カエルくん(以下カエル)
「では、少女漫画の傑作と評判の高いママレードボーイの実写映画の感想記事になります!」
主
「名前は知っていたけれど、読んだことはなかったなぁ……」
カエル「ちなみに原作は既読で、つい数日前に読破しました!
いやー、少女漫画はあまり読みなれないから、ちょっと気恥ずかしいところがあったね」
主「もう20年以上前の作品だから思うところもあるとはいえ、多くの人に支持されてきた作品だしね。
それを廣木隆一監督がどのように料理するのか、とても楽しみでもあるよ」
カエル「では感想記事のスタートです!」
映画『ママレード・ボーイ』予告【HD】 2018年4月27日(金)公開
1 感想
カエル「では、Twitterの短評ではこのようになっています」
#マーマレードボーイ
— 井中カエル@物語るカメ/映画・アニメ系VTuber(初書籍発売中!) (@monogatarukame) 2018年4月27日
これは意外と掘り出し物か
恋愛スイーツ映画らしからね静かな演出によって紡がれるストーリー
長回しと上空からの撮り方が特徴的
途中、退屈に思う描写もあるが、とんでもない設定の原作を廣木監督が面白く調理した作品
一見の価値ありかな? pic.twitter.com/kyw68eJnso
カエル「う〜ん……結構評価が困る部分もあるんだよね。
多くの人が連想するであろう恋愛スイーツ映画とはまったく違うこともあって……結構戸惑う人もいるかもしれないね。
ママレードボーイは原作を読んでいるんだけれど……そして大筋では確かに原作通りなんだけれど、決定的に違う部分もあるんだよね」
主「そのあたりに関しては詳しく後々話すとする。
この手の若者向けの恋愛スイーツ映画って派手な演出で魅せる作品が非常に多いけれど、この作品は全く違う。
長回しがすごく多くて、音楽もBGMがあるだけで歌とかもあまり入らない。
同日公開の『となりの怪物くん』も鑑賞したけれど、全く作品のテイストが違うから驚くよ。怪物くんは魅せることを重視して、動の演出などもノリノリでやっていて、音楽も西野カナの楽曲を主題歌を含めて5曲ほど使っているけれど、本作はそんなノリと全く縁がないから」
カエル「同じ恋愛スイーツ映画でもここまで違うのか……って、アプローチの仕方の違いに戸惑うかも……」
主「ただ、悪い映画ではない……と思う。
人によっては退屈に感じるだろうけれど、でも映画としてはありなんじゃないかな?」
原作について
カエル「今回は原作既読のため、その違いについても色々と考えていこうということだけれど……そもそも、原作についてはどう考えるの?」
主「そもそもとして、この作品の実写化ってちょっと難易度が高いよねぇ。
そもそも設定が突飛じゃない? いきなり1話目にしてパートナー交換をする両親という設定がぶっ飛んでいて……『ママレードボーイ』に触れたのは1週間前からなんだけれどさ。
ここまでぶっ飛んでいる物語だとは思っていなかった」
カエル「もちろん同級生の異性の子と同居してしまう物語って色々あるだろうけれど……大体が両親不在とかさ、親の再婚とか、まあ現実的なことから始まるけれど、本作はいきなりパートナーチェンジから始まるもんね」
主「自分がこの作品の監督や脚本を務めろ、と言われたら愕然とすると思う。
本作の最大の特徴となる決定的な設定だけれど、何をどうしたところで一般的に倫理に合う物語になるわけもなく……普通に考えたら、このことが原因で親子の仲が激しく悪くなって、子供は非行に走っても全くおかしくない。正直、恋愛なんてしている場合じゃないとすら思うわけですよ。
でも、それでも監督を務める以上はどういう風に調理するのか、ということが求められるわけで……
他にも原作が10巻ほどとほどほどに多く、エピソードも散らばっているので取捨選択も大変だろうし……と考えると、実写化はそこそこ難しい作品と言えるのではないかな?」
キラキラした日常の中にある恋愛を丁寧に描いた作品
廣木隆一監督について
カエル「そして今作の監督を務めるのが廣木隆一監督であり、結構重点的に注目している監督でもあります。
でもさ、そもそも何でそんなに注目しているの?」
主「う〜ん……好きだから、だけどさ。自分が尊敬するヴィルヌーブや山田尚子に向ける好き、とはまた違うんだよね。
ヴィルヌーブや山田尚子は100点満点中90〜100点をきっちりを獲得しながらも、きちんと映像として、表現として優れた作品を次々と発表していて……多分、自分が死ぬまで全作品、這ってでも見るんだろうなって思わせてくれる名監督。
廣木監督は……言い方は悪いけれど、100点満点だったら50〜70点くらいの作品が多い印象なのね。
決して、めちゃくちゃ高く評価します、今年1番です! という作品を撮っている監督ではない」
カエル「……まあ、恋愛スイーツ映画や大作邦画を中心に撮っているということもあるのかもしれないけれどね」
主「ただ、その撮り方やアプローチが面白いなぁ、と思っていて。
それは今作も同じでさ、普通は派手な演出にしがちなこの手の映画で、すごく落ち着いた、ある種の地味な映画に仕上げてきた。
これって自分の予想から外れているんだよね。
そういう発見が多くある監督で、テーマ性なども感じられる作品も多く発表していて、単純な実写化などにとどまらない印象がある。
ああ、こういう映画監督の道もあるんだなぁ……って勉強になっています」
カエル「あと、廣木監督は背景などの撮り方が特に綺麗で、街や海の撮り方がとても美しく撮る監督でもあります!
ぜひそちらも注目して鑑賞してください!」
廣木隆一作品の『彼女の人生は間違いじゃない』のレビューです。2作同時レビューになっています
役者について
カエル「では、今作の役者についてはどうだった?」
主「まあ、こんなものじゃないですか?
別に取り立てて演技に疑問があるキャストもいないし、かといって大絶賛するほどのキャストもいない。
そもそも、桜井日奈子はまだ高校生役でもギリギリ大丈夫な年齢かもしれないけれど、吉沢亮はもう高校生はきついじゃない? その桜井だってどちらかというと大人っぽいタイプだから、どうしても高校生には見えないし。
さらには髪も染めたり、コスプレ臭がしたりさ、結構役者泣かせの部分も大きいと思うのね」
カエル「作中の設定もすごいけれど、舞台設定もすごいよね。
あんな学校、どこにあるんだろう? と思うくらいオシャレな学校で、図書室なんて町の図書館よりも広くて立派でオシャレで……よく見つけてきたなぁ……と思うことも多い場所ばかりで」
主「2家族が暮らす家だって天井がすごく高くて、撮影のために普通とは違うこともあるだろうけれど、この映画のために作ったのか? と思うほど特殊な家だったし。
そういう色々と役者が演技するには難しいと思うような環境で、しかも長回しが非常に多い中で、よく演技しきったと言える役者陣だったんじゃないかな?」
以下ネタバレあり
2 作品テーマと演出について
冒頭から長回しが多い
カエル「ではここからは作中に言及しながら語っていくけれど、本当にびっくりするくらい長回しが多いよね。
しかも、結構俯瞰する位置から撮っていて……ドローンを使っているのか、機材を使っているのかまではわからないけれど、特徴的なアングルも多かったし」
主「スタート開始30秒くらいで、ちょっとびっくりしてさ。
まず、本作の肝となる設定を開始5秒で明かして説明しながら桜井演じる光希が、友人の茗子に話している。その段階でも『設定の開示が早い!』とびっくりしたけれど、どこにあるんだかもわからないような、ものすごい学校を舞台に2人が歩いているシーンを延々と長回ししているわけ。
でも、ちゃんと絵は綺麗なんだよね。
廣木隆一作品は絵の撮り方が綺麗で、ふむふむ……と勉強になるんだけれど」
カエル「スタートだけかな? と思ったら、そのあとの引越しシーンとかもずっと光希の後ろをカメラが追いかけていたりして、多分一般的なこの手のスイーツ映画に比べたら、カット数が相当少なそうだったかな」
主「しかも演出も過剰ではないわけだ。
特徴的な効果音もなければ、役者も変に過剰な演技はしていない。
あくまでも自然体でいることを指導されているかのような、そんな演技でさ……それがかなり地味に見えてしまったこともある。
本作は127分の作品だけれど、この調子でその長さは結構きつくて……せめて120分は切って欲しかったし、欲をいえば110分くらいに短くできたら、もっと評価されたんじゃないかな?」
この家の間取りも特徴的……どこにこんな家があるのだろう?
描かれた様々な恋愛の姿
カエル「でもさ、そもそもとしてなんでそんなに長回しをしたのかな?」
主「う〜ん……多分、リアルな恋愛の姿を撮りたかったのかもしれないな」
カエル「……リアルな恋愛の姿?」
主「本作の描く恋愛の姿ってそこそこあって……
- 主人公カップルの恋愛
- 両親のパートナー交換の恋愛
- 茗子と先生の恋愛
- 銀太の片思い
- 亜梨実の片思い
と、まあ結果として5つほどの恋愛を扱っている。もちろんメインは主人公カップルの恋愛だけれど、特に銀太などは原作よりもさらに積極性が強い男の子に改変されているわけだ」
カエル「こうやって5つの恋愛の形を見ると、映画にするには少し多いのかな? という思いもあるね……」
主「そしてこの映画版は原作に比べると、光希をはじめとして、かなり生々しい反応をするんだよね。
原作の光希ってどちらかというと天真爛漫系の主人公で、とても可愛らしいけれど天然ボケっぽいところもあって、両親のパートナー交換もすぐに諦めて比較的すんなりと受け入れる。
だけれど、映画版は結構そのことを根に持って強く反対しているし、性格もちょっと原作よりもねちっこいというか……まあ、原作が漫画的な性格をしているのもあるけれど、より現実味がある性格に変更されているように見える」
甘くて苦いマーマレード
カエル「ふむふむ……その理由ってなんなの?」
主「ケンドーコバヤシのネタでも有名なママレードボーイのOPの歌詞にもあるし、作中でも使われていたけれど『甘くて苦いマーマレード』ということを表現したかったのだと思う。
もちろん、このマーマレードは本作における吉沢亮演じる遊を示す言葉であるし、外見は甘いけれど中身は苦い性格を言い表しているのもあるけれど……それ以上に、恋愛についてかたっている作品でもある」
カエル「甘くて苦い恋の味……ってことだね」
主「そうそう。使い古された表現でもあるけれど、それをマーマレードに例えたのが本作。
この映画に限らず、恋愛映画における壁って結局は倫理の壁なんだよ。
不倫ものとかそうだよね。主役たちの2人はすごく心から想いあっているのに、倫理の問題で一緒になることはできず、いずれは破滅へと向かっていく……というさ」
こちらの記事に詳しく書いています
カエル「その視点で考えると、この映画には3つの倫理の壁があるね」
- 両親のパートナー交換の倫理(夫婦交換の是非)
- 教師と生徒の恋愛における倫理
- 光希と遊が悩む倫理
主「最後の倫理は大きなネタバレになるので一応伏せておくけれど、こうやってみると倫理の壁が3つもある作品である。
でも、この作品に出てくる登場人物たちはこの倫理の壁を超えて、それをわかっていてもなお、人を愛し、求めていく。
両親はスタートで早々にパートナー交換を決めているけれど、実は結構考えていることが後々分かる。
この苦味と甘みの恋の味=マーマレードなんだよね」
原作でも1番好きだったのがこの2人の恋
倫理の壁がもっとも強く出た恋愛でしょう
原作から大きく改変された描写
カエル「えっと……じゃあさ、この映画の見所ってどこになるの?」
主「後半にさ、光希と遊が九州などに旅行に行くけれど、そのシーンってただのホームビデオなわけ。
映画館の画面が携帯電話やスマホと同じような縦長の画面になってさ、2人がイチャイチャするところをこれでもか! と見せつけられる。
あの瞬間はもう光希と遊じゃなくて、桜井日菜子と吉沢亮じゃないの? と思うほどで……ゲスな言い方をすれば、この撮影で2人はくっついたのか? と思うような映像だった」
カエル「それだけリアリティのある映像だったということだね」
主「長回しをそれだけ積み重ねるということは、この映画で撮りたいのはママレードボーイという『物語』ではないのかもしれない。
そうじゃなくて、恋に悩み、迷ういくつもの男女の姿を、この映画では描きたかったのかもしれない。
普通はこの手のスイーツ映画って役者をアップで撮って、そのシーンを積み重ねる。でも、本作は引きの絵が多く、俯瞰で長回しになっている。
ではその意味は? と言うと、光希と遊ではなくて、幾つかの男女の普通の恋愛を捉えたかったのだろうな」
カエル「ふむふむ……それで考えると、ラストも結構改変されていて、原作よりも両親の話す様子が結構重くなっているよね」
主「というか、あれくらい重くあるべき話でさ。原作が女児向けの少女漫画ということもあって軽すぎるんだけれど……でもその重さってすごく重要で。
それだけの愛と倫理に迷い、苦しんでいたいくつものカップルが、ようやく解放された姿なんだよね」
カエル「インタビューでも『ママレードボーイはきちんと等身大の日常を描いている』と語っているし、それを意識したからこそのこの絵作りになったのかもね……」
廣木隆一作品として
カエル「確かさ、以前に『ナミヤ雑貨店の奇蹟』の時に、こんなことを書いているんだよね」
廣木監督は『唐突な運命に翻弄される人』を描いていたんだよ。
運命からもがいて、何かを成し遂げようとする意志であったり、次の世代への継承していくということを描いてきた監督なんだ。
主「自分の記事を引用するって変な気分だな……
それは置いておいて、自分は近年の廣木隆一作品を見ていると恋愛に限らず、いろいろな運命に翻弄されながらも、そこから自分たちで明日を掴み取ろうとする映画が多いと思うんだよ。
いや、多くの映画がそうかもしれないけれど……
で、本作もそれは同じ。廣木隆一の撮る映画らしい作品に仕上がっていたし、それが結構自分には面白くて、じんわりと沁みる映画でもあったかな」
まとめ
カエル「では、とりあえず最後になりますが……そもそもなんで廣木隆一作品をそんなに観るのか? ということについて答えるとするとどうなるの?」
主「たぶん、多くの映画ファンがそうかもしれないけれど、この手の恋愛映画って1番自分が嫌悪していたタイプなのね。
はっきり言えばさ、バカな若い子を映画館に呼ぶために、アイドルをたくさん使って観客を呼ぶだけの映画。邦画の悪習の塊のようなさ。
だけれど、それってやっぱり偏見なんだよ。
実際いくつか見ていると、その作品の中でもそれぞれの監督が、それぞれの面白いアプローチから工夫を重ね、そしてそれが色々な味を生み出している。
そして何よりも……廣木隆一監督はスパンがめちゃくちゃ早い。年間1作どころか、2、3作発表することもある。だから、一定の間隔で楽しむことができる。
その度に面白い発見があって……なんとなく好き、な監督なんだよね」
カエル「なんとなく好き、かぁ……」
主「今、映画館では洋画大作を中心にたくさんの映画が公開されているし、年に1作しか見ない人にオススメするなら、自分も他の映画をオススメするけれど、でもこの手も映画も邦画では大事なんだと思うよ」