原恵一監督の久々のアニメ映画最新作である『バースデーワンダーランド』をネタバレなしの感想記事になります!
今回はスペシャルな試写会に当選したので、嬉しかったなぁ
カエルくん(以下カエル)
「試写会では原監督とキャラクターなどの多くのデザインを担当されたイリヤ・クブシノブ、そして映画監督である樋口真嗣の3人のトークショー付きの上映会となりました」
主
「なかなか濃いお話だったなぁ。
原監督やイリヤは真面目にお話されている中で、樋口真嗣が時折冗談や軽口を交えながらも、的確なコメントをしているのが面白かった。
他の監督や作品へのダメだしなどもなく、暖かな雰囲気で語りあっていてとても楽しめたね。
本当に人がいいんだろうなぁ……って伝わってきたよ」
カエル「そのトークショーの模様などはちょいちょい挟んでいければいいかなぁ、と思います。
今回は試写会で鑑賞させてもらたので基本的には褒め中心の記事になるかと思います!」
主「それでは感想のスタートです」
作品紹介・あらすじ
『映画クレヨンしんちゃん 嵐を呼ぶ! モーレツオトナ帝国の逆襲』や『百日紅 Miss HOKUSAI』などの多くのアニメ作品に携わり、国内外に多数のファンを抱える原恵一監督が、柏田幸子の児童文学である『地下室からのふしぎな旅』をアニメ映画化した作品。
キャラクターやビジュアルなどのデザインを担当したロシア出身の新進気鋭イラストレーター、イリヤ・クブシノブの絵の魅力にも注目。脚本は『百日紅』『カラフル』などでも原と組んだ丸尾ミホが担当する。
声優陣には原の初実写映画である『はじまりのみち』にも出演した松岡茉優の他、百日紅に主人公を演じた杏、しんちゃんシリーズで以前にひろしの役を演じていた藤原啓治やしんのすけを演じていた矢島晶子など、原にゆかりのあるキャストが並ぶ。その他麻生久美子、市村正親、東山奈央などが脇を固める。
小学六年生の少女、アカネは誕生日を翌日に迎えようとしていた。母のお使いによって叔母であるチィの営む雑貨店へと向かう。その地下室から大錬金術士のヒポクラテスとその弟子のピポが訪れ、自分たちの世界を救ってほしいとお願いされて向かった先はワンダーランドだった。
不思議なことが多く起こるその世界を救うために、ドキドキとワクワクの詰まった大冒険が始まる!
感想
では、Twitterの短評からスタートです
#バースデーワンダーランド
— 井中カエル@物語るカメ/映画・アニメ系VTuber(初書籍発売中!) (@monogatarukame) 2019年4月23日
試写会にて鑑賞
原監督らしさと挑戦が詰まったファンタジーアニメ映画に仕上がっていた
特に動きやメタモルフォーゼ、音楽、色彩などが素晴らしくこだわりをたくさん感じられファミリー層に受けるのでは
終盤にはエモーショナルな快感もあり気持ちのいい作品に pic.twitter.com/NIeNeQX753
原監督らしさが詰まった劇場アニメ作品となっていました!
カエル「本作は世界で最大のアニメーションの祭典であるアヌシー国際アニメーション映画祭にもノミネートを果たしています!
世界的な評価の高い監督ということもあり、湯浅政明監督の『きみと、波にのれたら』と同じく最優秀賞のクリスタル賞の可能性も大いに感じさせる作品と言っていいでしょう!」
主「それほどまでにアニメーションとしてのクオリティが高く、またファンタジーということもあって世界中に届きやすい物語となるのではないだろうか?
これが日本の学生の日常だと、どうしても内向きな印象を与えかねないからね……とは言っても、近年クリスタル賞を受賞した『夜明け告げるルーの唄』は学生の物語だけれど」
カエル「それから、今作ではデザインがロシアの方というのも大きいかもしれないね」
主「ちなみにイリヤ・クブシノブという名前を聞いてロシア系だと思われた方がいたら、正解です。今回このトークショーに来ると知った時『どんな金髪美人の女性が来るのだろうか』とワクワクしていきましたが……割と体格のいい男性でした!
しかも日本語ペラペラですごい!」
カエル「まあ、これは原監督自信も語っていたことだけれど、イケメンです」
主「これは後ほど語るけれど、良い意味では”アニメ”らしくない作品でもあるんだ。
それはイリヤのデザインも本当に大きいだろう。
今作は原監督がどういう人なのか、よく伝わるような作品となっていて、それまでの原監督らしさと新たなる挑戦の両立が楽しめる作品だね」
原監督の特徴① 良い意味でアニメらしくない作品
じゃあ、その原監督の特徴というとどういうところがあるの?
良い意味ではアニメらしくない作品を作る監督というのが1番に上がるかな
カエル「実写映画も撮られているし、アニメ監督として名を馳せているけれど今でも実写を取るつもりはあるらしいね。あくまでも手法として今回はアニメを選択しただけ、という話でけれど……」
主「同じく実写の監督も務めた庵野秀明とは真逆の作家性と言えるだろう。
庵野秀明はその卓越した観察眼や見識から、多くの映画、アニメ、漫画、特撮、その他電車やら軍事やらの様々なオタク的情報を詰め込み、それを作品に反映させている。その結果、とても濃密なものができるけれど、どうしてもオタク向け映画、あるいはジャンル映画の型にハマった……いや、庵野秀明の場合はジャンル映画の型を破壊した、という方が正しいのかもしれないけれど、そう言った作品になりがちだ」
カエル「でも原監督は違うんだね」
主「例えば『百日紅』を見ればわかるけれど、この作品では浮世絵を動かそうとしている。
描いているのは現代にも通じる江戸時代の町並みとその生活であり、アニメというのは絵が動けば全てアニメになるんだ。
もちろん、絵以外も同じ。
日本のアニメはある意味では萌え絵などに偏ってしまい、ジャンルとしての”アニメ”の形が決まっている感もある。でも、世界を見ればわかるようにゴッホの油絵を動かしたり、CGで作ったレゴを動かしたり、お弁当でキャラクターを形成し、それを動かしたりと様々なんだよ。
そう言ったアニメの可能性を広げようという試みも感じられる」
カエル「今作ではイリヤのとても綺麗なデザインを動かすことで、作品として新鮮な映像美が楽しめるもんね」
原監督の特徴② 日常描写の見事さ
続いて原監督の特徴として上がるのが日常描写です!
今作でも1番注目してほしいのはこの日常描写かな
カエル「それこそ冒頭から各キャラクターの生活感のある動きに目が奪われたよねぇ……アニメーションの最大の醍醐味は”動き”と”変身”と言われているけれど、その両方が楽しめる作品になっています!
特にトークショーで強調されていたのが食事シーンについて。とても地味で見過ごされがちだけれど、実はとても難しいシーンであり、みんなが日常的に必ず行う行為だからこそ下手に描くことができず、うまいアニメーターさんに任せていると語っていました」
主「こういった日常のパートの描き方がとても印象的で、ここが原監督の最大の作家性と言えるのかもしれない。
また、動きのあるシーンを長いカットで割ることなく魅了するという点についても見応えがある。
ファンタジーということでどうしても派手な作画、あるいは魔法のような作画に目を奪われがちだけれど……それ以外のところにも注目してほしいかな」
カエル「あと、原監督自信が語っていたのが思春期ぐらいの年頃の少年少女たちの物語がとても多いね」
主「そこで描かれているのも、基本は若者……特に青少年の思春期の悩みなどが多いのだけれど、それもいわゆるキャラクター演技の一面的なオタク向けの物語ではない。
それこそ百日紅やカラフルなどもそうだけれど、とてもリアルな人間の感情や思想に寄り添った人物像を作り上げるわけだ。
今作もそこは同じで、特にアニメが好きでない人でも楽しめるバランスの良いキャラクター設定になっています。
逆に言うと……萌えアニメなどのキャラクター設定が大好きな人にとっては、ちょっと物足りなくなるかも」
カエル「でも、それってアニメの持つ可愛らしさ、いわゆる萌えがないってわけじゃないじゃない! もふもふの毛並みの服を着るシーンなんて、とても可愛らしくて!」
主「いろいろな場所に行って服装なども変化していくことで、世界観を表現しているけれど、その楽しさにも注目してほしいね」
デザインを担当したイリヤ・クブシノブについて
今回キャラクターデザイン以外でも多くのデザインを担当したイリヤ・クブシノブの存在って大事なの?
この映画の核と言えるだろうな
カエル「もともとはキャラクターデザインだけをお願いしようとしていたけれど、いろいろなデザインができると知り原監督がどんどん仕事をお願いしていったようです。
どうやら、今作のキャラクターデザインを誰にお願いするかを考えている時に、偶然立ち寄った本屋さんでイリヤの画集を見て、即決した模様です。また、イリヤも他のアニメ会社からのオファーもあった中で、原監督の元で仕事をしたいという心意気から今作を選んだようです」
主「ちょっとキャラクターデザインを見てもらえばわかるけれど、外国人に人気のある『攻殻機動隊』や『AKIRA』に影響を受けていることがうかがえる。日本の近年の萌え絵というよりは、少し硬派な印象も受けるかな。
また、漫画家の冬目景の作品に大きな影響を受けているらしく、気がつけば『イエスタディをうたって』のヒロインであるハルちゃんを意識してショートカットのキャラクターデザインにしてしまうようです」
カエル「そう言われてみると、本作もアカネやお母さんがちょっとハルに似ているかも?
攻殻機動隊の草薙素子も同じような髪型だし、奥さんも日本人ということで黒髪のショートカットが好きなのかもね」
主「イリヤのキャラクターデザインのバランスの良さと……あと画集を見る限りでは村田蓮爾につながるような背景の精緻で時にノスタリジックな印象を与える現代的な風景も書いている。
また、それ以外でもファンタジー世界の背景なども描かれており、そのようなイリヤの絵の持つ雰囲気と、原監督の動きなどが加わったのが本作だ」
カエル「ふむふむ……そうなると、イリヤの功績ってかなり大きいんだね」
主「視覚的な部分、例えばキービジュアルなどに関しては、むしろイリヤ・クブシノブの映画といえるんじゃないかなぁ。
これらが日本のアニメと良い意味で距離を置く作品となっており、特に海外で高く評価される予感がするね」
音楽の使い方の冒険
あまり詳しくは言えませんが、今作も音楽の使い方が注目のポイントです!
もともと音楽を合わせるセンスの高い監督だしね
カエル「オトナ帝国でも要所要所でノスタルジーを感じさせる音楽を使っていたし、また挿入歌の使い方もとてもうまかったよね。
『今日まで、そして明日から』なんてあの曲を聴くだけであの感動が再び呼び起こされそうで……」
主「今作でもその音楽性の高さは健在!
しかも、その使い方が本当に冒険していて、一部シーンはそのセンスに話題騒然となることが予想できるほどだ」
カエル「そしてmiletの歌う牧歌的なテーマソングがまたこの映画に合っていて、とても印象に強く残るよね」
主「この音楽も日本的というよりも、ヨーロッパの方が受けそうな印象を受けたかなぁ。
だからこそアヌシーの結果がとても楽しみになってくる。多くの観客の心をつかみ、日本だけではない、世界中にその名を轟かせる監督になれるのではないだろうか?」
一方で懸念されるポイント
声優問題について
じゃあ、逆に懸念されるポイントとしては?
……やっぱり声優云々はあるのかなぁ
カエル「松岡茉優はうちでもいつも大絶賛しているし、市村正親なんていつもアニメ映画で声優を担当していて、味のある演技を披露しているけれど……それでもダメなの?」
主「いや、賛否は多分別れてしまうかもしれない、ぐらいかなぁ。
『聞いてられないほど酷い!』ということはない。
だけれど、今作では多くの本職のアニメ声優も参加しており、やはりアニメ的な、特に児童文学原作作品のような、ファミリー向けアニメの演技を披露している。
その中での芸能人勢はなかなか溶け込むのが難しいという点がある」
カエル「う〜ん……このあたりは松岡茉優もラジオで『どれだけ実写で頑張っていても、声優としてはまだ4作品目の新人だ』と謙虚な言葉を残していたよね」
主「そのラジオの中で印象に残ったのは『舞台は声優の仕事と近いかもしれない』という言葉だった。自分もそれは大いに納得していて、舞台経験の豊富な役者は声優も基本的にはうまい。逆に、舞台を経験していない声優はいわゆるキャラクター主導のものというか、一面的な演技ばかりになってしまう印象がある。発声などが似ているのだろう。
今作で松岡茉優は例えるならば舞台調の演技をしているように感じ、下手というレベルにはないんだけれど……それが他の声優たちとのバランスの問題としてどのように観客に映るか、という問題がある」
カエル「煮え切らない答えだれど、バランスの問題はどうしてもつきまとってくるからねぇ」
主「全員を声優にすると解決しそうだけれど、でもそういうものでもないんだよなぁ……
そのあたりも是非楽しんでください!」
以下ネタバレあり
作品考察
今作の物語のちぐはぐさ
では、ここからはネタバレありで作品内容についても語っていきましょう
……正直、あまり好意的にはなれない映画ではあります
カエル「試写会で観終わった後も反応はイマイチだったもんね」
主「ただ、上記のことは嘘でもなんでもなくて、本当にそう思ったんですよ。
原監督は実写も撮るけれど、アニメ業界とは距離感がある人だろう。それはトークショーや各種インタビューでも答えていて、別にアニメだから撮るわけではなくて、今回は手法としてアニメ映画を選んだに過ぎない。
実写の方が合っていれば実写を撮る、という選択肢もある人なんだ」
カエル「『百日紅』なんて多くのアニメ好きからしたら……時代劇だし、ロボットも爆発もないし、いわゆる萌えの美少女ではないしってことでパンチはないのかな?
それでも圧倒的なクオリティの高さと、浮世絵を動かすという表現的テーマ、あとは日本の代表的絵師である葛飾北斎親子を描くという物語上のテーマは、アニメ好きの求めるものとは違うけれど、でも見応えが抜群だったよね」
主「上記の繰り返しにはなるけれど、その意味では本当に素晴らしくて、絵画として、アニメーションとしても一流のものだと思った。
冒頭の蝶々の動き、花の美しさと色彩の美学、それぞれの街の風景と多様性などは本来のアニメーションの魅力を再確認させてくれた。
日本のアニメはどうしても爆発や戦闘シーンの迫力、萌え系の女の子や男の子との動きなどに集中してしまうところがあるけれど、それはアニメの魅力の1つでしかなく、本質的な面白さとは言えない」
カエル「それこそ、庵野秀明監督とは真逆だってことなのかな。
庵野さんも爆発シーンや萌えばかりというわけではないだろうけれど……でも、自分が影響を受けたもののコピーが目立つ人だし……」
主「その意味では、この絵を動かしたことに意味があるし、日本独自で発展したアニメというよりはもっと世界的な意味合いのアニメーションとして大きな魅力がある作品だとは思う。
だけれど……それが食い合わせの悪さにつながっている」
似ている作品と類似する要素について
この映画を見終わった後に抱いたのが、この映画だよね
2018年に賛否を巻き起こした『未来のミライ』ですね
カエル「これは一緒に試写会に行った映画ブロガーのMachinakaさんとも話していたけれど『未来のミライに似ている』って話をされていて……確かに共通する要素が多かったんじゃないかな?」
主「……どちらもアニメーションとしては一流だと思う。
特に『未来のミライ』に関してはアニメーションとしては、2018年の豊作の作品たちの中でも屈指の出来であり『リズと青い鳥』などと並ぶか、もしくは凌駕するという意見もありうるほどの作品だった。
それくらいアニメーション技術は優れており……今作は『未来のミライ』ほどとまでは言わないまでも、やっぱり高く評価をする」
カエル「その共通点って『アニメーション技術は高いけれど、物語が合わない』ってこと?」
主「う〜ん……すっごく大雑把に言ってしまえばそういうことになるだろうね。
だけれど、そんな簡単に言い切れる話だけでもないんだけれどね。
子供の成長の描き方の歪さ、物語の繋がらなさは共通していて……作りたいものと題材が本当に一致しているのか? という思いもある。
多分細田守は完全一致しているんだけれど、世間が望む作品と作りたい作品が合致していないというか」
カエル「そのあたりは後ほど詳しく語ろうとしようか」
主「ただ、1つ思うのは……今の50代のアニメ監督って谷間の世代というか、大変なことを強いられている。
というのは、上に宮崎駿やスタジオジブリが大ヒットを記録し、それを業界人として若い頃に見てきたわけだ。
ジブリへの意識、そしてその次の世代がなにをするのかってのはアニメ映画界、そしてこの世代の監督たちに重くのしかかっているような気がする……
その下の世代、新海誠や現在30代の……山田尚子などのアニメ監督は、ジブリとは遠いところにいただろうし、デジタル化などで自分たちのできるアニメ表現の模索をしているから……一言で語れば時代が違うから、そこまでの呪縛はないのではないか?」
カエル「アニメ映画=スタジオジブリ(宮崎駿)って時代があっただろうしね」
主「細田守なんかは当然意識しているだろうし、みんながポスト宮崎駿という意見を重ねていた。
今作もその”ジブリの呪い”が感じられてしまったんだよなぁ……
多分、意識しないでもついてきてしまうものなのかもしれない」
ファンタジー特有の難しさ
その”ジブリの呪い”ってところと関連するのはどこ?
今作からファンタジー世界を描くことの難しさを感じた
カエル「そういえば前々から”アニメ映画においてファンタジーは難しい”って言っていたっけ」
主「いや、理屈としてはわかるんだよ。
”世界観を1から作り上げられるからファンタジーとSFは向いている”と考えるのは、確かに納得。本来ならばね。
だけれど日本の手書きアニメの場合は宮崎駿がジブリ作品にてファンタジーをやり尽くしてしまった感もある。
また、うまいアニメーターを起用していたこともあって、動きや食事シーンが入るだけでも『ジブリっぽい』と思われるようになってしまった。だけれど、プロデューサーなども売れるアニメ=ファンタジーって思いがあるんじゃないかな?」
カエル「ラノベ原作系のファンタジー作品はともかく、児童文学のような王道のアニメ映画だとどうしてもジブリと比べてしまったり、ジブリっぽいと感じてしまうところはあるのかなぁ」
主「別にジブリの専売特許というわけではないんだけれどね。
そして……その世界観の作り込みも大変だし、いろいろと設定があるのだろうけれど、それが観客に見えてこない。
……ファンタジーってやっぱり世界観の提示の必要もあって、2時間に収めるには難しいよ。
大長編シリーズならともかくね」
カエル「ハリウッドの『ロードオブザリング』や『ハリーポッター』も長編の映画&小説だしね」
主「あとは魔法などが絡むとなんでもありに見えてしまうし、とにかくやることが多い。その整理が難しい……
実は宮崎駿作品だって脚本自体には問題点が多いんだけれど、でもアニメの力でそれを感じさせないようにカバーしている。
それだけの深みのある世界観の提示ができているんだよね。それでいうと……本作はそこまでの力が感じられず……いや、相手が化け物すぎるし充分なんだけれど、ファンタジーとして素晴らしい作品にはなっていない」
物語の内容に言及して
原監督・イリヤとの食い合わせの悪い物語
ここからは具体的に内容に言及していくけれど、どのような点が悪いの?
……原監督自身も語っているけれど、ファンタジーってどうなんだろうね?
カエル「児童文学原作のアニメ映画化って聞くと普通な気もするけれど、原監督がここまでがっつりとファンタジーを作るのって初めてじゃないかなぁ?」
主「もちろん『河童のクゥ』とか『あっぱれ戦国』もファンタジー的な表現はあるよ。戦国の場合はSFか? まあ、そういう大きな嘘をつく物語ってある。
だけれど、原監督は日常を舞台に描いてきた人じゃない?
それが日常の舞台を離れて、完全にファンタジー世界に行ってしまうと、ここまでになるのか……と愕然とした」
カエル「それが食い合わせの悪さってこと?」
主「そして、残念ながらイリヤのキャラクターデザインとファンタジーが合っていない印象だ。
まず主人公のキャラクターデザインを見れば分かるけれど、どう見ても小学生じゃないよ。
中学生でもちょっと無理がある、高校生ならばまあ、納得するかも。
世界観のデザインなどはいいのだけれど、キャラクターデザインはかなり大人っぽい。
だけれど、イリヤの画集などの女性像を見ると魅力的だし、彼の持ち味はよく出ている。
だからイリヤはとてもいい仕事しているんだけれど……これは食い合わせが悪いとしか言いようがない」
カエル「う〜ん……このあたりはバランスの難しさがあるよね」
主「ネコなどのキャラクターもいいし、水の中に入るシーンの映像は本当に素晴らしかった。そういう仕事はファンタジーとしてあっているんだけれど……
でもやっぱり原監督には日常を舞台とした作品を描いて欲しいし、それが合っていて、イリヤにはある程度以上大人の女性を描いて欲しいな」
目的の不在
これはあまり良くない映画の場合、良く言っていることかなぁ
今作って主人公が冒険をする明確な理由がないの
カエル「もともと行きたいわけでもないし、成り行きで巻き込まれて最後までいくわけだしね」
主「例えばテーマとして”同調圧力からの解放”というものがある。
だけれど、作中のクライマックスのシーンでは、むしろ周囲の期待に応えるように行動しているように見える。
これって”同調圧力の結果”とも受け取れるよね。
また、なぜそう行動するのかがよくわからない。選ばれた人間なのはわかった、でもアカネ自身にそうする理由がない。だからずっと物語が動いているんだけれど、その中心にアカネがいない」
カエル「結局全部はヒポクラテスとあの世界の都合だったのかなぁ」
主「そして叔母さんが同行するけれど、その意味もない。
彼女の存在価値は単なる物語の賑やかし役、コメディ要員でしかないんじゃないかなぁ。バディにもなりきれず、ただ好き放題していた印象が強い。
キャラクターとしては好きだけれどね。
全体的に芯がなく、摑みどころもなく物語は終わってしまった。
本来芯になるべきアカネがその役割を果たしていないから、当然といえば当然かもね」
物語を盛り上げる力強さ
だけれど、今作の物語に難があってもそこまで駄作や嫌いと言えないんでしょ?
……やっぱり力強いんだよ
カエル「終盤のシーンとか謎の感動があったもんね」
主「物語としては一切理解できないし、唐突なんだけれど、でも音楽の力もあってすごく気に入った。
謎の感動があった。
それだけのエモーショナルな感動を巻き起こすことができるのは、やっぱり監督の演出などの力強さだと思う。
冒頭では真っ暗だった家の中が、終盤ではとても明るくなっていたり……その色彩の変化などを見るだけでも、感情が伝わってくるじゃない?」
カエル「だからすごく困るんだね…」
主「最近だと……それこそファンタジー作品の『さよならの朝に約束の花をかざろう』に近い印象かなぁ。イマイチ乗り切れないけれど、音楽や映像の技術はとても強い。
その意味では価値のある作品ではあるよ。
でも、全体としての評価はどうしても低くなってしまうかなぁ」
まとめ
では、この記事のまとめです!
- 原監督らしさが出ている作品!
- イリヤ・クブシノブのデザインや映像の美しさにも注目!
- 音楽なども含めて、作品としての冒険もたくさん!
- ただし物語に関しては……
悪い作品ではないです!
カエル「とりあえず遅くはなりましたが、追記しました!」
主「できればGW中に追記の予定だったけれど、結局さぼってしまったからなぁ……
とりあえず、この形が今の所完全版になります!」