今回は漫画原作映画、累の記事になります!
2週続けて注目したい漫画原作映画が続くね
カエルくん(以下カエル)
「次週公開予定の『響』とともに、才能を語った作品として大きな注目をしています」
主
「現代最高峰の若手女優である土屋太鳳と、これから注目のニューフェイスになるであろう平手友梨奈の演技も注目かな」
カエル「今回はもちろん、累だけのレビューになりますが……上記の理由もあって結構楽しみな作品です!」
主「じゃあ、感想記事にいってみましょう」
作品紹介・あらすじ
松浦だるまの同名原作漫画を実写映画化した作品。
監督はテレビドラマ作品などを多く手がけ、映画では『キサラギ』『脳内ポイズンベリー』などの佐藤祐市が務める。脚本は実写、アニメを問わずに活躍する黒岩勉。
主人公の顔に大きな傷を持つ天才役者の累役には芳根京子、美貌に恵まれながらも難病を抱えるニナを土屋太鳳が演じ、2人が不思議な口紅でキスをすると顔が入れ替わり、コロコロと役が変わりながら演じ分けている。
浅野忠信、横山浩、檀れいなどが脇を固める。
顔に大きな傷を持ち、親族からも邪険に扱われていた少女、累(芳根京子)の元に芸能プロダクションに務める羽生田(浅野忠信)が訪れる。彼が紹介したのは、飛び抜けた美貌を持つが役者として伸び悩むニナだった。
不思議な口紅を使って顔を入れ替えた累は、ニナとして芸能界を卓越した演技力でのし上がっていくのだが……
感想
それでは、Twitterの短評からスタートです!
#累
— 井中カエル@物語るカメ/映画・アニメ系VTuber(初書籍発売中!) (@monogatarukame) 2018年9月7日
これだよ、これを待っていた!
芳根京子や浅野忠信もいいが土屋太鳳が全てを喰らい尽くしていき、現代最高峰にいる若手女優の貫禄を見せつける!
後半は身じろぎすら出来ず固唾を呑むしかない圧倒的な魅力に目頭が熱くなる
本作最高の演出はEDにAimerを選んだことでしょう!
必見です! pic.twitter.com/dsA9qT5QH9
これぞ若手女優の名演技を楽しむ、最高の作品といえるでしょう!
カエル「近年は恋愛スイーツ映画がたくさん増えて、若手の男優や女優はそちらに出演することも多くて……
特に土屋太鳳はそのイメージが強い女優さんだけれど、その手の映画だけじゃない、演技の実力がいかんなく発揮された作品だったね!」
主「残念ながら一部の大手ニュースサイトのコメント欄では、土屋太鳳や広瀬すず、あとは菅田将暉とか山崎賢人などは、多くの映画やドラマ作品に出演していることもあって、比較的ヘイトも集まりやすい環境にいる。
ごり押しという声も聞こえてくるほどだ。
でも、その実力は非常に高く、それだけ評価されているからこそ仕事が途切れない人たちであり、決して政治的な思惑だけでキャスティングされているわけじゃない、というのは映画ファンならば納得してもらえるのではないかな?
ただ、どうしても恋愛スイーツ映画などが多いと、その演技力を100パーセント発揮できたとは言い難い現状があるのもまた事実。
土屋太鳳はようやくその卓越した、現代の若手女優の中でも屈指の演技力を評価されることになるのではな? と思わせるような1作だった」
カエル「中盤以降は特にグッと飲み込まれていくもんね……」
主「もちろん芳根京子もいいけれど……ちょっと、土屋太鳳の圧倒的な印象が強すぎた。
今年は素晴らしい邦画が相次いでいるけれど、今作もその中の1作に入ってくるし、個人的には今年のNo1邦画主演女優が決定したかな、と思わせるほどの演技だったよ」
佐藤祐市監督について
カエル「本作の監督を務めた佐藤監督は、近年では恋愛スイーツ映画を多く撮っている人だよね。あとは映画よりもテレビドラマの方が手がけた作品が多い、ベテランの監督だけれど……」
主「そのフィルモグラフィの代表作と言えば、やはりこの作品でしょう!」
カエル「亡くなったあまり有名ではないアイドルを追悼するために、5人の男が集まった一夜を描いた会話劇の映画、キサラギだね。
最大の特徴は、この映画の多くの場面が同じ部屋の中で撮影されていることであり、5人の素性や関係性が次々と明らかになっていく爽快感がある作品です」
主「もちろん、今作は現代屈指の脚本家である古沢良太の名脚本がキラリと光るけれど、その会話劇という一見地味な作品を見事に監督したのが佐藤監督です。
キサラギも累も演劇的な……舞台を意識したような一面があって、それが佐藤監督の手腕と一致しているような印象も受けたかな。
本作は若干間延びをした印象も受けたけれど、与えられた題材を限られた表現で見事に演出した作品であり、ベテランらしい味に満ちた作品だったと言えるのではないかな?」
土屋太鳳と芳根京子について
今作はこの2人の映画です!
もはやこの2人の話以外、必要ないかもしれない……
カエル「もともと現代屈指の若手女優であるという評価はしていたものの、その実力を遺憾なく発揮した土屋太鳳と芳根京子の圧倒的な演技力が見所です!」
主「まず素晴らしいのは、同性間でのキスシーンをきっちりと演じていること。
中には嫌がる人もいるであろうけれど、この人気女優の何度も繰り返されるキスシーンは見所の1つです。
それに自分が圧倒的に賛辞を送りたいのが、2人の目力です!」
カエル「累(芳根京子)の圧倒的な演技や美貌への執着に満ちた目力と、ニナ(土屋太鳳)のどんなことをしてでも這い上がろうという意思に満ちた目力……この2人のぶつかりあいが本当に魅力的で!」
主「最初に懸念を覚えたのが、この2人の人物デザインがほぼ同じようだった部分。つまり、黒髪のロングであり、ファッションも結構似たようなものを着ていて、さらにどちらも美しいから見分けがつきにくい。
普通は髪型やファッションセンスを変えることによって、多くの人にわかりやすい人物像を作り出すことに対して、本作はそのような工夫は一切していない。なぜならば、この2人は入れ替わる同一の存在だから」
カエル「ここで全くの別人にしてしまうと、累とニナの同一性が崩壊してしまうもんね……」
主「それは映画としては、少し冒険でもある。
特に……言葉は悪いけれど、個性的な顔立ちならば分かりやすいけれど、美女の顔の造形は似たようなものになる部分もある。実際、自分は今でも混乱している部分もあります。
だけれど、この2人ははっきりとそれがわかるように演技しているし、どちらがどちらなのか、ということも見ているうちに理解できる。
これって、結構すごいことだよ。
設定自体が結構難しい部分もあるけれど、この2人はそれを演じきってしまった……それがまず絶賛なんだよね」
ハイヒールで踏んづけられる演技ができる若手女優もそうそういないのでは?
(C)2018映画「累」製作委員会 (C)松浦だるま/講談社
妖艶な色気の漂う演技
カエル「これはちょっと趣味の問題もあるかもしれないけれど、2人もすごく綺麗だったね!」
主「近年はアイドル文化を見てもそうだけれど”明るくて元気を与えてくれる女の子”が求められている時代だ。その流れに見事に乗ったのが、女優で言えば広瀬すずや土屋太鳳であったり、あるいはアイドルで言えばももクロだろう。
だけれど、自分は……ある種の”暗い”女性にしか宿らない色気というものがあると考えている」
カエル「暗いというとちょっと聞こえは悪いけれど、大人しい女の子というか、男性でいうとオダギリジョーみたいな色気というかね」
主「自分はもともと土屋太鳳と芳根京子を絶賛していて、特に昨年公開された芳根京子の主演の短編映画である『わさび』の演技では一気に惚れたほど。思わずパンフレットも即決で購入したんだよ。
強気な印象の強い芳根京子と、明るい真面目な優等生の印象が強い土屋太鳳が、かえってドロドロの演劇に対する思いや恋愛模様を見せ付けることによって、本作は圧倒的な色気を獲得している。
特に最序盤の、髪の間から覗く累の目に注目してください!
このシーンで、自分は一気に引き込まれたし、愛する映画になりました。その目力が延々と続く、見事な作品となっています」
カエル「普段と違うギャップのある演技が最高です!
他の役者に関しては……特に語りません!
本当に、この2人の名演技を楽しみに行く映画だと思ってください!」
以下ネタバレあり
作品考察
あの作品の影響も?
本作を考える上で大事な作品があるということだけれど……
もちろん、サロメやかもめもそうだけれど、それだけじゃない
カエル「その作品がこちらです」
カエル「アニメファンには言わずと知れた、今敏監督の『パーフェクトブルー』だね。アイドルとそのファンとの関係性について描いた作品であり、制作当時にはあまり注目されていなかったストーカーとインターネットの関係性に迫った力作です」
主「もしかしたら佐藤監督は『ブラックスワン』の方を参考にしたかもしれないけれど、ブラックスワンも本作の影響下にある作品なので、問題ないかな。
鏡を使った演出がとても印象に残るけれど、パーフェクトブルーでもそれは使われているね」
カエル「テーマも完全一致ではないにしろ、ちょっと似ている部分はあるのかな?」
主「本作の演出として面白いのは、顔の見せ方、光の使い方だよね。
例えば、冒頭で浅野忠信が累の元に来た時、彼の顔にだけ光があたり、累や周囲は真っ暗な世界の中にいる。ここで顔に注目をしつつ、この男が唯一の希望であることを指し示しながらも、周囲が真っ暗なことで後々の恐怖感を連想させるようにもできている。
とてもいい、味のあるスタートだったね」
暗い、鬱屈した少女にしか宿らない色気を見事に獲得した本作
(C)2018映画「累」製作委員会 (C)松浦だるま/講談社
本作が示す”愛”とは
愛かぁ……
自分は本作を絶賛する理由は、もちろん趣味嗜好の影響がとても大きいからです!
カエル「……映画に限らず物語表現は個人の趣味に左右されがちとはいえ、そこまで言いきるのも珍しいかも?」
主「自分はこの映画にはすごく複雑な感情が渦巻いていると感じていて、もちろん大きいのは累の美や光に対する執念であり、ニナのなりふりかなわぬやり方であり、そこには相手に対するある種の憎しみの感情も渦巻いている。
だけれど、同時にこの映画は”同性愛映画”であるとも考えているんだ」
カエル「それはキスシーンが多いから?」
主「それもあるけれど、ニナが病気になった際に、看病する累の姿が描写されている。累としては顔さえあればいいのだから、そんなに体に対する執着なんてあまりないはずなんだよ。まあ、健康な顔は欲しいという思惑はあるだろうけれど。
奴隷のように鎖でつなぐという選択肢もあるけれど、それは選ばない。
この2人の関係性はただの共犯関係などではなくて、とても複雑ないろいろな思いにあふれているんじゃないかな?」
カエル「ニナの顔と、累の演技には2人とも惚れているだろうしね……」
主「この手の作品……つまり、人間の魅力は外見なのか内面なのか? という物語は非常に多くて、古典で言えば『シラノ・ド・ペルジュラック』などの名作戯曲などがある。
容姿は優れないが文武に秀でたシラノと、容姿に優れているが口下手で文才のないクリスチャンと、シラノの従妹であるロクサアヌの恋愛模様などを描いた作品だ。切ないお話で、恋愛関係ではないものの、累にもつながる部分はあると思う」
カエル「累ってもちろん『かもめ』や『サロメ』もそうだけれど、古典的な戯曲を強く意識していると思う部分もおおいよね」
主「その中でも重要なのは、やはり自分は『サロメ』だと考える」
ルーカス・クラナハの描くサロメ
銀の食器の上にヨナカーン(ヨハネ)の生首を置く、新約聖書にも登場するシーン
サロメの語る愛
カエル「『サロメ』は1世紀ごろに実在したお姫様サロメが、預言者ヨナカーン(ヨハネ)に恋をしてしまったあまりに、その首を切り落としたという狂気に満ちた愛の模様を描いた作品です。オスカー・ワイルドの戯曲が有名ですが、この出来事自体は史実です。
ヨハネはキリストの先駆者であり、本物の預言者をわがままな理由によって首を切った、宗教的にも重要なシーンの1つです。
世界中でこの刺激的な場面は絵画などのモチーフとなっており、生首を持ちながら笑みを浮かべるサロメの姿は、現代の物語にも大きな影響を与えています」
主「『好きなものは咒うか殺すか争うかしなければならないのよ』坂口安吾、夜長姫と耳男より。
自分は坂口安吾に傾倒した人間だから、サロメを思い返すたびにこの言葉が頭をよぎる。世間一般的には恋愛というのものは、慈しみ、大切に思い、ゆっくりと育んでいくものだと考えらているだろう。もちろん、それも否定はしません。
だけれど、そんな生易しいものばかりが愛ではない。
殺してでも、生首を抱いてでも、手に入れたい相手と永遠の愛……その苛烈な激情に飲み込まれていくのも、また愛なんだ」
カエル「……この辺りは趣味だよねぇ」
主「好きです、付き合ってください! なんて純真な感情だけが愛ではない。
2人の異性に惹かれて、どちらも選びたいし、どちらも選べない……なんて不倫状態なんて、自分は全く興味がない。
もっとも強く惹かれるのは、例え殺してでも、壊してでも絶対に手に入れたいと願う執着。
とてもつもなく歪んでいて、それでいながら純真な、まっすぐな思い。
サロメが首を抱くほどに欲しがった、ヨナカーンの唇に対する思いこそが、1つの究極の愛の姿だと考えている。
本作もそれは同じであり、ヨナカーンとは演劇や演技であり、みんなが注目してくれる視線(脚光の舞台)であり、そして累にとってのニナであり、ニナにとっての累である。
そのぐっちゃぐちゃの感情が入り混じったもの……その愛の残酷さと尊さをまざまざと見せつけてくれた本作に、自分は脱帽です!」
カエル「……『これこそが人間の感情の極み、希望よりも熱く、絶望よりも深いもの……愛よ』byまどマギってところかなぁ」
主「ちなみに、この後のサロメの物語がどのような結末をたどるのか? ということを考えると、本作の”その後”がなんとなく想像できます」
偽物と本物
ここも最近語ってきたことだね
偽物と本物とは一体なんだろうか?
カエル「最近、某大ヒット映画の『本物を!』という発言に強く反発したわけですが、その答えが、まさか本作で出てくるとはね」
主「『本物を偽物が超えたとき〜』というセリフがあったけれど、これに120パーセント同意です!
いってしまえば、本作の累もサロメも現実ではない。漫画として表現されたものを、映画として表現し、その作中にサロメの舞台が描かれているだけだ。土屋太鳳という人間は嘘の人格を演じている。
だけれど、その嘘が現実に勝る瞬間が絶対にあるんだよ!
それが見たいからこそ、物語というのは存在する。そこを否定してしまったら、物語は存在価値をなくしてしまうんだ」
カエル「そして本作は偽物が本物を超えたと?」
主「間違いなく超えたでしょ!
それは累がニナを喰らい尽くしたというのもそうだし、偽物であるはずの物語が現実に存在する観客を、映画が全てを圧倒したという意味でもそうだ。
だから、自分は本作を否定することはできません。
本作が示した愛と、現実を超える物語の描き方は、自分がある種思い描く理想像と合致している部分が多い。
かなり個人的な理由だけれど、絶賛する以外にないです!」
なんと妖艶なサロメ……
(C)2018映画「累」製作委員会 (C)松浦だるま/講談社
Aimerの起用によって
本作最大の演出はEDということだけれど……
もちろん、自分はAimerのアルバムを全部揃えるくらいのファンだということもあるよ
主「でもさ、やっぱりAimer以外に本作を彩るアーティストはいないと思っていて……
正直、予告の段階で本作が傑作であることを確信したほど」
カエル「予告で? それはなんで?」
主「これは罵倒ではないけれど、Aimerって決して声質がとても美しいという歌手ではない、独特な声をしている。それが彼女にしかない唯一無二の個性を見事に獲得しているんだ。
そして15歳の頃に声帯に傷を負って、今でもそれは完治していないという話も聞く。つまり、Aimerという存在そのものが累なんだよ」
カエル「傷を抱えながらも表現を行う女性かぁ」
主「同時に歌えない頃の苦しみを知っていて、これは病に倒れたニナをも連想させる。
Aimerの歌には彼女にしかない、奥底にあるソウルが宿っている。それが彼女の歌をより魅力的にしているわけだ。
それを考えるとさ、この作品に対してAimerを起用したということは、紛れもなく最高の演出ですよ。
それはED曲のクオリティももちろんだけれど、これだけ条件に合致した歌手はほとんどいない。
もちろん自分がファンだということもあるけれど、最高のキャスティングでした」
まとめ
ではこの記事のまとめです!
- 最高の土屋太鳳と芳根京子の演技を楽しむための作品!
- サロメなどの多くの舞台をモチーフにしたシーンが続く!
- 偽物が本物を超えたとき、最高のカタルシスが生まれる!
- Aimerの起用に至るまで考えられた作品!
ここまで自分が好きなものにあふれた映画はなかなかないです
カエル「ということは、若干冷静になりきれていない部分も?」
主「もちろんあるよ。でも、大好きな作品だから、ぜひ多くの人に見て欲しい。
何度も繰り返すけれど、これだけの名演技を見せてくれる若手女優なんてほとんどいないし、今年の邦画の中でもトップクラスの名演技です!
是非是非劇場で鑑賞してください!」