物語る亀

ネタバレありの物語批評

映画『メッセージ』感想と解説、批評 ヴィルヌーヴらしさに溢れた『言語のSF』登場! 

カエルくん(以下カエル)

「えー、今回は語ることが多いので、記事前のコントはほとんど省略します」

 

ブログ主(以下主)

「ヴィルヌーヴの新作だからね! 仕方ないよね!」

 

カエル「ちなみに原作未読、ヴィルヌーヴ作品は『静かなる叫び』以降は全て見ているくらいにはヴィルヌーヴファンであり、今最も注目すべき映画監督と位置付けているファンの感想記事になります」

主「まあ、はまったのは『静かなる叫び』を見た後だから、ここ3ヶ月ちょっと? くらいだけど、逆に言えば1番熱がある時なので、それだけ熱い感想があるかも。

 本当は過去作全て見たいけれど『渦』などはともかくとして短編は日本で手に入るのかもわからないしなぁ……」

カエル「でも今最も注目を集める監督の1人というのは多分映画ファンの共通認識じゃないかな?

 

主「自分が監督名だけで映画館に初日に走ろうと思うのは『ラ・ラ・ランド』などのデミアン・チャゼルとヴィルヌーヴくらいかな。アニメ監督だったら山田尚子などを始めとしてたくさんいるけれど……

 というわけで今回は『メッセージ』の感想だけでなく、過去のヴィルヌーヴの作品などとも比較しながら語る記事になります。

 長いです

カエル「あとは原作は未読なのでその視点からは語らないです。

 これで原作からの視点もあったらもしかしたら過去最高の長さになったかも……」

主「じゃあ、早々に感想スタート!」

 

 

 

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1 ネタバレなしの感想

 

カエル「じゃあ、ヴィルヌーヴ大好きな主からすると、このSF作品はどうだった?」

主「圧倒的なうまさは健在だよ。

 ヴィルヌーヴ作品って巧妙に作られた脚本もまた素晴らしいけれど、何よりも評価するべきは演出力。大作邦画の悪いところは何でもかんでも説明してしまうところだけど、ヴィルヌーヴは真逆であまり説明しない。

 観客に委ねられている部分がすごく多いわけだ。例えばたった1つのセリフ、その時手にしていた物、出てきた動物……その全てに意味がある。1カットも無駄なシーンを作らない、まさしく引き算によって生まれる物語を作る監督。

 それは今作も同じで、おそらく人によっては合わないというのもあるかもしれないけれど……でも映画が好きな人だったら賞賛されるんじゃないかな?」

 

カエル「演出論について語ると長くなるから『全部の描写に意味があるよ』ぐらいにとどめるとしようか」

主「SF映画って大きく分けて2種類あると思うのね。

 最近でいうとや『虐殺器官』『パッセンジャー』『ゴースト・イン・ザ・シェル』のように極限の状況下において人間はどのような行動をするのか? そして人間が持つ言語や身体とは何か? というような哲学的なSF

 もう1つは『ガーディアン・オブ・ギャラクシー』『スターウォーズ』などのような娯楽として楽しめるSF。マーベルヒーロー映画もこっちかもしれないね。

 SF映画というと後者を連想する人が多いのかな? 今作は前者の哲学的、文学的なSFだからその違いはある。だから、後者の派手で爆発いっぱいな作品を期待した人は肩透かしを食らうだろう」

 

カエル「『パッセンジャー』とかってイマイチ評価が伸び悩んだけれど、それは思った以上に地味な物語だから、ということなのかな?」

主「前者の哲学的な SFというのは結構大事なことをやっているけれど、日本ではあまり流行らない印象があるかな。そもそもSFファンの人口が減っているという話もあるし、映画を観る層が減っているというのもあるけれど……

 だから興行的には苦しくなるかも。評価はいいのに興行が苦しい、という、いい作品が売れるわけじゃないってことを証明するような映画になるかもね」

 

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主演のエイミーアダムス

PHOTOGRAPH COURTESY OF SONY PICTURES ENTERTAINMENT

 

SF苦手な人間として

 

カエル「まあ、ぶっちゃけてしまうとこのブログではSFや大作は少し辛めという噂もあるらしいけれど……」

主「別にSFだから、大作だから嫌い、というわけではないよ。ただなんとなくノリが合わないだけで……

 アニメを見ていてもそれは同じで、例えば『ガンダム』を見ていても自分はモビルスーツの戦闘描写よりも複雑な人間関係や政治劇に魅かれるタイプであって……ロボットやガジェットのウンタラカンタラという話はそんなに興味がない。

 だからSFと単純に言うけれど、上記の例でいうと前者の文学的、哲学なSFは結構好きだけど、単純に映像の凄さを競うようなSFはちょっとなぁ、という思いもある

 

カエル「で、そういう人がこの映画を見るとどうなのか? ということだけど……」

主「いい作品だよ。

 この後で解説するけれど、この映画は『言語』に関することをSFとしてきっちりと描いているし、非常にうまい作品に仕上がっている。1つ1つの描写にちゃんと意味があるし、今作で絡んできたこと、その全ては『言語』というテーマに一貫するようにできている。

 ただ、じゃあヴィルヌーヴとしてどうですか? と言われると……残念ながら個人的には『静かなる叫び』や『灼熱の魂』の感動を超えることはなかったかな?

 それでも映画としては一級品だと思う。今週はいい映画や注目作がひしめき合っているけれど、この映画が1番良かったという可能性もある」

 

 

 

 

2 ヴィルヌーヴについて

 

カエル「じゃあ、ここからは完全にオタトークタイムでヴィルヌーヴについて語っていこうか」

主「監督を務めたヴィルヌーヴはおそらく、今最も注目を集める監督の1人であり、この後あの伝説のSF映画『ブレードランナー』の続編が控えている。これも2017年中の日本公開だったはずだから、今年はヴィルヌーヴの年とも言えるかもしれない。

 他にも『デューン/砂の惑星』の続編を手がけることが発表されているから、SF好きなら絶対注目しておかなければいけない監督だね」

 

カエル「でもさ、過去作を見るとそんなにSFを撮っているわけではないんだよね」

主「そうね。前作『ボーダーライン』はメキシコの麻薬戦争をリアルで残酷な描写を交えながら描いていたし、その前の『ブリスナーズ』は子供の誘拐事件だった。

 代表作に上がる『灼熱の魂』は内戦地域に暮らしていた親子の物語だし『静かなる叫び』はカナダの銃乱射事件を扱っている。

 だけど実際はSFをずっと撮りたかったらしくて、その機会を窺っていたみたい。それがようやく結実したのが、この『メッセージ』になる。そこからはカルト的な人気を誇る作品の続編を制作していくから、面白そうでもありプレッシャーもすごいものだろう」

 

カエル「SF大好きな人だから喜んでやるよ!」

主「ただ、ここで手がけるのが『ブレードランナー』や『デューン』というのがヴィルヌーヴらしさかも。この2作を手がけることによって、映画ファンからは評価されるだろうけれど、でもスピルバーグみたいな一般層からの知名度は得ることはないだろうな」

カエル「……オタク心理から考えても応援したくなるタイプで、通ぶれる監督だね」

 

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ヴィルヌーヴ監督

今作はバカウケから影響を受けたというジョークも飛ばすいいおじさんです

 

 

カナダ出身というバックボーン

 

カエル「監督はアメリカの人なの?」

主「いや、カナダのケベット州の出身で、この地域は注目の映画監督を多く輩出しているみたい。最近だと『たかが世界の終わり』が公開されたグザヴィエ・ドランとかも同郷みたいだね」

カエル「映画に詳しい人に話を聞くと、今は邦画やハリウッド映画よりも韓国とカナダの映画が素晴らしいらしいね」

主「カナダ、韓国、フランスの映画がいいらしい。あんまり大ヒットはしないけれどね。で、ヴィルヌーヴの特徴はこの『カナダ出身』というのが根底にあるんだよ

カエル「カナダ? あんまりイメージがないけれど……」

 

主「カナダは多様な社会を目指している国であって、移民などを多く受け入れている政策をとっている。日本人はあまり海外移民には興味がない国民性があるけれどね。

 だからカナダって今すごく多様性に溢れた社会になっていて……そういった社会事情がヴィルヌーヴの映画にも出てきている

カエル「というと?」

主「少なくとも自分が見た映画の中でテーマとして多いのが『偏見を打破する物語』なんだよね。

 例えば先に挙げた『静かなる叫び』はカナダの大学で起きた銃乱射事件をテーマにしているけれど、ここで加害者を一方的な悪だとは描いていない。もちろん、彼の行った行為は許されるものではないけれど、でも彼がそういう行動に走ってしまった理由はなんとなくわかるようにできている。

 他にも『灼熱の魂』は……ネタバレにならないように話すと武装組織のいる戦闘員は確かに悪かもしれないけれど、でも悪として単純に割り切れるものなのか? ということも描いている」

カエル「それはこの映画にもつながっているよね」

 

 

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過去作のつながり

 

カエル「そしてヴィルヌーヴの過去作品からもこの映画について考えると面白いことがわかるという話だけど……」

主「ヴィルヌーヴって昨年大ヒットした『君の名は。』の新海誠みたいなことをしている監督で……どういうことかというと、比較的短い話と長編を交互に撮っているんだよ。

 例えば『静かなる叫び』は77分『灼熱の魂』は131分。

 『複製された男』が90分『ブリズナーズ』が153分だ。

 そしてその次に撮った『ボーダーライン』が121分だから、ここで平均的な長さになる」

 

カエル「それって偶然じゃないの?」

主「偶然かもしれないけれど、でも自分はこの並びというのはすごく意味があると思っていてさ。『静かなる叫び』と『灼熱の魂』はテーマが同じなんだよ

 男と女が愛しあうということを、恋愛という甘いものではなくて、もっと根源的な業として描き切った。

 『複製された男』と『ブリズナーズ』は宗教的なお話がテーマなんだよね。一見するとわかりづらいけれど、演出にすごく意味がある。

 じゃあ『ボーダーライン』と『メッセージ』は? と言われると……おそらく『偏見』について描いている。どちらも侵略者、悪と呼ばれかねない相手とのやりとりがあるけれど……その先にあるのは何? ということを描いていて、自分はこの2作をセットで語りたいね

カエル「今回は長くなるのでそれも割愛します」

 

 

 

 

3 言語について〜基礎的な知識〜

 

カエル「ちょっと固い話が続くからさ、砕けた感じでこの話をしようよ!」

主「よっし! じゃあここで言語学の基本的な講義を始めるよ

カエル「え!? 砕けた感じでって行ったのに!?」

主「はい、カエルくん。先生のことは敬語で話すように」

カエル「いつの間に先生に!?  あなた、学生時代でも教師に敬語を使っていなかったでしょ!?」

主「いいかー、これから話すことは言語学の基本だぞー。映画うんたら関係なく大事なお話だからなぁ、しっかり聞けよー。テストに出すぞー」

カエル「テストあんの!?」

主「もちろん映画にもすごく重要なことだからなぁー。ここでおさらいしておくぞー」

 

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主人公たちが使う言葉は主に英語。これが大きな意味を持つ

PHOTOGRAPH COURTESY OF SONY PICTURES ENTERTAINMENT

 

表意文字と表音文字

 

主「では、まずここで説明するのが表意文字と表音文字だ。基本的に文字、書き言葉というのはこの2種類に分けることができる。

 まず説明するのは表意文字だけど……これは分かりやすく説明すると漢字のことだ

カエル「漢字ですか?」

主「そう。例えば『読書』という文字がある。これを分解すると『読』『書』の2文字に分解される。分解して単独の言葉になっても、意味はわかるだろう?

カエル「『読(む)』と『書』つまり本のことだね」

主「このように1文字が意味を持つもの、それが表意文字という。その文字1つ1つに意味があるわけだな」

 

カエル「となると表音文字は……ひらがな?」

主「その通り。ひらがなや英語、ハングルなどが表音文字になる。

 先の例でいうと『どくしょ』という言葉のつながりは意味がある。だけど『ど』『く』『しょ』という1つ1つの言葉自体には音があるだけで、特別な意味を持つわけではない。

 英語も同じだろ? 『reading』という言葉の並びに意味があるだけで『r』や『e』には特別な意味はない。これを表音文字という」

 

 言語とSFといえばこちらの作品も連想する

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ちょっと余談 日本語の特性

 

カエル「それって結構当たり前のようだけど……」

主「これが当たり前のように思えるのは日本人だからだ。ここからは若干余談になるが、世界的にも表音文字と表意文字を併用している民族というのは決して多くない。昔は韓国なども併用していたけれどやめてしまった」

カエル「漢字も覚えなければいけないのってちょっと非効率的に思えるもんね」

主「別に日本だって例外ではなくて、終戦直後は漢字を廃止しようという気運があったんだよ。だけどすぐに無くすと困るから難しい漢字……例えば『國』などの旧字体は『国』などに統一して少しずつ減らしていった。でも、まあ漢字があったほうが便利だよね、ってことで『常用漢字』として残ったわけだ」

 

カエル「う〜ん……でもさ、ひらがななら100弱のかなを覚えればいいじゃない? 漢字だと2000以上の文字を覚えなければいけないし、微妙なニュアンスの違いがあるし……それに意味があるの?」

主「これが非常に大きな意味がある。

 表音文字と表意文字は脳の処理するところが違うんだよ。だから日本語を読み書きしている時、自然と脳を2箇所を使っているわけだ。もちろん、これが脳にいいという話でもあるんだけれど、脳科学者の養老孟司はこの併用によって『難読症が防げているのではないか?』という説を提唱している」

カエル「難読症?」

 

主「世界中には教育環境は問題ないのに文字が覚えられない人がいる。これは知能障害ではなくて、本当に言語だけが覚えられないんだよ。フランスではあるデータによると軽度のものを含めて7パーセントの人が難読症だと言われている

 だけど、日本は難読症の発症確率が低いとされている。

 これは表音文字と表意文字の併用によって脳の使う場所が変わるために、どちらか片方がうまく機能しなくてももう片方が補うからであり、さらにその結果脳が鍛えられるからだ、と言われている」

カエル「へぇ……一応意味があるんだね」

 

 

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時制について

 

カエル「時制? それって何?」

主「これは説明が難しいんだよなぁ……一言で表すとその動作がいつ行われていたのか、時間を示す言葉なんだよ。

 現在・過去・未来とか完了形とか色々あるんだけど……例えば『私は歩く』だとこれから歩くことになる。『私は歩いた』だと過去であり『歩いている』だと現在進行形である。

 『歩くつもりだ』だと未来だよね。これが時制」

カエル「英語で言うところの『ed』や『ing』がつくと過去形とか、そういうことだね」

 

主「そう。で、言語の中にはこの時制がない言葉もあるわけだよ。時間を言い表す概念がない、というわけではなくて、時制がないんだけど……

 これがこの映画では重要な意味を持ってくる

カエル「ふ〜ん……

 じゃあ、いよいよ基礎知識講座は終わりにして作中に言及していこうか!」

 

 

以下ネタバレあり

 

 

 

4 『言語』のSF

 

カエル「では、ここからはネタバレアリだけど……まずは何から語る?」

主「この映画は『言語によって成り立っているSF』であるってところからかな。

 謎の知的生命体がやってきて、それとのコミュニケーションを図る際にどうするべきか? というところから始まるけれど……これって想像以上に大変な事なんだよね。

 例えば外国の言語学を研究するとき、まず大事なのは語彙を増やす事だ。語彙がないと何もできないからね。じゃあ、研究者が1番最初に何をするのか? という事なんだけれど」

カエル「例えば日本の研究者が東南アジアの小さな島国の言語や文化を調べるために、通訳もいないで1人で調査を始めたとき、という話だね」

 

主「そうだね。そのとき、まず1番初めに覚えるのが『これは何?』という単語だと言われている。食べ物を指差して『これは何?』人を指差して『これは何?』と聞くと、大体名前を答えてくれる。

 だけどこれは同じ人類であり、しかも身振り手振りという体を使ったコミュニケーションができるという前提のもとに成り立っているわけだ。

 じゃあ、その身体的なコミュニケーションすらも通用しない相手と……さらに言語も理解できない、文字もかつて見たことのない生物との交流はどのようにするべきだろうか? というのがこのお話の主題である」

カエル「そもそも人類ですらないわけだし、どのような姿をしているのかわからないわけだから……この文字を見ても何がどう違うのか? そしてどのような意味を持つのか全くわからないし」

 

主「原作では『表義文字』とされているらしい。表音文字とも表意文字とも違うもとして出てきたらしいけれど、この全く新しい言語に立ち向かうというのはすごく大変なことだ。

 しかもアメリカって表音文字の国だからさ、主人公が言語学者だから一般人とは違うだろうけれど、あまり慣れていないタイプの言語ということもあってその苦労はさらに大きいだろうね」

 

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彼らの使う文字『表義文字』

美しい文字だが理解は難しい

PHOTOGRAPH COURTESY OF SONY PICTURES ENTERTAINMENT

 

受け手に依存する『文字』

 

カエル「これは以前にもどこかで語った気がするなぁ」

主「例えば『バカ』という言葉を1つ抜き出してみよう。カエルはこの言葉をどう解釈する?」

カエル「え? う〜ん……やっぱりバカにされているという挑発だったり、罵倒の言葉だと思うな」

主「『バカ』という言葉だけだと確かにあまり好意的な表現ではない。

 だけど例えば親友やいちゃついているカップルが『バカ』というとそれは好意的表現でもある。

 それから『バカな行動』『無謀な行動(だけど憎めない)』という意味もあったりして、必ずしも相手を罵倒する意図で使われるものではない。

 だけど『バカ』という言葉は何も変化していない。文字は変化していないのにその意味合いが全く違うものになってしまうというのが文字の特性としてあるわけだ

 

カエル「あ〜、確かにちょっと寝坊した時に親から『早起きなことで』とか嫌味のように言われる時ってあるよね。これも文字の本来の意味は『早起きだから偉いね』というものだけど、この時の思いは『いつまで寝ているの?』というものであって……」

主「そう。この映画じゃないけれど『言葉は人間に与えられた武器だ』というと、別に言葉で戦って誰かを苦しめろって意味じゃないでしょ? 

 『言葉を使うことで相互理解ができる。平和的な解決ができる』という意味だ。

 このように言葉や文字というのは関係性が非常に重要になってくるものでもあるんだよ。

 さらにいうと年齢、性別、国籍、育った地域などによって同じ言葉でも若干意味が違っている。

 例えば『アホ』は関西地域の人は親愛の冗談と思うかもしれないけれど、関東の人は罵倒だと思う……とかね。『物を直す』なんてその象徴で、関東の人は『物を修理する』だけど、関西の人は『物を元の場所に戻す』だと意味が変わっている。言葉は一切変化していないのにね。

 その言語の特性を見事に描いていた」

 

 

 

 

5 アメリカと中国

 

カエル「この映画では中国がすごく大きな意味を持っていたけれど、なんで中国なんだろうね? やっぱり中国市場を狙っているのと、あとはアメリカと敵対……とまでは言わないけれど、強力なライバルだから?

 原作者が中国系というのもあるのかな?」

主「いや、自分に言わせてもらえばこの映画は大国ならば中国相手以外はできない物語なんだよ。ロシアでもいいじゃん、と言われそうだけど、ロシアじゃダメなんだな」

カエル「え? なんで?」

 

主「この映画って『第3の文字』を解き明かすという物語だけど、主人公たちはアメリカ人で英語を主に使用していた。つまり表音文字文化の人間なんだよね。

 一方の中国は漢字を使う。漢字は先に説明した通り表意文字なんだよ。で、この映画はアメリカと中国が対立してしまうわけだけど、それは表意文字文化と表音文字文化が対立することを描いている。

 だから表音文字文化の代表のアメリカや英語圏に対して、表意文字文化の代表中国の漢字にスポットライトが当たっている」

カエル「あ〜なるほどね」

 

主「結構中国も宇宙人たちの言語を解明するのが早かったけれど、あの言語を見る限りでは表音文字よりも表意文字の方に近いと思った。そもそも表意文字も漢字をつなげて……つまり『読』と『書』をつなげて『読書』にしたりと文字を繋げて単語にする文化があるから、多分アメリカ人よりもわかりやすいと思う。

 中国の学者ならば英語は当然のように習得しているだろうしね。アメリカ人はあの言語学者の主人公以外は漢字をほとんど知らないと思うけれど」

カエル「それを考えると実は1番有利だったのってハイブリッド言語を使う日本だったんじゃ?」

主「日本はその2つの文字を使っているから、この映画では結構難しい存在だろうな」

 

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言語学者と物理学者の2人。文系と理系の融和も描く

PHOTOGRAPH COURTESY OF SONY PICTURES ENTERTAINMENT

 

時制と『メッセージ』

 

カエル「そしてさらにこの映画は時制についても少し触れられていたけれど……」

主「ここが素晴らしい!

 時制がない言語ってあるらしいけれど、別にそれは時間を表す言葉がないというわけではない。

 その言語の存在に注目したのがこの作品なんだよ

カエル「それってどういうこと?」

 

主「自分が思うに言葉の特性の1つとしてあるのが『時間を超える』というものだ。例えば2000年前の本などが見つかってもそれを読むことができる。もちろん、言語は変化しているしその言葉の意味があっているかは難しいけれど……おそらくラテン語やギリシャ語などで書かれているだろうから、なんとなく理解することはできる。

 多分このブログも……もちろんインターネットやこのブログがどこかに存続していれば、という前提こみだけど、2000年後の人だってこの文章を読むことはできる。自分はそこに存在しないけれど、この映画を見て思ったことは誰かに伝わるわけだ」

カエル「歴史の研究とかって文献に依存する要素が強いもんね」

主「そして時制がない言語とは何か? なぜ宇宙人に時制がないのか? ということを考えると、それは『現在』という考え方がないからである。

 この発想は素晴らしいよ! こんなの見たことがない!」

 

カエル「つまり時間の感覚がないから時制がないってこと?」

主「いや、時間の感覚はあるんだよ。3000年後とかさ、死がうんたらという発言もあったように、時間というものはわかる。だけど、時制がない。つまり今現在の行動が過去・現在・未来のいずれかに該当するのかどうか? ということは考えなくていいわけだ。

 なぜなら未来が見えるから。我々は『過去・現在・未来』をハッキリと分けるからこそ時制が必要なんだけれど、その3つを分ける必要がない時に時制はなくなるということをSFとして示したんだよね

カエル「う〜ん……難しい話だな」

主「まあ、一言で語れば『言語に密接につながったSFだよ』ということだ」

 

 

 

 

6 未来と受け繋がれること

 

カエル「多分、この映画の1番の肝はここなんだろうね。どんな未来が見えていても、私はあなたを愛するし後悔は絶対にしない、という愛の物語」

主「これってヴィルヌーヴが描いてきたことなんだよ。先ほども語ったように『静かなる叫び』と『灼熱の魂』はヴィルヌーヴが男女の愛の業について語ったものだ。ここで男女の、とつくのは神の愛などは除外しているから。

 特に灼熱の魂だけど、この作品は絶対に見て欲しい! 素晴らしい大傑作だから! 

 この映画の肝をネタバレにならないように話すと……陳腐な言い方をすると『母の愛は偉大』ということになるのかな?」

 

カエル「そんな軽い話じゃないけれどね」

主「母が子を思う愛と、子が母を思う愛、その両方を描いている大傑作。

 そして本作もそのテーマは同じであり……これは多分ヴィルヌーヴの作家性やテーマなんだろうな。何がすごいって、やりたがっていた SFをしっかりと作りこみながらも、自身の作家性は一切失っていないことだよ。

 原作にも忠実で映画としても面白く、ヴィルヌーヴらしさにも溢れている……これってもしかしたら昨年の『シンゴジラ』以来かな?」

カエル「多分この映画が多くの人に届くのはこの描写があるからだよね」

 

主「そうだろうね。未来がわかっていてもそれでも母は子を選択するし、それを迷わない。その母の愛の強さがはっきりと出ていた。

 だけどなぁ……個人的にはここが少し不満でさ。明らかに知識やヴィルヌーヴへの愛が邪魔しているのはわかるけれど、このテーマは『灼熱の魂』が素晴らしかったんだよ。本当にかつて見たことがないレベルの映画だったから……

 それとどうしても比較してしまうと、少し弱い気がする

カエル「う〜ん……あっちは過酷すぎる気もするし、メッセージの方が多くの人に受けるような気がするけれどな」

 

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それでも母は娘を選ぶという愛に感涙

PHOTOGRAPH COURTESY OF SONY PICTURES ENTERTAINMENT

 

SFと家族

 

カエル「これは以前にガーディアンズ・オブ・ギャラクシー リミックスの時にも語ったことだよね」

主「そうだね。ガーディアンズも規模の大きいSFだったけれど、あれだけ大風呂敷を広げながらも根幹となるテーマは家族だったんだよ。

 そしてこのお話も同じ。異星人との交流という大きなテーマでありながら、最後の着地点は家族や個人のパーソナルな愛の物語になる。この現象が今の自分には面白くてね」

カエル「やっぱり宇宙がどうこうというよりも、最後は家族は自分の物語になる方が多くの人に受け入れらやすいのかな?」

 

主「それもあると思うよ。

 結局のところSFって手段でしかないのかもね。宇宙だ未来だ未知の技術だ! というのは何らかのメタファーであったり、状況を極端にすることによってできる思考実験のようなものでもある。

 その中で何をテーマとするか考えた時、やっぱり出てくるのが家族や個人のこと……つまりパーソナルなことになるということなんだろうな

カエル「まあ、あんまり荒唐無稽な話をされても観客ものれないだろうしね」

 

 

 

 

最後に

 

カエル「あー! 今回も長かった!」

主「言語についてのお話+ヴィルヌーヴだからどうしてもね。

 これでも一応手短にしたつもりなんだけれど……

 あとはできれば『虐殺器官』との関連性とか、あとは『言語が思考を作るのか?』ということも語りたかったけれど、今回は長くなりすぎるのでやめます!」

カエル「ここまででも読むのが辛いほど長いもんね……」

主「ヴィルヌーヴらしさに溢れている傑作だよ。過去の作品に比べると……とは個人的には思うけれど、でもこの映画は評価されるべき作品だし。是非とも多くの人に鑑賞して欲しいね」

カエル「この後もヴィルヌーヴ作品は続くからね! 楽しみだよ!」

 

 

『メッセージ』(オリジナル・サウンドトラック)

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