今回はテレビシリーズも3期目を迎え、ノイタミナを代表する作品である『PSYCHO-PASS』の感想記事になります!
意外と期間限定公開みたいだね
カエルくん(以下カエル)
「もっと大々的に公開するのかな? と思いきや、2週間の限定公開って話だよね?
まあ、コロナ関連で劇場があきまくりだから、延長の可能性もあるとは思うけれど……
ちょっと意外だったかなぁ……この作品に向けて、近年はテレビシリーズやOVA形式の作品も発表したように感じられたし」
主
「劇場版と銘をうった作品はこれで2作品目であり、今や日本を代表するアニメ放送の……枠とでも言えばいいのかな? であるノイタミナの代表作でもある。ノイタミナムービー作品としても威信を賭けたものになるのだろうと思っていたから、意外かも」
カエル「その代わり? と言っていいのか分からないけれど、Amazonプライムで独占配信もあるらしいし、この劇場で限定公開→ウェブですぐに配信という流れは、多くなるのかもねぇ。特にIGは配信に力を入れているし」
主「……いよいよ本格的な配信時代の到来って印象だな。
というわけで……記事のスタートです!」
作品紹介・あらすじ
フジテレビのノイタミナ枠を代表するテレビシリーズである『PSYCHO-PASS サイコパス』の新作劇場版作品。テレビシリーズ3期の事件の解決編を描く。
監督は1期目から担当してきた塩谷直義が今作も引き続いて手掛ける。シリーズ構成にSF作家の冲方丁、脚本には深見真との連名でおこなう。制作は硬派なSFアクション作品の印象も強いProduction IG。
キャストにはテレビシリーズから引き続いて梶裕貴・中村悠一・佐倉綾音・櫻井孝宏・大塚明夫・諏訪部順一・沢城みゆきなどの他にも、1期にて主人公を演じた関智一・花澤香菜なども出演する。
2120年、東京。公安局刑事課一係を率いて事件を解決してきた監視官の慎導灼と炯・ミハイル・イグナトフは、幾多の事件を捜査していくなかで真実と正義をめぐり決裂してしまう。そして。それらの事件の裏で暗躍する梓澤廣一は、ついに刑事課そのものを標的に公安局ビルを襲撃。公安局刑事課一係は窮地に立たされる。
『PSYCHO-PASS サイコパス 3 FIRST INSPECTOR』本予告
感想
それでは、Twitterの短評からスタートです!
PSYCHO-PASSシリーズでも屈指の作品でしょう
— 井中カエル@物語るカメ/映画・アニメ系VTuber(初書籍発売中!) (@monogatarukame) 2020年3月27日
映像表現も動く&綺麗&豪華な三拍子に加え、3期の重要キャラクターは全員見せ場がありサスペンスとしても手に汗握る
敵役も魅力に溢れて劇場版にふさわしい作品に
少しだけ長さは感じたかなぁ
自分としてはテレビシリーズの不満が解消され◎!#pp_anime pic.twitter.com/XOkN9kkyRz
シリーズでも屈指の完成度を誇る作品ではないでしょうか?
カエル「お、これは結構な高評価だね!」
主「本音を言えば、PSYCHO-PASSってシリーズがそこまで絶賛するほどとは思っていなくて……シリーズのほぼ全てが80点〜70点くらいをコンスタントにとっていく、優等生なシリーズだという印象がある」
カエル「それって、めっちゃ優秀なシリーズという評価なんじゃ……」
主「まあ、そうだね。
でも、どの作品を観ても不満はあるんだけれど……その意味では今作も不満や疑問が0ということはなかった。それでもこれだけの作品を作り上げたことに感謝。現代におけるハードSF警察モノとしても面白かった。
サスペンス・キャラクター・アクション・音楽などなど……その多くが高いレベルでまとまっていた印象がある。
135÷3=45ってことで、テレビシリーズの8話分と合わせると、合計で11話分となる。その最後の3話を描いたということだけれど、劇場でみても遜色ないリッチさがあじわえた。
実質2クール分をこの形でやり切ってしまったわけだし、新しいアニメ放映の形かもね」
同日にAmazonプライムで編集版が公開されていますが、劇場で見ることによって真価を発揮する作品ではないでしょうか?
もしかしたら、チネチッタで超いい音響+画質で観たおかげで、大きくプラス評価されているかもしれない
カエル「一部では作画面の荒れ具合を指摘する声もありますが……」
主「う〜ん……いう荒れたか?
編集版を観ていない上に、自分が作画に関して見る目がないのは認めるけれど、おやおやおや? と思う部分も0とは言わないけれど、全体的には撮影の影響もあってリッチな映像だったよ。
確かにスタッフロールを見ると作画監督・作画の数がめちゃくちゃ多くて、これは修羅場だったなぁ……とは思いつつ……多分、公開時期的にもコロナによる中国など海外のスタジオ閉鎖の影響が出たんだと思う。
その結果、ばらまきまくった。
だけれど、全体としてはそこまで悪いとは思わなかった」
カエル「志恩さんと小宮カリナの超絶美人が2人並ぶ作画とかに、見惚れていたからじゃない?」
主「あの2人好きなんだよね……今作では弥生の出番が少ないし、霜月がギャグ寄りのキャラクターになっているから、この2人の美しさがより目立つというか……
いや、それはいいんだよ!
ともかくとして、全体としてそこまで悪いとは全く思わなかった。
ちょっとプロレスで例えると大技の連発に慣れすぎて、一昔前は必殺技だったのが普通の技として認識されているような、そんな状況が起きてしまっているんじゃないかな? という思いもあるかな」
テレビシリーズ版について
テレビシリーズの感想〜問題点① 設定を語ることに終始した物語〜
じゃあ、テレビシリーズの感想といきますか
……正直なことを言えば、面白くもなくつまらなくもないってところかなぁ
カエル「これって僕がSFリテラシーが低かったり、あるいは頭が悪いこともあるんだろうけれどさ……なんか、ちょっと意味がわからなかったんだよねぇ。
主な問題点としては、以下の3つが挙げられると思います」
- SFとしての設定の難しさ
- キャラクターをほぼ総入れ替え
- IGの過去作のゴースト
主「ここ最近の冲方丁の悪いところが出ている印象だった。
なんというかな……”物語を動かす”ことに注力した結果、設定の開示などになりすぎてしまい、観客を巻き込むことができていない印象もあったかな。
自分としては設定はあくまでも下敷きとしてあるべきモノだ、という感覚がある。だけれど、物語を語るのではなくて、設定を語ることを重要視しているのでは? と思う部分もあり、それがより混乱してしまったかな」
カエル「社会問題を色々と入れようとしているのはわかるんだけれどね……」
主「社会問題においては、すごく現代的な問題を取り入れた意欲的な物語だと評価する。
差別問題、入国者という形での移民問題、宗教問題などなどの面白いテーマが根底にあった。
そこにハードSFをいれることによって、世界でも受け入れられるような作品になっているだろう。ここ最近のアニメは世界規模での展開を目論んでいて、IGは海外でも人気の高いスタジオだし、邦画や日本ドラマがガラパゴス化している中で、それだけ多くの人に届けようと世界を観ている視点は立派なものだし、高く評価したい。
また……これは岡田斗司夫も語っていたけれど『政治はAIでいい』という意見もある。
それを物語上で実践したことも、先進的で面白いアイディアだろう。
だけれど……やっぱり、その設定に振り回されている気がしていて、物語としての面白さを感じることは少なかった、というのが自分の感想かな」
問題点② キャラクターの入れ替え
これはもう、PSYCHO-PASSシリーズのおなじみの光景でもあるよね
……にしてもさ、ほぼ1期メンバーがいなくなるってどうなのよ?
カエル「一応、全員が退場したわけではないけれど……常守と弥生が公安外に出ているし、狡噛さんなども外務省に行って……で、霜月監視官が課長になってという変化には、ちょっとさすがについていけないような……」
主「例えば、今作に影響を与えたと思われる『攻殻機動隊』とかは、メンバーも入れ替えはあるものの主人公などの主要キャラクターには大きな変更はないんだよね。PSYCHO-PASS色を出してきたとも言えるけれど……でもなぁ。
あとは……これは賛否が割れるだろうけれど、バディアクションとしても微妙な気がする」
カエル「灼とイグナトフのバディだね」
主「自分なんかは、バディものって凸凹な様子→仲が深まる、という描写があった方が燃えると思うんだよなぁ……
狡噛と常守の場合、性別や経験、思想など何もかもが異なっていたから面白かったと思うんだけれど、今作の2人の場合はそこまで違わないじゃない?
ちょっとBLっぽい感じがするから、そこを好きな層を狙いに来たのかもしれないけれどさ……その意味でも上がらなかった。
自分としては、この2人よりも天馬とか入江とかの方が気に入ったかなぁ。
……とういうか、どうでもいいけれどPSYCHO-PASSのキャラクターの名前が独特すぎて、書くの困るんですけれど!」
問題点③ 過去作のゴースト
そして、最大の問題がこのポイントになります
……どうしてもIGとなると、過去作のポリティカルフィクションが思いつくじゃない?
カエル「いってしまえば”押井守のゴースト”なのかな。
元々PSYCHO-PASSシリーズは本広克行監督が『現代版のパトレイバーを目指した』と語るように、その路線を目指しているのは明確なわけじゃない?」
主「……なんかさ、近年のIGの作品を見ると、特に『攻殻機動隊』などの幻影に囚われている気がする。
それは、押井監督作品だけでなく、神山監督バージョンのテレビシリーズ攻殻も含めてね。
あの面白さを追求しようとして、失敗している……それが自分の感覚なわけ」
カエル「はぁ……それが?」
主「う〜ん……結局さ、PSYCHO-PASSシリーズが押井守の生み出したアニメの世界、つまり『パトレイバー』『攻殻機動隊』『イノセンス』を更新できているのか? というと……それはできていない気もしてくる。
結局は、あの時代の作品の方が面白いのではないか? という気分になる。
もちろん、思い出補正やおじさんの感覚ということもあるけれど。
テーマや見せ方は現代的。ドローンなどの現代にシステムやアイテムも出てくる。
だけれど、更新するってそういうことではないじゃない?
そことどう向き合うのか……それができていないテレビシリーズだったように思えるんだよね」
以下ネタバレあり
劇場版に思うこと
全員を活躍させる、優れたサスペンス映画に
そして、ようやく劇場版の話に戻ります!
結論から言えば、全員を活躍させることもできた優れたサスペンス映画になっていたよ
カエル「これだけ多くのキャラクターを魅力的に動かすことはできていて、みんなに見せ場があったもんね」
主「ドラマ・魅力を描くことができていたのが、大きいだろう。
あれだけ風呂敷を広げたPSYCHO-PASS3期の物語を過不足はあれども、しっかりと閉じたことは立派だと思う。
正直、SF話に関してはそっちの人間ではないのでちんぷんかんぷんな部分もあるけれど、大筋では納得のいく作品になったのではないだろうか?」
カエル「特に人間ドラマに関しては、過去作と比べても遜色しないんじゃないかなぁ」
主「この辺りは評価が割れるかもしれないけれど……良かったと思うよ。
それぞれの課題を描き、そこからの克服もあったし、次の作品につなげる伏線も張った。
特に自分としては、志恩さん大好き人間なのであの独白はグッときた。
潜在犯から脱したいという思いがありつつ、そのままでいたいという気持ちもある。その人間の……転職をしたいけれど新たな世界が怖いとか、そういう普通の感覚を捉えていて、人間として魅力がある人たちとなっているのが、遠い人ではないと感じさせてくれたな」
押井守のゴーストへの挑戦
先ほど語っていた、押井守などの過去作のゴーストへの挑戦に関しては?
う〜ん……でも、面白かったよ
主「自分が本作を鑑賞中に強く意識したのは、やっぱり『攻殻機動隊』と……それ以上に『イノセンス』なんだよね」
OP明けから、イノセンスを連想させたよね
主「この映画は明らかに”押井守作品に対してどのように向き合うのか?”ということをテーマにしている。
それは『イノセンス』のみではなくて『攻殻機動隊』や……もちろんPSYCHO-PASSの基になった『パト2』もそうだし、あるいは『スカイクロラ』もそうだろう。
外に雪が降っていたこと……これはパト2などのオマージュなのかもしれない。
また、今作でも印象的な活躍を見せたダンゴムシと、あのピーポーくんみたいなシステムって、要は合体させたらタチコマでしょ?
その他にもこの映画が描いたテーマの1つである”シビュラシステムが人工知能に被選挙権を認めた”ということは、デジタルデータによる新たなる生命体の誕生を描いている。
これは、攻殻やイノセンスで繰り返し描いてきたテーマだろう」
カエル「生命の定義はいまだに科学的にできていない、ということからの発想だよね」
主「で、同時にこの作品を観ながら思い出したのは『ブレードランナー』なんだよね」
言わずと知れたSF映画を一変させた名作であり、押井守監督も多大な影響を受けたことを公言している作品だね
この先祖返りというか、大元も取り入れていく姿勢も感じさせられた
カエル「もしかしたら、それは『攻殻機動隊』などに向き合った結果なのかもしれないけれど……」
主「でさ、繰り返しになるますけれど……この前のPSYCHO-PASSの三部作も含めて、特に映画で公開する作品に関しては明確に”押井守というゴーストにいかに立ち向かうのか?”ということをテーマにしているんですよ。
何を持って映画とするか、というのは個人で意見が割れる非常に難しい問題だ。押井さんは『これは映画じゃない、と言ったことはない』と語る。ゴダールに影響を受けているからこその、その思想からの言葉だ。
その中でも、優れた”映画”にしようという試みがあり、そしてPSYCHO-PASSが影響を受けた作品への先祖返りを果たしたこと、これは大きな意義があると思われる」
PSYCHO-PASSが向き合ったゴーストと、その結論
じゃあ、その押井守のゴーストとの対決っていうのは、成功したの?
……成功といえば成功だし、失敗といえば失敗
カエル「……また、そんな禅問答のようなことを」
主「この映画が”押井守のゴースト”の焼き直しではないか? と言われたら、自分もそれは同意する。
その意味では、イノセンスなどの映像や表現を更新したとは思えない。
あれほど作家性全開で暴走した作品と比べるのもなんだけれど……やっぱり、どこかしらで王道エンタメにしたからか、甘さを感じてしまう。
その意味ではゴーストとの決別という意味では、失敗かもしれない」
カエル「だけれど、成功といえば成功なんだよね?」
主「この映画において梓澤廣一は、彼が信仰する神、シビュラシステムという人工知能の一部になることはできなかったわけだ。それは元々の潜在的な資質が必要とされてしまう。
その悲哀は攻殻機動隊・イノセンスのバトーと重なる。
草薙素子を追い求めながらも、彼女と共に生きることができなかった男としては、共通のものだ。
彼が生き残ったことも……その意味では意義がある」
カエル「ちょっと話が逸れるけれど、今作って敵がすんごい魅力的なんだよね。あの太った女の子も、憎たらしいんだけれどヘイトを集めるギリギリのバランスの可愛らしさがあるというかさ」
主「でも、今回の主人公である灼は草薙素子と違い、人工知能や新たなる生命体となることを選ばなかった……その選択肢もあるとはいえね。
少なくとも、保留の状態ではあるわけだ。
そこが大きな違いだと考える」
ふむふむ……
その意味では、IGの伝説とも言える作品に向き合い、それと違う道を進もうという意図は感じられる
主「そこでパト2でも印象的だったのが雪なんだよ。
特に名シーンとして名高い南雲隊長と拓殖のシーンがそうだ。
その雪が止む……それを自分は『パト2』『攻殻機動隊』『イノセンス』の先を作るという気概があるという、決意表明だと受け取った」
カエル「だからこそ、PSYCHO-PASSシリーズをこのまま続けさせようと……?」
主「おそらくね。
この作品が押井守のゴーストを再び捉え直すという作品だとしたら、それは絶対に必要だった。そこを抜きにしてしまうと、PSYCHO-PASSというシリーズそのものの意義が揺らぐかもしれない。
だからこそ、この作品こそは”映画”でなければいけなかった。
こんな特殊な上映形態にしたわけだ。
音楽も凝って、作画に関しては様々な事情があったのだろうけれど、それでもできうる限りのことをやり切ってね。
そう考えると……同日に配信して世界にアピールするというのも、とても重要な経営戦略である。だけれど、自分はやっぱり”映画館で観てこその作品”だと思う。
家の小さな画面で見るのと、スクリーンで見るのでは評価が全く違ってしまう……そういう次元にある作品だと、強く感じているよ」
まとめ
では、この記事のまとめです!
- 様々な部分でクオリティの高さを感じさせる作品に
- テレビアニメ版の不満を昇華した作品に?
- 押井守のゴーストとの対決を描いている
- 是非とも映画館で観て欲しい作品に!
言いづらいけれど、でも映画館で見るべき作品ではないでしょうか?