物語る亀

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物語愛好者の雑文

映画『ダンケルク』感想 ノーランが描く歴史に残る戦争の圧倒的な映像と音に酔いしれる

 カエルくん(以下カエル)

「今回は初めて深夜の最速上映にいってみたよ!」

 

ブログ主(以下主)

「恐いわぁ、夜の新宿って恐いわぁ」

 

カエル「今回最速上映を開催してくれているTOHOシネマの新宿はゴジラのすぐ横にあることでも有名だけれど、場所はあの新宿歌舞伎町の中にあるんだよね。

 もちろん夜のお店もたくさん営業中で、かっこいいお兄さんや綺麗なお姉さんもたくさんいるわけだけだけれど、100メートル歩く間に何回キャッチに声をかけられたことか」

主「もう嫌だぁ! 早く帰って汚い家の中で犬小屋みたいな毛布に包まって早く眠りにつきたい!」

カエル「……随分劣悪な環境で暮らしているようで」

主「さっきから変な人しかいないしさ、卑猥な単語を並べるお兄さんに声をかけられて、こちとらガクブルが止まらないわけですよ!」

 

カエル「あれ? なんか今回えらい幼くなってない?」

主「そりゃ、幼くもなりますよ! こんな恐い街に一人で放り込まれて、周りは飢えた野獣みたいな人たちばかりでさ! 

 こういう場所でなんで深夜に上映するの!? もっと治安の良さそうなところでやらないと!」

カエル「えっと……成人している大人ですよね?」

主「大人だからこそ恐いんだよ! 子供だったら少しは手加減してくれたり、保護してくれるかもしれないけれどさ、そういう可能性がまったくないような状況下において、どうすればいいっていうのさ!?

 警察だってこの街ではそこまで頼りになるわけではないし、きっと深い海の底にドラム缶につめて捨てられてしまうんだぁ・・」

 

カエル「『新宿スワン』『闇金ウシジマくん』の読みすぎだね。大体、今ってドラム缶に入れるほうがコストがかかりすぎるらしいし、そんな簡単に人間一人を消すことなんてしない……

 そんなくだらない話はおいておいて! 今回はクリストファー・ノーランの最新作、ダンケルクについて語っていくよ!

 大体歌舞伎町なんかよりもこの映画の世界のほうがよっぽど恐いんだからね!」

主「あー・・朝までどうやって過ごそうかなぁ」

 

 

 

Dunkirk: Original Motion Picture Soundtrack

 

作品紹介

 

 『ダークナイト』『インセプション』など数々の傑作を生み出し、映画界に衝撃を与え続けているクリストファー・ノーラン監督の最新作。

 今作は初めて史実を基にした作品となっており、第二次世界大戦はもちろん、世界史史上最大の救出作戦ともいわれる『ダイナモ作戦』が行われていたダンケルクの戦いを描く。

 

 ポーランドを侵攻し、勢力を拡大していたドイツ軍は新兵器を次々と投入し、電撃的な戦いで英仏連合軍をダンケルクへと追い詰めていた。取り残された40万人ともいわれる兵士たちを救出するために、チャーチル首相は命令を下して軍艦、民間船をも巻き込んだ救出劇『ダイナモ作戦』を展開していく。

 明日にはどうなるか知らない兵士たちは、助け舟が来ることを今か今かと待っていた・・

 

 

 

 

 

 

1 感想

 

カエル「では感想からはじめるけれど、いつもどおりのツイッターの感想はこのようになっています」

 

 

主「なんといえばいいのか、まったくわからないというのが本音かなぁ。

 確かにすごい戦争映画なんだよ。たぶん『ハクソー・リッジ』と並ぶ戦争映画の今年の主役であることは間違いない。

 おそらく年末の映画好きが選ぶ映画ランキングでも票をたくさん獲得するだろう。それにアカデミー賞でも注目を集めることはまちがいないし、撮影賞、録音賞、特殊効果賞などはかなりの有力候補になってくるとおもう」

カエル「今回はIMAXで鑑賞したけれど、音がすごかったよね! 爆撃の音や銃声などもすごくリアルで、しかも恐怖感を与えるような威嚇的な音になっている。もしかしたら子供が見たら泣いちゃうかも……」

 

主「映画館にもよるだろうけれど、イスから重低音が響いてくるんだよ。それだけスピーカーから流れてくる音が迫力があって、身体中が震えているわけ。

 少なくともまちがいなく言えるのは……これを言うとまた都会在住者の意見か、といわれそうだけれど、少しでも音響に力をいれている映画館で観たほうがいい。もちろんテレビ画面で見ることは推奨しない。

 極論をいってしまえば、映画館で観ないとこの作品の味はわからないと思う。それだけ音や演出にこだわっている作品でもあるんだよ」

 

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これだけ引きの絵でたくさんの人の行列を描くだけでも、力の入れようがわかる

(C)2017 Warner Bros. All Rights Reserved.

 

 

一方で脚本については

 

カエル「でもさ、それだけ拘っているのに、語るのは難しい映画なんでしょ?」

主「ネタバレなしで一応語っているけれど……これは歴史ものだったらどれもそうかもしれないけれど、ネタバレってないんだよね。なぜならば、ダンケルクの戦いが、ダイナモ作戦が成功するということは世界中の誰もが知っている事実だ。

 じゃあ、この場合のネタバレは誰が生き残り、誰が亡くなるのか……あるいは亡くならないのか、ということにつながっていくと思う」

カエル「結果はだれもが知っているからね」

 

主「本作が突出しているところは約100分にわたって戦争を描いてしまったことにある。普通の映画であれば、その主人公の家族であったり、バックボーンを描いたり、あるいは夢や希望を語り合って、結局は死んでしまったりというようなドラマがあるわけ。

 本作はそんなドラマがほとんどない。一切ないとまではいわないけれど、誰がどのような過去を抱えて、どのような気持ちで戦っているのかということを説明するような描写はない。ただ、その画面を通して訴えかけてくるものをじっくりと見つめるだけしかないんだよ

 かなりリアルに戦場を描いているし、その意味では革新的な物語ということもできる

 

カエル「それが語りづらいの?」

主「自分が望んだ戦争映画ではなかったというのが本音かな。

 自分は戦争『物語』が見たいからさ、その戦争描写を通して何を表現したいのか、何を訴えかけたいのかということに注目をしている。でも、この映画からはそういうメッセージ性などについては、ないとまではいわないし、むしろその映像こそが何よりのメッセージ性を放ってはいるんだけれどさ、それは自分の望むものではなかったという印象かなぁ」

 

以下ネタバレあり

 

 

 

 

2 圧倒的な映像の迫力

 

カエル「ここからは作中の描写に言及しながら語っていくけれど、ノーラン作品をどれくらい見ているの?」

主「少ないよ。『ダークナイト』と『インセプション』だけ。ちなみにこの2作もバットマン、ヒーローアクション映画の革新的作品という話と、あとは今敏イズムが感じられると聞いたからみただけで、実はノーラン作品として意識したことはなくて、ダンケルクが初めてノーラン作品として鑑賞したかもしれない」

カエル「でも現代の巨匠なんていわれているわけじゃない? 見る気ないの?」

 

主「いや、ないって言ったら嘘になるよ。アニメ映画が専門みたいなところもあるけれど、やっぱり洋画で非常に重要な人物ということもあって注目度は非常に高いしさ。

 優れた映画監督は画面自体がすでに名刺になっている。たとえば、黒澤明なんかそうでしょ? 画面をぱっとみただけで『黒澤だ!』とわかる力強い画面になっている。

 その意味では現代では特に注目しているのが自分が大ファンのヴィルヌーブとノーランかな。もちろん、他にもいるけれど、この2人は間違いなく今後のハリウッドの代表格になる監督になる……というか、もうなっているか。

 いつかは全作品見ようと思ってはいるけれど、いつ手を出すかは言及できないなぁ」

 

カエル「でさ、ノーランの強みってどこにあると考えるの?」

主「2作しかみていない人間がいうのもなんだけれど、やっぱり絵の力がトンでもなく強い。詳しい人ならばカメラがフィルムだからどうこういう話になるだろうし、自分はそれがわからない人間だけれど、その力強さはよくわかる。

 それはこの作品でも同じでさ。スタートの絵が本当にすばらしかったんだよね

カエル「街の中で兵士たちが途方にくれていて、空から紙ふぶきのようにドイツ軍のメッセージが書かれたチラシが降ってきた場面だね」

 

主「そこからの銃声で一気に引き込まれた。主人公たちのいる状況がいつ、どこから襲われるかわからない、敵の姿もないのに倒れていく仲間たち、戦いようのない状況による絶望感など、多くのことが伝わるようにできているんだよ。

 そして音ね。この音がまたすばらしくて、先ほども言ったように背中が震えるの。このあたりはやはり拘りぬいているなぁ」

 

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圧倒的で無慈悲な爆撃に心が奪われる

(C)2017 Warner Bros. All Rights Reserved.

 

 

いきなりクライマックス

 

カエル「そこから敵が空か攻めてきたりと、すごいお話だったよね」

主「なぜ『ダークナイト』があれだけ支持されるかというと、もちろん力強い絵の作り方などもあるけれど、まずは何よりもスタートがうまいんだよね。自分はテレビで冒頭10分くらいかな、公開したのを見たのがノーランとの出会いだったけれど、そこで一気にしびれた。

 で、本作もそれは同じ。いきなり逃げる、走るという急でもあり、溜めでもある演出を使って観客を取り込み、敵と味方が混在する極限の状況を見せ付けて、そして圧倒的な火力による戦争の現実をみせつける。これだけで観客は一気に引き込まれる」

 

カエル「かなりの力技だけれど、だからこそそれは有効だよね。あの圧倒的な爆発の洪水をみせられたら、そりゃ一気に引き込まれるよ」

主「ただ、これがこの映画の欠点にもつながってしまう。

 本作は100分にわたって戦争描写をずっとおこなっているわけだ。その間にドラマもなく、いつ襲われるのか、攻撃されるのかわからないような状況におかれている。その中でも民間の船であったり、航空機のパイロットであったりとあちこちに話が飛んでしまう。

 これはノーランのお家芸でもあるけれど、その功としては緊張感を持続させることに成功しているけれど、罪としては単調にみえてしまうわけだ

 

カエル「その意味ではマッドマックス4のような映画ということもできるのかもね。派手なシーンが延々と続いて、観客を熱狂の渦の中に叩き込むというか」

主「だけれど、その演出のせいで谷間がない。心休まるときがないんだよ。ずっと緊張していっぱなしで、物語としては単調にみえてしまうこともある。100分間のクライマックスを楽しめる人なら問題ないけれど、自分は途中で飽きてしまったところもある」

 

 

 

 

3 説明の少なさの功罪

 

カエル「いつもは大規模邦画において『説明が多すぎる!』って怒っているのに、今回は逆なんだね」

主「これってさ、史実の作品を語る際に難しいところなんだけれど、映画を楽しむにはどれだけその歴史を知っているか、というところもあるんだよ。

 例えば最近だと『関ヶ原』が顕著だけれど、日本において関が原の知識はすでに常識だと自分は思う。だからといって、それを知らない人に説明しないでもいいのか? という問題がある。

 史実を扱った映画、例えば『ラストエンペラ-』にしろ、『アラビアのロレンス』にしろ、誰もが認める名画だけれど、あの近辺の歴史を知らないとつらいものがあるでしょ?」

 

カエル「それでいうと、ダンケルクの戦いって世界的には当然有名なんだろうけれど、日本で暮らしていると一般的に知る知識ではないよね……」

主「自分はこの映画を見る前にウィキで予習くらいはしていた。だから作中で『カレーのほうは』なんて会話があるけれど、ダンケルクの戦いの裏ではカレーの町にいる部隊が捨て駒になっているという現実もある。

 また、この映画では描写されないけれど、カレーの町の抵抗もあるわけで、ドイツ軍だって楽勝だったわけじゃない。だから追撃の手を緩めざるを得なかったという説もあるし、単純にゲーリングが侮ったからだという説もある。

 この物語の裏に色々な事情があるんだけれど、それを説明するのはほんの少し、少将と中佐の会話くらいじゃないかな?」

 

カエル「なにも知らない日本の観客に優しい物語とはいえないよね。そもそも構造も色々と複雑で、話が行ったり来たりしているのに、さらにその上に歴史的な物語まで理解しないといけないとか・・」

主「それによって得た功は『感覚的な、言葉にならない感情』を描いたこと。例えば恐怖であったり、安堵であったり、一瞬の揺らぎであったり・・そういった、いかにも映画的な映像で表現するものを描くことには成功している。

 しかし、罪としてはその説明がなくて物語としてはかなりわかりづらい上に、山場などがなくなてしまっているんだよ。

 だから本作が100分ほどの比較的短い尺に納まっているのも自分に言わせてもらうと当然のことで、ドラマパートをなくしてアクションパートだけを繋ぎ合わせたら、そうなるんじゃない?

 この演出が最大限生きたのが、ラストなんじゃないかな?」

 

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船のパートでも戦闘描写は多い

(C)2017 Warner Bros. All Rights Reserved.

 

ラストを如何にに解釈するか

 

カエル「この映画ってさ、結局は最終的には勝者側のイギリス、フランスの連合国側の視点だけれど、それって主が嫌いなプロパガンダじゃないの?」

主「それがまた絶妙な演出をしていてさ、ラストで生きて帰ってきて、列車に乗っている。そのなかで新聞を読んで、チャーチルの言葉を知るわけだ。そして列車を見送る人たちはみんなしてまるで勝ったかのように喜んでいる。

 これだけみると、確かにプロパガンダ的なんだけれど、最後にさ、一転暗転したはずなんだよね。新聞を呆然と見つめる主人公を映した後、暗転か違う場面を映して、また同じように主人公を撮る。

 その瞬間にさ、うまいことに含みをもたせているわけだよ

 

カエル「セリフで語らないことの思い、か」

主「あの絶妙な表情をどう解釈するかにもよるんだけれどさ、自分には『え?』って疑問のような表情にも見えたんだよね。

 まるで英雄のように、しかも奇跡なんて言葉もつかって勝っているかのようにコメントしているけれど、実際は大敗北だよ。人命は助かったけれど、多くの兵器は破棄する羽目になってしまったし。

 その違和感があるからこそ『え?』と疑問を投げかけているようにみえた。

 もちろん、生きて帰ってほっとしていると受け取る人もいるだろうし、特に意味はないと考える人もいるかもしれない。それはわからないよ。

 でもさ、このシーンがあるからこそ、この映画はプロパガンダの映画にはなっていないと自分は考えている

カエル「ノーランのにくい演出だね」

 

 

 

 

 最後に

 

カエル「では、最後になりますが・・」

主「う~ん。自分にはすごく語りづらい映画でもあったかな。もっと歴史的な事実を並べて、映像技術のすばらしさを語るということもできたのかもしれないけれど、その手の解説は他のブログに任せます。

 ノーランの映画に触手が伸びないのって、自分が語りづらいからなんだよね。何も感じないわけではないけれど、それを言葉にすることがむずかしい。

 結局何がしたかったの? という思いもあるし」

カエル「物語で魅せるというよりは、映像技術で魅せる監督だということもあるのかもね」

 

主「フィルムとデジタルの違いってあまりわからないんだよなぁ」

カエル「ちなみに、アニメにおけるセルとデジタルの違いは?」

主「セルとデジタルはぜんぜん違うよ! 質感からしてまったく違うから、比べるのもおかしいね!」

カエル「……興味があるかないかなんだろうなぁ」

 

 

インターステラー(字幕版)

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インセプション (字幕版)

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ダークナイト (字幕版)

ダークナイト (字幕版)

 

 

 

blog.monogatarukame.net

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