いよいよ夏アニメの中でも一番の注目作が登場です!
今や日本を代表する名映画監督の一人だからね
カエルくん(以下カエル)
「今回は新宿で行われた最速上映に行ってきたけれど、いや……ちょっと出遅れたのが痛かったね」
主
「仕事だったのでしょうがないです!
もしかしたら質問できたかもしれないのに、残念だった……」
カエル「和やかなムードだったし、あれで良かったと思うけれどねぇ。
昔はもっと舞台挨拶の空気が危うい雰囲気の時もあったらしいけれど、その時代は全く知らないし」
主「あの細田監督が、ピリピリした雰囲気を出すとはあんまり信じられないけれど、子供ができて性格が丸くなったのかねぇ?
というわけで、最速上映の感想に行って見ましょう!」
あらすじ・作品紹介
『バケモノの子』『おおかみこどもの雨と雪』など、日本を代表する大ヒットメーカー、細田守監督のオリジナル長編アニメ映画最新作。
細田は監督の他、脚本、原作も担当している。
主演を務めるのは声優初挑戦となった上白石萌歌が4歳の男の子、くんちゃんを演じる他、お父さんには星野源、お母さんには麻生久美子なのほか、役所広司、福山雅治など多くの人気芸能人が起用されている。
4歳の男の子、くんちゃんはお母さんが大好き。そんなくんちゃんの家に、生まれたばかりの妹がやってきた!
それまで両親の愛情を一身に受けていたのに、妹にかかりきりになってしまう両親にイライラが止まらない様子で、八つ当たりをしてしまうことも。
そんなくんちゃんの周りでは、多くの不思議なことがたくさん起こって……
感想
では、まずはツイッターでの短評からのスタートです!
#未来のミライ
— 井中カエル@物語るカメ/映画・アニメ系VTuber(初書籍発売中!) (@monogatarukame) 2018年7月19日
うーむ…
大傑作!と褒め称えたい自分と、クソミソに叩きたい自分が戦っている
間違いなく言えるのは演出家としての細田守は天才だけど物語作家としては…
この作画は間違いなく世界最高峰だし、贅沢なアニメ映画である
うーん…賛否は割れるだろうなぁ pic.twitter.com/gppHzika26
評価が分かれそうな作品かなぁ
カエル「まずはさ、宮崎駿以降では一番人気といっても過言ではない、細田守監督作品というのも評価を難しくしているよね……」
主「もっと単純に言ってしまえば、本作は最高に素晴らしい作画技術と演出力を細田守(と本作のスタッフ)が有していることは疑いようがない。
おそらく、今年公開のアニメーションの中では……世界規模で見ても『リズと青い鳥』と『リメンバーミー』と本作は、頭一つどころか二つ三つも飛び抜けている。
この作画の力を堪能するためだけに、劇場へ行くことをオススメする」
カエル「やっぱり大画面と大きな音があってこそ映える映画だしね」
主「それと同時に、本作は致命的な欠陥を抱えている。
細田作品に共通することだけれど……脚本が本当にボロボロという問題があるんだよ。
そして、本作はそれを……悪い意味ではカバーしている。
だけれど、その方法自体は自分は正解だとも思っていて……なんていうかさ、本当に評価が難しい」
カエル「結局、褒めているの? けなしているの?」
主「自分の思考や信条からすると、罵倒したい。
だけれど、自分の感情からすると絶賛であって……
これはどうなんだ? と思いつつも、感動している自分もいるというね。本当に細田守の素晴らしい演出力を見せつけられたような作品だよ」
世界のアニメーションの流れとして
カエル「本作は試写会や評論家の中でも賛否が割れていて……例えば、世界初上映となった、世界でも最も大きなアニメーションの映画祭であるアヌシーにおいても、今作を鑑賞した評論家の中では『日本人として恥ずかしくなった』という声もあるんだよね。
一方では、国内の評論家では絶賛の人もいて……」
主「本作はマリーアントワネットの映画だから」
カエル「……え?」
主「つまり、王侯貴族の映画。
『パンがなければお菓子を食べればいいじゃない』ってことかな。
それはそれで正論だからさ。ご飯がなければそばやうどん、ラーメンやピザを食べればいいわけだし」
カエル「いや、そんなパンを買いそびれたお母さんみたいなこと……食べるものが何もないのに、その発言をしたから国民は怒った、というのはわかっているでしょ?
本当にこの発言をしたのかどうかという問題もあるけれどさ……」
主「何が言いたいのかというと、今作は『恵まれた者の映画』なんですよ。
大体、設定からしてそうじゃない? 横浜の住宅街に、おそらく30代前半くらいの夫婦が自分で設計した、新築の一戸建てを建てるんだよ?
こんなの、富裕層以外の何物でもないじゃない」
カエル「まあ、クレヨンしんちゃんの野原一家が勝ち組の家族とされる世の中からねぇ」
主「本作はそんな恵まれた王侯貴族の映画なわけ」
2018年の映画の流れ
カエル「以前にも述べたけれど、2018年は『家族の映画』が大きな話題を集める年だよね。
例えば『リメンバーミー』や『万引き家族』『フロリダプロジェクト』『ぼくの名前はズッキーニ』などの家族をテーマにした作品が話題を呼んでいて……もちろん普遍的なテーマだというのもあるけれどさ」
主「特に世界のアニメーションの流れをみると、先にも紹介したアヌシー国際アニメーション映画祭では2014年にブラジルの情勢不安と一家離散を描いた『父を探して』2016年に親のいない子供の物語である『ぼくの名前はズッキーニ』が最高賞を獲得している。
昨年の湯浅政明監督の『夜明け告げるルーのうた』も人魚と人間の交流を通して、多様性のある社会を描いた作品だ」
カエル「今年の最高賞のクリスタル賞を獲得した『Funan』はまだ日本では見る機会がないけれど、準最高賞を獲得したNetflixで配信されている『生きのびるために』は、2001年のアフガニスタンを舞台に、過激なイスラム教組織であるタリバン政権下で生きる女性家族を描いた作品です」
主「これらの世界的に評価される作品は『貧困』『差別』『社会環境』と戦う映画たちなんだ。
そして、今作はその流れを真っ向から逆行している。社会も安定していて、お金もあり、家も服もある富裕層の家族の映画……それを国際映画祭で上映されたら、そりゃ恥ずかしいと思うんじゃないかな?」
カエル「日本人からしたら、普通の映画だと思うかもしれないけれど……」
主「それだけ日本がまだまだ恵まれているのか、それとも表現することをしない(できない)のか……
多分、日本人には違和感があまりない作品だと感じる……はず。
でも、それは今の世界の映画の流れからは逆行しているというのは、指摘しておきたいね」
声優について
本作の声優陣はどうだった?
う~ん……良くも悪くもない
カエル「芸能人声優は叩かれやすい印象もあるけれど、本作はそこまで悪い印象はないかなぁ?」
主「悪くないよ。そこまで大批判するような演技ではない。
だけれど、大絶賛もしないかなぁ。
人によっては『これだから芸能人は!』と怒るかもしれないね」
カエル「まずは主演の上白石萌歌ちゃんだけれど、お姉ちゃんの上白石萌音が、2年前にあれだけ大絶賛されて、ちょっとやりづらいところもあったと思うんだよね。
しかも、4歳の子供の役で等身大の役でもなく、演じるのが難しい部分もあったと思うけれど、でもよく演じていたんじゃないかな?」
主「……まあ、鑑賞した人から『頑張ったよね』というのは褒め言葉じゃないけれど」
カエル「そりゃあ、まあ」
主「本作でいい演技だなぁ、と思ったのは福山雅治なんだけれど、あの人は声質や演技が独特で福山節が効いている。
実は俳優/歌手でありながらも、個性があってかなり声優向きの人だと感じた。そして本作ではそれがバッチリとはまった印象かな」
カエル「麻生久美子なんかは普通のどこにでもいるお母さんぽかったけれどねぇ」
悪いとは言わないけれど、やっぱり違和感はあるかなぁ……
(C)2018 スタジオ地図
細田作品は芸能人声優には不向き?
主「難しい部分だけれど、細田作品でアニメなどで活躍する声優を使わないのって、相当なハンデだと思うんだよ。
自然な演技だったり、あまり個性のない演技が欲しいというのなら、芸能人声優もわかる。中にはいい演技をする人もいるし。
だけれどさ、細田作品ってとてもアニメ的じゃない?」
カエル「冒険活劇みたいな要素もあったり、SFぽかったり、顔の表情の変化がオーバーでアニメ的だったりと、アニメが得意とする演出が多い印象もあるかなぁ?」
主「そういう作品って、やはり声も演技も独特のアニメに特化した、アニメ声優が向いていると自分は考える。
細田作品の過去作を見ると、芸能人声優とアニメ声優がごっちゃで、個性の差が浮き彫りになっている作品もあった。おおかみこどもで急に林原めぐみの声が聞こえてきたら、うますぎて浮いていた印象がある。
これは贔屓目もあるだろうけれど、細田作品のように明るい冒険活劇の多い、アニメ的な作品はアニメ的にはっちゃけて、個性的な演技ができるアニメ声優を起用した方があっていると思うんだけれどねぇ。
あと、本作は舞台を経験している役者が少ないのもあるかなぁ。
舞台を経験した役者はみんな発声がしっかりしているから、声優をしてもうまいよね。逆に舞台を経験していない声優はプロでもイマイチと思う人もいるし」
カエル「好みもある問題だけれどね」
以下ネタバレあり
本作の欠点
あまりにもうますぎる冒頭
では、まずは欠点について語って行きましょう
最初からうますぎるんだよ
カエル「……うますぎるの?」
主「本作は演出力や作画力が本当に素晴らしい!
ここだけは自分が全力で称賛するし、本作を見ている最中に何度鳥肌が立ったことか……」
カエル「いやいや、欠点をあげるつもりがいきなり褒めているよ?」
主「だけれど、うますぎるの。
例えばくんちゃんが犬のようになって動き回ったり、それこそ犬の動きであったり……なに、この超絶作画? ってびっくりした。
あまりにも難しいことをさらりとやっていて、若干苛立ったくらい!」
カエル「アニメーターでもないのに……
つまり、技術を見せつけすぎているのではないか? ということね」
主「例えばさ、『バケモノの子』でも絶賛のカメラを移動するだけで時間経過や状況の変化を見せる演出があるけれど、本作でもそれは健在。むしろ、そのためにあの家を作っただろう! と言いたくなるほど。
階段をカメラがそのまま降りるだけで、時間経過を演出しているし、お父さんの大変さも表現していて、本当に素晴らしい。
他にもさ、お父さんと近所のお母さんが話しているシーンも、ちょっとした子供の動きなんかで魅了するんだよ?
繰り返すけれど、うますぎてその技術を見せつけているようで、ちょっとイラっとする」
カエル「いやいやいや……」
主「これは『時をかける少女』もうまかった。
3人でキャッチボールをするシーンが序盤であるけれど、そこでちゃんと投げ方で男投げ、女投げなどが区別されて描かれている。
そしてあの3人の関係性を会話とキャッチボールだけで描いており、本当に惚れ惚れとするほどうまい。
なのに、さりげない。本作はちょっと見せつけちゃったかな?
だからちょっと鼻についたような印象になったのかも。
やはり細田守の演出は天才です!」
カエル「えっと……褒めるか貶すかどっちかにしたら?」
犬の動きを人間の幼児の骨格で動かす……
いやいや、これはトンデモナイ技術です!
(C)2018 スタジオ地図
様々な違和感
カエル「次に、違和感がバリバリあったという話だけれど……」
主「まず、あの家は何よ?
子育てするのに最低の環境じゃない?
なんであんなに階段があるのよ? 子供が転げ落ちたらどうするんですか!」
カエル「子供がすでに大きな家ならばともかく、若い夫婦の家庭としてはちょっとねぇ」
主「まあさ、その辺りを考えていない若手デザイナーの住宅だから……といえばわかるけれど、その手の違和感が本当に多いのよ、この作品。
他にはあの家族のあり方とかさ……いや、確かに叱るべき時には叱っているんだけれど、やっぱりまだまだ優しい家庭だなぁ、と思う部分もある」
カエル「子育ての大変さとかも描いているけれど、でももっと感情的になりそうだなぁ、と思ったシーンもあるかなぁ」
主「くんちゃんは本当にクソガキだよ。だけれど、あの年頃ならばどこにでもいるクソガキなんだよ。別に特別悪い子じゃない。
それと逆に、ミライちゃんがいい子すぎる。もっと暴れまわって、手のかかる姿を出してもよかった。
本当に聖人君子ばかりの家族像のようで、かなり違和感はあったなぁ」
例えばミライちゃんが初めて登場するシーンは光を強めにしており、天使のような可愛らしさを強調しています
(画像は別シーン)
(C)2018 スタジオ地図
幼児を主人公にすることによって
本作の魅力の1つが主人公が幼児ということだけれど……
……これは、まあしょうがないけれど、どうしてもイライラするんだよなぁ
カエル「前にも述べたけれど、くんちゃんは年相応に問題児だしねぇ」
主「あの歳だったら、あんな行動をするのも良くわかるし、中にはくんちゃんの言う通りだ! と思うシーンもあるよ。
だけれど、基本的にはクソガキだからさ、キャラクターとしての魅力があるか? と問われると……自分はちょっと辛い評価になる」
カエル「悪い子じゃないし、可愛らしい部分も多いけれどね」
主「じゃあ、結局本作で魅力的なキャラクターは? と問われたら、やはり福山雅治演じるひいじいちゃんくらいしかいないのかなぁ。彼はアニメ的で豪傑な魅力に溢れているし、とてもよかった。
くんちゃんの成長劇も良かったし、目元が潤むシーンもあったけれどさ、イライラするシーンもあったことも事実。
でも、実際の育児ってもっともっと過酷で、イラついて、だからこそ喜びもあるという部分もあるから、単純に否定はできないのもそうでさ、ちょっと難しい部分……」
カエル「リアルに描いたからこその違和感かぁ」
子供目線だからこそのドン引きポイント
カエル「やっぱりねぇ。下ネタ描写というか、性的な描写があるから、そこが違和感として繋がってしまった印象もあるかなぁ」
主「昨年公開した『打ち上げ花火〜』と同じでさ、下ネタって人を選ぶのよ。ちなみに、自分はちょっと苦手な方。
そして本作はくんちゃんが幼児なわけじゃない? 小さな子供らしいポイントで、他にも『クレヨンしんちゃん』なども下ネタがあるけれど、それとはまた違う意味で性的な描き方で……」
カエル「ツンツンゲームや尻尾を入れて快感を覚えるシーンは、かなりギリギリだよね」
主「ギリギリどころか、自分としてはアウトと言いたいくらいだよ。
まあ、そこまで目くじら立てることでもないかもしれないし、子供らしい描写なのかもしれないけれど、かなり引いてしまった。
それは中盤の予告でも使われている、くんちゃん達が暴れ回るシーンがあって……それは大人から見たらやりすぎ、あるいは問題児にしか見えないポイントである」
カエル「でもさ、子供らしいと言わらたらそれもそうなんだよねぇ」
主「『子供目線で作られた映画』という触れ込みはその通りだと思うし、合っている。だけれど、これを鑑賞する大人は違和感を抱いてしまうかもしれない。
少なくとも、自分は抱いた。
その意味では、子供の評価を聞いてみたい映画かもしれないね」
最大の問題
で、ここまで語ったことがよりも大きな問題がこちらです
本作ってスジがないんだよね
カエル「いわゆる、あらすじとかの、物語の流れというか骨格のことだよね」
主「細田守って物語の……特に展開の作り方があまりうまくない。
自分は細田守のシリーズものでない映画で最高傑作は『時をかける少女』だと思っているけれど、あの作品ですら粗はめちゃめちゃある。
だけれど、そんなことを関係ない! と思わせるほどの演出力があって……この辺りはあの天下の大巨匠とほんと一緒!
脚本よりも演出を優先するのはアニメ監督として正解だと思うよ。
自分は脚本重視だから腕のある脚本家を呼べばいいのに……って毎回思う。
そして、本作は大きな変化を遂げている」
カエル「冒頭でもあげた『悪い意味でカバーしているけれど、正解』という謎かけみたいな話だね」
主「スジが下手ならばどうすればいいのか?
スジをなくせばいい」
カエル「……え?」
主「だから、物語がおかしくなるならば、物語の骨格をなくすの」
ものすごく唐突に始まる物語
(C)2018 スタジオ地図
細田守の選択
物語は3つの要素で構成されている。
- 世界観(設定)
- キャラクター
- 展開
主「本作は展開を作ることをほぼ放棄している。
物語の目標が何もないし、唐突にドラマが始まり、その場で目標ができて、唐突に成長して終わる。
全体としてはくんちゃんの成長話になっているけれど、大きな目的がないから、メリハリがつけづらく、全体的に長く感じてしまう。
本作って100分もないのに、自分は相当長く感じてしまった。
それでも演出力でカバーしているんだけれどね」
カエル「……あれ? でも展開があまりなくても傑作となった『リズと青い鳥』もあるけれど……」
主「だから、リズも本作も演出力を見せつけているんだよ。
『この演出を見ろ!』ってさ。それがうまさであり、鼻につく部分?
だけれど、超絶うまい。
何度も言うけれどアニメとしては大正解だし、正当だろう。
リズが静の演出であるならば、本作は動の演出が主体かなぁ。
ただ、今作は大事なことを会話で表現してしまって、そここそ演出や作画で表現しろよ! と言いたくなったのも事実。
足を痛めていたり、『子供って知らないうちに……』とかわざわざセリフにするな! と言いたくなった。
まあ、大作映画だから仕方ないかもしれないけれどさ」
育児をテーマにした作品として比較すると、本作の問題点がどれだけ 多いのかわかってしまう……
他の映画と比べて
もしかしたら、今作1番の欠点はここかも?
冒頭でも述べたことの繰り返しだけれど、この映画は大きな問題を抱えています
カエル「それは富裕層の映画だということ?」
主「それもある。
そして、序盤で『男の子なのに~』『女の子だから~』というのを簡単にセリフにしてしまうんだよ。
これはいまのアニメの流れからすると、本当にダメ!
今年の『HUGっと! プリキュア』を自分は絶賛しているけれど、それはジェンダーフリーも描きながら、女性の重要な問題を……社会進出と育児を描いているからだ。
その意味では、本作は後退していると言われても仕方ない。
例えば、その一例が家族の呼び名で……この作品に登場するのは『お父さん、お母さん』という家族内の役割の呼称であり、その名前は明らかにならない。つまり、くんちゃんの家族としての役割を与えられているだけであるとも言える。
一人の人間としての描き方はされていないんだよ。
これが果たして進歩的な物語だと言えるのだろうか? という疑問はあるね」
カエル「でもさ、お母さんが働いていて、お父さんが家事をしているけれど……」
主「いやいやいや……イクメンとしては確かに評価するけれど、家族像としてはちょっとねぇ。お父さんの家事下手もテンプレートだしさぁ。特殊な環境だからできることでもあって、多様性を描くというには辛いかなぁ。
それと、この手の映画全般に言えるけれど、やっぱり王侯貴族の映画であり、恵まれた人間の映画なんだよ」
カエル「あ、この流れは『リメンバーミー』の再来かな?」
主「家族のルーツを探すというのはとてもいいことのように思えるかもしれない。だけれど、そのルーツを探れなかったり、探ったら実は迷惑者で、とんでもない奴だった! という家だってある。4代前の家族を知ることができる家庭や、知って幸せな家ばかりじゃない。
『生まれたルーツが大事なんだ、家族が大事なんだ』というのは、幸せな家族をもつ人だから言えるの。
酒浸りの親父、男をコロコロ変えるお袋、ボケた爺さん、ヒステリックで叫んでばかりの婆さん、金使いの荒い兄弟、犯罪者の親戚……そんなのがいない家族だから言えることだ。
先にも言ったけれど、世界のアニメーションや映画の流れからすると、本作はぬるいどころか逆行している。
それは……自分は非難するし、海外の映画祭だったら恥ずかしくなる」
それも逆に考えると……
う〜ん……でもさ、それっていいことなんじゃないかな?
いいこと?
カエル「もちろん、世界の映画の流れがそのようになっている、というのはよく理解できるんだよ。
だけれどさ、それって逆のことをいえば細田守監督がそれだけ幸せってことなんじゃないの?」
主「…………」
カエル「世界的な名誉を得て、収入もそれなりにあるだろうし、家族もいて……細田監督は今50歳だけれど、そこで5歳の子供がいるということは、初めての子供が一般的には遅めに生まれたということじゃない?
そりゃ、可愛くてしょうがないよねぇ」
主「……まあ、確かに」
カエル「この記事のコメントでもあったけれど、確かに世界の映画の流れもあるけれど、逆にそんな流れだからこそ、このような『幸せな家族』を象徴するような映画が生まれた、と考えれば、いいんじゃないかな?」
主「う〜ん……まあ、そうかなぁ」
考察
本作のポイント
では、ここからは考察を交えながら褒めていきましょう!
何よりも、子供の成長の描き方が本当によかった!
カエル「『子供って知らないうちに……』というセリフでもあるけれど、本当に知らないうちに大きく成長しているものだもんねぇ」
主「子供の世界って大人が思う以上に大きいものだ。
もちろんそれは移動範囲とかではない。ほんの小さな町だったり、小さな庭であっても、その無限の想像力で大きく羽ばたいている。
この映画で思い出したのが『あ、自分もこういう子供だったなぁ』ということでさ」
カエル「親にわがままを言って買い物などを置いてけぼりにされて、家で一人でお留守番……って誰にでもあるんじゃないかなぁ?」
主「怒られている瞬間も子供ながらに色々考えているんだよ。
『なんであんなこと言っちゃんたんだろう?』とかさ。自分だってあったし、わがままを言っている最中でも『あ、これ自分がダメな奴だ』って気がついたりもする。だけれど、もう後に引けないからとりあえずゴネて、めちゃくちゃ怒られる。
そういうことってよくあるんだよ」
カエル「そういうことを思い出させるってことは、やっぱりいい映画なんじゃ?」
主「だからいい映画なの!
あれだけごちゃごちゃ欠点を言ったけれど、観客を子時代の心情であったり、親として子供が幼い頃の自分に戻すという点に関しては本当に素晴らしい。
それだけの演出だし、これは劇的な展開を放棄した、ある種の日常系の物語だからこそ描ける味である。
自分との対話であったり、犬や家族との対話であったり……多くにおいて子供の世界の広さと、大人の視野の狭さを表現したアニメだよ」
全ての集大成として
カエル「本作の予告編を観た時から言っているけれど、それまでの細田守作品の集大成になっているよね?」
主「ほぼ間違いない。
自分は『君の名は。』への対抗心がバリバリあるなぁ……って笑ったくらい。
上白石姉妹を起用したりさ。『君の名は。』は新海作品の集大成だったけれど、本作も細田作品の集大成という意味では同じように受け取ったね」
カエル「具体的にあげていくと?」
主「時間を遡るのはタイムトラベルということで『時をかける少女』でしょ。
何代にもわたる大家族を描くというのは『サマーウォーズ』だ。
それから幼い母と子供2人の暴れっぷりや、犬への変化などは『おおかみ子供』
はじめに人間化した犬との出会いのシーンなどは『バケモノの子』でも似た舞台はあったよね」
カエル「家族をテーマにしているから、そういうことを思わせる描写も増えるよね」
主「他にもこういう言い方もできる。
- 時をかける少女はそのまんま『時間』の物語
- サマーウォーズは大家族の物語
- おおかみこどもは母と子供の物語
- バケモノの子は父(師)と子の物語
それは本作では『父と息子、母と息子、兄妹、そして家族のルーツ(時間)を巡る物語』ということで、やはり集大成になっている」
カエル「ふむふむ……」
主「さらに深読みをすれば『未来のミライ』というタイトルは細田守が『ここまでのステージの集大成を作るよ』という風にも受け取れる。これから先の未来へ行くための、ミライを見せるというね」
さらに先へ……
カエル「……? えっと、そこのところをもっと詳しく……」
主「本作って中盤までは明らかに過去作を連想させるんだけれど、途中から一気に新しいステージに入っている。
例えば魚の描写であったり、それから電車や駅員さんの描写は本当に鳥肌が立つぐらい素晴らしかった!」
カエル「確かに、今までの細田作品ではなかったような描写なのかな?」
主「新しい表現、未来の表現を模索しているような印象すらあった。
細田監督って脚本が下手だと自分は指摘するけれど、だけれどその気持ちもちょっとわかって……ただ下手なんじゃなくて、やりたいことが多すぎるし、強すぎるからまとまらないんじゃないか? ってこと。
本作は過去の自分の作品のテイストも見せつつ、さらに先を見せる物語ともいえるんだよ」
カエル「そうやってみると、この映画って時間軸が結構あやふやだけれど、意味があるのかな?」
主「明確にあると思っている。
ほとんどの描写が過去に戻ったり、あるいは現代にやってくるという設定だ。だけれど、最後だけ過去でも現代でもない、時間軸の不明な駅へ行く。
そこで細田作品で仰天するようなキャラクターである駅員が『迷子ってことは、自分も見失っていますね』と語る。
ここままで過去の自分の作品を模倣していながらも、その先を迷っていることを象徴する描写とも受け取れるんだ」
さらに勝手な考察
ここまででも勝手な考察だけれど……
本作ってやはり『アニメーターとしての細田守』を描いているのかなぁ? って
カエル「例えば有名なところだと『サマーウォーズ』の裏テーマって、自分を支えてくれたスタッフへの感謝なんだよね。
『ハウルの動く城』でトラブルがあって監督から降りて、スタッフにも迷惑をかけて2度とアニメ映画を撮れないと覚悟していたのに、また集まってくれたスタッフへの感謝を込めて制作した部分もあるというのは、細田守監督自身が語っているし」
主「他にも『バケモノの子』は完璧だけれど誰も育てられない師匠=宮崎駿からの決別と、自分の道を選ぶ作品だという解釈もできる。
あの作品に出てくる賢人は有名アニメ監督のようだとアニメ研究家の氷川竜介も指摘している。
本作もそれは同じでさ、やっぱり過去の自分や、自分を育ててくれた……福山雅治演じるおじちゃんが、宮崎駿に見えてくる部分もある。ほら、戦闘機やメカが大好きな昭和のおじいちゃんって、あの人っぽくない?」
カエル「始めたら貫き通せ! そこまで行けば怖くない! とかは、創作論でも同じだよね。
描き始めるまでは色々考えるけれど、始めてしまえば行くしかないわけで……」
主「そういうことを考えると、やはり細田守の個人的な物語にも思えてくるんだよ。
小さな家の中で色々と考えていたくんちゃん=細田守が、色々な人と会い、自分を育ててくれた系譜を……宮崎駿や東映アニメーションの伝統などを振り返り、自分の後に続いた後輩たちの姿を見て……
最後は自分自身、表現者とて迷子になったところを、過去の系譜と新しい技術によって、小さな家を飛び出そう! という物語。
そう考えると結構納得行くところもあって、脚本がそんなに良くないんだけれど、でもものすごくよくできているようにも思えてくるんだよねぇ」
まとめ
では、この記事のまとめです
- 大傑作であり非難轟々!? 個人の中でも評価が割れる作品!
- 演出は最高峰! だけれど脚本はボロボロ……
- 過去の細田作品を連想させる演出がたくさん!
- 本作も細田監督の自分語りなのか!?
まあ、最後の項目はただの妄想ですが
カエル「まあ、でもこの作画技術とアニメの演出方は本当に今年の作品の中でも屈指なクラスなので、ぜひぜひ劇場で鑑賞してください!」
主「山下達郎の曲を使ったということも色々感じるよねぇ。サマーウォーズでも起用していたし。
なんとなく、山下達郎の曲とアニメ映画(子供向け映画)=傑作という思いもあるんよねぇ」
カエル「もともと細田監督が山下達郎のファンらしいけれど、あの歌声が印象に強く残るんだろうね」
面白かったら下からツイート、ブクマをお願いします!
細田守をもっと楽しむために!
細田守の世界〜希望と奇跡を生むアニメーション
アニメ研究家、氷川竜介の著作ですが、本作は『バケモノの子』までの細田守作品の何が素晴らしいのか? ということを解説する、必読の1冊!
特に氷川竜介はアニメの技術論を得意としており、その動きや作画などを中心に語りつつ、自分の思想などはあまり絡ませないという意味において、稀有なアニメ研究家と言えるかもしれません。
もっと深く細田守について知りたい! という方は必読の1冊です!
ミライのテーマ
本作について様々な意見が飛び交いますが、誰もが口にするのが山下達郎の圧倒的な楽曲の良さ!
特にあのイントロが流れた瞬間に、夏の世界へと連れて言ってくれる楽曲です。細田守もファンのようですが、自分の作品に大好きなアーティストが書き下ろしてくれるとは、なんと贅沢な話か……
ちなみに、シングルには『サマーウォーズ』のEDである『僕らの夏の夢』のアコースティックライブ版も収録しています