ。

 こののち、ヴィルヌーブは宗教色の強い映画を撮り始める。それが『複製された男』『プリズナーズ』だ。この2作品は宗教的な知識が下敷きになっているんだよね。

 そしてこの映画にて……4つの愛、その全てを内包した作品を描いたと言ったも過言ではない

 

亀「……つまり、これ以上ない『愛』の映画ということじゃな」

主「そしてそれは人間の持つ『業』としての愛である。これほど強固なテーマはないよね。普遍性に満ちている。

 というわけで、これからは作品内容を紐解きながら、いかにしてヴィルヌーヴが『愛』を描いていったのか……それを探求していこうと思います。

 ちなみに、本作はネタバレせずに見た方が絶対いいです!

 なのでまだ未鑑賞の方は下から鑑賞することをお勧めします!」

 

灼熱の魂 (字幕版)

灼熱の魂 (字幕版)

 

 

 

以下ネタバレあり

 

 

 

2 序盤の問答

 

亀「では、ここからヴィルヌーヴが示した『愛』探求を始めるかの。

 まず、この映画では序盤に様々な設定を開示しておる。つまり、なぜこのような母の過去を知る旅が始まるのか? ということじゃな」

主「この場面は設定の説明だよね。上手いのはさ、さらりとこの双子である息子と娘の2人がなぜ母親の過去を探すのか? ということを説明している。疑問に思うこともない理由だし、なかなかうまい始まり方だよね。

 もちろん、その前の少年のじっとカメラを見つめる絵も素晴らしい。ここで少年が見つめる目力、それで何を探しているのか? と言ったら、当然母なんだよ。

 でも、今回語るのはなんでもない大学の光景なんだ」

 

亀「ふむ……なんてことのないような大学の講義ではあるがの」

主「先にも述べたけれど、この大学の講義が非常に重要なんだ。というよりも、ヴィルヌーヴの作品はなんてことのないような会話の端々に意味が込められていて、脚本家としても中々の腕を持っているんだけれど……もちろん、ワジディ・ムアワッドの戯曲が下敷きにあるのは当然としても、再構成が非常にうまい。

 極端なことを言ってしまえば、この序盤だけでこの映画の肝は全て成立してしまっている

 

 

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少年の瞳が強く印象に残る

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大学の講義

 

亀「ほう? そこまで言い切るのか?

 映画の序盤にはその映画の持つ魅力がたくさん詰まっている、ということかの?」

主「まあ、そうなるかなぁ……

 まず、この映画で重要なのは『eiπ+1=0』ということだ」

亀「オイラーの方程式じゃな。世界で1番美しい数式とも言われる、完璧な真理の1つじゃ」

 

主「話は前後するけれど、この前で姉であるジャンヌは数学の授業に参加している。この時の教授の言葉に注目してほしい。

 

『ここから先は答えのない問題へと続く、解決不能な問題に直面するようになる。努力しても無駄だという人もいるだろう。想像を絶するほどに複雑で難解な問題を前に、自分を守る術はなくなる。

 純粋数学へようこそ……”孤独の世界へ”』

 

 ほら、映画を見終わった後だとこのセリフ、すっごいしっくりくるよね」

 

亀「ここで助手を務めるというのは意味のあるものじゃな」

主「数学的に物事を解いているのもあるけれど、『心が平穏でないと純粋数学はできない』という言葉もある。いや、セリフの1つ1つが洒落ているよね……

 ここで教授の友人が告げるのが『eiπ+1=0』の法則である。つまり、真理について述べているわけだ。そして『故に神はいる』と続く……

 これだけで十分なんだよ。この映画を語るのはこれが全てとも言える」

亀「……いや、それではあまりにも適当すぎるじゃろう」

主「というわけで、ここからが本題に入っていくけれど、この言葉があまりにもうまく、そして美しい始まりであるということは主張していたいね」

 

 

 

 

3 生まれてくる子供と……

 

亀「そして母のナワルの過去の話になり、子供が生まれるシーンが始まるの。ここは非常に画面も暗く、この子供の将来を暗示するようなものになっておる。出産シーンとは思えないくらい大量の血も出ておって、リアルといえばリアルなのじゃが、痛々しい生命の誕生を印象付ける。

 そしてさりげなく後から極めて重要になる足にある3つのあざを見せつける。ここで『あら、足にあざが……』なんて言わないところが邦画と違い、観客を信じておるようで美しいの」

主「ここで重要なのはこの子供の存在なんだけれど……この子供は『忌み嫌われる子供』なわけ。ある意味では罪の子なんだよ。父親が射殺され後に生まれていて、確かに難民の子供という意味でも罪を抱えている。

 でもさ、それだけじゃないの。なぜこれほどまでに難民が嫌われているか……それはイスラム教徒だからだ

 

亀「この映画における戦争は宗教戦争であり、キリスト教とイスラム教の対立が激しいものになっておるの……

 現実ではどのようになっておるかは簡単には言えんが、イスラム教徒とキリスト教徒であれば結婚は可能じゃ。しかし、日本人が思う以上にこの2宗教の戒律の違いは重い。ましてや戦争になるほどに厳しい対立があった宗教じゃからな。

 それを罪や恥だと考えるのも……無理はないのじゃろう」

主「これも日本人にはピンとこないけれど、恋愛における大きな壁なんだよね。そしてそのどちらにも属すけれど、どちらからも忌み嫌われる親と子供が……罪の子供が生まれてしまった。

 この罪の意識、そして『神』というのはこの映画において非常に重要。つまり、本作は『罪と愛』の映画であり、また『神と愛』の映画でもあるということなんだ」

 

 

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あまりにも辛い内戦の記憶……

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連鎖する悪夢

 

亀「そのあとは見ているだけで不安になってしまう、強烈なシーンがあるの……」

主「内戦が始まってしまい、イスラム側がキリスト教徒の村を破壊してしまう。その後に母であるナワルは自分の子供が無事か確かめに行くんだけれど、その安否はしれない。なんとか知るためにイスラム教徒のふりをしてバスに乗り込んでいくわけだ。

 だけれど、そこでキリスト教徒側の反撃を受けてしまう。

 このシーンはイスラムとキリストという宗教の対立ではあるけれど、ある意味では『愛』の対立なんだよ。敵に自分の愛するものを殺された、報復をしようという意味も含めての愛……怒りの連鎖だと言ってもいい」

 

亀「しかもこの時に亡くなった遺体を火にかけて燃やしてしまう。これは死後の世界による復活、レクイエムを信じている敬虔なイスラム教徒やキリスト教徒からしたら、死んでも許さないという強烈な意思表示となっておる」

主「ここまでこじれているんだよ。関係ない人であっても、単なる一般人であっても、敵と同じ宗教を信仰しているというだけで、命すらも否定されてしまう。

 それほどまでにこじれても変わらない思い……それが子が母を思う心である

亀「……あのシーンは子供でないの。薄く音楽を流し、悲鳴などを上げることなく、淡々と描いておる」

 

主「宗教的対立によって失われてしまう命……そこにナワルは自分の子供を映してしまう。

 このシーンは大体映画の半分くらいの長さで描かれていて、全体の構成としても非常に重要な位置付けにあるということもわかる。大体映画って1/4ずつ見どころや核心に迫るシーンを忍ばせるものが多いからね。

 観客をひきつける……エンタメ性といったら言葉が悪いかもしれないけれど、そういうものも抱えたシーンだよ」

 

亀「ちなみに、この後娘のジャンヌが様々な場所へ出向いて色々と聞きまわるが、このシーンで言葉が通じない様子は『メッセージ』につながってくるものもあるの」

主「この後の作品の要素もふんだんに詰まっている。

 自分はこの作品が1番ヴィルヌーヴの作家性が色濃く出ていると思うけれど、それはこの後の作品にも影響している。もちろん、そういった作品を作るとは露ほども思っていなかっただろうけれど……でも作家性ってこういうところから出るものなんだね」

 

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4 母と子

 

亀「今作品ではプールのシーンが印象に残るようになっておるの。母と娘の始まりのシーンもプールであるし、ある決定的な事実を示唆するシーンでも双子達がプールに潜っているシーンがある」

主「本作におけるプールってなんの意味があるのかな? って思うとさ、やはり羊水の中にいる子供のイメージなんだろう。だから双子がプールに潜っているシーンで、弟の方は丸まって……ダルマのようになっている。これは明らかに子宮の中にいる赤ちゃんを連想させるよね。

 そうなると、なぜプールで劇的な再会を果たしたのか……それもなんとなくわかるでしょ?

 最初に3つのあざを見つけたのは出産の時だった。そしてその産まれてしまった罪を見つけるのもプールという……いわば『羊水』の中である。

 水は生命の源、何て言うけれど……この辺りがヴィルヌーヴの映画監督としての映像のメタファーとして現れている

 

亀「そう考えるとこの作品の協力者であるルベル弁護士の『私でルベル家は途絶える』というセリフも中々に意味深じゃの」

主「何であの人が結婚しなかったのかはよくわからないけれど……もしかしたら同性愛者などを揶揄しているのかもしれない。キリスト教も宗派によって色々な意見があるし、イスラム教徒ではタブーとなっている。もしかしたら……宗教的な見方をすると『罪を抱える人』の1人なのかもしれない。

 そう考えると何故あの弁護士を頼んだのか? ということにも納得出来る事もあるんだよね。ただ、同性愛者だと決定づける描写なんて何もないから、単なる憶測なんだけれど……この作品のテーマとは合致すると思っている」

 

 亀「あんまり直接的に本作のネタバレはしたくないが、結果的に『罪の子供』であったからの」

主「その原罪の意識……それが大切な作品だよね」

 

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プールのシーンは結構重要

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娘と息子の旅

 

亀「本作では途中から娘の探求の物語から、息子の物語へと変わっていくの

主「上手いのはここなんだよね。『ここからはあなたのターンよ』なんてセリフがあったけれど、この映画はやはり『愛』の映画なんだ。

 子供を産むためには女性だけではできない。自らのルーツを知るならば、母だけを追っていてもダメである。当然、父も重要だ。

 ここで大事なのは母を追うのが娘……つまり女であるということ。そして父を追うのが息子、つまり男であることである」

 

亀「それこそ日本人が愛という言葉で連想しやすいエロスの世界じゃな」

主「愛って簡単に言うけれど、今作が……ヴィルヌーヴが語る愛は『業としての愛』なんだよ。人と人が愛し合い、子供が生まれるというのはある種の祝福かもしれない。でもそれは誰もが望むようなものではない時もある。

 今年見た映画だと『夜明けの祈り』という作品があって、第2次大戦中にソ連兵によってレイプされてしまい、身ごもってしまった修道女達を救う女医のお話なんだけれど、神との結婚を誓った修道女が人間の男と交わってしまい、子供を身ごもってしまう……それはとてつもない悪夢である。

 男と女がいて子供が生まれる……それは『業』としか言いようがない事もある。でもその業も含めての愛なんだ」

 

亀「だからこそ父の事は息子が知る必要があるわけじゃな。

 その男女の両者が求めあうことで知ることのできる『真実』にこそ、意味がある。

 片方だけでは違うことになってしまうわけか……」

 

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なぜ本作は男女の双子なのか? それは『男』と『女』のルーツを知るため

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全てを内包した愛

 

亀「そしてこの映画の最大のメッセージを放つ、真実を知った後の描写へと話は映る」

主「本当に日本人でも忌み嫌う人も多いであろう罪なんだよ。しかも宗教的な制約が強い海外であれば、生きることすらやめてしまうかもしれないほどの罪なんだよ、

 神を裏切り、倫理を裏切り、男女の愛も裏切る……そういった数々の裏切りの罪が判明する。

 だけれど、それに対して母は告げるんだ。

 

 『私はあなたを愛します』

 

 これは本当に素晴らしい! どれほどの罪を抱えていても、どんなものであろうとも愛することを誓い、その罪の連鎖を断ち切る……これが如何に尊いことか!」

 

亀「ここだけを知るとよくある話のようであるが、ここまでの過酷な旅が昇華された瞬間のこの言葉じゃから余計に思うところがあるの」

主「ここでナワルはまるで神のようでもある。それだけの多くの罪を重ねてきても、どれだけ弱い存在であっても、それでも私はあなたを愛する……それこそが神の愛である『アガペー』だ。

 単なる個人の、母の愛が『エロス』を超え『フィリア』や『ストルゲー』をも内包し、その更に上の見返りのない無限の愛である『アガペー』の領域へとなる……

 これが『愛』なんだよ!」 

 

亀「もちろん似たようなことを語っておる映画や物語はたくさんあるじゃろうが、今作品の深さは比較にならないの」

 主「宗教的対立を多く描いたのも『神に対する罪』を描きたかったからだよね。日本人は神という概念があまり意識することがないけれど、家族の問題の無限の愛を描くだけでなくて、もっと上位存在の意思すらも描いた。

 この業としての愛を描き切ったこと……だからこそヴィルヌーヴは素晴らしい。

 このテーマは他の作品にも一貫しているんだ。

 自分は『メッセージ』に感動した人こそ、この映画を見て欲しいね

 

 

 

最後に

 

亀「正直な話をすれば旧作というのはそこまでアクセス数が稼げないから文字数をたくさん書く必要もないのじゃが……今作はやはり1万文字近くになってしまうの」

主「ヴィルヌーヴだからね。これでもかなり省略しています。

 この作品を読み解くのに、カナダ出身の監督であるということはかなり大きい。本作もカナダが舞台でもあるけれど、移民政策を進めている国だから人種のるつぼである。そこでは生まれたバックボーンが全く違う人がいる。

 近年は移民は世界的な大問題になっているけれど、想像もできないような人生を送っている人もたくさんいる。

 日本だって隣の韓国では北朝鮮から脱北してきた、難民ともいうべき人がたくさんいる。その人たちは中国で『奴隷花嫁』として人身売買されたりしているわけだ。それが世界の現状なんだよ」

 

亀「そのような現実をたくさん見てきたからこそ、このような懐の深い愛を描くことができるんじゃろうな」

主「そしてそれが現代のハリウッドで1番求められていることでもある。差別はダメだ! の大号令が必要だからね。

 でもね、ヴィルヌーヴはそんな簡単な話をしない……こちらに様々な考える余地などを提供してくれる。

 こんな監督が『ブレードランナー』をリメイクするんだからさ! そりゃ、もう期待しかないよね!」

亀「楽しみにしたいの」

  

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