ボーダーラインの続編が公開されました!
まさかあの続きを描くとは……
カエルくん(以下カエル)
「それこそ、びっくりだよね。しかも今回はヴィルヌーヴも監督から外れているし……」
主
「自分は主演すら変わっているもんね」
カエル「そんな中で本作はどのような物語を創り出すのか。
早速ですが記事のスタートです!」
感想
では、Twitterの感想からスタートです
#ボーダーラインソルジャーズデイ
— 井中カエル@物語るカメ/映画・アニメ系VTuber(初書籍発売中!) (@monogatarukame) 2018年11月17日
確かに面白い…けれど前作の魅力とは違う面白さに
アクションと爆発が増したことでわかりやすいエンタメ作品になった印象
ただし前作の重苦しい雰囲気がなくなりボーダーラインの続編としては賛否が割れるか
渋い男達に痺れるなか、イザベラモナーがかわいい! pic.twitter.com/ajPOmBoPc0
普通に面白いことは間違いないよ
カエル「どうしても『あのボーダーラインの続編だ』という思いがあるからちょっと微妙な表現になっているけれど、1作の映画としては間違いなく良作以上の評価があるよね」
主「前作は自分も大好きなヴィルヌーヴが監督を務めていて、さらに音楽や撮影などのスタッフが大きく変わり、さらにさらに前作の主演であったエミリー・ブラントもでてこないという、もはやボーダーラインの骨格がなくなってしまったのでは? と思うほどの変更があった。
だけれど、自分は前作も脚本のテイラー・シェリダンがかなり大きなウエイトを占めているように感じていた。
役者も大きな存在感を放ったベニチオ・デル・トロも引き続いて出演し、主演となっているから、決して『別物だ!』と怒るほどの作品でもないんだけれどね」
カエル「ちょっと今年は大人気作の続編が前作とまったく違くて微妙だった……ということもあったもんね」
主「前作はちょっとわかりづらい部分もあったけれど、それが濃厚なサスペンスとなっていた。
今作はかなりわかりやすく、またアクションも増えているんだけれど、そのせいでサスペンスとしての面白みはどうしても減った印象はある。
だけれど、どちらも違った魅力を提示しているので、前作よりも今作の方が好き! という人はいるだろうし、それは全く変なことじゃないね」
カエル「ちなみに……うちはどっちが好き?」
主「……う〜ん、すごく難しい。どちらも面白いし、挑戦的な部分がありつつも、ちょっとモヤっとする部分もあるかなぁ。
好き度は同じくらい、完成度では前作にわずかに軍配を挙げる。
でもエンタメとして面白いのは今作。
それくらい、結果としては微妙な違いになる変化だと思って欲しいね」
カエル「あとさ、これはあまり言われないことだけれど、前作を見なくてもこのお話は理解できるんじゃないかな?
むしろ、前作と比較しないでいい分、見ていない人の方が楽しめたりして」
主「どうしても公開直後は前作ファンの感想が多くなるけれど、初見さんの感想も聞いてみたいものだな」
前作について
まずは前作について簡単に語っておこうか
大好きなヴィルヌーヴ作品だから、ちょっと長くなります
カエル「でもさ、単独で記事を書こうとしていたけれど、結局やめちゃたんだよね。
なんか『……書けない』って文豪気取りなことを語っていたけれど」
主「……なんだろうな。すごくこれは難しいけれど……あくまでも自分の主観だけれど、前作の『ボーダーライン』ってヴィルヌーヴ作品の中では1番語ることがないんだよなぁ。
求めていたものと違うものが来たというか」
カエル「あれ? 結構面白いし、内容も深いのに?」
主「もちろん、ヨハン・ヨハンソンの重苦しい音楽によってお話を過度なアクションにしていないし、撮影もキレッキレ。
画面の中にヴィルヌーブってサインが見えるような作品として仕上がっており、その意味では映画作品として、映像表現を扱う者として何1つ間違えていない。
だけれど、自分がヴィルヌーブに望んだものとはちょっと違うものが来た気がして、違和感があったんだよね」
カエル「その違和感って?」
主「ずっと考えていたんだけれど、多分ボーダーラインの肝ってさっきも語ったように脚本のテイラー・シェリダンだったんだろうなって。
自分は脚本から色々考えるタイプだから余計にそう思ったのかも」
カエル「う〜ん ……めんどくさい話だねぇ。
今年公開された『ウインド・リバー』はシェリダンが監督を勤めているけれど、それを見ると、かなりボーダーラインと近いことをしたかったのかな? という思いは伝わってくるかな」
主「自分はヴィルヌーブは『間(境界線)を描く監督』だと思っている。
特に、ある程度近年の作品の中心に上げていくと
- 静かなる叫び→男女、加害者と被害者の間を描く
- 灼熱の魂→親子、男女、加害者と被害者の間を描く
- メッセージ→言語や時間の壁を超えた先の親子愛を描く
- ブレードランナー2049→生命と機会の間を描く
他にも『複製された男』と『ブリズナーズ』も宗教的モチーフを元にしており、ある種の境界線を感じさせる作品だ。
で、難しいのは……これら上記の作品は明確に境界線を設定しつつ、そこを超えて融和していくようなシーンがある。
けれど『ボーダーライン』は初めからその境界線がとても曖昧なものになってしまっていような印象がちょっとあって……なんというか、物語のカタルシスは少し足りない印象があったんだよね」
カエル「でもさ、善と悪、または警察(米軍)と麻薬カルテルの境界線を描くという意味では、ヴィルヌーブ作品の特徴なんじゃない?」
主「そうとも言えるけれど……やっぱり、過酷な戦争や麻薬戦争を描いたという話から『灼熱の魂』とどうしても比べてしまう部分はあるかもしれない。
自分の中では『灼熱の魂』はオールタイム戦争映画ランキングでもTOPクラスの作品だから、そこを期待しすぎてしまった部分もあるのかもね」
役者について
では、続いて役者について語っていきましょう!
前作同様、今回も登場人物がみんな魅力的だった!
カエル「まずは主演のアレハンドロ役のベニチオ・デル・トロだけれど、彼はやっぱり印象に残る演技だよね。
色々と複雑な事情を抱えながら、目的を果たすために全力で行動するけれど、何を考えているのかわからない様子だったり、悪事や極端な行為に手を染めることに躊躇がない様子など、ダークヒーローのようなかっこよさも兼ね備えていてさ」
主「ちょっと汚らしいとも言える風貌が、また味を出しているんだよね。
主役として底知れない不穏さなども含めて、魅力のある演技だったね」
カエル「一方で上司であるマッド役にはジョシュ・ブローリンが前作に引き続いて演技しているけれど、こちらもまた味のある演技だったね。
というか、今年ジョシュ・ブローリンを見る機会がとても多いような気がする……」
主「今年は『アベンジャーズ インフィニティ・ウォー』などでもサノスを演じるなどマッチョな役をやらせたら安心感があるよな。
前作よりも出番も大幅に増えていたし、豪胆な姿とともに繊細な姿もあり、いかにも米軍の軍人という演技だった。
この辺りが2人していい対比になっていて……バディとはちょっと違うけれど、チームとしてみたときに味を生んでいたんじゃないかな」
カエル「そしてうちが注目したのは、今作で重要な少女であるイザベル・レイエス役を演じたイザベル・モナーです!
役名も役者も同じイザベルだから、ちょっとだけややこしいね」
主「自分は今作が始めましてだったけれど、とてもキュートな見た目の奥にある粗暴な様子、そして年頃の少女らしいか弱さなども両立していたよね。
今作はかなり骨太な戦争映画だからちょっとあれだけれど、作品によっては日本でも人気が出るんじゃないかな?
美人さの中に可愛らしさがあって、日本人が好きそうだな、という印象かな」
カエル「今作は役者陣に関してはもちろん文句なしで、アクションもドラマも見ごたえがある作品に仕上がっています!」
以下ネタバレあり
作品考察
今のアメリカの社会情勢を考える上で大切な作品
ここからはネタバレありで語っていきましょう
今のアメリカの社会情勢を考える上で、とても大切な作品だよな
カエル「この作品が公開された11月にはアメリカで中間選挙があって、結果として民主党が下院で過半数を確保するという、反トランプ色が出た選挙結果になりました。とは言っても、だいたい中間選挙では大統領が所属する政党は不利というデータがあるので、この結果は妥当という見方もあります。
そして、その裏ではホンジュラスなどの中米諸国から難民申請を求める人たちのキャラバンが北上しており、どのようにアメリカが対応するのか注目を集めています」
主「トランプの目玉政策としてあるのがメキシコとの国境に壁を作るという、万里の長城並みの大事業だけれど、広大な国境線を考えるとこれほど馬鹿げたアイディアが大きな支持を集めるような状況であるわけだ」
カエル「特にアメリカ南部の人たちは危機感を強くしているよね……いくら難民や過酷な環境にいた人とはいえ、その人たちをどこまで受け入れるのかは難しい問題で……」
主「インタビューでキャラバンの子供が答えていたけれど、まだ10歳になるかどうかの女の子が『この歳だとレイプされる可能性がある』なんて答えている。
それを聞くと確かにそんなところにいるべきではない。だけれど、アメリカからするとだからと言って逃げ場にされても困るというのは、確かにその通りだ」
カエル「作中でもテロリストがメキシコ経由で入国した可能性や、前作では麻薬などが大量に輸入されていると語っていたもんね」
主「今作が描いた社会問題は、メキシコをはじめとした麻薬カルテルが力を振るう国々の過酷の様子を伝えている。
それを止めたくても止められない……そして本作ではアメリカのある種勝手な横暴なども描いていて、前作同様に答えの見えないボーダーラインを示していたな」
冒頭から引き込まれる作り
やっぱり、冒頭の描写がとてもうまいよね
スーパーマーケットのシーンなんて、あそこを最大の見せ場にする映画もあるんじゃないかな?
カエル「メキシコからアメリカに密入国をする際に、それを取り締まる警察と、逃げ惑う密入国者たち……そして失敗したら自爆するほどまでの覚悟を決める、おそらくテロリストと思われる男性の様子などもズッシリ重いくて……
そのあとのスーパーマーケットで自爆テロを行うテロリストの非情さと、それに巻き込まれる人々の様子。
アメリカ側の悲劇をしっかりと映した後に、メキシコから来る人々の人生を見せることで、さらに正解が見えなくなっていくよね……」
主「この辺りで、前作と大きな違いをアピールしていたよな。
前作では確かにアクション描写はあったけれど、今作ほど多くはなかった。あってもとても緊迫感があって……観客を煽るようなものではなく、あくまでもリアルに、ある種のドキュメンタリーのような映像だった。
あの衝撃の出だしの事件だって、メキシコの麻薬組織の映像を漁ればもっと激しいものがいくらでも出てくる」
カエル「そんなの、漁る必要性なんて皆無だけれどね」
主「だけれど今作は……これは映画としては非常にうまくて、効果的なものではあるけれども、かなり観客を煽るようなものになっている。
例えば冒頭の自爆テロや、スーパーのシーンは確かに実際にありそうではあるけれども、やはり作為的な意図を感じるものになっている。
これは良し悪しの話ではなくて……映画としての方向性の話だけれどね。
この描き方によって、前作とまったく違うものを描こうという意図が感じられるし、それは確かにその通り、うまく機能している」
邦題の問題
ここで、1つのTweetを参照します
ボーダーラインソルジャーデイズ鑑賞
— 井中カエル@物語るカメ/映画・アニメ系VTuber(初書籍発売中!) (@monogatarukame) 2018年11月17日
これ、壮大にやっちまった感がある
邦題さ、前作はボーダーラインって最高のネーミングだったけど今作はそれが足枷になっちまっているよね
今作は邦題が失敗してしまったな
カエル「邦題問題って時々話題にあがるけれど、今回はどういうことなの?」
主「日本名ではボーダーラインだけれど、前作の原題は『Sicario』というもので、これはスペイン語で暗殺者を意味する言葉だ。
前作を見た人ならばわかると思うけれど、アレハンドロは複雑な立ち位置にいる男で、彼の本質は暗殺者である。その上司というか、所属する組織がどこになるのか、という問題はあるにしろね。
それを日本では単にシカリオや、暗殺者とするのではなく、ボーダーラインとした。
これにはもちろんアメリカとメキシコの国境線や、善悪の境界線など、様々な意味合いがあって、むしろ原題よりも優れたものになっている」
カエル「さっきも語ったように、ヴィルヌーヴ作品はある種の境、ボーダーを意識させるような作品も多いしね」
主「だけれど、本作はボーダーラインだと確かに善悪のボーダーだったり、国境線での物語だから間違いとまでは言わない。
でも本作はあくまでも『Sicario: Day of the Soldado』なんだよ。
つまり、暗殺者である、兵隊たちの日常を描いている。
本作で重要なのはアレハンドロ、マット、そしてミゲルくん、あの少年の3人に物語である。
- アメリカの暗殺者(工作員)であるマット
- 新たに暗殺者の道へ進むミゲル
- 曖昧な立ち位置の暗殺者アレハンドロ
という構図になっている」
カエル「そして、主にアレハンドロとマットを中心となるけれど、3人の間にイザベルがいるという話だね」
主「今作は前作以上に暗殺者としてのお話……特にある種の継承とか、それぞれの信条やあるいは心境の変化などを描いている。
そう考えると、邦題としては『ボーダーライン』よりは『Sicario』の方が合っているんだけれど……残念ながら前作がボーダーラインだし、ボーダーライン2なのに名前を変えるわけにもいかないというジレンマだな」
カエル「こればっかりはしょうがないよね……そもそも、ボーダーラインの続編が出るなんて多分誰も思っていなかっただろうし」
主「だからこれは邦題担当者が悪いわけでもないけれど、ちょっとシリーズ化するにあたってやっちまったかなぁ……案件ではあるのかな、と。
前作は最高にフィットしたから、責めることはできないけれどね」
まとめ
この記事のまとめです!
- 前作とは魅力は違うものの、面白さは健在!
- 各登場人物の魅力がダイレクトに伝わって来る!
- エンタメ要素よりになったことで、前作を求めてるとちょっと肩透かしも?
いい作品だし、迫力もあるので劇場で見て欲しいね
カエル「さて、本作はこの先もシリーズ化しそうな流れではあったけれど……」
主「う〜ん……その流れにはちょっと不安はあるかなぁ。
別に作品どうこうじゃなくて、何でもかんでもシリーズにされるのもなぁ、という思いもあるし……だからこそエンタメ寄りにしたんだろうけれど。
近年、戦争映画は娯楽というよりも社会性がさらに一段と強くなっている気がするんだよ。というのは、かつてはソ連などの明確な敵がいたけれど、今はその敵が定義して認識することが難しい時代だ。
だからこそ混迷を極めた前作のような作品が生まれたわけで……ああいうのは1作で十分だとは思うけれどね」
カエル「まあ、なんだかんだ言っても次も公開直後に観に行くと思います!」