東野圭吾原作の堤幸彦監督作品が登場です!
う〜ん……この組み合わせはどうなんだろう?
カエルくん(以下カエル)
「なんというか……いかにも大規模公開の大作邦画! と言いたくなるような組み合わせだよね」
主
「もちろん、それで決めつけてしまったらいけないけれど……ちょっと考えてしまうところはあるよなぁ」
カエル「その思いは裏切られるのか、あるいは思い通りなのか?
それでは早速感想記事のスタートです!」
作品紹介・あらすじ
大人気作家、東野圭吾の同名小説をテレビドラマなどでヒット作を多く手がけてきた堤幸彦監督が映画化した作品。
娘が脳死状態になってしまい、苦悩する母親役に篠原涼子、その夫に西島秀俊を起用し、答えのない難しい問題を真正面から描いていく。
二人の子供をもつ母親、播磨薫子(篠原涼子)は夫と別居しながらも、子供達をしっかりと育てていた。ある日、子供達が祖母と共にプールに遊びに行った際、娘がプールの排水溝に指は挟まれてしまい、溺れてしまう事故が起こる。なんとか心臓は動き出したものの、脳に血流が行っていない時間が長すぎた影響により、脳死状態にあると判定されてしまう。
悲嘆にくれる薫子だったが、名前を呼びかけた時に反応があり、奇跡に望みをかけてある決断を下す……
感想
いつものようにTwitterの短評からスタートです!
#人魚の眠る家
— 井中カエル@物語るカメ/映画・アニメ系VTuber(初書籍発売中!) (@monogatarukame) 2018年11月17日
自分の思いや好みからは外れるし言いたいこともあるが、間違いなく観るべき価値ある一作
特に篠原涼子の熱演に思わずめがしらが暑くなる場面も
脳死という医学と親の情に観客の思いも揺さぶられるのでは?
ただ東野圭吾の悪癖? が出た印象も拭えないかなぁ pic.twitter.com/GwT752uoFC
意外と? といったら失礼かもしれないけれど、いい作品だったよ
カエル「近年では色々と叩かれがちな堤幸彦監督作品だけれど、今作はかなり骨太なテーマもあり、見所の多い映画になっているんじゃないかな?」
主「人によって意見が分かれるであろう難しい問題をわかりやすく、しっかりとエンタメ作品としてまとめていたし、演出や音楽も意図がはっきりと伝わってきて楽しめる作品だったし、確かに涙腺を刺激したシーンもあった。
ただ、本作が描いていることは自分の信条や思想とはあまり合致しない部分もあるけれど……
そういった理の部分をねじ伏せるような、情感に訴えかけれる力があった作品だよね」
カエル「結構泣ける話ではあるんだけれど、でも見方によってはホラーでもあり、ヒューマンドラマでもありと、一粒でなんども楽しめる作品だったね」
主「この手の大作邦画らしい、ちょっとアレ? と思うような部分もゼロではないものの、観る意義もあるしっかりとした社会派作品だったね」
東野圭吾原作作品に対する思い
今作の原作は現代を代表する大人気作家、東野圭吾です!
原作は読んでいないけれど、東野圭吾らしい作品だったなぁ、という印象かな
カエル「あまりにも人気で、年間でも4、5作は映画化されている印象もあるから、どうしても作品のでき自体は賛否が分かれるものも多い印象かなぁ……
今年でも『祈りの幕が下りる時』はなかなかの作品だったけれど『ラプラスの魔女』は正直、年間でもワースト争いをしてしまいそうなほどトンデモナイ映画だったし……」
主「これは何度か語っている気がするけれど、東野圭吾のミステリー小説家としての腕前は世界でも、それも歴代でも5本の指に入るのではないか? と思うほどに面白くて納得もできる作品が多い。
特に理系らしく、今作もそうだけれどSFじみた描写もしっかりと理屈をつけることで、読者や観客になんとなく納得できるような作品を作り上げるのが非常にうまいよね」
カエル「『白夜行』以前の新本格ミステリー作家時代の作品は貪るように読んでいたもんね」
主「ただ……これは個人的な趣味もあるけれど、ストーリーテラーとしてはそこまでうまいとは思わない。
例えば……これは映画版も世間では傑作と評判だけれど『容疑者Xの献身』などは自分はダメだったんだよねぇ」
カエル「あれ? 世間では評判がいいじゃない」
主「自分も終盤まではしっかりと楽しめていたんだけれど、犯人に対して重要人物がある告白をするんだよ。
そのシーンで一気に萎えた。
それまでの感動台無し」
カエル「……そこがいいんじゃないの?」
主「なんていうかさぁ……泣かせよう、感動させようという意図が見えすぎて、結果的に凡庸になってしまう作品が多いんだよねぇ。
それが大衆受けしやすいといえばそうなのかもしれないけれど、個人的な趣味じゃない。
本作もそれはあって……ああ、これがなければもっと評価したいんだけれどなぁ、というシーンがいくつかあった。それは後ほど説明します」
脳死を巡る状況
社会的なメッセージも強い作品だよね
……まずは脳死と法律や心情の関係性について考えてみようか
カエル「もちろん、人の情としては自分の幼い子供が亡くなってしまった……しかも脳死状態になってしまって、心臓も動いているのに体が動くことはないというのは、信じたくない気持ちはよくわかるなぁ」
主「2009年に法律としてどのように脳死や人の死を定義するのか? 臓器移植を行うのか? という点が大きな議論になった。
この時はいくつかの案が提出されたけれど、党議拘束をしない……つまり、多くの政党がどの案に投票するかを各議員に任せることになった。
その結果、脳死は人の死であり、本人の同意なしでも家族の同意が合えば臓器提供が可能になったり、15歳以下にも臓器移植を認める法案が可決されることになったけれど……
これはとても難しい判断であったし、正解がない問題だよ」
カエル「心臓が止まれば人の死だというけれど、実際には髪もヒゲも爪も心臓が止まっても一定期間は伸び続けれるから、体の全てが生命活動を停止するわけではないもんね……」
主「では、その結果はどうだったかというと……産経新聞の記事によると、国別の臓器提供者数では日本は圧倒的に少ない100万人あたりに対して0,7人という数字となっている。
これは世界でも最も多いスペインが39,7人、お隣の韓国が10,0人、少ない方の中国でも2,0人ということを考えると、非常に少ないということがわかるね」
カエル「……やっぱり、脳死は人の死だと頭では理解していても、それを認めたくない人がすごく多いということでもあるのかなぁ」
主「結局のところ、脳死って体はあったかいままだし、心臓は動いているし……心理的には人の死と認めづらい部分がある。
しかも宗教観、倫理観、感情論も絡んでくるから一概に決められない問題だな」
役者について
役者についてもよかったよねぇ
特に篠原涼子はやっぱりすごいわ!
カエル「今作で1番難しい役であり、本作を活かすも殺すも全て篠原涼子次第なところもあったと思うけれど、結果的にはかなり見所もあり、彼女が高く評価される理由もよくわかる作品に仕上がっているね」
主「彼女に対するイメージって、多くの人がカッコよくて活発な印象だろうけれど、だからこそ本作の母親としての様子が伝わってきたんじゃないかな?
今作の問題って特に幼い子供を持つ親御さんであれば、誰でも実感を持って訴えかけてくるんだよ。だからこそ、最初の決断から徐々に……我々の一般の感覚ではおや? と思ってしまうような描写も、理解してしまう部分もあるだろう。
それは篠原涼子だからこその味なんじゃないかな?
これが他の役者であれば、同じお話であったとしてもここまでガツンとくる物語にはなっていないような気がする」
カエル「では、その相手役の西島秀俊は?」
主「う〜ん……悪くはないけれど、ちょっとケチがついてしまうかなぁ。
というのは、今作の西島秀俊は父親役ではあるものの、どうしても感情表現があまりにも乏しすぎるように見えてしまう。
そういう……情の女である篠原涼子の母親に対して、理の男という立ち位置だからそれは間違いではないけれど、もう少し演技の引き出しがないと、ちょっと辛いなぁという印象かな」
カエル「他の役者陣については?
今回、子役の撮り方がとても良かったと思うけれど……」
主「脳死状態の子供の役を演じた稲垣来泉ちゃんもしっかりと演じていたし、何よりも彼女たちが序盤で見せる姿が、より本作の問題の難しさを際立たせているんだよね。
今作で重要な研究者を演じた坂口健太郎も良かったけれど……脇役で特に推したいのは医者である進藤を演じた田中悦司!
この手の作品の医者って、ちょっと一面的な描き方だな……と思う時もあったんだけれど、今回はすごく説得力があった!」
カエル「医師としては脳死状態であり回復の可能性は低いことをしっかりと伝えつつ、それでも両親の思いは尊重するという、理想的な医師の姿だったね」
主「ここで頭でっかちに『医学的にはもう目覚めることはありえないんですよ!』と大げさに告げていたら、作り物っぽくなってしまって、本作の感動って薄れていたと思うんだよ。
あくまでも医師として冷静に、的確に淡々と状況を伝えていく姿勢がすごく響いたなぁ」
以下ネタバレあり
作品考察
本作が描いた演出的なうまさ
結構演出も良かったと語っているけれど、どのあたりが良かったの?
基本だけれど、やっぱり光の演出が目立ったね
カエル「冒頭の少年たちが遊ぶ様子もわざと逆光のように、光が強く輝いていたし、目一杯遊ぶ姿がとても輝いていて、彼らの生き生きとした様子がすごく伝わってきたよね」
主「自分は子役の演技が苦手だって何度か告げてきたけれど、それは作られた演技をするからなんだ。
一方で、是枝裕和のように自然に子供の様子を撮った作品は大好き。
子供には台本を読ませないで、少しくらい物語をぐちゃっとしちゃうくらいが魅力を生むと思うからさ。
その点でいうと、本作の子役の使い方は自分にとってかなり理想的。
もちろん、話をしてしまうと違和感がある描写もあるけれど、それ以上に子供たちが子供たちらしく、無邪気で最高に笑いながら遊ぶ姿を描いていたから。
あのプールのシーンとかさ、スライダーを滑るシーンとかはうまく撮ったよね。
あれがあるのとないのでは、作品に対する印象が全く違う」
カエル「最初の方は命のきらめきを感じるほどにキラキラだったもんね」
主「ただし、それが過剰かな、と思うシーンもあった。病院に向かうシーンであったり、あるいは研究者の坂口健太郎が演じる星野が同僚とエレベーターで話すシーンにおいて、光がものすごく強く差し込んでいたんだよ。
確かに命のきらめきを追求するのだからそれもわかるけれど、流石にやりすぎかなぁ……」
カエル「でもさ、終盤の大きな決断をしたシーンは……多分夕日だと思うけれど、昼間の太陽ではなくて、真っ赤な陽が差し込んでいて、あの決断がとても大きな意味を持っていたね」
主「本作は骨太なテーマの他にも、人間の狂気、それから手ブレカメラの使い方、ロングカットの使い方などもあって、映画としての見所もかなりある作品になっている。
本当、こういったら偏見がすぎるけれどフジテレビの映画とは一切思えないほどしっかりとしたドラマでびっくりしたよ」
人の死に対する受け止め方
でもさ、やっぱり途中からホラーだよねぇ……
どうしても『フランケンシュタイン』を連想してしまうな
カエル「子供の……遺体といっては言葉が違うかもしれないけれど、脳死状態に近い体を使って人体実験をする様子には、かなりドン引きというか……周囲の人たちの反応もよくわかるなぁ」
主「だけれど、確かにあの母親の言い分だって理解できるものでさ。
先ほども語ったように脳死は体が暖かいし、死んだと思わせるほど、絶望的に訴えかけてくるものはない。例えば……これは映画以外でもよく見るけれど、綺麗にしてもらった遺体に触った瞬間に、あまりの冷たさにびっくりするという描写がある。
実は、これは自分にも身に覚えがあるけれど……
人が死んだということに対して体が冷たくなる以上に説得力があるものはないかもしれない」
カエル「体が損傷していなくて、普通に寝ているだけのようだと、どうしてもね……」
主「有名な話だけれど、世界中では死後何年も過ぎているとは思えない、美しいミイラが存在する。
最も有名なのはイタリアのロザリア・ロンパルドのミイラで、わずか2歳でなくなってしまい、あまりのショックによりミイラ化してもらったというものだ。それは本当に美しくて……普通はミイラの画像なんて閲覧注意ものだけれど、ここまで美しいとただ眠っているか、人形のように思えるほどだ。
これから先、さらに技術が進んだ場合……それこそ押井守ではないけれど、人とロボットの境目どころか、人の死とは何か? という議論が再び巻き起こり、大きく常識が変わる可能性があるかもしれないな」
本作の不満点
じゃあ、最後になるけれど、不満点はどこなの?
う〜ん……やっぱり、物語として物足りなさがるんだよね
カエル「え〜? ここまでしっかりとしたものを描いてきたのに?」
主「いや、それもそうなんだけれど、結局は美しい物語に終始してしまった印象はどうしても拭えないんだよね。
終盤のある衝撃の展開は本当に痺れた。それは自分が鑑賞前からずっと考えていたことで、脳死状態にある可能性が高い人に対して、あのような行為をした場合、それはどんな罪に問われるのか? というのは本当に難しい問題だと思う。
そこまでは良かったんだけれど……その後がなぁ」
カエル「あとというと、夢のシーン?」
主「そうそう。あそこでさ、あのように描いてしまうと、テーマがぼやけてしまうと思うんだよ。いくら夢であっても、”脳死状態で生きていると言えるのか?”がテーマだから、最後までそれで通して欲しかった。
そこであのような描写をしてしまうと、まあわかりやすいけれど、むしろわかりやす過ぎて『ああ、エンタメに走ったなぁ』というか……
そういうところが東野圭吾の嫌いな部分」
カエル「そこで泣く人も多いと思うんだけれどねぇ」
主「あとは……これは西島秀俊への不満にも繋がるかもしれないけれど、子供や夫に対する描写が浅いよね。多分、夫に関しては西島秀俊がそこまで存在感を示せなかったこともあるだろうけれど、息子に関しては中盤まで意図的に思えるくらい物語から除外されていた。
他にも小さな違和感がいくつもあったから絶賛はできないけれど……劇場内でも鼻をすする音も響いていたし、いい作品であることは間違いない。
自分の不満点もお前の趣味だろう! と言われたらその通りだしね」
まとめ
ではこの記事のまとめです!
- 素晴らしき篠原涼子の演技力! 骨太のテーマをわかりやすく伝えてくれた!
- 難しい問題をさらに深く考えさせるための演出も◎
- ただし、ちょっとエンタメ寄りにし過ぎた感も……
この重い作品をしっかりとエンタメとして描いた点でも良作以上であることはまちがいないかな
カエル「まあ、色々語ったけれど、これだけ骨太の作品を大作邦画が作れるというのも1つ驚きだったかな」
主「テーマが良かったのも大きいだろうな。あまりにも答えがないから、独善的な描き方になりづらいというかさ。
堤幸彦監督自体は自分は嫌いになれない人だし、やっぱりトリックは大ファンだったので、応援したいね」
カエル「この難問を問いかける作品をぜひ劇場で楽しんでください!」