物語る亀

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物語愛好者の雑文

映画『さよならの朝に約束の花をかざろう』(さよ朝)感想 映像や音楽面でも文句のつけようがない!

カエルくん(以下カエル)

「では、今年のアニメ映画でも大きな注目を集めるさよ朝の感想記事になります!

 試写会当選したのに、会社が休めなくて行けなかったのは残念だったねぇ」

 

「平日だったからしょうがないけれどね」

 

カエル「ちなみに予告を見たときの期待値は『期待半分、不安半分』といったところだったけれど……」

主「……自分、ファンタジーって結構苦手なんだよねぇ。

 空想に空想を重ねているととっかかりがあまりなくて、世界観を理解するのにいっぱいいっぱいになってしまうし、そこまでファンタジーに造詣も深くないからさ。

 ちなみに岡田麿里はもちろん全作ではないけれど、そこそこ観ていて当たり外れは当然あるけれど、結構好きな脚本家かな。特に『スケッチブック』とかは熱中してみていたなぁ……花澤香菜初主演作品で、あの空気感が……」

カエル「話が長くなりそうなので終了!

 ではでは岡田麿里監督がどのような作品を作るのか、という面でも注目を集める本作の感想記事にいきましょう!」

 

 

 

映画チラシ さよならの朝に約束の花をかざろう B

 

作品紹介・あらすじ

 

 『あの日みた花の名前を僕達はまだ知らない。』や『心が叫びたがってるんだ。』などのアニメ作品のみならず『暗黒女子』などの実写邦画でも活躍する岡田麿里が脚本と初監督を務める作品。

 製作は岡田を多く起用してきたP.A.WORKSであり、テレビシリーズを経ない初の長編オリジナル作品となっている。

 総作画監督には石井百合子、その他有名アニメーターが多数参加している。

 声優陣には新人声優である石見舞菜香を主役に添え、入野自由、茅野愛衣、梶裕貴、杉田智和などの人気声優を多く起用している。

 

 

 何百年も生き続ける『イオルフの民』である少女マキアは集落で幸せに暮らしていたのだが、ある日その長寿の血を欲しがるメザーテ軍が襲撃してくる。マキアは命からがら逃げ出すことに成功するのだが、帰る場所をなくしてしまう。

 そんな中、家の中で泣いている赤ん坊の声を聞き覗いてみると、盗賊に襲われて亡くなった母親にしっかりと抱きかかえられた孤児の赤ん坊を見つける。その子を育てていくと固く誓い、年をとらない母親と孤児の息子という奇妙な親子関係が始まった……

 


映画『さよならの朝に約束の花をかざろう』予告編

 

 

 

 

1 感想

 

カエル「では、まずはいつものようにTwitterの短評からスタートです!」

 

 

主「……正直のところ、さよ朝の記事を書くかどうか、今でも迷っているところがあります。

 そもそもいくら脚本家として実績のある岡田麿里とはいえ、監督はデビュー作であり、それで高いハードルを設定するのは酷であるし……何よりもこの作品は人を選ぶかもしれないけれど、決して罵倒されたりするようなダメ映画ではない。

 特に……この感想でも書いたように、自分は『合わない』だけであって、決して『下手』とも『嫌い』とも称していないこともあります」

 

カエル「この合う、合わないって決定的だけれど、本人ですら操作しようのない縁みたいなものだからねぇ」

主「ものすごく力を入れた作品であることは伝わってくるし、見所も多くある作品であり、また今年のアニメ界でも話題になるであろう作品にケチをつけるようなことを書いていいのだろうか? という疑念もあるけれど……

 でもこのブログでは嘘をつきたくないという幾つもの感情が渦巻いているような状況です」

 

カエル「……でも結局は書くんでしょ?」

主「まあ、なので是非劇場へ行ってその目で確かめてください、というのは最初に言っておきたい

 

さよならの朝に約束の花をかざろう 前売り特典 クリアファイル 岡田磨里 P.A.WORKS

抜けるような青空がとても深く印象に残る1作……

 

良かった点

 

カエル「ではまずは良かった点からスタートしようか。

 まずは絵の力がとても強かったよね! 

 もちろんキャラクターのデザインであったり、動きや迫力もさることながら、美術や背景もすごく美しくて!

主「今回は相当制作会社のPAworksの方も力を入れていることが伝わってきているな。今回主要スタッフの多くが過去のPA作品に多く関わってきた人たちだけれど、それ以外にも実力のあるスタッフを多く集めている。 

 その力が結実した時の美しさは確かに素晴らしく、これほどのクオリティの作品が毎年のように出てくるのが日本アニメ界のとんでもなさだと再認識したよ」

 

カエル「今回は音楽も相当良くて、この音と絵の融合の快感がとても大きいし、感情を激しく揺さぶってくるよね

主「今回音楽を務めたのはアニメ作品も多く手がけるベテランの川井憲次だけれど、盛り上がるポイントでは観客の感情を煽り、感動する場面ではしんみりとさせて涙腺を刺激する。

 絵と音楽の融合というとディズニー作品のようなミュージカル調の演出を連想することもあるけれど、今作は正当に劇伴と映像のコントラストがとても強く一致している」

 

カエル「特に後半だよね。泣けるポイントも多くてさ……」

主「たぶん、はまる人はとても泣ける作品になるだろう。

 今回はファンタジー調の作品であるけれど、アニメ映画でファンタジーとなるとどうしてもスタジオジブリの影響や面影を感じることも多い。これはジブリが一般的なファンタジーの要素を多くを使用してしまったかであり、どうしても逃れようのないことではあるんだけれど……本作はそのファンタジーの魅力を多く抱えながらも、ジブリとはまた違う味わいのファンタジー作品に仕上がっているよ」

 

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この背景や設定の作り込み具合など、見どころはたくさん!

(C)PROJECT MAQUIA

 

一方で欠点として

 

カエル「では、欠点でいうと?」

主「これは『合わない』と称した理由でもあるけれど……ここまでガチガチのファンタジーを2時間で全て描くのはとても難しいものがある。 

 本作は原作などが特にあるわけではないし、下敷きとなる設定があるわけじゃない。王道のファンタジー世界ではあるものの、固有名詞や人物名などは岡田麿里をはじめとしたスタッフたちが生み出したものだ。

 まずそれを理解するのがとても大変だし、話も壮大なものになっている。

 キャラクターを覚えるだけで大変なのに、しかも時間もすぐに変わってしまったりもして……それがかなりの負担となってしまったことかなぁ

 

カエル「う〜ん……確かにごちゃごちゃすることはあったかなぁ」

主「自分がファンタジーが苦手ということもあるんだけれど、現実との接点がなさすぎるんだよ。

 で、これもまた持論だけれど……岡田麿里は現実を扱った作品の方が上手いし話題になる。

 例えば、脚本の代表作に上がるのが『とらドラ』『あの花』『ここさけ』などを考えても、現代劇の青春、恋愛ドラマが多い。

 『鉄血のオルフェンズ』などのSFもあるけれど、これはガンダムというビックネームだからということもあるし……」

 

機動戦士ガンダム 鉄血のオルフェンズ 全50話(最終回)の感想 

 

 

カエル「何を代表作とするかは人によるかもしれないけれど、でも現代劇が多い人問う印象はあるかな」

主「今回は意外と? というと失礼かもしれないけれど、脚本よりも映像にとても力を入れている。脚本は粗があるというか、壮大すぎてまとめきれていないところがあるのが不満かなぁ……

 あとはこれは欠点というかは微妙だけれど、岡田麿里らしさは結構薄まっている。これは後述しようか

 

 

 

2 解説

 

岡田麿里について

 

カエル「では、次に今回監督を務める岡田麿里について語っていくけれど……脚本家がアニメの監督を行うことって結構珍しいよね

主「自分は聞いたことないなぁ……もちろん、脚本も書く監督ならたくさんいるけれど、脚本家がアニメの監督を務めるというのは、例をほとんど知らない。

 実写ならたくさんいるけれどね。それこそ、名監督のビリー・ワイルダーもそうだし、最近だと『スリー・ビルボード』のマーティン・マクドナー、日本だと三谷幸喜がすぐに思い浮かぶね。

 ただ、アニメでは……いたとしても相当少ないと思う」

 

映画『スリービルボード』感想&考察 

 

カエル「今回は大抜擢だったよね。初めて聞いた時は『え? 岡田麿里が監督やるの?』と驚いたし」

主「しかも今回はかなり力の入った作品になっている。

 岡田麿里は最近、実写映画の脚本も務めているけれど……その味としてはやはり『生々しさ』にある。

 性や欲、女性の描き方が本当に生々しくて、それが比較的清らかな女性を多く描いてきたアニメ業界ではかなり異質なものに見えている。

カエル「苦手にしている人も多いよね」

 

主「脚本家の評価って難しい部分もあるけれどね。どうしても監督やプロデューサーに変更されちゃうし、やりたかったことをやれるとは限らないからさ。あくまでも物語の素材でしかない、という考え方もあるし。

 岡田麿里の脚本って例えるならばパクチーとかセロリみたいなもので、はっきりと作品全体にその味や匂いを主張してくる。

 それが苦手な人もいるだろうな」

カエル「……それっていい脚本家と言えるの?」

 

主「脚本家の良し悪しって難しい部分もあるけれど……

 料理で例えると出汁みたいな脚本家がいいという考え方もある。はっきりと主張はしないけれど、作品全体をしっかりと支えている。シンプルな演出になればなるほど、その存在感を主張してくる。

 それでいうと岡田麿里は劇薬でもあって……そんな人が監督を務めるとどうなるのか? という期待もあるね

 

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岡田麿里の代表作で実写化も果たした『心が叫びたがってるんだ。』

ちなみに『心が叫びたがって <い>るんだ。』じゃないところがポイント。『い』がないことで切実な思いを表現している

 

映画『心が叫びたがってるんだ。』感想

 

 

岡田麿里の過去作から考えると

 

カエル「岡田麿里の過去作などから考えると、どんな作家だと言えるの?」

主「う〜ん……

 一言で表すと前述の『生々しい』作家だよね。

 自分は最高傑作は原作付きだけれど『放浪息子』だと思っていて、これは志村貴子の繊細な世界観と作品の生なましさが、岡田麿里の持つ性の生々しさと結びついて最高の物語となっていた。2010年代の最高のテレビアニメシリーズの1つだと考えている。

 根本にあるのは『女性』としての感性の高さがあって……男性では絶対に描けない、女性のいいところも悪いとこもしっかりと直視して描く部分がある

 

カエル「女性の力が最大に発揮されている人だよね」

主「それから会話や下ネタの使い方がうまい

 例えば『あの花』のアナルという登場人物のあだ名なんて、自分は天才だと思った。確かに子供からしたらアナルが下ネタとは思わないかもしれないけれど、大人になると恥ずかしい過去にもなる絶妙なネーミングセンスだよ。

 他にも『ここさけ』での『脇が臭い!』というセリフは普通は出てこない。ここさけは自分も大絶賛だけれど、岡田麿里の力が遺憾なく発揮されている……だからこそ嫌いな人もいるとは思うけれどね」

 

カエル「あとは……やはり本にもあるように母親との独特な関係性もまた魅力になるのかな?

 過去に引きこもった経験があって、それがあの花に生かされている上に、母親との折り合いが悪かったのが『花咲くいろは』にも生きているという話もあったよね」

主「今作が『母と子供の物語』になったのは、なるほど岡田らしいな、という思いもあるよ。

 まあ、良くも悪くも目立つ脚本家と言えるのかな

 

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本作でも重要な意味を持つ糸を紡ぐシーン

中島みゆきの名曲を思い出す

(C)PROJECT MAQUIA

 

 

総作画監督、石井百合子など作画陣について

 

カエル「次はスタッフの紹介だけれど、今回の総作画監督とキャラクターデザインを務めたのは石井百合子で、彼女はPA作品では重要な役割を担当することが多いよね

主「特に自分は名前を聞くだけでちょっと涙ぐむところもあって……アニメは場面ごとにアニメーターの名前があるわけではないから、その個性がわかりづらいというのもあるけれど、石井百合子はとても印象に残るシーンをいくつも担当している。

 例えば、自分は2015年1、2を争う大傑作だと絶賛した『SHIROBAKO』でいうと、23話の神回の、さらにラストのシーンのここですよ!」

 

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カエル「この涙のシーンは当時からみんな大絶賛だったよねぇ

主「他にも作中作で登場するキャラクターの修正後の泣きの演技なども担当していて、泣きのシーンがとてもうまい人でもあり、PAのエースと称される人だよね」

 

カエル「そしてメインアニメーターであり、もはや説明不要の井上俊之が200カットほど担当しているということでも話題です

主「もちろんみんな個性があるし、魅力が違うから一概には言えないけれど……日本のトップアニメーターの中でも、さらにトップは誰だ? という話になったら自分は井上俊之か沖浦啓之になるんじゃないかな?

 ジブリ作品などでも見せ場となるシーンを担当している、名前や顔は知らなくてもその仕事は誰もが知るレジェンドです

 

カエル「他にも平松禎史や、大きくクレジットされていない中でも結構な腕のある人も多くいたね」

主「本作にどれだけ力を入れているのか、よく分かる布陣になっている」

 

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PA作品で1番好きなのは? と問われたら迷わずSHIROBAKO! と答えます

 

アニメ『SHIROBAKO』感想 本作はなぜ人の心に響くのか? 〜物語構造の研究と評論〜 - 物語る亀

 

 

美術監督 東地和生とキャラクター原案 吉田明彦

 

カエル「たぶん、本作の中でもかなりこの世界観を出すのに尽力したんじゃないかな? と思うのがこの2名です

主「まずはキャラクター原案の吉田明彦はFFシリーズや『タクティクスオウガ』などのゲームのキャラクターデザインを務めていて、最近だとスマホゲームの『グランブルーファンタジー』でも力を発揮している。

 自分は見ている最中にずっと『これ、FFとかの外伝でも通用するな』と思っていたけれど、それは吉田明彦のキャラクターデザインがあったからだろう。

 そしてそれがジブリのような東映出身者のファンタジー描写とはまったく違う印象の作品になることに成功した要因でもあるだろう」

 

カエル「そのキャラクターたちを生かすのが背景であるけれど、今作の背景を務めたのはPAで多くの仕事をしている東地和生です

主「有名なのは『Angel Beats!』などの背景を手がけていることかなぁ。あの作品も背景の美しさが特に目立っていた、それが死後の世界の幻想t系な世界観に一致していた。

 特にさよ朝はその世界観が壮大な上に、スチームパンク(蒸気機関で発達した世界)の機械類が見ている側をドキドキさせてくれる。新しい世界を作る、ということでも重要な役割を果たしている」

 

カエル「特に空の美しさが印象に強く残るよねぇ」

主「前にインタビューで背景を宝石箱と称していたけれど、今回は豪華な宝石たちをさらに彩る美しい意匠の宝石箱になっている。

 本作が映像的にかなり優れたものになったのは、東地和生の仕事は無視することができないね

 

カエル「他にも前述のように川井憲次の音楽も素晴らしいのはいうまでもなく、映像や音楽面では文句のつけようがない作品に仕上がっています。

 あとはPAの名物社長である堀川Pが、今回を最後にラインプロデューサーから降りるということで、現場から離れる最後の作品になったということで、それだけの強い覚悟が伝わって来る作品にもなっています」

 

 

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以下作中に言及あり

 

 

 

 

3 岡田麿里が監督する意味

 

カエル「では、ここからはネタバレありで語っていくけれど……」

 

主「う〜ん……今作を観て強く思ったのが『岡田麿里が監督をする意味があったのか?』ということなんだよね。

 前述したように映像作品としてのクオリティはめちゃくちゃ高い。

 そこにはケチはつかないんだよ。ただし、1本の映画としてはケチがつく作品でもある」

カエル「やっぱり壮大すぎるから?」

 

主「そもそもさ、この作品の目的(キャラクターの目的)がよくわからなんだよね。

 ゴールをどこに設定しているのかが全く見えてこない。それぞれのキャラクターが何を考えているのか、また何をしたいのかがわからない。

 その場その場では理解できるんだよ。

 だけれど、彼らが生きているとはどうしても思えなかった。

 アニメーションとはAnima、つまり魂を込めるということが大事になってくるけれど、自分にはこの作品の登場人物たちは監督・脚本の岡田麿里の都合で動いているような気すらしてしまった。魂や意思が感じられなかったんだよね

 

カエル「う〜ん……手厳しい意見になるのかなぁ」

主「例えばさ、バロウという、とても魅力的なハーフの剣士のキャラクターがいるわけ。だけれど、彼がなぜ助けてくれたのか? ということが伝わってこない。じゃあ、なぜそれだけ魅力的に描いたのか?

 レイリアというお姫様はなぜ助けに来た時残ったのか? 

 そういうところに『物語』は宿るんだよ。だけれど、彼ら、彼女たちの人生を感じさせてくれる間が全くなかった。結局のところ、バロウなども物語全体の配置として必要だから登場しただけのようにしか見えてこない。

 『キャラクター』『人物』の差ってその人のバックボーンが見えるか否か? ということにあると思うけれど……それが全く見えてこなかった」 

 

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監督岡田麿里がこだわった闇や黒の表現

それが生きていたシーンもたくさんあり、映像美は文句のつけようがない

(C)PROJECT MAQUIA

 

 

時間経過の疑問

 

カエル「これはしょうがないにしろ、時間経過に関しては結構な疑問があったのかなぁ」

主「だってさ、襲撃から6年過ぎているわけじゃない? そこでまだ子供を産んでいません、手をつけていませんって、そんな話はあるのだろうか?

 国の存亡の危機であり、伝説上のおとぎ話のようなものにすがりつき、しかも人攫いまで起こすような王族たちが、果たしてそんな悠長なことをしているだろうか? という疑問がある

 

カエル「まあ、手は出しているのかもしれないけれど……ちょっと時間の進み方がゆっくりしすぎている気はしたのかなぁ」

主「今作って絵コンテが5人くらいで分担しているけれど、多分エリアルの成長に合わせて絵コンテを描く人が変わっているのかな?

 で、その繋ぎ目がない。

 エリアルの成長を見せる描写自体はあるけれど、時間経過を示すつなぎの描写がないから、急に時間が経過したように見える。

 特にさ、今作ってマキアは一切変化しないんだよ。

 しかも場所も人も変わってしまうから、成長するのはエリアルだけに見えてしまう。

 他の人も……例えばあのおばさん(ミド)も老化していくならば、時に取り残されるマキアというのが伝わってくるんだけれど、それもないからただただ時間が経過したように見えてしまい、物語として1つの軸に収まっていないように見える。

 王宮の中もそうでさ、キャラクターが老化はしても変わらないんだよ。

 でも、作中の時間は20年ほどは過ぎているだろうから、代替わりなどは起きていてもおかしくない。時間が動いているのか、止まっているのか……それがわからない。

 王子がレイリアを嫌うシーンがあるけれど、ここでも昔のレイリアを見初めるシーンがあり、そして自分が歳を取っても変わらないレイリアに恐怖する……そんなほんの10秒ほどのカットがあれば、物語になるけれど、単なるぽっと出の登場人物になっているからね」

 

カエル「あんまり比べるものでもないかもしれないけれど、そこいら辺は細田守がとてもうまいよね。子供の成長をちゃんと地続きのものにしてあげているというか……」

主「この映画を見ている最中って、疑問符がずっと頭の中にあったのね。

 セリフで説明しろってわけじゃない。

 ただ、絵や物語で説明してほしい。

 もちろん、そうなった理由は何となくわかるけれど……それが作品を鑑賞する際のノイズになってしまっている」

 

 

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花などの細かい美術も美しい

ちなみに本作で多く登場するたんぽぽの花言葉は『真心の愛』と『別離』

(C)PROJECT MAQUIA

 

 

岡田麿里らしさって?

 

カエル「そして最大の疑問がここで……デビュー作でこういうことを語るのもおかしな話だけれど、実績の大いにある岡田麿里だからこその疑問点かもね」

主「岡田麿里らしさがかなり薄まってしまっているような気がしている。

 堀川Pは『岡田麿里100%で』と語っていたけれど、少なくとも自分が見てきた脚本家・岡田麿里の要素はそこまで感じなかった。もちろん、いいシーンもあるよ。エリアルを救う時に母親の指を折る所には綺麗事ではない悲壮感すら漂う決意があったし、、それからエリアルと喧嘩するシーンなどは女性の……なんというか、感情的になってしまう部分がよく出ていた。

 細田守はいつも穏やかで理想の母親像を描いたけれど、今作はそれだけではなくて辛い部分や感情的になってしまう部分などもしっかりと描いている。

 それは褒めるポイントだし、岡田麿里らしい部分でもある

 

カエル「じゃあ、どういうところが不満なわけさ?」

主「なんというかさぁ……結局きれいにまとめすぎたのかなぁ。

 セリフの1つ1つがおざなりというか、おきまりのものに思えて、センスが感じられなかった。この異世界の表現の難しさでもあるけれど、専門用語や設定を作り込み過ぎて、細かい部分がちょっと甘くなってしまうような気がする。

 『ホビロン』とかさ、そういうパンチの効いた言葉ってなかったんだよね。監督として世界観の構築に力を注いだ結果、脚本としての魅力は少なくなってしまったのではないか? というのが正直なところ」

 

カエル「前代未聞の脚本家がアニメ監督を務めるという挑戦をしている人に言うことでもないけれどね」

主「自分は大谷翔平にも『規定投球回にも規定打席にも到達してないじゃん』って言っちゃうタイプだから。

 結局、最後に魅力的な絵と音楽によって感動的に盛り上げているし、それは確かに素晴らしい。

 だけれど、それが作品全体と繋がっているかというと……いや、繋がってはいるんだけれど、全てが物語として機能しているとは思えなかったというのが、自分が『合わない』と称する1番の理由かもしれない」

 

 

 

4 岡田麿里が表現したもの

 

カエル「では、それでも岡田麿里が表現したかったものとは何か? という論評に入っていきます」

主「母と子供……親と子の関係性というのを結構重視しているのは伝わってくる。

 例えば原作付きとはいえ『とらドラ』も親子の関係が結構独特で見所の1つだし、『ここさけ』『花咲くいろは』は親子の物語だとも言える。親との関係性をどのように清算するのか、もしくは決別を果たすのか……それを描くのが岡田麿里のテーマの1つだと言える」

 

カエル「他にも『true tears』『あの花』も親子の描写が結構独特な作品だったね」

主「だけれど、これは日本のアニメの課題点でもあるのかもしれないけれど、基本的に若年層向けだから子供目線の物語が多くなってしまう。

 子供から見た親や大人の視点に溢れた作品は多いけれど、親の視点から見た子供について語っている作品はそこまで多くない。

 この視点の違いによって、実はいい大人と悪い大人って全然違う。ガミガミしかる親が悪い大人か? 子供を甘やかして優しく接する親がいい大人か? そんな単純な話ではないけれど、子供目線ではその判断は一面的になりがちだ」

 

カエル「よくいうのは『アルプスの少女ハイジ』のロッテンマイヤーが悪役のように描かれているけれど、大人になってみると別にそこまで悪い人どころか、厳しいけれどちゃんとしたいい大人であるという認識になるというものだね」

主「今回岡田麿里は『母を描く』という選択をした。もちろん、日本のアニメらしく萌えを意識しているし、可愛らしい10代の少女を主人公にしているけれど、描いているのは『母と子の絆の物語』なんだよ。

 そう考えると母(親)との関係性を描いてきた脚本家が、今度は親の目線から子供を思う話を描く。そして同時に監督も務めるという、挑戦を2つも行っていると言えるんだ

 

 

 

本作は『褒めたい作品』である

  

主「多分、自分がこれまで上げていたことなんて岡田麿里は重々承知だと思うし、完成した作品を見て思うことも色々あるだろう。

 そもそも、脚本家が監督をするという挑戦であり、しかもデビュー作でここまでのものを描いたということだけでも100点なんだよ

カエル「これだけのスタッフを集めてもらったこともあるかもしれないけれど、それでも作品として破綻もしていないし、もちろん1800円払う価値は大いにある作品だしね

 

主「そしてスタッフ陣も……もちろん基本的に悪口は言わないだろうけれど、自分の満足しているというのは伝わってくる。それだけの作品でもあるし、そうなるように岡田麿里は最大の努力を払っている。

 脚本家出身の人がここまで脚本の魅力よりも映像で勝負するということにこだわってきた。

 最初に挙げた脚本家出身の実写の監督たちは、ケチのつけづらい緻密な脚本をもって監督することが多いけれど、岡田麿里はそうしなかったんだよね。

 それだけ監督を務めるということの思いやプレッシャーもあったことだろう。

 色々いってはきたよ……ここまで語ったのは、自分が思った本心である。少なくとも、このブログでは本当に思ったことを書くようにしているから。

 でも、そんな小手先の技術なんてどうでもいいんだよ

 

カエル「ケチをつけようと思えばいくらでもつけられるけれど、褒めようと思えばいくらでも褒められる作品だよね」

主「他にもさ、PAとの過去作との関連だってなんとなく匂わせているし……馬が大量に出てくるシーンは『SHIROBAKO』でもあったしね。

 PAとしても初のテレビシリーズもない、本当の意味でのオリジナル長編映画でもあり、作画面や音楽面では完璧な作品に仕上がっている。

 色々な初めてと色々な挑戦が重なりながら作り上げられた本作が褒められるというのは、当然のことだし、それだけの作品であるのは間違いないよ。

 だから自分は『下手』とも『嫌い』とも言っていません。ただ、『合わなかった』という……相性ばかりはどうしようもないというだけのお話です」

 

 

 

最後に

 

カエル「では、最後になるけれど……結局アニメ研究家の氷川竜介がTweetしていたように『得点表では痛い目を見る』というのがその通りかもしれないね」

主「間違いなくアニメでないと描けない世界だし、日本のアニメの独特の魅力に満ちている。

 キャラクターも可愛らしく、世界観も見た事あるような気もするけれど、でもオリジナルなものに仕上がっている。

 何よりも脚本家出身の監督が、これだけ音楽と作画に力を発揮した作品を作り上げた事……それも褒めるべきポイントだ

 

カエル「次も期待したくなるよね。またこれだけの面子を集められるのかはわからないけれど、劇場も結構人が入っていたし……」

 主「アニメじゃないとできないことをやり尽くした、まさしくアニメで描く意義のある作品だったでしょう!」

 

 

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 岡田麿里の自伝がこちら

 この作品を読むと『ひとりぼっち』や『母と娘(親と子)』にどれだけ強い思いがあるのかよくわかります。なぜこのような作品を岡田麿里が作ったのか、なんとなく察せられる……

 

 

 

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