カエルくん(以下カエル)
「では、久々の? 恋愛スイーツ映画のレビューといきましょう!」
亀爺(以下亀)
「この手の映画は当たり外れが大きい分、ギャンブル要素も多くて面白いからの」
カエル「ある程度映画を見ていると予告編を見ただけで『あ、これはやばい……』というのがわかるけれど、恋愛スイーツ映画だけはまだ見分けがつかないんだよね……」
亀「ダメだと思ったものがよかったり、その逆も多くあるからの。
しかも人によって評価が変わるのは当然じゃが、この手の作品は特に賛否が激しい印象があるの」
カエル「では、本作はどうだったのでしょうか?
感想記事のスタートです!」
1 感想
カエル「では、いつものようにTwitterの短評からスタートです!」
#となりの怪物くん
— 井中カエル@物語るカメ/映画・アニメ系VTuber(初書籍発売中!) (@monogatarukame) 2018年4月27日
ハルク……じゃなくてハルという怪物を制御する女子高生の物語
演出も見所あり、何より比較的短い!
同じシーンを繰り返すなど邦画の悪癖もあるものの、土屋太鳳と菅田将暉が魅力的に輝いていたのでOKでしょう!
亀「何よりもハルの怪物っぷりが目立った作品じゃったの。
それこそアベンジャーズを見ているのか? と勘違いするほどのチート性能っぷりであり……運動はもちろん、学力、家柄に至るまで何もかもが優れておる、とんでもない男じゃったな」
カエル「え? え〜っと……最初からその話なの?」
亀「まあ、冗談半分じゃが、これも見所の1つでもある。
本作はカメラワークや演出が非常に凝っており、見所が非常に多い作品に仕上がっておる。
これを言うと変な顔をされそうであるが……下手なアクション映画よりも、よっぽどしっかりとアクションをしておるの」
カエル「最初に『ハルクっぽい』って冗談のようだけれど、そう思わせるような描写があるってことだもんね……その秘められた力を扱うことが難しいという描写もまた、ハルクっぽさに拍車をかけているというかさ」
亀「それは迷走という意味ではない。
それだけ多くの場面が様々な見所に溢れているということでもある。
……まあ、邦画の欠点もあるにはあるが、この手の若者向け恋愛スイーツ映画の中では、かなりしっかりとした見所のある作品となっておるぞ」
役者について
カエル「まずはさ、なんといっても今作は役者がいいよね!
今を羽ばたく大人気俳優である菅田将暉と土屋太鳳のタッグとなると『またか!』と思われそうなところもあるけれど、でもこの2人はちゃんとピックアップされるくらい実力のある2人だしね」
亀「一般のネットユーザーの評価は賛否が分かれてしまいがちな印象はあるものの、映画好きの中では安定した人気を得ている印象もある2人じゃな。
特に今作ではこの2人がしっかりとお話をグイグイを引っ張っているからこそ、他の若手役者陣も伸び伸びと演技ができた印象かの」
カエル「何がすごいって、存在感があるんだよね。
はっきりと言ってしまえば、ハルって異常者なわけだけれど、それでもどこか強暴性の中に可愛らしさも感じられて、あの菅田将暉の屈託のない笑顔を見ると、確かにちょっと惹かれるのもわからないではないというか……
それに、すごく基本的なことに聞こえるかもしれないけれど……菅田将暉ってちゃんとご飯を食べるんだよ」
亀「『え?』と思われるかもしれんが、これは重要なことでな。
この手のスイーツ映画を見ていると、多くのジャニーズ系やアイドルのような人気を誇る男優、女優ともに食事シーンは食べているふりじゃ。食べても野菜を少しだけ……などが多い。
これは何度もリテイクするために体型管理の一環で、そこまで食べないということもあるのじゃが……わしはこれを見るたびに萎えるところもあった」
カエル「ただご飯を食べる……こんな簡単なことだけれど、実は演技している人はほとんど食べていないから、菅田将暉の見事な食べっぷりなども良かったよね!」
この作品の土屋太鳳、魅力があります!
(C)2018映画「となりの怪物くん」製作委員会 (C)ろびこ/講談社
注目ポイント1〜コロコロ変わる衣装〜
カエル「土屋太鳳の話になるけれど、作中ではしっかりと稀代の美少女となっていて……私服も少しダサいと言われるけれど、ロングスカート姿などもすっごく可愛らしくて!」
亀「本作の見所の1つがこの衣装の可愛らしさじゃな。
今作ではメインでは主に学生服であり、それは若干コスプレ臭もするのではあるが、しっかりと似合ったものになっておった。おさげ姿などが『真面目な美少女』っぷりをよく表しておったの」
カエル「そして本作は文化祭のシーンもあるけれど……ピンクのナース服(ゾンビ姿)の土屋太鳳がすっごく可愛いです!
もちろん私服姿に、豪華なドレス姿もあって……どれもこれも魅力がたくさん!」
亀「これは共演の池田エライザもそうじゃな。ゴスロリメイド姿などが、かなり可愛らしいことになっておる。
もちろんそれは男性陣も同じであり、言ってしまえば出演者を楽しむ『アイドル映画』みたいなところもあるが、その魅力を見事に発揮した作品でもあるの」
私服も様々であり、それぞれの個性が出ている
(C)2018映画「となりの怪物くん」製作委員会 (C)ろびこ/講談社
注目ポイント2〜西野カナの楽曲〜
カエル「本作は本当に多くの西野カナの楽曲が使われていて……5曲くらい作中で流れたのかな?
この使い方も結構よくて、もともと105分と短めな作品ではあるけれど、ほとんど飽きることなく鑑賞することができるんじゃないかな?」
亀「そのような『動』の演出も多く取り入れておったの。
本作ではOPがあるのじゃが、そこから『ここから映画が始まるぞ!』という掴みとしてもうまく作られておる。
わしは特に西野カナファンではないが、特に世代直撃の若い子にしたら、その音楽を聴くだけでノリノリになるところもあるかもしれんな」
今作の主題歌以外にもたくさんの楽曲を使用しています!
注目ポイント3〜演出〜
カエル「そして映画としてとても重要な『絵』としての魅力だけれど、これも結構良かったよね。
特に本作は大作邦画らしい説明口調もあるけれど、それに頼らずに色々なことで映像表現として演出していたね
亀「そうじゃな……分かりやすいところでいうと『ピントの演出』があるの。
例えば土屋太鳳演じる水谷雫に焦点を絞っておったのが、急に菅田将暉演じるハルにピントが変わったりする。その演出によって、カットをいじることなく、観客に誰に注目して欲しいのか、すぐにわかるようになっておる」
カエル「ちょっと難しく言えば被写界深度の話とかになってくるけれど……そんなことは置いておいて!
どこにピントを合わすのか、というのは、演出としてとても大事なことなんだね」
亀「何よりも、それだけで説明出来ることがたくさんあるからの。心情表現であったり、その場面でどこに注目して欲しいのか、という問題であったり……そのようなことが色々とわかるようにできておる。
もちろんそれだけではなくて、細かい静かな演出も冴えておる。なかなかに工夫されておる映画であったの」
以下ネタバレあり
2 どのように物語を魅力的に描くのか?
スタートから動の演出について
カエル「では、ここからは作中に言及しながら語っていこうと思います!
まずはスタートだけれど……ここがまず凄かった!
ハルが2階から飛び降りて車の上に着地、そしていじめっ子を相手に暴れまわるというシーンだけれど……下手なアクション映画よりアクションをしていたよね!」
亀「ここで一気に引き込まれた人も多いのではないかの?
とにかくこのアクションが中々面白くての……ハルの背中をずっと映しながら、カメラも一緒に2階から飛び降りておるわけじゃが、そのあとの暴れっぷりがまたすごい。
殴られた生徒は文字通り『スッ飛んていった』からの」
カエル「もう、ただの化け物だよね!
これだけでいかにハルがとんでもない化け物なのかも理解できるし、しかも映画的にも一気に引き込まれていくね」
亀「同時にこの冒頭のシーンなどでは、カメラのピントで表現しておる。
この手の映画であれば……というよりも、多くの映画であれば役者に注目を集めるために、ピントは役者に当てて周囲をぼやかすというのが常識ではあるが、本作は先にも述べたように雫→ハルなどのようにピントをズラして人物に注目を集めるように演出をしておる。
それが最も活きたのが……一気に話が飛ぶが、中盤のシーンじゃな」
危うさの中にある可愛らしさを表現している菅田将暉
(C)2018映画「となりの怪物くん」製作委員会 (C)ろびこ/講談社
中盤の特徴的なシーン
カエル「え〜っと……確か、ハルの父親とお兄さんが会話をしているシーンだよね。
雨の降る窓越しにカメラが覗いていて、お父さんが『後継者はハルだ』と決めてお兄さんが愕然とするシーンだけれど……」
亀「そのシーンを改めて考えて欲しいのじゃが、元々雨の降る窓越しに2人は会話をしておるから、かなり役者はボヤけておる。そこでこのピントをズラすのじゃが、当然のようにお兄さんにはピントが合わない。
つまり、ここでピントが合わない=大きなショックを受けている、という心理状態の演出にもなっておるわけじゃな」
カエル「あ〜なるほど、何に注目していいのかわからない状態でもあるってことだね」
亀「では逆にピントが合うというの時はどういう時か? と言うと、それは当然観客にピントが合った方に注目してほしいというのもあるが、同時に登場人物がその人をじっと見つめている、という説明にもなる。
ハルにピントが合えばキャラクターたちはハルに、雫で合えば雫に注目している、ということを表現しているわけじゃな。
このように、とても単純なピントを合わすということで、その登場人物や観客の視線を誘導しており、それが効果的に発揮されている作品でもあるの」
もこみち、いい役していたなぁ……
(C)2018映画「となりの怪物くん」製作委員会 (C)ろびこ/講談社
本作を象徴するバレーボールのシーン
カエル「今度の演出は何?」
亀「次は視線の演出、登場人物がどこを観ているか、ということについて考えていくかの。
本作では序盤から中盤にかけて、授業でバレーボールをするシーンがある。その片付けの際に、去っていくハルを見つめるのが浜辺美波演じる学級委員の千づるである。その熱視線は全くハルから外れることがない。
そしてそれを池田エライザ演じるあさ子は気がついておるのじゃが、雫は全くそのことに気がついておらず、またハルの方を見てもいない」
カエル「ふむふむ……」
亀「これだけでハルに対する3人の感情がよくわかるの。
千づるはハルのことを気にかけており、それをじっと見つめている。1番大事なのはこの情報であり、手前の目立つところに姿があるの。
一方であさ子はハルには興味がないが、ハルのことを熱視線で見守る女子についてはわかるような洞察力などがある。
そして雫は全く興味がない。ハルのことを気にもしていないし、彼を気にする女子がいることも気にしていない。
このように、それぞれのハルに対する気持ちをさらりと映像で演出しておるわけじゃな」
光と影のメリハリ
カエル「そしてこちらも映像演出でよく使われる、光と影の演出だけれど……」
亀「お母さんの気持ちを電話して確かめるシーンなども中々いい。
暗い夜の中、雫が母親に電話をかける時に、彼女が非常に不安を抱いていることが伝わってくる。
そして、それ以上にうまいのが携帯電話の番号を押すシーンじゃな」
カエル「え? ただ番号をプッシュするだけじゃない?」
亀「では、カエルは親の電話番号を何も見ずに知っているのかの?」
カエル「あー……多分、無理かなぁ。携帯電話には入っているけれど、電話番号を押せと言われてもわからないかも……」
亀「現代では便利になった分、このように親の携帯番号もわからない人がそれなりにいる中で、何も見ずに電話番号を押す=それだけ強く母親を想っているという描写になる。
そして、このシーンがはっきりと生きたのが、この後のシーンである。
雫とハルはとても強く惹かれ合い、キラキラした青春を送るのじゃが……ここでは一転して明るい昼のシーンへとなっておる。
つまり、暗い夜のシーン=不安を抱えているシーンから明るい昼のシーン=とてもキラキラした青春のシーンへと切り替えることで、より彼らの青春が輝いていることをアピールしておるわけじゃな。
それに注目しておると、キスシーンはきっちりと明るいなど、光と影の演出にも気を配っておるのがわかるぞ」
菅田将暉ってそんなにすごいの? と思う人に是非見て欲しい作品。
個人的には2017年実写邦画の中でTOPの作品です!
終盤の川のシーン
カエル「そして、この川のシーンもうまいんだ」
亀「2人にトラブルが起きてしまった後、ハルの友人である賢二が雫を口説きに入る。このシーンではやはり真っ暗な中で、ハルがいなくなってしまったことに雫が強い不安にかられていることがわかる。
ここで注目して欲しいのが、川のきらめきじゃの」
カエル「えっと……川に反射した光のことだね」
亀「そう。ここで川に反射した光が、2人の間に映っておる、とても綺麗なシーンじゃな。
これはもしかしたら偶然かもしれんが……わしはこの2人の間にある壁を表現していると思った。
つまり、ハルのことがあるから雫は賢二の誘いに乗ることはできず、そのつもりもないことをこの壁で表現している。
2人の心の距離にはかなり大きな壁がある、という描写じゃな」
カエル「へ〜……色々あるんだね」
亀「他にも……これは何度も繰り返されていたのでわかる人も多いじゃろうが、背伸びをしても届かない金魚鉢=手を伸ばしても届かない希望の象徴など、メタファーもある。
ラストで金魚鉢に金魚がいることで、ハルと雫が結びついたことを絵として表現していることも洒落ておる。
簡単な写真や、キスシーンで表現しておらんからの。
ただの主演の2人を魅力的に映しただけでの、お気軽な恋愛映画ではない、というのが理解してもらえたじゃろうか?」
監督の前作は大ヒット作のこちら
それでも不満点として
カエル「さて、これだけ演出がいい! って語ったけれど、不満点もあるの?」
亀「大きな疑問は雫の家じゃな。
お父さんが6回も事業を失敗しており、それがハルとの差になっておるのじゃが……イヤイヤ、あれはかなり立派な家じゃった。
もちろん、映画としてキラキラな青春を描く上で団地ではいけない、という思いもあったのかもしれんが、あれでは雫の抱える悲壮感や、経済感覚などはあまり伝わってこないのではないかの?」
カエル「お父さん、いい味出していたけれど、ちょっと思うところはあるのかなぁ……
雫の誕生日の時、本人が精一杯準備しているのに、男たちはただ見ているだけで誰も手伝わなかったでしょ?
もちろん雫の性格を描写しているんだろうけれど……少しくらい手伝ってやれよ! と言いたくなるよね。あんなにいい子だからこそ、余計にお父さんに違和感があったかなぁ」
亀「その意味で、本作は多くの学生キャストに焦点を当てた分、それ以外の大人や脇役に対する描写がおざなりな部分も散見されたところもある。
恋愛スイーツ映画として見る箇所の多くある作品でもあるが……少しばかり、気になる部分もあったかの」
まとめ
カエル「まあ、でも全体的には良作と言えるんじゃないかな?
多くの見所もあったし、キャストも映し方も良かったし、若い子たちにも届く作品だったんじゃないかな?」
亀「この記事では色々と細かい演出なども書いておるが、単純に物語に感動する人もいるじゃろう。
出演する作品も多いということで、若干ヘイトも溜まりがちな主演2人であるが、その内容はとても真っ当な恋愛映画であり、工夫も凝らされている作品だったと言っておきたいの」
カエル「このGWは本当にいい作品ばかりだけれど、アクション系が多い印象だから、若いカップルのデートムービーとして、重宝するかもね」
亀「ぜひ劇場で見て欲しい作品じゃの」