カエルくん(以下カエル)
「東野圭吾原作作品かぁ……今や日本で1番人気の作家かもねぇ」
ブログ主(以下主)
「好きな人も多いだろうな。自分も好きな作品も多いけれど」
カエル「けれど? あれ、何か限定的な言い方だね」
主「……東野圭吾作品ってある時期を境に全く違うものに変化していてね。よく言われるのが『白夜行』なんだけれど、ここから新本格ミステリー作家からの脱却を図っている。もちろん、この後の作品も名作とされる作品も多く『容疑者Xの献身』などがヒットしている。
だけど、自分は白夜行以前の方が好きなんだよなぁ。
『悪意』とか『手紙』とか『名探偵の掟』とかさ。だから、一般小説のようなものを書き始めてからは疎遠になってしまったかなぁ」
カエル「ミステリー作家としての評価は非常に高いよね。僕は日本のミステリー作家の中でも5本の指に入る実力を持っていると思うなぁ」
主「もう30年以上も売れ続けている作家だしね。毎年映画化されているし。
本作は原作未読なんだけれど、東野圭吾らしい味も映画になっているのかな?」
カエル「では感想記事に行ってみましょう!」
作品紹介・あらすじ
東野圭吾の同名小説を『余命一ヶ月の花嫁』『PとJK』などの若者向け映画を多く取ってきた廣木隆一監督指揮のもと、実写映画化。山田涼介や村上虹郎、筧一郎のフレッシュな男性俳優たちが主演を張り、西田敏行が雑貨店の店主の役を務める。
2012年、養護施設出身の敦也たちは何かから逃げるように空き家になっていてナミヤ雑貨店に入り込んでいく。そこにはなぜだか手紙が投函されてきており、その内容を確認すると1980年の日付が書かれていた。ナミヤ雑貨店の店主はお悩み相談を請け負っていたが、すでに何年も行われていないはずだった。
不思議に思いながらも店主、浪矢に変わって返事を書いていく。その手紙は時を超えて、悩める人達の元へと届いていくのだった……
感想
カエル「では感想です。まずはTwitterの短評から」
#ナミヤ雑貨店の奇跡
— 井中カエル@物語るカメ/映画・アニメ系VTuber(初書籍発売中!) (@monogatarukame) 2017年9月23日
人生万事塞翁が馬、風が吹けば桶屋が儲かり、因果は巡る
そんな作品
自分は結構好きだけど、その理由は廣木監督作品だから
今年公開した2作品と観るとさらに感慨深いものがある
まあ、難点もあるけれど佳作ではないでしょうか
主「まさしく人生は万事塞翁が馬、因果応報ということわざがピッタリと当てはまるような映画だった。確かにかなり粗い点はある。欠点もないわけではない。
例えば、1980年代の風景だけれど、どことなく現代的な雰囲気を感じることもあるんだよ。窓の外や町の引いた絵面から、どう見ても近代的な建物が見えていたり、病院の施設が最近のものになっているような印象がある。
時間を超える物語なんだけれど、本作は今の時間がいつなのか、わかりづらいものになっている」
カエル「一応説明は入るけれど、絵の質感や小物なども一応当時に合わせるように工夫はされているけれど、それが徹底されているかというと微妙なところがあったかなぁ」
主「衣服や小物類などは確かに当時のものに近いような印象を受けるけれど、画面全体がどことなく現代的な違和感がある。まあ、これはしょうがないのかもしれないけれどさ。
それから、今作はある種のSF要素もあるんだけれど、おそらくそこの整合性を合わせることは放棄している。いや、整合性はあっているかもしれないけれど、その不思議な現象がなぜ起こるのか、一体どういう原理なのか? ということを説明しようという素振りもなかった」
カエル「まあ、本作の主題ではないといえばそうなんだけれど……ここは不思議だったなぁ。なんで? と思うところもあるけれど、そうなっているからそうなんだ、と言われたしょうがないかなぁ」
主「かなり無理くりな部分もある映画だよ。粗もあるし、時系列もわかりづらく行ったり来たり、さらに今が何年かもわかりづらい。その割には説明台詞がたっぷりあって、でもごちゃごちゃしているし……と欠点をあげれば多い映画だよ。
だけれど……自分は本作、結構好きなんだよね」
本作の監督、廣木隆一監督
廣木隆一監督について
カエル「今作を担当した廣木監督は、近年若者向けスイーツ映画などを撮ってきていて、毎年何本も発表している監督だよね。早撮りだし、多作な印象があるけれど……実は、僕は今年になってから廣木監督作品を見始めたというね」
主「このブログを書いていなければ絶対見ないような作品たちばかり撮っている印象だったんだよね。『余命一ヶ月の花嫁』とかって、本当は自分たちの趣味じゃないし。
だけれど、今年に入って鑑賞したら、これがまた意外といい作品が多いんだよ」
カエル「2017年だけでも亀梨和也と土屋太鳳主演で、人気漫画を実写化した『PとJK』もなかなか良かったし、その後監督が福島出身ということで初めて小説を刊行し、自ら映画化した『彼女の人生は間違いじゃない』も震災と残された人をじっくりと見つめた作品だったね」
主「多分、こういう見方をしている人は少ないかもしれないけれど、自分は廣木監督作品として本作を鑑賞していたんだよ。原作も知らないしさ、どこまで原作通りなのかもわからない。役者も村上虹郎には興味あるけれど、他の役者はそこまで興味のなかった。
で、驚いた。本作は確かに廣木監督の味が見事に染みていた作品に仕上がっていたんだよね」
カエル「えっと……それってどういうところが?」
主「廣木監督は福島出身で、先の大震災に対して強い思いを抱いている。西田敏行を起用したのも、福島つながりなのかなぁ。で、その目線で見ると今作は震災以後の映画と……若干だけれど言えなくもない。
じゃあ、ここで廣木監督が今年に撮ってきた作品について少し独自解説を述べていくよ」
1番出番が多かったのは西田敏行では?
(C)2017「ナミヤ雑貨店の奇蹟」製作委員会
廣木監督が撮ってきたもの
カエル「まずは今年撮った中で大規模公開映画だと『PとJK』があって、このブログでもかなりの賞賛を送った作品で……でも賛否は別れたよね」
主「ぶっちゃけ、恋愛描写なんてどうでもいい映画だから。
この作品で重要だったのは『男と男の継承の物語』なんだよ。簡単に言えば女子高生と警察官が結婚するという倫理的な問題がありそうなことを描いている恋愛作品なんだけれど、結婚とは男が女を守るという誓いを立てる行為であり、それだけでなくて父から子へ警察官として誰かを守るという決意をリンクさせた作品でもあるった。
そして『彼女の人生は間違いじゃない』は唐突な津波によって人生を変えられてしまった人たちが、それでも生きようともがいたり、どうしようもないと嘆いたりする様を描いている。福島の現状を描いた作品だった」
カエル「こうやってみると全然ちがうように見えるけれど……」
主「いや、この2作品で行われた試みは本作に直接的にリンクしている。
廣木監督は『唐突な運命に翻弄される人』を描いていたんだよ。自分の力ではどうしようもないこと……暴漢に襲われたり、津波であったり、病や事故、家族の死……人間の力ではどうすることもできない、運命としか言いようのないような出来事に直面してしまう人。
時にはそれに負けてしまうかもしれない。病なんて治らずに亡くなってしまう人だってたくさんいる。むしろいつかはみんな死ぬと考えればそれが普通だ。
それでも、そのような運命からもがいて、何かを成し遂げようとする意志であったり、次の世代への継承していくということを描いてきた監督なんだ」
カエル「本作とリンクするところでいうと『彼女の人生は……』の中で昼間は役所の職員で、週末になると風俗店へ働きに行く女性の話があったよね。そしてそれは本作でも似たような話があるわけだけれど……」
主「これが原作にあるのかわからないけれど、廣木監督らしい話だな、と思った。現実には色々な人がいる。ナミヤ雑貨店の奇蹟によって、その人たちが立ち上がる様を描くのが本作の趣旨なわけだ。
そして大事なのは、本作は『奇跡』の物語ではないことなんだよ。
『奇蹟』の物語なんだ」
カエル「それって……何が違うの?」
主「辞典とかでは同じかもしれない。けれど、一説によると『奇跡』は偶然によって起こった出来事を指す。一方で『奇蹟』は神様などによって起こった出来事を指すんだ。
本作は『奇蹟』の物語だから、この不思議な物語は誰かの意思の元で行われたという解釈が成り立つ。じゃあ、誰が? というと……それは神様であったり、運命であったりという、大きな流れによるものなんだ。
その視点があると無いとでは、この映画への見方が変わるだろうね」
演出について
カエル「う〜ん……そこまで目に付いた演出はなかったかなぁ」
主「本作って海がすごく綺麗なんだよね。廣木監督の撮る風景描写って美意識がある作品が多いという印象なんだけれど、本作もそれは健在だった。
若手男優3人が海をバックに歩くシーンがあるけれど、そこが結構美しくて……自分は福島出身の監督だという知識もあるから、特別な意識があって撮っているんじゃないかな? という邪推もした。
そしてある種の青春映画でもあって、この手の作品で多い描写である走るシーンなどもきちんと入っていたね」
カエル「街の中を力強く走っていくシーンとかは結構印象に残っているよね。いつも語るけれど、青春映画ではお馴染みであり、重要な場面だけれどそこを力強く撮っていて!」
主「走るという行為を撮ることによって、若者たち3人が自らの意思によって未来を選択した、という意味になると思うんだよ。特にあのシーンはね。
そしてカメラがナミヤ雑貨店から徐々に上がっていって、空高く舞い上がる、おそらくドローンを用いているであろうシーンもあったけれど……そこも印象に残ったな」
カエル「でもさ、なんであそこで町全体を映したの?」
個人的に注目の若手俳優、村上虹郎
うまいタイプではないが、不思議と目がいってしまいます
(C)2017「ナミヤ雑貨店の奇蹟」製作委員会
ナミヤ雑貨店の奇跡
主「ナミヤ雑貨店という小さな店で起こる、ある種の御都合主義のような奇跡が次々起こるのがこの作品なんだよ。だけれど、ナミヤ雑貨店は、単なる起点でしかなんだようね。
もっと重要なのは街全体を映すことにことによって、もっと大きなもの……そうだなぁ、運命とかかなぁ、そういう大きな流れを撮りたかったんじゃないかな? 流れというとおかしいかなぁ……となると、もっと大きな奇跡というか……」
カエル「奇跡?」
主「この物語って因果応報の物語なのね。
もちろん、悪いことだけでなく、いい意味でも因果応報。誰かが何か行動を起こしたからそれが誰かを救うことにつながり、巡り巡って自分も救ってくれる。まあ、バタフライ・エフェクトですよ。
それは現実もそうかもしれない。誰かが少し優しくしたから、それによって誰かが救われて、そしてそれがいつかは自分に返ってくるのかもしれない。浪矢のおじさんは単なる悩み相談をしていただけだけれど、それが誰かを救うことにつながり、そして自分にも返ってくる。
さらに言えば、その自分の思いを一時的にでも継承してくれる未来の若者がいて、そしてその若者を救う……動かすこともできる。そういう『継承の物語』でもあるんだよ」
カエル「……最近、毎回のように出てきているワードだよね」
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カエル「本作のテーマソングが本当に素晴らしいよね!
もちろん、山下達郎が手がけるわけだからさ、ハズレなんてありえないって言っても過言じゃないけれど!」
主「劇中でもかなり印象的に用いられていた楽曲だけれど、この曲が本作と……というよりも、監督の描いていたことと見事に一致している。
しかも歌詞を読んでいると『PとJK』はテイストは違うけれど継承という意味ではあっている気もするし、『彼女の人生は……』だったら全く違和感がない。
『少しだけのさよなら』とか『命の船に乗り』などの言葉がどことなく震災を連想させるじゃない?」
カエル「生きるということ、そして死んでしまった命に対して何ができるのだろう? という歌に聴こえるよね」
主「本作で1番重要視したのは 『REBORN』ということなんだろうな。かなりSFとしての整合性などを考えることは放棄しているように見えたんだけれど、大事なのは時間を超えて伝わる想いの継承なんだろう。
本作の登場人物の多くは孤児なんだよね。つまり、誰かの死を背負って生きることを宿命づけられた人たち、子供達なんだよ。だけれど、生き残ったことに後悔だったり、罪悪感を抱えることではなくて……もちろん、忘れることでもなくて、そのような色々な思いを受け継いだ上で、それでも自分の夢であったり、目標や未来に向かって努力をするということが大事なんだよ。
『REBORN』となるわけだ。
それは過去作も同じで、父の思いを継ぎ、多くの人を守り、自分の身近な人を守ると誓う『PとJK』や、亡くなった家族を思いながらも生きることを描いた『彼女の人生は間違いじゃない』など、今年の廣木作品にもつながってくるんだ」
カエル「確かに福島の……いや、東日本大震災で生き残ったことに罪悪感を抱えている人を描いた監督らしいテーマだよね……」
主「今作の演出はそれなりに落ち着いたものになっている。もっと派手な緩急をつけたり、かなり煽るような演出や音楽をつけてもいいけれど、そうなっていない。多分、そういうことはしたくなかったんじゃないかな?
もっと落ち着いた……ある種の鎮魂と救いの映画だからさ」
最後に
カエル「今回は監督の今年のフィルモグラフィーから考えてみたけれど、結構深い映画な気がするね」
主「原作との整合性を合わせるためもあるのか、雑なところもあるけれどさ。その奥のメッセージ性のストレートさや真摯な作りには感銘も受けた。もちろん、この映画単体で見た感想が酷評であってもおかしくはないよ? 自分だって単体で観ていたら、もしかしたら酷評したかもしれない。
だけれど、今年だけでも表現してきたことは一貫しているし、なんならそれが上手い具合に昇華されてまとめられている」
カエル「この手の大規模映画でこういう試みを試したのって面白ね」
主「自分がもしかしたら廣木監督と相性がいいのかもしれないけれど、大型映画で色々な人が口を出すであろう中で、原作のエッセンスを生かしつつ、色々な人の注文も受け入れつつ、自分の作品としてのテーマ性も忘れない。これは職人的映画監督と言えるかもしれない。
いや、自分は『スイーツ映画』なんて言って馬鹿にしていたところがあるけれど、廣木監督に出会えたのが今年の大きな収穫かもしれない。こういう戦い方をしている人もいるんだな、と勉強になった」
カエル「もちろん、自分たちが知らないだけで廣木監督以外にも色々な戦いかたや表現を志している人もいるのかもしれないけれど……馬鹿にしたものじゃないね」
主「当たり前だけれどみんな自分の作品には真摯に向き合っているということだろうな。今後も廣木監督の映画は積極的に見に行きたいかな。
……まあ、さすがに過去のフィルムは数が多すぎるのもあって、あまり見る気がしないけれど。RIVERくらいは見ておこうかなぁ」
カエル「せっかくいい話のように進めてきたのに……」